この恋は始まらない

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第33.5話・東山家のクリスマス

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全員と解散して、駅まで送っていった。
黒川さんや西野さん達の地元組は、家族が迎えにきてくれたので、任せてしまい。
最後に残った、小日向と秋月さんを家まで送ったら十時過ぎになっていた。
秋月さんと手を振って別れて家路に着いた。
少し小走りで帰る。
寒いので早く家に帰って、風呂に入って寝るとしよう。
漫画を描く時間はあったが、何だかんだ明日も学校なので、体力全部使うわけにもいかないからな。
夜風が顔にぶつかる。
寒過ぎる。
身体が大きく震えた。
「あー、寒いな。風邪引きそう」
帰り際に自販機で缶コーヒーでも買おうかしら。
『マイサン、麗奈ちゃん含めて我が家でクリスマスやるから一緒に帰ってきなさい』
何故にマイサン?
ハジメちゃんでいいじゃん。
母親からの謎の連絡にツッコミをする。
連絡がもう少し早ければタイミングが良かった。
普通に秋月さんと別れちゃったんだけど。
しゃあない。
十数分かかるけれど、戻るか。
踵を返し、秋月さんを迎えに行く。
また風が吹く。
「え~、マジかよ。メチャクチャ寒いんだけど~」
クリスマスなのに寒過ぎる。
缶コーヒー買ってから向かえばよかったかも知れない。
でも、秋月さんにも連絡行っている感じだったので、早めに向かうことにした。


「東山家クリスマスパーティーを始めるわよ」
「どんどん」
「ずんちゃずんちゃ」
母親と陽菜が、ダンスを踊り出す。
我が家の恥だな。
真顔でそれを眺めている俺達の気持ちを考えて欲しい。
しかも血が繋がっていない秋月さんがこのノリに巻き込まれていて可哀想だった。
父親に関しては無理矢理サンタの格好をさせられている。
母親とレストランから帰って来て直ぐにサンタ役をするとは、お疲れ様だな。
「みんな~、パパからのクリスマスプレゼントだよ~」
ノリノリやん。
親父も楽しみにしていたんか。
白いサンタの袋を取り出し、陽菜と秋月さんにプレゼントを渡す。
何故だか分からんが、俺にもくれた。
あ、一応息子だからか。
忘れてたわ。
中身はみんな同じらしく、冬用の新しい寝間着であった。
「ジェラピケだ!」
「なにそれ? 新しいポケモン??」
「え? 寝間着のブランドの略称で……」
女の子に人気があるブランドらしく、寝間着といえばこれらしい。
可愛い系のモコモコ寝間着が入っていて、寒い冬場でも温かそうだな。
「でも、生地的に埃めっちゃ付きそうだな。ク○ックルワイパーみたいなもんか? 寝ながら埃も集まって二度お得みたいな感じ?」
「そう見えるかも知れないけれど、寝間着にク○ックルワイパー要素は付けないからね?」
ちゃんと静電気が発生しないような作りらしい。
毎日埃を取っていたら洗うの大変だもんな。
「わーい。今日からつかちゃお!」
陽菜は元気だ。
流石に中学生だけあってか、素直な反応をするものだな。
まあ、家族しかいないし陽菜は放置しておく。
「プレゼントありがとう」
親父と母親に感謝する。
「パパママ、ありがとう!」
「私の分まで、ありがとうございます」
陽菜と秋月さんも感謝すると、感無量で泣きそうになる母親であった。
「麗奈ちゃんも家族じゃない。当たり前よ」
「真央さん……」
「抱き付いていい?」
「え? ええ、」
抱き付く。
合法的にJK成分を吸収するの止めろ。
脈絡もなく秋月さんに抱き付くなよ。

それからは、取り置きしておいたケーキを両親に渡して、紅茶とコーヒーを飲みながらゆっくりする。
秋月さんがプレゼントしてくれたドリップケトルで淹れたコーヒーは好評であり、いつもより美味しく感じる。
ベタ褒めである。
親父も秋月さんには甘いからな。
母親が話し掛けた。
「麗奈ちゃん、冬休みに入ったら暇でしょう? 毎日家に居ていいからね?」
「邪魔になりますし、毎日はちょっと……」
「ハジメちゃん、邪魔じゃないわよね?」
「全然」
即答する。
秋月さんを一度たりとも邪魔なんて思ったことはない。
俺なんか、世話になっている側の人間だからな。
頭が上がらない立場である。
「では、空いた日には、お邪魔しますね」
「そうね。待っているわ」
母親は嬉しそうに笑っていた。
毎日でも遊びに来てね、と念を押す。
「毎日でも嬉しいから」
「えっと……」
図々しいな、この母親。
秋月さんに圧を掛けるな。
押しに弱いんだから、可哀想である。
母親を引き離して落ち着かせる。
同性とはいえ、ババアが女子高生にぐいぐいきたら、怖いじゃん……。
「あらあらまあまあ、ハジメちゃん。なに……?」
秒でバレかけたので、考えるのを止めた。
菩薩のような細目が開眼しそうになる。
目と目が合うと、死ぬ。
くそこわ。
母親の野性の勘が鋭過ぎて、何も出来ないんだよ。
「わたし、着替えてくる!」
唐突にジェラピケの寝間着に着替えてくる陽菜。
いや、何で今なんだよ。
その話は大分前に終わったんだけど。
空気を読まずに、自分の部屋に向かい出す。
バタバタと足音を立てて歩くあたり、品がないのが何というか。
はぁ、秋月さんを見習って欲しいものだ。

