47 / 111
第三十三話・クリスマスで苦しみます?そのに。
しおりを挟む
つづき。
プレゼント交換が終わり、飲み食いしながら各自でゆっくりしていた。
俺は紅茶を淹れ直して、みんなに配る。
エアコンは効いているが、冬場なので身体の芯から温まる紅茶は飲んでおいた方がいい。
「あとは何かある?」
みんな、暇を持て余していた。
クリスマスだというのに、いつもと変わらない雰囲気になっていた。
各々で好きにやり始めている。
小日向は、黒川さんに問いかける。
「ねえねえ。そういえば、姫ちゃんはクリスマスプレゼント何を貰ったの?」
「あ、えっと……ブックカバーを貰って……鞄から出してくるね」
黒川さんは自分の鞄から、落ち着いたクリーム色のブックカバーを取り出す。
上品であり高級感があっていい。
厚めのハードカバーに合わせたら、とても似合いそうだ。
一条からの贈り物がかなり嬉しかったらしく、恥ずかしそうにしていた。
「姫ちゃんに似合っていて、いいね」
「小日向さん、ありがとう。えっと、私も気に入っているの」
「可愛い~」
直ぐに抱き付く小日向であった。
わちゃわちゃするの好きだよな。
「小日向さんは何を貰ったの?」
「私も出すよ。ちょっと待ってて」
鞄からマニキュアの入っている箱を取り出す。
「え、可愛い」
「いいでしょ! これって、クリスマス限定なんだよ。私が買いに行った時は売り切れてたんだけど、ハジメちゃんが買っといてくれてよかったよぉ」
「小日向さん、ネイル好きだもんね」
「手元がキラキラしていたら嬉しいもん」
毎日マニキュアを付けているが、大変そうだよな。
「ネイルやったら、一ヶ月くらい保つから、姫ちゃんも今度やってみる?」
「いいの?」
「もちろんだよ。可愛くしてあげる」
「私みたいなのが可愛くなるかな?」
「姫ちゃんちっちゃくて可愛いじゃん。本当にお姫様みたいだよ」
「白鷺さんは?」
自然な流れで、隣に座っていた西野さんが聞く。
全員分、確認するの?
「私は髪飾りだ。持ってくる」
鞄から取り出した髪飾りを見せる。
「とても綺麗な赤色。白鷺さんに似合うと思うわ」
「ありがとう」
「白鷺さん、髪飾り好きだものね」
「うむ。流石、東山だけあってか、私が好きな物をよく理解している」
白鷺は、誇らしげである。
過大評価しないで欲しい。
白鷺が好きだといっていたものと、同じようなデザインを選んだだけだ。
多少の一目惚れはあったかも知れないが。
真島さんと白石さんが褒めてくれる。
「東っち、やるやん」
「普通の人間のセンスあったんだね」
いや、褒めてなかったわ。
他の二人にも話を振る。
「秋月さんは?」
「映画のギフトカード(半ギレ)」
「……えっと、」
「もえぴは?」
「図書カード(憤怒)」
みんなこっちを見てくる。
前者二人に比べて内容に著しい差があると言いたいのだろう。
呆れているのは分かるが、俺だって反省はしている。
でも、プレゼントをあげた後にはどうすることも出来ないわけだ。
真島さんが怒っていた。
「ダメだぞ! 女の子は特別なプレゼントじゃなきゃ、喜んでもらえないんだからね」
サメのぬいぐるみ買ってきた人が何か言っていたが、言っていることは至極真っ当な意見であり、それは正しいのでちゃんと聞いておく。
西野さんが取り持ってくれるが。
「まあまあ、男性に空気を読めっていう方が酷な話だから」
この人も大概言葉が強いよな。
男性嫌いなのは知っているけど、当たり強くない?
西野さんはこちらを見て聞いてくる。
「そういえば、東山くんは何を貰ったの?」
「いや、まだ何も貰ってないよ」
「そうなの?」
「ああ。準備でバタバタしていたからプレゼントを貰う時間がなかった」
俺のプレゼントは空いた時間にいつでも渡せるし、会おうとしたら毎日会えるメンツだから、優先順位は低いしな。
真島さんは新しいおもちゃを見付けたかのように元気になる。
「じゃあ、せっかくだしみんなで東っちのプレゼントを確認しようぜー」
「うちの問題児がなんか言っているけれど、気にしないで」
俺はどっちでも構わないけど。
みんなタイミングを見計らっていたようだし、よんいち組の面々が嫌じゃないならそれでもいい。
「あ、普通に渡すの忘れてたわ」
萌花さん……。
「一番手は私だあぁぁぁ!」
煩いな、こいつ。
一番手は自称世界一可愛い読者モデル。
小日向風夏である。
何でか知らんが、小日向のテンションが異常に高い。
普通にプレゼントを渡すだけでいいじゃん。
袋を開けて洋服を取り出す。
俺が好きなタイプのパーカーだった。
「お~、可愛いじゃん」
仕事のし過ぎで洋服イコール可愛いものが染み付いていた。
いや、男へのプレゼントなんだから、その感想はおかしい。
一瞬だけ反応が遅れた。
小日向がプレゼントしてくれたパーカーは、男女兼用のデザインである。
渋谷の色合いが強そうな感じだった。
若者向けで蛍光カラーが入っているが、そこまで目立たない。
「いいでしょ! 最近人気のデザインなんだよ」
流行りのデザインまでは知らんが、洋服は幾つあっても嬉しい。
「ありがとう。大切にするわ」
「修学旅行のやつとコーデが合うようにしてあるから、着回してね」
「そうなのか。すまないな」
自分の服装には無頓着な分、色々気にしてくれていて助かる。
白鷺のプレゼント。
「私のはこれだ」
袋を開けると、白と青のマフラーが出てくる。
「お~、マフラーか。最近寒いと思ってたから、有難いわ。ありがとう」
「うむ。手編みのマフラーだから拙いところがあるかも知れないが、大切にして貰えると嬉しい」
マジか。
どっからどう見ても既製品にしか見えないレベルの完成度だぞ。
編み込みもプロのように繊細であり、手編みだって分からんくらいだ。
白鷺の才能はどの方面でも凄いな。
「いや、白鷺だけあってか完璧だよ。……へぇ、最近ずっと手芸部に顔出していたのはこれだったのか」
文化祭から手芸部と交流していたのは気付いていたが、白鷺は隠したかったようだったのでそっとしていた。
「皆、優しく教えてくれてな。何とか間に合った」
「そうか」
白鷺が満足そうに笑っているのを見ていると、こちらまで笑顔になる。
秋月さんのターン。
「二人と比べると見劣りするかも知れないけど、気にしないでね」
「そんなことはないと思うけど」
中身はドリップケトルが入っていた。
美味しいコーヒーを淹れる為には必需品であり、俺の為に選んでくれているのがよく分かる。
「マジか、ずっと欲しかったやつだ! 秋月さん、ありがとう」
「よかった」
秋月さんは喜んでくれるか不安だったようだが、心配し過ぎである。
何を貰っても嬉しいものだ。
そもそも秋月さんとは家族絡みで仲が良く、誰よりも俺が好きな物を把握しているはずだ。
だから失敗することなんてないし、自信を持てばいいのに。
でも、秋月さんは誰よりも気にしいだから、不安そうな目線を向けてくるのだ。
付き合い慣れてくると、そこが可愛いのかも知れない。
親友の萌花とは、そういう部分は真逆だよな。
どちらがいいとは言わないが。
「さっそく使いたいし、後で美味しいコーヒー淹れるよ」
「そう?」
安堵している姿が可愛かった。
萌花のプレゼント。
「はい」
「ありがとう」
「ん……」
中身は、革製の名刺入れだった。
革独特の落ち着いた色合いをしている茶色で、社会人の人が持っているような高級感が溢れていた。
学生の俺が持つと浮いている気がしたが、萌花が選んでくれたということは意味があるのだろう。
萌花は、多くは語らない。
でも、俺の為にちゃんと選んでくれたのは分かる。
萌花なりの優しさを感じてしまう。
みんなから貰ったプレゼントを大切に仕舞う。
こういうものを貰うのは初めてだが、嬉しいものだ。
一生大事にするわ。
「そうだ、一条は何を貰ったんだ?」
「出してくるよ」
全員実物を出してくるのは何なんだろうな。
