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第四十四話・傷付け傷付き、それでも人は生きていく
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日曜日。
東山家。
俺は、自分の部屋に籠っていた。
今日一日は、誰かと会ったり、イベントなどの予定はない。
自由なのだ。
自由は素晴らしい!
秋月さんが五月蝿い陽菜を連れて、買い物に行ってくれたし、俺の絵描きタイムを邪魔する者はいないのだ。
あー楽しい。
静かな家ってのも珍しいため、集中して作業が出来る。
昼過ぎまで絵を描いて過ごしていた。
昼ごはんまでには、色々と終わらせたいからな。
三月にあるイベントの同人誌の準備は無事に終わって暇だが、空いた時間にグッズ用のイラストを修正し直していた。
まあ、次のイベントまでには色紙を描いたり、日々のツイッター更新などのやらないといけないことがあるので、暇だけど暇じゃない。
だが、多少の余裕がある。
それが重要なのだ。
格好は汚くてだるんだるんの部屋着だけど、それは許してくれ。
これが一番集中しやすい格好なのだ。
秋月さんがいると、部屋着はダサ過ぎて引かれそうだからあまりやらないが、一人の時くらいはゆったりしたい。
まあ、昼のこの時間から訪ねてくるやつなんかいないだろうし。
平気、平気。
リビングまで向かい、コーヒーを淹れる。
「あら、ハジメちゃん」
「げっ」
「あらあら、何か言ったかしら?」
母親が居るとは思わなんだ。
秋月さんと陽菜が出掛けたから、一緒に行っていたと思っていた。
ママには日曜日にもやらないといけない仕事があるんです。
ママはいつでも大変です。
延々と語る。
うっす。
そうなんですね。
興味なさすぎて空返事をしてしまう。
いつも頑張る母親の労いも兼ねて、母親のコーヒーも淹れてあげる。
「お昼ごはんどうしよっか? たまにはママとランチデートでもする?」
「いや、したことないだろ」
捏造するな。
何で高校生になってまで母親とランチをしないといけないんだよ。
隣に三十○歳の母親を連れていたら、恥ずかしいわ。
母親だから気にしていないが、普通に美人だから街を歩くと目立つしな。
「ハジメちゃん、なんでぇ~。彼女にはあんなに優しいのにママには優しくしないのよ~」
は?
いや、怖い。
あんなにって何だよ。
この魔王は、どこまで知っているのか。
横で彼女と繋がっているの止めろ。
みんなとライン友達らしい。
このババア……。
普通に遊びにくる秋月さんならまだいいが、あまり会わない他のやつにまでうざ絡みし始めるのは可哀想である。
ただでさえ纏っているオーラが威圧的なんだから、優しくしてやってほしい。
それに、何故か知らないが、よんいち組のやつらは俺の母親には強く出れないからな。
何度も話している間柄だから、敬語はいらないだろうに。
変に律儀である。
チャイムがなる。
「あら? ヤマトかしら」
「ああ、そうなのか。じゃあ、俺が出てくるわ」
コーヒー飲み始めていたので、代わりに受け取りに行く。
玄関を開ける。
「よっ」
「萌花?」
あまり着たことがないような、清楚なワンピースを着ていた。
白とピンクのヒラヒラが付いたやつ。
可愛い。
語彙力を失ってしまった。
一旦落ち着いて。
萌花のイメージとは違っていたけど、そのギャップが可愛い過ぎて。
一瞬、別人だと思ってしまった。
こちらの視線に気付いて、ポーズを取って服を目立たせる。
「どうよ?」
「良い」
「語彙力低すぎじゃね?」
いや、来るって知らなかったやつが目の前にいて、急に洒落た言葉は出てこないわ。
動揺して取り乱していないだけマシだ。
「すまん、萌花と約束したっけ?」
「んにゃ。東っちのお母さんと軽く話をする約束しているだけ」
そっちのがやばくね?
何で母親と連絡しているんですかね。
萌花の考えは分からないが、何でもない日に可愛い姿をした彼女を見れたのは嬉しい。
女の子といえば、やっぱりスカートだよな。
長く揺らめくスカート丈が、可愛いのである。
制服の短いスカートとは違った魅力があるものだ。
「取り敢えず上がってくれ。あ、そうだ。俺も着替えてくる……」
「何で自分の家で緊張しているんだか……。とりま上がらせてもらうね」
萌花をリビングに案内して、二人は女性だけで話がしたいとのことで、俺は自分の部屋で待機していた。
三十分で済む話らしいが、その時間が永遠にすら感じてしまう。
一方その頃。
女性二人はテーブルに座り、静かに見合っていた。
萌花は、出された紅茶に全然手を付けずにいた。
緊張していたのか。
それに気付いてか、ハジメママはお茶菓子を手前に出す。
「ふふふ。身構えなくてもいいわよ」
最初に口を開いたのは、ハジメの母親である東山真央だった。
ママとして息子は大好きではあるが、独占欲はない。
ハジメを本当に好きで、本質を見ている相手であれば、無下には出来ないものだ。
可愛いよそ行きの格好で訪れてきた女の子の覚悟くらい分かる。
萌花は頭を下げる。
「本来なら直ぐにでも挨拶すべき立場なのに、遅れてしまい申し訳ありません」
「そう。気にしなくていいわよ?」
心の内が読めない返事をする。
優雅にコーヒーを飲む。
それから、麗奈がお世話になっていることに感謝をして、近状報告をする。
自分より強い女性に一々隠していても仕方がないので、嘘偽りなく。
しかし、他人のプライバシーに触れない部分は伏せておく。
学校生活。
恋愛。
サークル活動。
「はぁ、ハジメちゃん。ママには全然学校のこととか話さないんだから困ったものだわ」
「流石に話すものではないかと……」
自分の母親に、学校のことや、彼女との恋愛の話していたら、それはそれでドン引きである。
ハジメは普通に母親に絡まれて嫌がっているので、マザコンなんてことはないんだろうが。
「ありがとうね。ハジメちゃんが、みんなと仲良くやっているようで良かったわ。あの子、アホなくらいな真面目だから空気読めないでしょ? 付き合わされる女の子は絶対に苦労するタイプだし、心配だったのよ」
萌花もそれに関しては思いっ切り同意したいところだが堪える。