「じゃじゃーん。どうかな?」
陽菜が着替えて出てくる。
モコモコの寝間着を身に纏い、決めポーズを取る。
TikTokやってそうな動きをしていた。
それを見て、みんなは可愛い可愛いと、ベタ褒めである。
「えへへ、そうかなぁ」
陽菜は、両親と秋月さんに褒められて天狗になっていた。
正直、狙って可愛い風にしているのがとてつもなくキモいが、身内なので黙っておく。
陽菜は長年、可愛い可愛いと言われ過ぎて、承認欲求モンスター化していた。
我可愛い故に、我在り。
そう思って生きてそうだな。
小日向は節度を弁えた可愛いアピールをするが、こいつは自分自身の為でしかない。
生産性がない可愛いだ。
「お兄ちゃん、陽菜可愛いでしょ」
「そうだね」
「え~、冷たいよ! お兄ちゃん、陽菜可愛いでしょ」
「ああ、うん。そうだね。うん、可愛いと思うよ」
「え~、お兄ちゃん。歯切れが悪いなあ」
この世にはな、妹を好きな兄なんか存在しないんだよ。
そもそも隣に秋月さんが居る時点で、お前の可愛さが霞んでいるのに気付けよ。
可愛い寝間着を着ているのが秋月さんなら満場一致で、可愛いって言える。
だが、おめーは駄目だ。
女児アニメの世界線みたいな簡素化したデフォルメしているくせに、可愛さを求めるな。
陽菜はまた爆弾をぶっ混んでくる。
「麗奈ちゃんも着替えてみたら?」
こいつだけを滅ぼす兵器とか開発されないかな。
数千万でも金払うんだが。
「え? 私も?」
「麗奈ちゃん、泊まっていくでしょ?」
「今日はちょっと……。明日も学校があるから……」
「え~、麗奈ちゃんとお泊まりしたいなぁ。陽菜とお話しようよぉ」
「ママも! ママも麗奈ちゃんとお話したいわ」
だから、そういうの止めろよ。
学校に行く準備もあるんだから、家に返してやれ。
二人を注意するが、人の話を聞くようなタイプのやつはいなかった。
「ママ、しつこくするのは駄目だよ。麗奈ちゃんが困っているじゃないか」
真面目に話す親父は格好いいが、サンタのコスプレしているのでツッコミたくなる。
親父は家長であり常識的な思考をしているが、母親には頭が上がらない。
クリスマスガチャ。
クリスマススキン。
母親は耳打ちした。
「済まない。俺では力不足だ」
親父は即座に買収されていた。
クソ野郎じゃねぇか。
お小遣い制の親父にとっては、三千円のガチャ一回でも貴重なのだ。
今年のクリスマスキャラが引けるかも知れないチャンスを逃したら、来年になってしまう。
その気持ちは分かるが、父親としての評価は下がっていく。
俺達子供は、無になっていた。
ガチャを引きたいが為に、母親に魂を売るのは構わないが、そこまでしてゲームをやりたがる意味が分からなかった。
親父が、ストレス解消にゲームをやっているのは知っているが。
……大人って大変なんだろうな。