やっぱり、プレゼントの自慢がしたいのか。
「俺がもらったのは、ペンケースだよ」
革のペンケースだった。
上品な贈り物を選ぶあたり、黒川さんの性格の良さが出ている。
「お、格好いいじゃん」
「だろ? 丁度、筆箱が傷んできたから嬉しかったよ」
黒川さんは、一条の筆箱が傷んでいたのに気付いて、新しい物をプレゼントしたようだ。
恋人の細かい部分まで見ているあたり、相思相愛である。
まあ、二人の仲は問題なさそうだな。
文化祭からのカップルは別れやすいというジンクスがあるし、ちょっとだけ不安な部分もあったけれど、仲良しならいい。
二人の性格からも、ちゃんと尊敬し合える関係のようだ。
「黒川さんには欲しいものとか言ってないのに、いいものプレゼントしてくれるとか、エスパーなのかな?」
こいつって、アホだよな。
お前の目は節穴かよ。
黒川さんのことが好き過ぎて、周りが見えていないだけだぞ。
「ああ、うん。そうかもな」
でも説明がだるいから伝えない。
黒川さんが裏で一条の好みや必要なものを調査して悩んでいたとしても、それを本人に知ってもらいたいわけではないからな。
萌花は俺と一条に話してきた。
「アホ二人はちゃんと自分で選んだん?」
萌花からはもう、名前で呼んでもらえなくなった野郎二人であった。
「ああ、ちゃんと自分で選んだよ」
その結果がアレかよとか思われてそうだけど。
「流石に好きな女の子へのプレゼントだからね。ちゃんと自分で選ぶよ。な、東山?」
俺に同意を求めるな。
女子達の視線が集まる。
この空気感がやばい上に、判断が遅いと死ぬ。
「そうだな」
無である。
痛みを感じなければ、ダメージを受けない。
「自分で選んだ結果が図書カードだぞ?」
「やめてくれ萌花、その言葉は俺に効く」
萌花を制止する。
こんな展開になるとは思っていなかったのだ。
この世界は、俺に対して厳し過ぎる。
映画のギフトカードや図書カードで足りない分は、遊ぶ予定を作って自分のミスを清算しようとしても、ボロクソに言われる。
ワンミスが命取りだ。
女子を怒らせたらどうしようもないな。
萌花は可愛い見た目をしているが、攻撃性が高いアライグマみたいなものである。
不用意に手を出したら噛み付かれる。
というかもう、血塗れである。
よんいち組のメンバーが、黒川さんのようなお淑やかな女の子だったら、俺も楽なんだろうがな。
チラッ。
やべぇ、バレている。
萌花はクールさを失っており、殺意を帯びたオーラを放っていた。
「ごにょごにょ」
「ふむふむ」
萌花は小日向に耳打ちする。
隣の近距離パワー型にばらすなよ。
お淑やかな女性から一番かけ離れている存在だぞ。
しばらくすると、いつものメンバーが途中参加してきた。
「お邪魔します」
「やっほー」
「めりくりぃ~」
三馬鹿だ。
萌花と連絡していたらしく、途中で合流してきた。
三馬鹿までクリスマス会に来たら、俺の負担がやばいんだけど。
「運動部で集まって、カラオケじゃないのか?」
最初の方で三馬鹿を優しく送り出したのに、二時間くらいで帰って来た。
「参加者多くて、流れ的に私達の出番はなかったし、カラオケばっかりだし飽きた」
「ほら、可愛い女子しか人気ない死ね」
死ねって言うのは止めてくれ。
「それにみんなとクリスマスを過ごしたいから」
三馬鹿は、誰よりもクラスの連中が好きな奴等だしな。
いや、単純に小日向のサンタコスを見たいから来たのかも知れない。
鞄を置く動作に合わせて、小日向のスカートの中を覗くな。
「太ももえろい」
俺の家に来てから五分くらいだが、直ぐにでも出禁にしたいわ。
おっさんかよ、こいつら。
「疲れたっしょ、飲み物でも飲む?」
「わあ、もえぴありがとう」
萌花が飲み物を出す。
緑色の罰ゲームを平然と渡すあたり、鬼畜である。
「もえぴ?」
「みんな飲んでるから」
「え? ぜったい嘘でしょ」
「飲んでいるから」
萌花の押しがつええな。
「東山くん?」
こっちに助けを求めるな。
下手に話に割り込むと、俺がまた飲まされることになりそうだ。
「俺や一条は飲んだから諦めろ」
「私達、野郎枠なの!?」
「女の子にやらせることじゃないよ」
「女の子に優しくしろ~」
いや、三馬鹿に厳しくしているのは萌花だけであり、俺達は関係ないからな。
言われたところで優しくはしないけど。
「な? 折角入れたんだし飲んでよ」
萌花は鬼だな。
「え? 飲まないと終わらないパターン?」
無限ループに突入していた。
結局飲むしかなかった。
三人とも、不味過ぎて悶絶していた。
「ぎゃははは」
爆笑するやばいやつら。
カオス過ぎるだろう。
近所迷惑にならないように注意しておく。
だが、このメンツだし、静かにするのは無理そうだな。
不味そうにしている三馬鹿に、ウーロン茶を手渡す。
「ほらよ。口の中に残り続けるから、口直しにウーロン茶でも飲んでおけ」
三馬鹿のフォローはしたくないが、可哀想だし放っておけない。
クリスマス会に参加して、すぐに罰ゲーム喰らっている運のなさは同情する。
萌花に罰ゲームのグッズを持たせるべきではないな。
ドS過ぎて堪えられない。
「まあ、何だ。色々食べ物とかあるから食べてってくれ」
オードブルやケーキの残りはそんなにないが、三人分は確保してある。
冷凍食品とかでよければ作ることも出来るし、大丈夫だろう。
「あ、そうだ。手ぶらだと悪いと思って差し入れ買ってきたんだ」
「え!? またケーキ??」
フラッシュバックする。
甘いものはもう止めてくれ。
食べれないんだ。
ケーキを差し入れされたら食べないとマナー違反だし、萌花に強制的に食べさせられるから地獄だ。
「東山くん、ケーキにトラウマでもあるん?」
「美味しいのに」
「え~、食べたくなるように、わたしがあーんしてあげようか?」
それはあかん。
俺もお前も死ぬぞ。
冗談ですまないジョークはジョークじゃないんだよ。
誰だよ、こいつら呼んだの。
あ、学校で声を掛けたの俺だったわ。
くっそ、自業自得である。
そんな光景を端から見ていた萌花は、ツッコミをぶちかましてくる。
「お前ら馬鹿か?」
シンプルが故に、一番きつい言葉である。
三馬鹿はこそこそしながら、耳打ちしていた。
「もえぴ、怒ってない?」
「怒っている顔も可愛いよね」
「な、東山?」
俺をオチ担当にするな。
何でも処理すると思うなよ。
三馬鹿は、何で萌花が機嫌が悪いか知らないのだ。
いつものメンバーだし、クリスマス会という楽しいお花畑の中を走り回っている気分なんだろうが、そこには地雷が埋まっている。
「あ、そうだ。もえぴもクリスマスプレゼント貰ったんでしょ? 何貰ったの?」
「おー、何だと思う?」
「お? クイズだね。当たったら褒めてね」
「まあクリスマスプレゼントだと、選択肢もそんなにないから楽勝じゃん」
「簡単やろ」
意気揚々としていてすまない。
多分、誰も当てられずに終わる。
「外したやつは罰ゲームな」
悪魔か。
当たることがないと知っていて、三馬鹿を嵌めていた。
この状況で、助けてくれそうな人は……。
「秋月さん」
一番助けてくれそうな秋月さんは、即座に目を逸らす。
畜生、容赦なく見捨てられた。
秋月さんが止めに入っても、萌花の無茶振りに巻き込まれるだけだから仕方ないか。
静かにクリスマスを過ごしたい。
彼女はそう訴えていた。
ノー萌花デーだ。
クリスマスまで、子守萌花の子守をしたくないのだろう。
「プレゼントでしょ? 東山くんは陰キャだしネット見て決めてそうだから、ランキング上位のプレゼントとかじゃない?」
「東っちだから、常識に囚われたら駄目じゃないかな?」
「あれ? けっこう難しくない??」
唸っていた。
多分、正解することはないだろう。
「ヒントちょうだい」
「しゃーないな。大ヒントあげるよ。五千円の価値のもの」
萌花の顔が笑ってない。
すみません。