親が息子を卑下するのはいいが、それは家族だからだ。
ハジメと萌花に悪口を言い合える信頼関係があったとしても、それを知っているわけではない。
出来た彼女として見てもらうには、ひた隠しにしないといけないことばかりで難しい。
母親としてのちょっとした冗談だとしても、何を言えば正解かは分からない。
答えは出ないのに、時間だけが無情にも流れていく。
考えている余裕すらない。
ハジメも、親に会いにきた時は同じだったのだろうか。
何気なく口に出した一言で、好きな人の両親に一生嫌われるかも知れない。
そのプレッシャーは尋常ではない。
心臓が万力で潰されていく。
そんな中で、彼女の為に怒るなんて、無茶をするものだ。
萌花も本人にはボロクソに言うことが多いけれど、ハジメの母親であるのでオブラートに包んで褒める。
「……東山くんは、そこがいいところですから、心配いりません。欠点はその人の魅力です。真面目な部分に助けてもらっている時もあるので、別に変わらなくていいでしょう」
「あらあらまあまあ」
息子が褒められてテンションが上がっていた。
感情豊かな人である。
笑っている姿はハジメには似てないけれど、どことなくウザさは似ていた。
少しだけ、二人の間にあった心の壁がなくなった気がした。
ハジメママは、ジッと見詰めてくる。
「……愛しているのね」
「そうなのでしょうか?」
「一瞬だけ、目が真剣になっていたもの。誰だって、好きな人が悪く言われたら腹立たしいものね。ごめんなさい」
即座に頭を下げる。
真央は、年下の小娘に対して、深々と謝罪をする。
ふざけている様子はなく、心の底から言っていた。
「頭を上げてください。別に怒っていませんので」
「そう? あらあら、良かったわぁ」
変わり身が早い。
こういうところは親子である。
読めない性格というよりかは、頭で考えて喋っていないのか。
自分という芯がしっかりしているからか、直感的に口に出してくる。
そして、この手のタイプは、適当な態度なくせに他人の機微に敏感なので、萌花の性格との相性は悪い。
じっくり考える暇を与えてくれない。
「それと、私はそんな出来た人間ではありませんので、過大評価されても困ります」
「あら、謙虚なのね。最近の若い子は凄いわ」
絶妙にやりづらい。
マシンガントークではないが、時たまに探りが入ってくる。
息子のことを色々知りたいのは分かるけれど、萌花だってよんいち組のことは知らないことばかりだ。
親友とはいえ、他人の恋愛には不干渉である。
同じ彼女であっても思い出を共有し過ぎたら、自分一人の特別な思い出ではなくなる。
だから、よんいち組でもパーソナルスペースは適度に取っているわけだ。
相手が話したいことだけは聞いて、大切にしたい部分は踏み込まない。
だから、知らないことは知らないし、興味本位で知ろうとは思っていない。幸せなことも、悩み事があれば、向こうから話してくるはずだ。
自分からは手助けせずに、頼ってくるまで待ち続ける。
親友とはそういうものだからだ。
そう考えたら、みんな前ほど自分のことで悩んだり、愚痴ったりしなくなった。
そのほとんどは、一日二日で解決するような、取るに足らない悩みかも知れない。
私達、高校生が抱える悩みなんて、昼間は元気だったのに、寝る前の布団の中だけ悩んでしまう些細なものだ。
思春期特有のよくあるやつだ。
だけれども、そんな下らない悩みでもハジメは馬鹿にしない。
人の感情に、小さいも大きいもない。
全て大切なものである。
……謙虚さとは、その手の類いだ。
自分のことより、他人のことを考えられる素直な心がなくてはならない。
いつだって、自分をよく見せようとしている人間に使う言葉ではない。
萌花は、真剣な表情で語り出した。
見えない机の下で、スカートを強く握りしめていた。
「……私は、誰かに褒められる生き方をしていません。自分の性格の悪さのせいで、今まで多くの人に迷惑を掛けてきたというのに、自分だけ幸せになってのうのうと生きている気さえしています」
何故、自分が不利になるようなことを口走ったのか分からない。
でも、今言わなければ後悔するだろう。
自分にとっての分岐点になるような気がして、止めることが出来なかった。
「自分のせいで、東山くんがよく言われていないことを知っています。どんなに私のことで馬鹿にされていても、彼は一度足りとも愚痴すら口に出したことがありません。……それなのに、原因である自分だけが悩んでいるのは、あまりにも不誠実で。難しいものですね」
自分の性格が悪いのは重々承知だ。
そうやって生きてきて、後悔はしたことはない。
自分の性格上、男の子に可愛く振る舞ったり、大人っぽい綺麗な女性にはなれないし、知的なイメージを持たれることもないだろう。
学校では、収まるべき場所に収まっているだけだ。
男子に好かれたいとは思わないし、歩み寄りたいとも思わない。
しかし、そのせいでよんいち組の仲間が悪く言われるのは違う。
何故、私への嫌味をわざわざ好きな人へ言うのだろうか。
それも、ハジメとも交流がない。
互いに名前も知らないような赤の他人が、ハジメを批判してくるなんて、おかしいのに。
何故、そんなことを言うのか。
彼氏になっただけで、私が支払うべきであった責任を全て負わなければならないのか。
ハジメにとって、私の存在は傍に居るだけで立場を脅かす猛毒でしかない。
……自分が強く出れば、また反感を買うだろう。
悪循環になっていた。
解決策があれば直ぐにでも実行するのに、糸口が見付からない。
だから、いつも様子を見守ることしか出来ない。
如何に大人ぶっていても、他人を犠牲にして生きている以上、子供なのである。
好きな人を傷付けたくないならば、この手を離せばいいだけなのに、それをする勇気もない。
「そうね。……萌花ちゃん。ちょっとだけ、私の話をしましょうか?」
二人が話し合える残り時間は少ないけれど。
萌花の為になればと、真央は自分の昔のことを語り出したのだった。
三十分を少しだけ押して、二人の話し合いは終わった。
リビングに戻ると、母親と萌花は仲良くお茶をしている。
「えっと、なに話していたんだ?」
妙に仲良くなっているのが怖かった。
すまないが、この二人だぞ?