結局、秋月さんは母親に押し負けて泊まっていくことになった。
真冬の深夜に帰らせるわけにもいかないので、それはいいんだが。
寝る場所がそもそもないので、俺の部屋を片付けて使ってもらう。
まあ、毎回そうなっているから今更だな。
寝床の準備を終えた。
「よし、じゃあ終わったからここで寝てください」
俺がベッドメイキングしている間に、秋月さんは寝間着に着替えていた。
もこもこ。
ジェラピケの可愛い寝間着に身を包んでいた。
「こういう寝間着は可愛いのだけれども、実際に着てみると恥ずかしいわね」
恥ずかしそうにしていた。
うん。
ジェラピケのもこもこに包まれた秋月さんは、超絶可愛い。
ゆるふわな雰囲気が似合う、今時な女の子らしい可愛さがある。
綺麗過ぎて、まぶしい。
目が焼けるほどだ。
眼球が乾いてきた。
「秋月さん、少女漫画のヒロインみたいに似合ってますよ」
「そうかな?」
「ああ、断言出来るよ」
秋月さんは自身がなさそうにしているが、男の俺からしたらタダで女の子の可愛い格好を見れるのは役得である。
はあ、癒しされるわ。
秋月さんを見ているだけで、多分ピーリング効果があると思う。
疲れが吹き飛び、身体が軽くなる。
俺が漫画の締め切りに追われつつも倒れずに何とかやっていけるのは、秋月さんが気遣ってくれたからだ。
今日だって、陽菜の面倒を見てくれているしな。
家族のように、常日頃から甘えてしまっているのは申し訳ないが。
秋月さんは、よんいち組の纏め役だけあってか、大人っぽくてママみを帯びていて、母性を感じてしまうんだよな。
クラスの野郎が、秋月さんの胸に抱かれて死にたいとか言っているのも分かるわ。
誰だって母性溢れる女性に抱擁されて、優しく包まれたいもんな。
毎日抱き締められたい。
「俺はリビングで寝るから、何かあったら叩き起こしてください」
リビングは寒いが、寝袋とホッカイロを使いつつ、暖まれば寝れるだろう。
自分の家で寝袋使ってサバイバルしているのは謎だが、陽菜や両親の部屋で一緒に寝るのは死んでも嫌なので仕方ない。
「やっぱり、私がリビングで寝るよ?」
「いや、それは絶対に駄目なんで」
「じゃあ一緒に寝る?」
えっ?
時が止まる。
それってどういう意味なのか。
気を遣ってくれた。
優しい人だし、他意はないと思うけれど、流石にビックリした。
普通に考えて、男女が同じ部屋に二人っきりなのもやばいのに、一緒に寝るとか危な過ぎる。
秋月さんが俺に対して家族のように打ち解けてくれているのは有難いが、最近は特にガードを下げ過ぎである。
俺もよんいち組の一員ではあるが、クラスの男子と同じく、秋月さんが可愛いくて魅力的と思っているのは俺も変わらない為、可愛い女の子が無防備で来られると自制心が揺らいでしまう。
俺だって男だからな。
可愛い女の子を見ていたらドキドキだってする。
胸元やパンツだって見たい。
メイドが好き過ぎて同人誌出しているオタクの性欲を舐めるなよ。
目の前の秋月さんがメイド姿だったら、欲求に負けていただろう。
首のかわ一枚で助かっていた。


秋月さんは、自分の発言の意味に気付いてか、かなり慌て出す。
「あ、えっと、そういう意味じゃなくて……。ごめんなさい」
恥ずかし過ぎて、赤面していた。
意識しないでくれ。
俺も恥ずかしい。
心臓が高鳴り過ぎて、ぶっ壊れそうである。
「あ、じゃあ、俺はリビングで寝るんでよろしくお願いします」
この場に居続けたら、自分の理性がどうなるか分からないので早めに出て行こうとする。
「東山くん、ありがとうね」
「秋月さん。お休み」
「おやすみなさい」
互いに笑い合い就寝の挨拶をした。
ドアを閉めて、一息吐く。
疲れた。
「はあ、クリスマスに何やっているんだか」
リビングに移動して、ソファーで賢者タイムをしていた。
色々あり過ぎて、頭を抱えてしまう。
聖なる夜に、身内の女の子でえっちな妄想をしていたら末期である。
身近な存在で大切な相手ほど、そういう対象に見れないものだ。
でも、高校生ともなれば、男女関係も意識していかないといけないのかも知れない。
秋月さんみたいな、可愛い女の子を狙っている男子は多いのである。
俺のようなタイプの人間は、もう少し頑張らないといけないだろう。


次の日の登校時間。
教室に入ると開口一番。
「あ、ジェラピケ!」
畜生!
萌花にバラした奴は誰だよ!
クラス全体周知されていやがる。
小日向に至っては、よく分かってないのに嬉々としてジェラピケの話をするんじゃねえよ。
俺がバラしていないから、秋月さんから漏れたのか。
ごめんなさい。
と言いたげにしていた。
まあ、秋月さんが萌花に相談したんなら仕方ない。
いいよ、俺が悪いし。
性的なことだから秋月さんのせいには出来ないだろう。
しかしまあ、やべぇ危なかった。
昨日の夜に手を出していたら、男として責任を取らされていたか、思いっきり袋叩きにあっていたかも知れない。
どちらにしても地獄だ。
血のメリクリになっていた。
辺りを見回す。
他のやつの視線が冷たい。
そんな状況になるアホはお前くらいだ。
意気地無しと言いたげである。
東山・ジェラピケメイド服大好きクレイジーサイコ・ハジメ。
分かりやすい俺の説明ありがとう。
ディスっているのに内容に間違いがないから、否定が出来ない。
……クリスマスで評価が最低ランクまで下がるのは何故なんだ。
俺が悪いのか。
俺はメイド服が好きなだけで、エロいことは興味ないというのに。
自分を律して、女の子に対して理性的に行動したというのに、この仕打ちである。
でも、ジェラピケの寝間着姿の秋月さんは可愛かった。
それだけは見てよかった。

「はいはい。よく分からないけど、私もジェラピケ欲しい。みんなで集まって、パジャマパーティーしよっ!」
小日向さん!?
お前には性知識がないのは知っているが、よく分からないからって別のベクトルで会話を継続させるのは止めろ。
収集が付かないんだよ。
ジェラピケは、もう懲り懲りだ。
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