「ふむむ、五千円ってことは雑貨とかではないってことか。アクセサリーとかかな?」
「もえぴのセンスを考えたらプレゼントにアクセは選ばないと思うわ。普段使い出来るやつじゃない?」
「花束とか?」
「あ~、なるほど。五千円の価値ってそういうことかぁ」
「クリスマスっぽいし、女の子に花束は鉄板だもんね」
「東っちなら贈りそうだし」
本当にすまない。
期待してもらっているところ申し訳ないが。
正解は、図書カードなんだ。
運動部が盛り上がっている最中、他のメンバーがゴミカスでも見るような目をしていた。
そりゃそうなるわな。
花束なんか贈るタイプじゃないんだ。
「答えは?」
「花束でしょ!?」
「図書カード五千円」
「えっ?」
「嘘でしょ」
「もえぴ、冗談きついよ……」
萌花は再度繰り返す。
「図書カード五千円」
「えっ?」
「嘘でしょ」
「もえぴ、冗談きついよ……」
同じ言葉でも意味が分かると、声色が違ってくる。
三馬鹿から視線が集まる。
俺を見ないでくれ。
「東山あぁぁぁ」
三馬鹿から普通に怒られた。
正座して説教を喰らう。
同級生からガチめに注意されるの堪えるわ。
「そうそう、麗奈ちゃんは何貰ったの?」
「映画のギフトカード五千円」
「東山あぁぁぁ」
だからすまないって。
また正座して説教を喰らう。
今更だけども。
女の子に喜んでもらうなんて、陰キャには荷が重過ぎる。
「忘れているだろうけど、罰ゲームあるからな?」
もえぴいぃぃぃ。
もう一つ付け加える。
「もちろん、東山も罰ゲームだからな」
「あぁぁぁ」
畜生、俺もかよ!
巻き添え食らった。
だが、萌花の呼び方が東山になっている関係上、絶対に断れない。
かなりキレていらっしゃる。
俺と三馬鹿は仲良く罰ゲームを喰らう。
内容は怖過ぎて伝えられないが、二人くらい死んだ。
麗奈サイド。
いつも通り。
教室でよく見かける馬鹿馬鹿しい光景を見ながら、西野さんと麗奈は紅茶を飲んでいた。
「秋月さん、止めなくていいの?」
「え? 危なくなったら止めるけれど、あれでも常識や節度はあるから大丈夫……かな……?」
「秋月さんって、そういうの直ぐに止めるタイプだと思っていたわ」
「ん~、まあ萌花がよく喋るのは東山くんくらいだし、怒っていても嫌ってないから」
子守萌花は、麗奈の親友ながら面倒臭い性格ではあるが、仲間内で楽しそうに笑っている姿は愛嬌があるだろう。
誰が見ても、可愛い女の子だ。
悪魔的な馬鹿笑いをする人間だけれども、ちゃんと可愛い部分はある。
一割くらいだけど。
萌花は、クリスマス会の準備を含めて、細かい気配りが出来るというのに、本人は自分を良く評価されるのを嫌っていた。
そのせいで割りを食う場面は多々あり、親友としては萌花の良さをみんなに気付いて欲しいと思っている。
とはいえ、直感的にその人の善し悪しを見ている人間には好かれているので、萌花の本質そのものは善人なのだろう。
萌花本人は、クラスメートに本気の罰ゲームを執行しつつ、悪魔の笑みを浮かべている。
「ぎゃははは」
汚い声で高笑いしていた。
あれでも好かれている。
みんな、何であんなことをされても、萌花が好きなのか不思議であった。
「はあ、憎まれっ子世にはばかるとは、このことね」
人に嫌われてもいいくらいに図々しく生きている方が、案外幸せなのかも知れない。
他人に合わせて生きるのは大変だ。
自分らしく生きるのは萌花の長所といえるし、理解していた。
西野さんは、ポツリと呟いた。
「なんだか、私には真似が出来ないわね」
「西野さん。アレは人間性を捧げているから、真似しちゃ駄目よ」
小悪魔というか悪魔だ。
萌花みたいな思考した西野さんをイメージするだけで、悪寒でゾワゾワする。
真面目な人は真面目な部分が美徳になるものだ。
他の人と比べて、地味とか積極性が足りないとか思っていても、清楚系委員長キャラは貴重である。
特に西野さんは、真面目な男子からも人気が高い。
普通に綺麗な人なので、麗奈や萌花よりも好意を寄せられている。
「そういうものかな?」
「文化祭では西野さんが一番活躍していたし、風夏も東山くんも凄く助かったって言っていたからね」
「……秋月さんって変わりましたよね?」
西野月子が知る秋月麗奈は、みんなに優しい綺麗な人であり、風当たりがいい立ち位置で動く人ではあったが、少し昔までは女子高生らしい強かさがあった。
自分の可愛さを使いつつ、周りを上手くコントロールをしていた。
学校であっても、女の子は可愛い部分を出したくなる。
女の魅力を悪用することを咎める者もいるが、それが悪いわけではない。
自分の武器は全部使った方がいい。
でも、自立した女性のように落ち着いた雰囲気で立ち振る舞っている今の麗奈の方が魅力的だった。
麗奈は、淋しそうに表情を暗くする。
「なるほど。……私は性格が悪いから、これでも直そうと頑張っているの。まあ、十数年こんな感じだったから、簡単には良くならないけれどね」
「ごめんなさい。そういう意味で言ったわけではないの……」
「西野さんはそういう人じゃないものね。分かっているし、大丈夫よ?」
「ありがとう。秋月さん、いつも楽しそうにしている貴女がちょっと羨ましいわ」
「そう?」
彼女に好きな人が居て、その人に喜んでもらえる為に努力をしているのは分かっていたが、直接そんなことは言わなかった。
口にしたら不粋である。
どれほど好きなのか、誰よりも愛しているのか、彼氏も居たことがない西野月子には彼女の抱える気持ちが分からないからだ。
この恋は始まらない。
そうだとしても、後悔がないように努力し続けて、日々を過ごしていくだろう。
人生を豊かにし、心の奥から幸せにしてくれる相手がいる秋月麗奈が羨ましく思ってしまう。
麗奈は自分がどう思われているか気にした素振りもなく、楽しそうにしていた。
「ふふふ。昔の私だったら、西野さんとこんなことを話すこともなかっただろうし、何だか可笑しいわね」
麗奈は自然に笑ってしまう。
「ええ。そうかも知れないわ」
それに釣られて西野さんも笑うのであった。
住む世界が違う二人だけど、ちょっとだけ仲良くなれた気がした。
日に何度も罰ゲーム喰らうとは、何で俺ばかり被害を受けるのだろうか。
いやまあ、今回ばかりは俺のせいかも知れないけど。
理不尽過ぎる。
取り敢えず、萌花と三馬鹿から逃げてきて、一息吐く。
秋月さんと西野さんという珍しい二人が仲良く話しているのが気になり、話し掛ける。
「秋月さん、何の話をしているんだ?」
「あ、女子トークだから遠慮してね」
爽やかに断られた。
秋月さんフェイス。
二人で仲良く話しているんだから、邪魔をするなと遠巻きに伝えてくれた。
百合に男はいらないようなニュアンスである。
何か、最近は静かに怒るあたりとか、俺の母親の影響受けているよな。
この世界で一番やばい人をお手本にしているけど、大丈夫かな。
それはそうと、秋月さんと西野さんが仲良くしているのならば、邪魔をしてはいけない。
二人は頭がいいし、高尚な話をしていそうだしな。
話を聞いても、俺には分からないと思う。
うーん。
他のメンバーも仲良さそうにしていて、俺が入る余地はない。
あと、どこのグループも精神削りそうな人間しかいないのが辛い。
一条くらい女性慣れしていたら、気にならないのかも知れない。
「東山くん、差し入れ買ってきたんだから食べてよ」
三馬鹿が話し掛けてきた。
「ああ、そんなこと言っていたな。何を買ってきたんだ?」
「ファミチキ」
「クリスマスにファミチキか?」
「美味いやろ?」
「そりゃ、美味いけどさ」
ジューシーな鶏肉とカリカリの衣の美味さを熱く語っていた。
クリスマスにファミチキ食べるべきだと。
三馬鹿は、人数分のファミチキを用意してくれていた。
ファミチキを鬼のように買ってくる必要があるのかは分からないが、四個目のケーキを買ってくるのと比べたら、マシなのか?