仲良くなれる共通点なんて、性格の悪さくらいしかない。
あと、俺に対して強く出れる特効キャラなところか。
俺の悪口で盛り上がっていたのであればまだいいが、俺の過去の話や、あることないこと言い触らされていたらやばい。
母親は強し。
おぎゃあから俺を知っている人間だから、それだけ強力な弱味を握っているわけだ。
何歳まで夜泣きしてたとか、おねしょしてたとか、普通に言うからな、この母親は。
貴方にとっては可愛い思い出だろうが、俺からしたら恥ずべき過去である。
彼女に言うことではないし、思春期の息子との付き合い方を見直してくれ。
「あらあら、気になる? うふふ。でも、女の子同士の秘密よ」
きも。
「ああ、そうか」
顔に出そうだったので、即座に下を向いて表情を隠す。
萌花は気付いていそうだったが、特に何も話さない。
ありがてぇ。
「あら、そうだわ。お昼だし、みんなでランチでも行かない? ママ、もっと萌花ちゃんとお話したいもの」
「いや、駄目」
「え~、何でよ」
「これ以上、 母親に付き合わせるのも悪いからな。俺達二人で出掛けてくるわ」
「も~、ママも行きたいのに~」
ふざけるな。
萌花だって休日に、わざわざ電車でやってきて疲れているんだから、少しは気遣ってくれ。
そうでなくても、母親みたいなやつと長時間話していたら、誰だって疲れるんだよ。
いくら萌花が可愛いからって、愛でるのは止めてやれ。
俺の彼女であっても、母親の娘じゃないんだよ。
「……あらあら、こういう時だけ彼氏面しているんでしょ、この子」
うぜぇ。
俺に恨みでもあるのかよ。
他のやつならまだしも、萌花の前で言わると困る。
萌花さん、返答に困っている上に、めちゃくちゃ愛想笑いなんだけど。
気を遣わせて、すまない。
萌花には後で謝ろう。
それに、ヘタレだって別にいいじゃないかよ。
今までずっと、高校一年生の時は絵を描いているだけの人生だ。
そんな奴にいきなり彼女が出来ても、上手く立ち回れるわけがない。
学校では嫌味混じりで弄られているし、彼女達のような美人と不釣り合いなのは俺でも分かっている。
本来ならば、あいつらの彼氏らしく馬鹿にされても強気で煽り返すくらいの度胸があった方がいいのだろう。
中指立てるくらいしても文句は言われないはずだ。
しかし、自分が直接的に言わる分には気にしていないし、彼氏としての器が小さく見えるから喧嘩したくないんだよな。
隣に萌花がいる状況で悪く言われたら、秒でビンタするけどさ。
そこら辺は難しいものだ。
母親のように、俺は好きな人は死ぬほど好きってキャラでもないし、野郎が普段から好き好きしていても気持ち悪いと思う。
カレカノだったとしても、好き好きオーラ全開でグイグイ来たら嫌われてしまうからな。
俺みたいなやつでも、ちゃんと考えて行動はしている。
思春期男子特有な彼女に甘えたい部分は隠して、節度を持っているわけだ。
学校なのに、アヒルの赤ちゃんみたいに好き好きオーラ出しながら、後ろを付いてくる小日向とか白鷺が甘々なだけである。
恋愛ガバガバなのは二人の性格からしてそうだろうからいいけど、秋月さんとか萌花みたいに、毅然とした大人な恋愛の対応をしてもらいたい。
……いや、全員同じようなものか。
内心では似たり寄ったりだろう。
俺もまあ、萌花に会えて嬉しいからな。
途中まで進めていた絵を放り投げて、顔を洗って外行きの服装でこの場にいる理由はそれだ。
少しでも好きな人と一緒に居たいのはこの世の真理だ。
それこそ、恋愛馬鹿なんだろうな。
「取り敢えず、そういうのはいいからさ。萌花、行こうぜ」
手を差し出して萌花を連れ出す。
「あ~ん。そうやっていつもママを邪険に扱うんだからっ!」
五月蝿い母親は置いておく。
泣き叫んでいるが、無視である。
昼間から何で騒がしいのか。
でも、ドタバタに便乗して萌花の手を握れたので、よしとしよう。
萌花サイド。
二人は逃げるように家を出て、お昼ごはんを食べるために駅前に向かっていた。
いきなり手を握ってしまう展開にビックリしたが、玄関では靴を履くために手を離さないといけなくなった。
考え付かなかったらしく、慌てていた。
手を繋いだまま靴を履けないか思案したが、断念していた。
こいつ、馬鹿だな。
そう思いつつも、可愛い女の子ばかりの中で、私を選んでくれているところは評価していた。
ハジメには私の責任を負わせていて、思うことは多々あれど、それでも大切にされているのは悪くない。
新調したばかりの洋服も好感触なようだし、頑張って買った甲斐がある。
東っちなら、こういう清楚系のが好きだと思っていた。
どうしてだろう。
麗奈に影響されているのか、自分の本来の性質がそうなのか。
最近の自分は、女々しいものだった。
男に媚を売るような真似をして、素直に喜んでいる人生を歩むとはね。
性格が悪い故に、一生ろくな恋愛も出来ないか、バツイチ子持ちみたいな生き方になると思っていたが、十二分な人生を歩んでいた。
深く考えていても仕方ない。
アホの方が幸せだ。
前を歩く人間がそうであるように、ポジティブに生きるのは楽しい。
この世は不条理で、悩むことはたくさんあるが、それでもよんいち組でいる時だけは楽しかった。
それは、ハジメの頑張りがあってこそである。
何も考えていないアホであっても、誰かは誰かに影響を与えて、影響を受けて生きている。
ほんの些細な言葉や行動であっても、人間は変わっていく。
私達は絵の具のようなものだ。
一つしか色を表現出来ない子供であり、完璧とは程遠い存在だ。
それでも、人生のキャンバスに新しい絵の具を一色ずつ入れてあげれば、絵はより綺麗に表現出来るし、鮮やかな色になるだろう。
自分にはない色を持っているのが、風夏や冬華。麗奈だったり。
クラスメートのみんなだったりする。
そして、地味な黒色にだって価値はある。
萌花は、自分の指を見ていた。
自分だって、風夏達と変わらない。
好きな人と手を繋いだら、死んでも離したくなくなる。
たとえ、傷付け合う結末になったとしてもこの手は繋いでいたい。
「萌花、どうしたんだ?」
前に歩いていたハジメが振り返る。
「はい」
萌花が手を差し出すと、ハジメは嬉々として目を輝かせる。
どんだけ私を好きなんだよ。
黒い瞳が、キラキラである。
表情筋死んでいるので表情にはあまり出さないが、目で語るタイプの人間なので判りやすい。
手を握るくらいで喜ぶなんて。
付き合っていたら普通なのに。
それでもハジメは大喜びで、幼稚園児と変わらない思考回路をしていた。
手を繋ぎ直して、横並びになって歩く。
互いに好きだと判る雰囲気があっても、別にカップルみたいな会話をするわけじゃなく。
ただただ普通に歩くだけだった。
それから幸せそうに歩きながら他愛ない話をする。
ハジメと話す時は、漫画の話が中心である。
こいつ、念能力の話が大好きだからな。
ハンター×ハンターを網羅している萌花ですら、この熱意はない。
女子がちいかわのハチワレの話をしている最中に、ハコワレの話をしているくらいにイカれている。
ずっとハンター×ハンターの話を聞いてあげているのだから、利息くらい払って欲しい。
ハジメには友達は少ないが、好きな漫画の話をするのは楽しいらしく、嬉しそうに笑う。
そこら辺はどこにでもいる普通の高校生である。
……好きな話で饒舌になるのはキモいが。
駅前に着くまで、延々にハンター×ハンターの話をしているわけにもいかないので切り上げさせる。
「それはいいけど、お昼どーするん? 地元だし、色々と詳しいっしょ?」