「因みに、オーブンで温めるとめっさ美味しいよ。出来立ての美味さになるよ」
「へえ、じゃあオーブン使うか」
冬の時期だと、コンビニから買ってくる間に冷めてしまうし、食べ物は美味しい方がいいしな。
「マジ? 熱々カリカリを食べさせてあげるよ」
「ファミチキ先輩直伝の自宅アレンジを披露しよう」
「食ってみな、飛ぶぞ」
よくネタを拾ってくるものだ。
ギャグ担当の運動部も大変だな。
三人をキッチンに案内して、オーブンを貸してあげる。
「よし、私が美味いファミチキを食べさせてあげるよ」
「いや、オーブンに入れるだけじゃん」
「草。レンジ使える系女子やん」
にっこり。
笑ったと思いきや。
「アンタら全員しばき倒す!!」
次の瞬間に仲間割れするなよ。
罰ゲーム受けても元気なあたり、流石運動部だな。
七時過ぎに妹の陽菜からラインが入る。
そろそろ友達の家から帰るらしいので、その連絡である。
三馬鹿が騒がし過ぎて、夜遅くなっているのに気付かなかった。
いつものメンバーだからか、クリスマス関係なく、飲み食いして雑談しているだけで楽しいからな。
三馬鹿のカラオケでの話を聞きつつ、熱々カリカリのファミチキを美味しく頂いていた。
めちゃくちゃ美味かった。
上着を羽織り、出掛ける準備をする。
一応、秋月さんには一言伝えていく。
「すまない。陽菜を迎えに行ってくるからその間はよろしく頼むわ」
「ええ。散らかっているし、軽く片付けておくわね」
「うん。ありがとう」
ハジメが出掛けて、少しの沈黙が続き。
三馬鹿はコソコソしながら話し出す。
「東山くんって妹いるの?」
「へぇ。前々から女の子慣れしていると思っていたけど、そういうわけね」
「お兄ちゃんを遂行する系男子かぁ」
三馬鹿は意味分からないことを言っていたが、みんな軽くスルーしていた。
ハジメに妹がいることを知っている者は少なく、面と向かって話したことがあるのは風夏と麗奈くらいである。
ハジメは妹のことを嫌っているようなので、友達との会話でも話題に上がらないのもあるが、失言するタイプの駄妹だから紹介したがらなかった。
「妹さんってどんな人?」
「え~っとね。陽菜ちゃんは、お兄ちゃんっ子で、めちゃくちゃ可愛いんだよ」
読者モデルの風夏からしたら、妹のように慕ってくれる陽菜は可愛い部分がより目立つ。
ハジメに対しての接し方などはほぼ同じなので、妹にシンパシーを感じているのかも知れない。
「秋月さんも知っているんでしょう? どんな感じ?」
いきなり言われても困る。
「……えっ? そうね、女の子版東山くんみたいな?」
「クソキャラやん」
光速のインパルス。
ツッコミが秀逸過ぎる。
萌花の反応速度に敵う者はいなかった。
「まあまあ、今時な中学生って感じだけど、根はいい子だから」
天然な部分はあるけれど、年下としては可愛い感じがある。
それにまあ、ハジメの妹となると長く付き合うことになる相手だ。
無下には出来ない。
「東っちの妹ちゃんが可愛い系か、綺麗系か賭けようぜ」
馬鹿共はいきなり賭博を始める。
ゲスい話という酒の肴を得たことにより、会話が進むものだ。
女子だけでする話題となると、どうしてこうもまあ、盛り上がるものなのだろうか。
教室のように、男子には見せなくて済む顔がある。
それだけで全然違ってくる。
「え? 俺がいるんだけど……」
一条は、普通に男子として認識されていない。
東山と一緒に迎えに行けばよかった。
そう思いながら、空気になるように気配を消していた。
それから数十分後。
「ただいま~!」
五月蝿いな、こいつ。
帰って来たと同時に勢いよくリビングに突入する陽菜であった。
高校生ばかりの中に平然と乗り込むあたり、妹ながら頭おかしいやろ。
母親のような鋼の心臓持っている。
「陽菜ちゃん!」
「風夏ちゃんだぁ!」
感動の再開。
小日向に抱き付いていた。
「……陽菜ちゃん?」
一番仲が良い秋月さんを差し置いて抱き付くあたり、鬼畜である。
軽いNTRみたいになっていた。
秋月さんの情緒が安定しなくなっている。
「寝盗られーな」
萌花やめろ。
それは可哀想だ。
ボソッと言っていい内容じゃない。
小日向と陽菜がわちゃわちゃして、一息吐くと。
「いいなぁ、陽菜もクリスマス会に参加したかったなぁ……」
「お前は部外者だから、静かに部屋に戻れ」
「え~いいじゃん。わたしだってお話したいもん」
マジでうるせぇな、こいつ。
上着を脱ぎ出して、リビングに居座る気満々である。
陽菜はマジマジとみんなを見て。
ほぇ~。
「お兄ちゃんの好きな人だれ??」
「口開けんな」
クソ空気読めねぇな。
こんなやつをわざわざ迎えに行くんじゃなかったわ。
場がピリピリしていた。
この空気を何とかするの無理じゃねえかよ。
おわり。
プレゼント交換が終わり、飲み食いしながら各自でゆっくりしていた。
俺は紅茶を淹れ直して、みんなに配る。
エアコンは効いているが、冬場なので身体の芯から温まる紅茶は飲んでおいた方がいい。
「あとは何かある?」
みんな、暇を持て余していた。
クリスマスだというのに、いつもと変わらない雰囲気になっていた。
各々で好きにやり始めている。
小日向は、黒川さんに問いかける。
「ねえねえ。そういえば、姫ちゃんはクリスマスプレゼント何を貰ったの?」
「あ、えっと……ブックカバーを貰って……鞄から出してくるね」
黒川さんは自分の鞄から、落ち着いたクリーム色のブックカバーを取り出す。
上品であり高級感があっていい。
厚めのハードカバーに合わせたら、とても似合いそうだ。
一条からの贈り物がかなり嬉しかったらしく、恥ずかしそうにしていた。
「姫ちゃんに似合っていて、いいね」
「小日向さん、ありがとう。えっと、私も気に入っているの」
「可愛い~」
直ぐに抱き付く小日向であった。
わちゃわちゃするの好きだよな。
「小日向さんは何を貰ったの?」
「私も出すよ。ちょっと待ってて」
鞄からマニキュアの入っている箱を取り出す。
「え、可愛い」
「いいでしょ! これって、クリスマス限定なんだよ。私が買いに行った時は売り切れてたんだけど、ハジメちゃんが買っといてくれてよかったよぉ」
「小日向さん、ネイル好きだもんね」
「手元がキラキラしていたら嬉しいもん」
毎日マニキュアを付けているが、大変そうだよな。
「ネイルやったら、一ヶ月くらい保つから、姫ちゃんも今度やってみる?」
「いいの?」
「もちろんだよ。可愛くしてあげる」
「私みたいなのが可愛くなるかな?」
「姫ちゃんちっちゃくて可愛いじゃん。本当にお姫様みたいだよ」
「白鷺さんは?」
自然な流れで、隣に座っていた西野さんが聞く。
全員分、確認するの?
「私は髪飾りだ。持ってくる」
鞄から取り出した髪飾りを見せる。
「とても綺麗な赤色。白鷺さんに似合うと思うわ」
「ありがとう」
「白鷺さん、髪飾り好きだものね」
「うむ。流石、東山だけあってか、私が好きな物をよく理解している」
白鷺は、誇らしげである。
過大評価しないで欲しい。
白鷺が好きだといっていたものと、同じようなデザインを選んだだけだ。
多少の一目惚れはあったかも知れないが。
真島さんと白石さんが褒めてくれる。
「東っち、やるやん」
「普通の人間のセンスあったんだね」
いや、褒めてなかったわ。
他の二人にも話を振る。
「秋月さんは?」
「映画のギフトカード(半ギレ)」
「……えっと、」
「もえぴは?」
「図書カード(憤怒)」
みんなこっちを見てくる。
前者二人に比べて内容に著しい差があると言いたいのだろう。
呆れているのは分かるが、俺だって反省はしている。
でも、プレゼントをあげた後にはどうすることも出来ないわけだ。
真島さんが怒っていた。
「ダメだぞ! 女の子は特別なプレゼントじゃなきゃ、喜んでもらえないんだからね」
サメのぬいぐるみ買ってきた人が何か言っていたが、言っていることは至極真っ当な意見であり、それは正しいのでちゃんと聞いておく。
西野さんが取り持ってくれるが。
「まあまあ、男性に空気を読めっていう方が酷な話だから」
この人も大概言葉が強いよな。
男性嫌いなのは知っているけど、当たり強くない?
西野さんはこちらを見て聞いてくる。
「そういえば、東山くんは何を貰ったの?」
「いや、まだ何も貰ってないよ」
「そうなの?」
「ああ。準備でバタバタしていたからプレゼントを貰う時間がなかった」
俺のプレゼントは空いた時間にいつでも渡せるし、会おうとしたら毎日会えるメンツだから、優先順位は低いしな。
真島さんは新しいおもちゃを見付けたかのように元気になる。
「じゃあ、せっかくだしみんなで東っちのプレゼントを確認しようぜー」
「うちの問題児がなんか言っているけれど、気にしないで」
俺はどっちでも構わないけど。
みんなタイミングを見計らっていたようだし、よんいち組の面々が嫌じゃないならそれでもいい。
「あ、普通に渡すの忘れてたわ」
萌花さん……。
「一番手は私だあぁぁぁ!」
煩いな、こいつ。
一番手は自称世界一可愛い読者モデル。
小日向風夏である。
何でか知らんが、小日向のテンションが異常に高い。
普通にプレゼントを渡すだけでいいじゃん。
袋を開けて洋服を取り出す。
俺が好きなタイプのパーカーだった。
「お~、可愛いじゃん」
仕事のし過ぎで洋服イコール可愛いものが染み付いていた。
いや、男へのプレゼントなんだから、その感想はおかしい。
一瞬だけ反応が遅れた。
小日向がプレゼントしてくれたパーカーは、男女兼用のデザインである。
渋谷の色合いが強そうな感じだった。
若者向けで蛍光カラーが入っているが、そこまで目立たない。
「いいでしょ! 最近人気のデザインなんだよ」
流行りのデザインまでは知らんが、洋服は幾つあっても嬉しい。
「ありがとう。大切にするわ」
「修学旅行のやつとコーデが合うようにしてあるから、着回してね」
「そうなのか。すまないな」
自分の服装には無頓着な分、色々気にしてくれていて助かる。
白鷺のプレゼント。
「私のはこれだ」
袋を開けると、白と青のマフラーが出てくる。
「お~、マフラーか。最近寒いと思ってたから、有難いわ。ありがとう」
「うむ。手編みのマフラーだから拙いところがあるかも知れないが、大切にして貰えると嬉しい」
マジか。
どっからどう見ても既製品にしか見えないレベルの完成度だぞ。
編み込みもプロのように繊細であり、手編みだって分からんくらいだ。
白鷺の才能はどの方面でも凄いな。
「いや、白鷺だけあってか完璧だよ。……へぇ、最近ずっと手芸部に顔出していたのはこれだったのか」
文化祭から手芸部と交流していたのは気付いていたが、白鷺は隠したかったようだったのでそっとしていた。
「皆、優しく教えてくれてな。何とか間に合った」
「そうか」
白鷺が満足そうに笑っているのを見ていると、こちらまで笑顔になる。
秋月さんのターン。
「二人と比べると見劣りするかも知れないけど、気にしないでね」
「そんなことはないと思うけど」
中身はドリップケトルが入っていた。
美味しいコーヒーを淹れる為には必需品であり、俺の為に選んでくれているのがよく分かる。
「マジか、ずっと欲しかったやつだ! 秋月さん、ありがとう」
「よかった」
秋月さんは喜んでくれるか不安だったようだが、心配し過ぎである。
何を貰っても嬉しいものだ。
そもそも秋月さんとは家族絡みで仲が良く、誰よりも俺が好きな物を把握しているはずだ。
だから失敗することなんてないし、自信を持てばいいのに。
でも、秋月さんは誰よりも気にしいだから、不安そうな目線を向けてくるのだ。
付き合い慣れてくると、そこが可愛いのかも知れない。
親友の萌花とは、そういう部分は真逆だよな。
どちらがいいとは言わないが。
「さっそく使いたいし、後で美味しいコーヒー淹れるよ」
「そう?」
安堵している姿が可愛かった。
萌花のプレゼント。
「はい」
「ありがとう」
「ん……」
中身は、革製の名刺入れだった。
革独特の落ち着いた色合いをしている茶色で、社会人の人が持っているような高級感が溢れていた。
学生の俺が持つと浮いている気がしたが、萌花が選んでくれたということは意味があるのだろう。
萌花は、多くは語らない。
でも、俺の為にちゃんと選んでくれたのは分かる。
萌花なりの優しさを感じてしまう。
みんなから貰ったプレゼントを大切に仕舞う。
こういうものを貰うのは初めてだが、嬉しいものだ。
一生大事にするわ。
「そうだ、一条は何を貰ったんだ?」
「出してくるよ」
全員実物を出してくるのは何なんだろうな。
やっぱり、プレゼントの自慢がしたいのか。
「俺がもらったのは、ペンケースだよ」
革のペンケースだった。
上品な贈り物を選ぶあたり、黒川さんの性格の良さが出ている。
「お、格好いいじゃん」
「だろ? 丁度、筆箱が傷んできたから嬉しかったよ」
黒川さんは、一条の筆箱が傷んでいたのに気付いて、新しい物をプレゼントしたようだ。
恋人の細かい部分まで見ているあたり、相思相愛である。
まあ、二人の仲は問題なさそうだな。
文化祭からのカップルは別れやすいというジンクスがあるし、ちょっとだけ不安な部分もあったけれど、仲良しならいい。
二人の性格からも、ちゃんと尊敬し合える関係のようだ。
「黒川さんには欲しいものとか言ってないのに、いいものプレゼントしてくれるとか、エスパーなのかな?」
こいつって、アホだよな。
お前の目は節穴かよ。
黒川さんのことが好き過ぎて、周りが見えていないだけだぞ。
「ああ、うん。そうかもな」
でも説明がだるいから伝えない。
黒川さんが裏で一条の好みや必要なものを調査して悩んでいたとしても、それを本人に知ってもらいたいわけではないからな。
萌花は俺と一条に話してきた。
「アホ二人はちゃんと自分で選んだん?」
萌花からはもう、名前で呼んでもらえなくなった野郎二人であった。