「町の定食屋さんなんだけど、ハンバーグが美味しいところがあるから行ってみるか?」
「へー、ハンバーグね。お高いんじゃないの?」
「一人千五百円あれば大丈夫」
ハジメは財布を確認するが、千円しか持っていない。
萌花も千円とちょっとくらいしか持ってない。
二人で合わせてもギリギリ足りない。
学生の財力ではそんなものだ。
デートの予定がある日以外に、財布の中に数千円を持ち歩く方が稀である。
「……コンビニで下ろしてきていいかな?」
「いや、普通に手数料が勿体ないし。別に今日行かないといけないわけじゃないっしょ?」
「……まあ、そうかもしれないけど」
「東っちは、女の子に格好付けるタイプじゃないんだし、無理すんな」
彼女だからと美味しいランチに連れていくのは不相応である。
デートする約束をしていたならまだしも、たまたま成り行きで一緒にお昼ごはんを食べるようになっただけだ。
何でもない日を特別にする必要はない。
普通の食事に数千円も出していたら、無駄遣いでしかない。
萌花は奢られるのは大嫌いだ。
他人に借りを作るのを嫌う。
そのため、割り勘する側からしても、財布を空にして貯金を崩すとなると今後の生活が厳しくなる。
出来れば数百円のランチくらいにしてほしい。
男性は彼女と付き合ったら、お姫様扱いしてロマンチックな展開を望むらしいが、その為に費やすお金も時間も無駄だと思う。
デートプランを数時間もかけてネットで調べてくれるなら、数時間ラインで会話してくれた方が嬉しいし、千五百円のランチを食べるなら、五百円ちょっとのファミレスを三回行った方がいい。
恋愛において、男性は楽しませたいを優先して、女性は一緒にいたいを優先させている。
生き物としての考え方がそもそも違うのだから、ハジメの考えが間違っているとは言わない。
どちらも正しいだろう。
男性の下らないロマンチストな部分であっても多少は立ててあげるのが、良い女性といえる。
萌花は少し考えて提案をした。
「それじゃ、今日はもえがお金を使わなくても楽しめる最高のお昼ごはんを伝授してあげるっしょ!」
ハジメは不穏な何かを感じ取ってか、あからさまな嫌な顔をする。
○すぞ、こいつ。
百均に寄って準備をして、芝公園まで出向いていた。
五百円では美味しいランチは出来ないが、簡素だけど楽しいピックニックは出来る。
芝の上に座る用にビニールシートを買って、コンビニでおにぎりとお茶を買ってきた。
二人合わせても千円いかない。
貧乏人ならではの処方術だ。
萌花は、クソガキ時代を思い出しながら、深呼吸して背伸びをする。
天気のよさも相まって、芝公園は開放的である。
先程までのシリアスさは吹き飛んでいった。
日曜日だけれども、公園内は落ち着いていて、人通りは疎らだ。
四月になれば花見シーズンになるが、それまではピクニックをするような人間は少ないらしい。
芝生の青臭い独特な匂いは、若い子は嫌いだろうし、友達同士で集まるものじゃないだろう。
そんなの関係ない感性をしている二人は、買ってきたビニールシートを広げて、鞄を重石にして座る。
「狭くね?」
「あーね。百均だし、こんなもんじゃね?」
二畳くらいのスペースに二人が座ると、学校の机で隣同士の距離感よりも近い。
恥ずかしくね?
あれだけ女の子の手を握っておいて、今更恥ずかしがるハジメであったが手が触れるのと、身体が触れるのは、天と地の差があるのだ。
アホだなと思われているのはさておき、買ってきたおにぎりが悪くなる前に食べることにする。
「萌花は何のおにぎりにしたんだっけ?」
「しゃけとツナマヨ」
「へー、いいじゃん。萌花っぽいわ」
おにぎりの定番中の定番である。
女の子が好きそうなチョイスだった。
「東っちのは?」
「ちりめん山椒と紀州南高梅」
「おっさんかよ!」
「ええ!? 美味しいじゃん?!」
紀州南高梅の美味さはさることながら、ちりめん山椒は素朴な味だけれど山椒のピリッとした風味が白米に合っていて美味しいのだ。
冷たいお茶とも相性がいいため、口当たりがよくて何個食べても飽きない味である。
専門店であるおにぎり屋さんでは、ちりめん山椒は定番メニューだし、人気があるはずだ。
こいつ、ちりめん山椒で熱く語るな。
どんだけ好きなんだよ。
「少しくらい、高校生らしさを出せよ。最近だとお前が一番キャラが濃すぎて扱いにくいんだよ」
「そんなことを言われてもなぁ……。おにぎりは好きなの食べたいし」
そうだけど、そうじゃねぇ。
自分の中にある怒れるもえぴを鎮めながら、深呼吸して冷静さを取り戻す。
アホの思考に釣られて、おにぎり論争している場合ではない。
すれ違う人に、仲が良いカップルに間違われている。
いや、間違いではないのだが。
ハジメが絡むと、こんな下らない話をずっとしている気がするが、重い話が続いている分の息抜きだと思うことにしていた。
おにぎりの具材でこんなに揉めるのは、世界を探してもこの二人だけだろう。
「んで、東っちは最近どうよ?」
「え? 何が??」
「お前、ふざけんなよ!」
「いやマジたんま! 分からんて」
ビニールシートの範囲の狭さ故に、逃げ場がない。
靴を脱いだせいで、この場から逃げることも出来ないのだ。
距離が近いという、メリットがデメリットに早変わりである。
揉みくちゃにされたハジメは、息を切らしながら語る。
「……ああ、他の奴等のことか。特に問題はないかな」
「彼女とキスしまくっているのによく言うわ」
「ええ、俺に拒否権ないやん……」
不意打ちでキスをしたものばかりで、そもそもハジメに選択肢がない。
ハーレム系主人公よろしく、勝手にフラグが発生しているのだ。
何で自分のことが好きなのかすら分かっていない。
鈍感系主人公である。
可愛い女の子とキスが出来るなら、断る男はいないけど。
「まあ、ふう達から話は聞いてるし、全部分かっているわけじゃないけどさ。……ただ、あの三人のことは、同じくらい大切にしろよな」
「四人だろ?」
萌花は自分を含めずにいつも物事を考えているけれど、それは違う。
よんいち組に優劣はないし、ハジメ自身も萌花を一番大切にしていた。
友達や親友の幸せの為に生きていて、間違っていたら口悪く叱咤するのは怖いが、親友の為なら頭だって下げることが出来る。
そんな人間を大切に想わない人間などいないはずだ。
「……そうね」
萌花は静かだった。
萌花には萌花のいいところが沢山あって、誇れる部分は多かった。
でも、あまり語ると言葉が軽くなりそうで。
好きな気持ちが重過ぎて気持ち悪いので、それ以上語らなかった。
息苦しさを感じつつ、ハジメは寝転がり空を見上げる。
うお、眩し。
仰向けになると、太陽の光が強くて見てられなかった。
スッと遮るように、萌花はハジメの顔を覗き見てきた。
髪色が太陽の光によって、激しく輝いていて。
少し暗く映る表情が大人びている。
瞳の奥は無限に広がっていた。
髪の毛をかきあげて、萌花は問う。
「ねえ、私とキスしたい?」
その問い掛けは、言葉以上にとても大切なものであって。
その想いは強い。
太陽よりも熱く燃え盛る、彼女の瞳の美しさを知っていたのだ。
あの日の時のように、いつも笑顔で強く生きる萌花は存在せず、本来の彼女は誰よりも繊細な女の子で、簡単に消え去りそうな弱い部分を見せていた。
それは、唯一無二。
ハジメしか知らない表情だ。
そして、彼女がずっと欲しかったものはただ一つ。
「愛してる」
「私も愛してる」
東山家。
俺は、自分の部屋に籠っていた。
今日一日は、誰かと会ったり、イベントなどの予定はない。
自由なのだ。
自由は素晴らしい!
秋月さんが五月蝿い陽菜を連れて、買い物に行ってくれたし、俺の絵描きタイムを邪魔する者はいないのだ。
あー楽しい。
静かな家ってのも珍しいため、集中して作業が出来る。
昼過ぎまで絵を描いて過ごしていた。
昼ごはんまでには、色々と終わらせたいからな。
三月にあるイベントの同人誌の準備は無事に終わって暇だが、空いた時間にグッズ用のイラストを修正し直していた。
まあ、次のイベントまでには色紙を描いたり、日々のツイッター更新などのやらないといけないことがあるので、暇だけど暇じゃない。
だが、多少の余裕がある。
それが重要なのだ。
格好は汚くてだるんだるんの部屋着だけど、それは許してくれ。
これが一番集中しやすい格好なのだ。
秋月さんがいると、部屋着はダサ過ぎて引かれそうだからあまりやらないが、一人の時くらいはゆったりしたい。
まあ、昼のこの時間から訪ねてくるやつなんかいないだろうし。
平気、平気。
リビングまで向かい、コーヒーを淹れる。
「あら、ハジメちゃん」
「げっ」
「あらあら、何か言ったかしら?」
母親が居るとは思わなんだ。
秋月さんと陽菜が出掛けたから、一緒に行っていたと思っていた。
ママには日曜日にもやらないといけない仕事があるんです。
ママはいつでも大変です。
延々と語る。
うっす。
そうなんですね。
興味なさすぎて空返事をしてしまう。
いつも頑張る母親の労いも兼ねて、母親のコーヒーも淹れてあげる。
「お昼ごはんどうしよっか? たまにはママとランチデートでもする?」
「いや、したことないだろ」
捏造するな。
何で高校生になってまで母親とランチをしないといけないんだよ。
隣に三十○歳の母親を連れていたら、恥ずかしいわ。
母親だから気にしていないが、普通に美人だから街を歩くと目立つしな。
「ハジメちゃん、なんでぇ~。彼女にはあんなに優しいのにママには優しくしないのよ~」
は?
いや、怖い。
あんなにって何だよ。
この魔王は、どこまで知っているのか。
横で彼女と繋がっているの止めろ。
みんなとライン友達らしい。
このババア……。
普通に遊びにくる秋月さんならまだいいが、あまり会わない他のやつにまでうざ絡みし始めるのは可哀想である。
ただでさえ纏っているオーラが威圧的なんだから、優しくしてやってほしい。
それに、何故か知らないが、よんいち組のやつらは俺の母親には強く出れないからな。
何度も話している間柄だから、敬語はいらないだろうに。
変に律儀である。
チャイムがなる。
「あら? ヤマトかしら」
「ああ、そうなのか。じゃあ、俺が出てくるわ」
コーヒー飲み始めていたので、代わりに受け取りに行く。
玄関を開ける。
「よっ」
「萌花?」
あまり着たことがないような、清楚なワンピースを着ていた。
白とピンクのヒラヒラが付いたやつ。
可愛い。
語彙力を失ってしまった。
一旦落ち着いて。
萌花のイメージとは違っていたけど、そのギャップが可愛い過ぎて。
一瞬、別人だと思ってしまった。
こちらの視線に気付いて、ポーズを取って服を目立たせる。
「どうよ?」
「良い」
「語彙力低すぎじゃね?」
いや、来るって知らなかったやつが目の前にいて、急に洒落た言葉は出てこないわ。
動揺して取り乱していないだけマシだ。
「すまん、萌花と約束したっけ?」
「んにゃ。東っちのお母さんと軽く話をする約束しているだけ」
そっちのがやばくね?
何で母親と連絡しているんですかね。
萌花の考えは分からないが、何でもない日に可愛い姿をした彼女を見れたのは嬉しい。
女の子といえば、やっぱりスカートだよな。
長く揺らめくスカート丈が、可愛いのである。
制服の短いスカートとは違った魅力があるものだ。
「取り敢えず上がってくれ。あ、そうだ。俺も着替えてくる……」
「何で自分の家で緊張しているんだか……。とりま上がらせてもらうね」
萌花をリビングに案内して、二人は女性だけで話がしたいとのことで、俺は自分の部屋で待機していた。
三十分で済む話らしいが、その時間が永遠にすら感じてしまう。
一方その頃。
女性二人はテーブルに座り、静かに見合っていた。
萌花は、出された紅茶に全然手を付けずにいた。
緊張していたのか。
それに気付いてか、ハジメママはお茶菓子を手前に出す。
「ふふふ。身構えなくてもいいわよ」
最初に口を開いたのは、ハジメの母親である東山真央だった。
ママとして息子は大好きではあるが、独占欲はない。
ハジメを本当に好きで、本質を見ている相手であれば、無下には出来ないものだ。
可愛いよそ行きの格好で訪れてきた女の子の覚悟くらい分かる。
萌花は頭を下げる。
「本来なら直ぐにでも挨拶すべき立場なのに、遅れてしまい申し訳ありません」
「そう。気にしなくていいわよ?」
心の内が読めない返事をする。
優雅にコーヒーを飲む。
それから、麗奈がお世話になっていることに感謝をして、近状報告をする。
自分より強い女性に一々隠していても仕方がないので、嘘偽りなく。
しかし、他人のプライバシーに触れない部分は伏せておく。
学校生活。
恋愛。
サークル活動。
「はぁ、ハジメちゃん。ママには全然学校のこととか話さないんだから困ったものだわ」
「流石に話すものではないかと……」
自分の母親に、学校のことや、彼女との恋愛の話していたら、それはそれでドン引きである。
ハジメは普通に母親に絡まれて嫌がっているので、マザコンなんてことはないんだろうが。
「ありがとうね。ハジメちゃんが、みんなと仲良くやっているようで良かったわ。あの子、アホなくらいな真面目だから空気読めないでしょ? 付き合わされる女の子は絶対に苦労するタイプだし、心配だったのよ」
萌花もそれに関しては思いっ切り同意したいところだが堪える。
親が息子を卑下するのはいいが、それは家族だからだ。
ハジメと萌花に悪口を言い合える信頼関係があったとしても、それを知っているわけではない。
出来た彼女として見てもらうには、ひた隠しにしないといけないことばかりで難しい。