「ああ、ちゃんと自分で選んだよ」
その結果がアレかよとか思われてそうだけど。
「流石に好きな女の子へのプレゼントだからね。ちゃんと自分で選ぶよ。な、東山?」
俺に同意を求めるな。
女子達の視線が集まる。
この空気感がやばい上に、判断が遅いと死ぬ。
「そうだな」
無である。
痛みを感じなければ、ダメージを受けない。
「自分で選んだ結果が図書カードだぞ?」
「やめてくれ萌花、その言葉は俺に効く」
萌花を制止する。
こんな展開になるとは思っていなかったのだ。
この世界は、俺に対して厳し過ぎる。
映画のギフトカードや図書カードで足りない分は、遊ぶ予定を作って自分のミスを清算しようとしても、ボロクソに言われる。
ワンミスが命取りだ。
女子を怒らせたらどうしようもないな。
萌花は可愛い見た目をしているが、攻撃性が高いアライグマみたいなものである。
不用意に手を出したら噛み付かれる。
というかもう、血塗れである。
よんいち組のメンバーが、黒川さんのようなお淑やかな女の子だったら、俺も楽なんだろうがな。
チラッ。
やべぇ、バレている。
萌花はクールさを失っており、殺意を帯びたオーラを放っていた。
「ごにょごにょ」
「ふむふむ」
萌花は小日向に耳打ちする。
隣の近距離パワー型にばらすなよ。
お淑やかな女性から一番かけ離れている存在だぞ。
しばらくすると、いつものメンバーが途中参加してきた。
「お邪魔します」
「やっほー」
「めりくりぃ~」
三馬鹿だ。
萌花と連絡していたらしく、途中で合流してきた。
三馬鹿までクリスマス会に来たら、俺の負担がやばいんだけど。
「運動部で集まって、カラオケじゃないのか?」
最初の方で三馬鹿を優しく送り出したのに、二時間くらいで帰って来た。
「参加者多くて、流れ的に私達の出番はなかったし、カラオケばっかりだし飽きた」
「ほら、可愛い女子しか人気ない死ね」
死ねって言うのは止めてくれ。
「それにみんなとクリスマスを過ごしたいから」
三馬鹿は、誰よりもクラスの連中が好きな奴等だしな。
いや、単純に小日向のサンタコスを見たいから来たのかも知れない。
鞄を置く動作に合わせて、小日向のスカートの中を覗くな。
「太ももえろい」
俺の家に来てから五分くらいだが、直ぐにでも出禁にしたいわ。
おっさんかよ、こいつら。
「疲れたっしょ、飲み物でも飲む?」
「わあ、もえぴありがとう」
萌花が飲み物を出す。
緑色の罰ゲームを平然と渡すあたり、鬼畜である。
「もえぴ?」
「みんな飲んでるから」
「え? ぜったい嘘でしょ」
「飲んでいるから」
萌花の押しがつええな。
「東山くん?」
こっちに助けを求めるな。
下手に話に割り込むと、俺がまた飲まされることになりそうだ。
「俺や一条は飲んだから諦めろ」
「私達、野郎枠なの!?」
「女の子にやらせることじゃないよ」
「女の子に優しくしろ~」
いや、三馬鹿に厳しくしているのは萌花だけであり、俺達は関係ないからな。
言われたところで優しくはしないけど。
「な? 折角入れたんだし飲んでよ」
萌花は鬼だな。
「え? 飲まないと終わらないパターン?」
無限ループに突入していた。
結局飲むしかなかった。
三人とも、不味過ぎて悶絶していた。
「ぎゃははは」
爆笑するやばいやつら。
カオス過ぎるだろう。
近所迷惑にならないように注意しておく。
だが、このメンツだし、静かにするのは無理そうだな。
不味そうにしている三馬鹿に、ウーロン茶を手渡す。
「ほらよ。口の中に残り続けるから、口直しにウーロン茶でも飲んでおけ」
三馬鹿のフォローはしたくないが、可哀想だし放っておけない。
クリスマス会に参加して、すぐに罰ゲーム喰らっている運のなさは同情する。
萌花に罰ゲームのグッズを持たせるべきではないな。
ドS過ぎて堪えられない。
「まあ、何だ。色々食べ物とかあるから食べてってくれ」
オードブルやケーキの残りはそんなにないが、三人分は確保してある。
冷凍食品とかでよければ作ることも出来るし、大丈夫だろう。
「あ、そうだ。手ぶらだと悪いと思って差し入れ買ってきたんだ」
「え!? またケーキ??」
フラッシュバックする。
甘いものはもう止めてくれ。
食べれないんだ。
ケーキを差し入れされたら食べないとマナー違反だし、萌花に強制的に食べさせられるから地獄だ。
「東山くん、ケーキにトラウマでもあるん?」
「美味しいのに」
「え~、食べたくなるように、わたしがあーんしてあげようか?」
それはあかん。
俺もお前も死ぬぞ。
冗談ですまないジョークはジョークじゃないんだよ。
誰だよ、こいつら呼んだの。
あ、学校で声を掛けたの俺だったわ。
くっそ、自業自得である。
そんな光景を端から見ていた萌花は、ツッコミをぶちかましてくる。
「お前ら馬鹿か?」
シンプルが故に、一番きつい言葉である。
三馬鹿はこそこそしながら、耳打ちしていた。
「もえぴ、怒ってない?」
「怒っている顔も可愛いよね」
「な、東山?」
俺をオチ担当にするな。
何でも処理すると思うなよ。
三馬鹿は、何で萌花が機嫌が悪いか知らないのだ。
いつものメンバーだし、クリスマス会という楽しいお花畑の中を走り回っている気分なんだろうが、そこには地雷が埋まっている。
「あ、そうだ。もえぴもクリスマスプレゼント貰ったんでしょ? 何貰ったの?」
「おー、何だと思う?」
「お? クイズだね。当たったら褒めてね」
「まあクリスマスプレゼントだと、選択肢もそんなにないから楽勝じゃん」
「簡単やろ」
意気揚々としていてすまない。
多分、誰も当てられずに終わる。
「外したやつは罰ゲームな」
悪魔か。
当たることがないと知っていて、三馬鹿を嵌めていた。
この状況で、助けてくれそうな人は……。
「秋月さん」
一番助けてくれそうな秋月さんは、即座に目を逸らす。
畜生、容赦なく見捨てられた。
秋月さんが止めに入っても、萌花の無茶振りに巻き込まれるだけだから仕方ないか。
静かにクリスマスを過ごしたい。
彼女はそう訴えていた。
ノー萌花デーだ。
クリスマスまで、子守萌花の子守をしたくないのだろう。
「プレゼントでしょ? 東山くんは陰キャだしネット見て決めてそうだから、ランキング上位のプレゼントとかじゃない?」
「東っちだから、常識に囚われたら駄目じゃないかな?」
「あれ? けっこう難しくない??」
唸っていた。
多分、正解することはないだろう。
「ヒントちょうだい」
「しゃーないな。大ヒントあげるよ。五千円の価値のもの」
萌花の顔が笑ってない。
すみません。
「ふむむ、五千円ってことは雑貨とかではないってことか。アクセサリーとかかな?」
「もえぴのセンスを考えたらプレゼントにアクセは選ばないと思うわ。普段使い出来るやつじゃない?」
「花束とか?」
「あ~、なるほど。五千円の価値ってそういうことかぁ」
「クリスマスっぽいし、女の子に花束は鉄板だもんね」
「東っちなら贈りそうだし」
本当にすまない。
期待してもらっているところ申し訳ないが。
正解は、図書カードなんだ。
運動部が盛り上がっている最中、他のメンバーがゴミカスでも見るような目をしていた。
そりゃそうなるわな。
花束なんか贈るタイプじゃないんだ。
「答えは?」