母親としてのちょっとした冗談だとしても、何を言えば正解かは分からない。
答えは出ないのに、時間だけが無情にも流れていく。
考えている余裕すらない。
ハジメも、親に会いにきた時は同じだったのだろうか。
何気なく口に出した一言で、好きな人の両親に一生嫌われるかも知れない。
そのプレッシャーは尋常ではない。
心臓が万力で潰されていく。
そんな中で、彼女の為に怒るなんて、無茶をするものだ。
萌花も本人にはボロクソに言うことが多いけれど、ハジメの母親であるのでオブラートに包んで褒める。
「……東山くんは、そこがいいところですから、心配いりません。欠点はその人の魅力です。真面目な部分に助けてもらっている時もあるので、別に変わらなくていいでしょう」
「あらあらまあまあ」
息子が褒められてテンションが上がっていた。
感情豊かな人である。
笑っている姿はハジメには似てないけれど、どことなくウザさは似ていた。
少しだけ、二人の間にあった心の壁がなくなった気がした。
ハジメママは、ジッと見詰めてくる。
「……愛しているのね」
「そうなのでしょうか?」
「一瞬だけ、目が真剣になっていたもの。誰だって、好きな人が悪く言われたら腹立たしいものね。ごめんなさい」
即座に頭を下げる。
真央は、年下の小娘に対して、深々と謝罪をする。
ふざけている様子はなく、心の底から言っていた。
「頭を上げてください。別に怒っていませんので」
「そう? あらあら、良かったわぁ」
変わり身が早い。
こういうところは親子である。
読めない性格というよりかは、頭で考えて喋っていないのか。
自分という芯がしっかりしているからか、直感的に口に出してくる。
そして、この手のタイプは、適当な態度なくせに他人の機微に敏感なので、萌花の性格との相性は悪い。
じっくり考える暇を与えてくれない。
「それと、私はそんな出来た人間ではありませんので、過大評価されても困ります」
「あら、謙虚なのね。最近の若い子は凄いわ」
絶妙にやりづらい。
マシンガントークではないが、時たまに探りが入ってくる。
息子のことを色々知りたいのは分かるけれど、萌花だってよんいち組のことは知らないことばかりだ。
親友とはいえ、他人の恋愛には不干渉である。
同じ彼女であっても思い出を共有し過ぎたら、自分一人の特別な思い出ではなくなる。
だから、よんいち組でもパーソナルスペースは適度に取っているわけだ。
相手が話したいことだけは聞いて、大切にしたい部分は踏み込まない。
だから、知らないことは知らないし、興味本位で知ろうとは思っていない。幸せなことも、悩み事があれば、向こうから話してくるはずだ。
自分からは手助けせずに、頼ってくるまで待ち続ける。
親友とはそういうものだからだ。
そう考えたら、みんな前ほど自分のことで悩んだり、愚痴ったりしなくなった。
そのほとんどは、一日二日で解決するような、取るに足らない悩みかも知れない。
私達、高校生が抱える悩みなんて、昼間は元気だったのに、寝る前の布団の中だけ悩んでしまう些細なものだ。
思春期特有のよくあるやつだ。
だけれども、そんな下らない悩みでもハジメは馬鹿にしない。
人の感情に、小さいも大きいもない。
全て大切なものである。
……謙虚さとは、その手の類いだ。
自分のことより、他人のことを考えられる素直な心がなくてはならない。
いつだって、自分をよく見せようとしている人間に使う言葉ではない。
萌花は、真剣な表情で語り出した。
見えない机の下で、スカートを強く握りしめていた。
「……私は、誰かに褒められる生き方をしていません。自分の性格の悪さのせいで、今まで多くの人に迷惑を掛けてきたというのに、自分だけ幸せになってのうのうと生きている気さえしています」
何故、自分が不利になるようなことを口走ったのか分からない。
でも、今言わなければ後悔するだろう。
自分にとっての分岐点になるような気がして、止めることが出来なかった。
「自分のせいで、東山くんがよく言われていないことを知っています。どんなに私のことで馬鹿にされていても、彼は一度足りとも愚痴すら口に出したことがありません。……それなのに、原因である自分だけが悩んでいるのは、あまりにも不誠実で。難しいものですね」
自分の性格が悪いのは重々承知だ。
そうやって生きてきて、後悔はしたことはない。
自分の性格上、男の子に可愛く振る舞ったり、大人っぽい綺麗な女性にはなれないし、知的なイメージを持たれることもないだろう。
学校では、収まるべき場所に収まっているだけだ。
男子に好かれたいとは思わないし、歩み寄りたいとも思わない。
しかし、そのせいでよんいち組の仲間が悪く言われるのは違う。
何故、私への嫌味をわざわざ好きな人へ言うのだろうか。
それも、ハジメとも交流がない。
互いに名前も知らないような赤の他人が、ハジメを批判してくるなんて、おかしいのに。
何故、そんなことを言うのか。
彼氏になっただけで、私が支払うべきであった責任を全て負わなければならないのか。
ハジメにとって、私の存在は傍に居るだけで立場を脅かす猛毒でしかない。
……自分が強く出れば、また反感を買うだろう。
悪循環になっていた。
解決策があれば直ぐにでも実行するのに、糸口が見付からない。
だから、いつも様子を見守ることしか出来ない。
如何に大人ぶっていても、他人を犠牲にして生きている以上、子供なのである。
好きな人を傷付けたくないならば、この手を離せばいいだけなのに、それをする勇気もない。
「そうね。……萌花ちゃん。ちょっとだけ、私の話をしましょうか?」
二人が話し合える残り時間は少ないけれど。
萌花の為になればと、真央は自分の昔のことを語り出したのだった。
三十分を少しだけ押して、二人の話し合いは終わった。
リビングに戻ると、母親と萌花は仲良くお茶をしている。
「えっと、なに話していたんだ?」
妙に仲良くなっているのが怖かった。
すまないが、この二人だぞ?
仲良くなれる共通点なんて、性格の悪さくらいしかない。
あと、俺に対して強く出れる特効キャラなところか。
俺の悪口で盛り上がっていたのであればまだいいが、俺の過去の話や、あることないこと言い触らされていたらやばい。
母親は強し。
おぎゃあから俺を知っている人間だから、それだけ強力な弱味を握っているわけだ。
何歳まで夜泣きしてたとか、おねしょしてたとか、普通に言うからな、この母親は。
貴方にとっては可愛い思い出だろうが、俺からしたら恥ずべき過去である。
彼女に言うことではないし、思春期の息子との付き合い方を見直してくれ。
「あらあら、気になる? うふふ。でも、女の子同士の秘密よ」
きも。
「ああ、そうか」
顔に出そうだったので、即座に下を向いて表情を隠す。
萌花は気付いていそうだったが、特に何も話さない。
ありがてぇ。
「あら、そうだわ。お昼だし、みんなでランチでも行かない? ママ、もっと萌花ちゃんとお話したいもの」
「いや、駄目」
「え~、何でよ」
「これ以上、 母親に付き合わせるのも悪いからな。俺達二人で出掛けてくるわ」
「も~、ママも行きたいのに~」
ふざけるな。
萌花だって休日に、わざわざ電車でやってきて疲れているんだから、少しは気遣ってくれ。
そうでなくても、母親みたいなやつと長時間話していたら、誰だって疲れるんだよ。
いくら萌花が可愛いからって、愛でるのは止めてやれ。
俺の彼女であっても、母親の娘じゃないんだよ。
「……あらあら、こういう時だけ彼氏面しているんでしょ、この子」
うぜぇ。
俺に恨みでもあるのかよ。
他のやつならまだしも、萌花の前で言わると困る。
萌花さん、返答に困っている上に、めちゃくちゃ愛想笑いなんだけど。
気を遣わせて、すまない。
萌花には後で謝ろう。
それに、ヘタレだって別にいいじゃないかよ。
今までずっと、高校一年生の時は絵を描いているだけの人生だ。
そんな奴にいきなり彼女が出来ても、上手く立ち回れるわけがない。
学校では嫌味混じりで弄られているし、彼女達のような美人と不釣り合いなのは俺でも分かっている。
本来ならば、あいつらの彼氏らしく馬鹿にされても強気で煽り返すくらいの度胸があった方がいいのだろう。
中指立てるくらいしても文句は言われないはずだ。
しかし、自分が直接的に言わる分には気にしていないし、彼氏としての器が小さく見えるから喧嘩したくないんだよな。
隣に萌花がいる状況で悪く言われたら、秒でビンタするけどさ。
そこら辺は難しいものだ。
母親のように、俺は好きな人は死ぬほど好きってキャラでもないし、野郎が普段から好き好きしていても気持ち悪いと思う。
カレカノだったとしても、好き好きオーラ全開でグイグイ来たら嫌われてしまうからな。
俺みたいなやつでも、ちゃんと考えて行動はしている。
思春期男子特有な彼女に甘えたい部分は隠して、節度を持っているわけだ。
学校なのに、アヒルの赤ちゃんみたいに好き好きオーラ出しながら、後ろを付いてくる小日向とか白鷺が甘々なだけである。
恋愛ガバガバなのは二人の性格からしてそうだろうからいいけど、秋月さんとか萌花みたいに、毅然とした大人な恋愛の対応をしてもらいたい。
……いや、全員同じようなものか。
内心では似たり寄ったりだろう。
俺もまあ、萌花に会えて嬉しいからな。
途中まで進めていた絵を放り投げて、顔を洗って外行きの服装でこの場にいる理由はそれだ。
少しでも好きな人と一緒に居たいのはこの世の真理だ。
それこそ、恋愛馬鹿なんだろうな。
「取り敢えず、そういうのはいいからさ。萌花、行こうぜ」
手を差し出して萌花を連れ出す。
「あ~ん。そうやっていつもママを邪険に扱うんだからっ!」
五月蝿い母親は置いておく。
泣き叫んでいるが、無視である。
昼間から何で騒がしいのか。
でも、ドタバタに便乗して萌花の手を握れたので、よしとしよう。
萌花サイド。
二人は逃げるように家を出て、お昼ごはんを食べるために駅前に向かっていた。
いきなり手を握ってしまう展開にビックリしたが、玄関では靴を履くために手を離さないといけなくなった。
考え付かなかったらしく、慌てていた。
手を繋いだまま靴を履けないか思案したが、断念していた。
こいつ、馬鹿だな。
そう思いつつも、可愛い女の子ばかりの中で、私を選んでくれているところは評価していた。
ハジメには私の責任を負わせていて、思うことは多々あれど、それでも大切にされているのは悪くない。
新調したばかりの洋服も好感触なようだし、頑張って買った甲斐がある。
東っちなら、こういう清楚系のが好きだと思っていた。
どうしてだろう。
麗奈に影響されているのか、自分の本来の性質がそうなのか。
最近の自分は、女々しいものだった。
男に媚を売るような真似をして、素直に喜んでいる人生を歩むとはね。
性格が悪い故に、一生ろくな恋愛も出来ないか、バツイチ子持ちみたいな生き方になると思っていたが、十二分な人生を歩んでいた。
深く考えていても仕方ない。
アホの方が幸せだ。
前を歩く人間がそうであるように、ポジティブに生きるのは楽しい。
この世は不条理で、悩むことはたくさんあるが、それでもよんいち組でいる時だけは楽しかった。
それは、ハジメの頑張りがあってこそである。
何も考えていないアホであっても、誰かは誰かに影響を与えて、影響を受けて生きている。
ほんの些細な言葉や行動であっても、人間は変わっていく。
私達は絵の具のようなものだ。
一つしか色を表現出来ない子供であり、完璧とは程遠い存在だ。
それでも、人生のキャンバスに新しい絵の具を一色ずつ入れてあげれば、絵はより綺麗に表現出来るし、鮮やかな色になるだろう。
自分にはない色を持っているのが、風夏や冬華。麗奈だったり。
クラスメートのみんなだったりする。
そして、地味な黒色にだって価値はある。
萌花は、自分の指を見ていた。
自分だって、風夏達と変わらない。
好きな人と手を繋いだら、死んでも離したくなくなる。
たとえ、傷付け合う結末になったとしてもこの手は繋いでいたい。
「萌花、どうしたんだ?」
前に歩いていたハジメが振り返る。
「はい」
萌花が手を差し出すと、ハジメは嬉々として目を輝かせる。
どんだけ私を好きなんだよ。
黒い瞳が、キラキラである。
表情筋死んでいるので表情にはあまり出さないが、目で語るタイプの人間なので判りやすい。
手を握るくらいで喜ぶなんて。
付き合っていたら普通なのに。
それでもハジメは大喜びで、幼稚園児と変わらない思考回路をしていた。
手を繋ぎ直して、横並びになって歩く。
互いに好きだと判る雰囲気があっても、別にカップルみたいな会話をするわけじゃなく。
ただただ普通に歩くだけだった。
それから幸せそうに歩きながら他愛ない話をする。
ハジメと話す時は、漫画の話が中心である。
こいつ、念能力の話が大好きだからな。
ハンター×ハンターを網羅している萌花ですら、この熱意はない。
女子がちいかわのハチワレの話をしている最中に、ハコワレの話をしているくらいにイカれている。
ずっとハンター×ハンターの話を聞いてあげているのだから、利息くらい払って欲しい。
ハジメには友達は少ないが、好きな漫画の話をするのは楽しいらしく、嬉しそうに笑う。
そこら辺はどこにでもいる普通の高校生である。
……好きな話で饒舌になるのはキモいが。
駅前に着くまで、延々にハンター×ハンターの話をしているわけにもいかないので切り上げさせる。
「それはいいけど、お昼どーするん? 地元だし、色々と詳しいっしょ?」