「花束でしょ!?」
「図書カード五千円」
「えっ?」
「嘘でしょ」
「もえぴ、冗談きついよ……」
萌花は再度繰り返す。
「図書カード五千円」
「えっ?」
「嘘でしょ」
「もえぴ、冗談きついよ……」
同じ言葉でも意味が分かると、声色が違ってくる。
三馬鹿から視線が集まる。
俺を見ないでくれ。
「東山あぁぁぁ」
三馬鹿から普通に怒られた。
正座して説教を喰らう。
同級生からガチめに注意されるの堪えるわ。
「そうそう、麗奈ちゃんは何貰ったの?」
「映画のギフトカード五千円」
「東山あぁぁぁ」
だからすまないって。
また正座して説教を喰らう。
今更だけども。
女の子に喜んでもらうなんて、陰キャには荷が重過ぎる。
「忘れているだろうけど、罰ゲームあるからな?」
もえぴいぃぃぃ。
もう一つ付け加える。
「もちろん、東山も罰ゲームだからな」
「あぁぁぁ」
畜生、俺もかよ!
巻き添え食らった。
だが、萌花の呼び方が東山になっている関係上、絶対に断れない。
かなりキレていらっしゃる。
俺と三馬鹿は仲良く罰ゲームを喰らう。
内容は怖過ぎて伝えられないが、二人くらい死んだ。
麗奈サイド。
いつも通り。
教室でよく見かける馬鹿馬鹿しい光景を見ながら、西野さんと麗奈は紅茶を飲んでいた。
「秋月さん、止めなくていいの?」
「え? 危なくなったら止めるけれど、あれでも常識や節度はあるから大丈夫……かな……?」
「秋月さんって、そういうの直ぐに止めるタイプだと思っていたわ」
「ん~、まあ萌花がよく喋るのは東山くんくらいだし、怒っていても嫌ってないから」
子守萌花は、麗奈の親友ながら面倒臭い性格ではあるが、仲間内で楽しそうに笑っている姿は愛嬌があるだろう。
誰が見ても、可愛い女の子だ。
悪魔的な馬鹿笑いをする人間だけれども、ちゃんと可愛い部分はある。
一割くらいだけど。
萌花は、クリスマス会の準備を含めて、細かい気配りが出来るというのに、本人は自分を良く評価されるのを嫌っていた。
そのせいで割りを食う場面は多々あり、親友としては萌花の良さをみんなに気付いて欲しいと思っている。
とはいえ、直感的にその人の善し悪しを見ている人間には好かれているので、萌花の本質そのものは善人なのだろう。
萌花本人は、クラスメートに本気の罰ゲームを執行しつつ、悪魔の笑みを浮かべている。
「ぎゃははは」
汚い声で高笑いしていた。
あれでも好かれている。
みんな、何であんなことをされても、萌花が好きなのか不思議であった。
「はあ、憎まれっ子世にはばかるとは、このことね」
人に嫌われてもいいくらいに図々しく生きている方が、案外幸せなのかも知れない。
他人に合わせて生きるのは大変だ。
自分らしく生きるのは萌花の長所といえるし、理解していた。
西野さんは、ポツリと呟いた。
「なんだか、私には真似が出来ないわね」
「西野さん。アレは人間性を捧げているから、真似しちゃ駄目よ」
小悪魔というか悪魔だ。
萌花みたいな思考した西野さんをイメージするだけで、悪寒でゾワゾワする。
真面目な人は真面目な部分が美徳になるものだ。
他の人と比べて、地味とか積極性が足りないとか思っていても、清楚系委員長キャラは貴重である。
特に西野さんは、真面目な男子からも人気が高い。
普通に綺麗な人なので、麗奈や萌花よりも好意を寄せられている。
「そういうものかな?」
「文化祭では西野さんが一番活躍していたし、風夏も東山くんも凄く助かったって言っていたからね」
「……秋月さんって変わりましたよね?」
西野月子が知る秋月麗奈は、みんなに優しい綺麗な人であり、風当たりがいい立ち位置で動く人ではあったが、少し昔までは女子高生らしい強かさがあった。
自分の可愛さを使いつつ、周りを上手くコントロールをしていた。
学校であっても、女の子は可愛い部分を出したくなる。
女の魅力を悪用することを咎める者もいるが、それが悪いわけではない。
自分の武器は全部使った方がいい。
でも、自立した女性のように落ち着いた雰囲気で立ち振る舞っている今の麗奈の方が魅力的だった。
麗奈は、淋しそうに表情を暗くする。
「なるほど。……私は性格が悪いから、これでも直そうと頑張っているの。まあ、十数年こんな感じだったから、簡単には良くならないけれどね」
「ごめんなさい。そういう意味で言ったわけではないの……」
「西野さんはそういう人じゃないものね。分かっているし、大丈夫よ?」
「ありがとう。秋月さん、いつも楽しそうにしている貴女がちょっと羨ましいわ」
「そう?」
彼女に好きな人が居て、その人に喜んでもらえる為に努力をしているのは分かっていたが、直接そんなことは言わなかった。
口にしたら不粋である。
どれほど好きなのか、誰よりも愛しているのか、彼氏も居たことがない西野月子には彼女の抱える気持ちが分からないからだ。
この恋は始まらない。
そうだとしても、後悔がないように努力し続けて、日々を過ごしていくだろう。
人生を豊かにし、心の奥から幸せにしてくれる相手がいる秋月麗奈が羨ましく思ってしまう。
麗奈は自分がどう思われているか気にした素振りもなく、楽しそうにしていた。
「ふふふ。昔の私だったら、西野さんとこんなことを話すこともなかっただろうし、何だか可笑しいわね」
麗奈は自然に笑ってしまう。
「ええ。そうかも知れないわ」
それに釣られて西野さんも笑うのであった。
住む世界が違う二人だけど、ちょっとだけ仲良くなれた気がした。
日に何度も罰ゲーム喰らうとは、何で俺ばかり被害を受けるのだろうか。
いやまあ、今回ばかりは俺のせいかも知れないけど。
理不尽過ぎる。
取り敢えず、萌花と三馬鹿から逃げてきて、一息吐く。
秋月さんと西野さんという珍しい二人が仲良く話しているのが気になり、話し掛ける。
「秋月さん、何の話をしているんだ?」
「あ、女子トークだから遠慮してね」
爽やかに断られた。
秋月さんフェイス。
二人で仲良く話しているんだから、邪魔をするなと遠巻きに伝えてくれた。
百合に男はいらないようなニュアンスである。
何か、最近は静かに怒るあたりとか、俺の母親の影響受けているよな。
この世界で一番やばい人をお手本にしているけど、大丈夫かな。
それはそうと、秋月さんと西野さんが仲良くしているのならば、邪魔をしてはいけない。
二人は頭がいいし、高尚な話をしていそうだしな。
話を聞いても、俺には分からないと思う。
うーん。
他のメンバーも仲良さそうにしていて、俺が入る余地はない。
あと、どこのグループも精神削りそうな人間しかいないのが辛い。
一条くらい女性慣れしていたら、気にならないのかも知れない。
「東山くん、差し入れ買ってきたんだから食べてよ」
三馬鹿が話し掛けてきた。
「ああ、そんなこと言っていたな。何を買ってきたんだ?」
「ファミチキ」
「クリスマスにファミチキか?」
「美味いやろ?」
「そりゃ、美味いけどさ」
ジューシーな鶏肉とカリカリの衣の美味さを熱く語っていた。
クリスマスにファミチキ食べるべきだと。
三馬鹿は、人数分のファミチキを用意してくれていた。
ファミチキを鬼のように買ってくる必要があるのかは分からないが、四個目のケーキを買ってくるのと比べたら、マシなのか?