「町の定食屋さんなんだけど、ハンバーグが美味しいところがあるから行ってみるか?」
「へー、ハンバーグね。お高いんじゃないの?」
「一人千五百円あれば大丈夫」
ハジメは財布を確認するが、千円しか持っていない。
萌花も千円とちょっとくらいしか持ってない。
二人で合わせてもギリギリ足りない。
学生の財力ではそんなものだ。
デートの予定がある日以外に、財布の中に数千円を持ち歩く方が稀である。
「……コンビニで下ろしてきていいかな?」
「いや、普通に手数料が勿体ないし。別に今日行かないといけないわけじゃないっしょ?」
「……まあ、そうかもしれないけど」
「東っちは、女の子に格好付けるタイプじゃないんだし、無理すんな」
彼女だからと美味しいランチに連れていくのは不相応である。
デートする約束をしていたならまだしも、たまたま成り行きで一緒にお昼ごはんを食べるようになっただけだ。
何でもない日を特別にする必要はない。
普通の食事に数千円も出していたら、無駄遣いでしかない。
萌花は奢られるのは大嫌いだ。
他人に借りを作るのを嫌う。
そのため、割り勘する側からしても、財布を空にして貯金を崩すとなると今後の生活が厳しくなる。
出来れば数百円のランチくらいにしてほしい。
男性は彼女と付き合ったら、お姫様扱いしてロマンチックな展開を望むらしいが、その為に費やすお金も時間も無駄だと思う。
デートプランを数時間もかけてネットで調べてくれるなら、数時間ラインで会話してくれた方が嬉しいし、千五百円のランチを食べるなら、五百円ちょっとのファミレスを三回行った方がいい。
恋愛において、男性は楽しませたいを優先して、女性は一緒にいたいを優先させている。
生き物としての考え方がそもそも違うのだから、ハジメの考えが間違っているとは言わない。
どちらも正しいだろう。
男性の下らないロマンチストな部分であっても多少は立ててあげるのが、良い女性といえる。
萌花は少し考えて提案をした。
「それじゃ、今日はもえがお金を使わなくても楽しめる最高のお昼ごはんを伝授してあげるっしょ!」
ハジメは不穏な何かを感じ取ってか、あからさまな嫌な顔をする。
○すぞ、こいつ。
百均に寄って準備をして、芝公園まで出向いていた。
五百円では美味しいランチは出来ないが、簡素だけど楽しいピックニックは出来る。
芝の上に座る用にビニールシートを買って、コンビニでおにぎりとお茶を買ってきた。
二人合わせても千円いかない。
貧乏人ならではの処方術だ。
萌花は、クソガキ時代を思い出しながら、深呼吸して背伸びをする。
天気のよさも相まって、芝公園は開放的である。
先程までのシリアスさは吹き飛んでいった。
日曜日だけれども、公園内は落ち着いていて、人通りは疎らだ。
四月になれば花見シーズンになるが、それまではピクニックをするような人間は少ないらしい。
芝生の青臭い独特な匂いは、若い子は嫌いだろうし、友達同士で集まるものじゃないだろう。
そんなの関係ない感性をしている二人は、買ってきたビニールシートを広げて、鞄を重石にして座る。
「狭くね?」
「あーね。百均だし、こんなもんじゃね?」
二畳くらいのスペースに二人が座ると、学校の机で隣同士の距離感よりも近い。
恥ずかしくね?
あれだけ女の子の手を握っておいて、今更恥ずかしがるハジメであったが手が触れるのと、身体が触れるのは、天と地の差があるのだ。
アホだなと思われているのはさておき、買ってきたおにぎりが悪くなる前に食べることにする。
「萌花は何のおにぎりにしたんだっけ?」
「しゃけとツナマヨ」
「へー、いいじゃん。萌花っぽいわ」
おにぎりの定番中の定番である。
女の子が好きそうなチョイスだった。
「東っちのは?」
「ちりめん山椒と紀州南高梅」
「おっさんかよ!」
「ええ!? 美味しいじゃん?!」
紀州南高梅の美味さはさることながら、ちりめん山椒は素朴な味だけれど山椒のピリッとした風味が白米に合っていて美味しいのだ。
冷たいお茶とも相性がいいため、口当たりがよくて何個食べても飽きない味である。
専門店であるおにぎり屋さんでは、ちりめん山椒は定番メニューだし、人気があるはずだ。
こいつ、ちりめん山椒で熱く語るな。
どんだけ好きなんだよ。
「少しくらい、高校生らしさを出せよ。最近だとお前が一番キャラが濃すぎて扱いにくいんだよ」
「そんなことを言われてもなぁ……。おにぎりは好きなの食べたいし」
そうだけど、そうじゃねぇ。
自分の中にある怒れるもえぴを鎮めながら、深呼吸して冷静さを取り戻す。
アホの思考に釣られて、おにぎり論争している場合ではない。
すれ違う人に、仲が良いカップルに間違われている。
いや、間違いではないのだが。
ハジメが絡むと、こんな下らない話をずっとしている気がするが、重い話が続いている分の息抜きだと思うことにしていた。
おにぎりの具材でこんなに揉めるのは、世界を探してもこの二人だけだろう。
「んで、東っちは最近どうよ?」
「え? 何が??」
「お前、ふざけんなよ!」
「いやマジたんま! 分からんて」
ビニールシートの範囲の狭さ故に、逃げ場がない。
靴を脱いだせいで、この場から逃げることも出来ないのだ。
距離が近いという、メリットがデメリットに早変わりである。
揉みくちゃにされたハジメは、息を切らしながら語る。
「……ああ、他の奴等のことか。特に問題はないかな」
「彼女とキスしまくっているのによく言うわ」
「ええ、俺に拒否権ないやん……」
不意打ちでキスをしたものばかりで、そもそもハジメに選択肢がない。
ハーレム系主人公よろしく、勝手にフラグが発生しているのだ。
何で自分のことが好きなのかすら分かっていない。
鈍感系主人公である。
可愛い女の子とキスが出来るなら、断る男はいないけど。
「まあ、ふう達から話は聞いてるし、全部分かっているわけじゃないけどさ。……ただ、あの三人のことは、同じくらい大切にしろよな」
「四人だろ?」
萌花は自分を含めずにいつも物事を考えているけれど、それは違う。
よんいち組に優劣はないし、ハジメ自身も萌花を一番大切にしていた。
友達や親友の幸せの為に生きていて、間違っていたら口悪く叱咤するのは怖いが、親友の為なら頭だって下げることが出来る。
そんな人間を大切に想わない人間などいないはずだ。
「……そうね」
萌花は静かだった。
萌花には萌花のいいところが沢山あって、誇れる部分は多かった。
でも、あまり語ると言葉が軽くなりそうで。
好きな気持ちが重過ぎて気持ち悪いので、それ以上語らなかった。
息苦しさを感じつつ、ハジメは寝転がり空を見上げる。
うお、眩し。
仰向けになると、太陽の光が強くて見てられなかった。
スッと遮るように、萌花はハジメの顔を覗き見てきた。
髪色が太陽の光によって、激しく輝いていて。
少し暗く映る表情が大人びている。
瞳の奥は無限に広がっていた。
髪の毛をかきあげて、萌花は問う。
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その想いは強い。
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あの日の時のように、いつも笑顔で強く生きる萌花は存在せず、本来の彼女は誰よりも繊細な女の子で、簡単に消え去りそうな弱い部分を見せていた。
それは、唯一無二。
ハジメしか知らない表情だ。
そして、彼女がずっと欲しかったものはただ一つ。
「愛してる」
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