「因みに、オーブンで温めるとめっさ美味しいよ。出来立ての美味さになるよ」
「へえ、じゃあオーブン使うか」
冬の時期だと、コンビニから買ってくる間に冷めてしまうし、食べ物は美味しい方がいいしな。
「マジ? 熱々カリカリを食べさせてあげるよ」
「ファミチキ先輩直伝の自宅アレンジを披露しよう」
「食ってみな、飛ぶぞ」
よくネタを拾ってくるものだ。
ギャグ担当の運動部も大変だな。
三人をキッチンに案内して、オーブンを貸してあげる。
「よし、私が美味いファミチキを食べさせてあげるよ」
「いや、オーブンに入れるだけじゃん」
「草。レンジ使える系女子やん」
にっこり。
笑ったと思いきや。
「アンタら全員しばき倒す!!」
次の瞬間に仲間割れするなよ。
罰ゲーム受けても元気なあたり、流石運動部だな。
七時過ぎに妹の陽菜からラインが入る。
そろそろ友達の家から帰るらしいので、その連絡である。
三馬鹿が騒がし過ぎて、夜遅くなっているのに気付かなかった。
いつものメンバーだからか、クリスマス関係なく、飲み食いして雑談しているだけで楽しいからな。
三馬鹿のカラオケでの話を聞きつつ、熱々カリカリのファミチキを美味しく頂いていた。
めちゃくちゃ美味かった。
上着を羽織り、出掛ける準備をする。
一応、秋月さんには一言伝えていく。
「すまない。陽菜を迎えに行ってくるからその間はよろしく頼むわ」
「ええ。散らかっているし、軽く片付けておくわね」
「うん。ありがとう」
ハジメが出掛けて、少しの沈黙が続き。
三馬鹿はコソコソしながら話し出す。
「東山くんって妹いるの?」
「へぇ。前々から女の子慣れしていると思っていたけど、そういうわけね」
「お兄ちゃんを遂行する系男子かぁ」
三馬鹿は意味分からないことを言っていたが、みんな軽くスルーしていた。
ハジメに妹がいることを知っている者は少なく、面と向かって話したことがあるのは風夏と麗奈くらいである。
ハジメは妹のことを嫌っているようなので、友達との会話でも話題に上がらないのもあるが、失言するタイプの駄妹だから紹介したがらなかった。
「妹さんってどんな人?」
「え~っとね。陽菜ちゃんは、お兄ちゃんっ子で、めちゃくちゃ可愛いんだよ」
読者モデルの風夏からしたら、妹のように慕ってくれる陽菜は可愛い部分がより目立つ。
ハジメに対しての接し方などはほぼ同じなので、妹にシンパシーを感じているのかも知れない。
「秋月さんも知っているんでしょう? どんな感じ?」
いきなり言われても困る。
「……えっ? そうね、女の子版東山くんみたいな?」
「クソキャラやん」
光速のインパルス。
ツッコミが秀逸過ぎる。
萌花の反応速度に敵う者はいなかった。
「まあまあ、今時な中学生って感じだけど、根はいい子だから」
天然な部分はあるけれど、年下としては可愛い感じがある。
それにまあ、ハジメの妹となると長く付き合うことになる相手だ。
無下には出来ない。
「東っちの妹ちゃんが可愛い系か、綺麗系か賭けようぜ」
馬鹿共はいきなり賭博を始める。
ゲスい話という酒の肴を得たことにより、会話が進むものだ。
女子だけでする話題となると、どうしてこうもまあ、盛り上がるものなのだろうか。
教室のように、男子には見せなくて済む顔がある。
それだけで全然違ってくる。
「え? 俺がいるんだけど……」
一条は、普通に男子として認識されていない。
東山と一緒に迎えに行けばよかった。
そう思いながら、空気になるように気配を消していた。
それから数十分後。
「ただいま~!」
五月蝿いな、こいつ。
帰って来たと同時に勢いよくリビングに突入する陽菜であった。
高校生ばかりの中に平然と乗り込むあたり、妹ながら頭おかしいやろ。
母親のような鋼の心臓持っている。
「陽菜ちゃん!」
「風夏ちゃんだぁ!」
感動の再開。
小日向に抱き付いていた。
「……陽菜ちゃん?」
一番仲が良い秋月さんを差し置いて抱き付くあたり、鬼畜である。
軽いNTRみたいになっていた。
秋月さんの情緒が安定しなくなっている。
「寝盗られーな」
萌花やめろ。
それは可哀想だ。
ボソッと言っていい内容じゃない。
小日向と陽菜がわちゃわちゃして、一息吐くと。
「いいなぁ、陽菜もクリスマス会に参加したかったなぁ……」
「お前は部外者だから、静かに部屋に戻れ」
「え~いいじゃん。わたしだってお話したいもん」
マジでうるせぇな、こいつ。
上着を脱ぎ出して、リビングに居座る気満々である。
陽菜はマジマジとみんなを見て。
ほぇ~。
「お兄ちゃんの好きな人だれ??」
「口開けんな」
クソ空気読めねぇな。
こんなやつをわざわざ迎えに行くんじゃなかったわ。
場がピリピリしていた。
この空気を何とかするの無理じゃねえかよ。
おわり。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』


覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたのだが、この後どうしたらいい?
みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。
普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。
「そうだ、弱味を聞き出そう」
弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。
「あたしの好きな人は、マーくん……」
幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。
よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。俺は一体どうすればいいんだ?


貞操観念逆転世界におけるニートの日常
猫丸
恋愛
男女比1:100。
女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。
夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。
ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。
しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく……
『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』
『ないでしょw』
『ないと思うけど……え、マジ?』
これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。
貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる