この恋は始まらない

こう

文字の大きさ
上 下
39 / 111

第26.5話・ドキッ!? 修学旅行の夜は長い

しおりを挟む
初日の夜に、俺達ははしゃぎ過ぎた。
その罪を背負った男子達は、連帯責任で全員集められて、先生方の素敵な話を聞いていた。
あくまで罰なので床に座らせられていたが、正座を強要されていないだけ、優しいと思う。
「お前らは、学校の偏差値にあるまじきアホの集まりだからちゃんと説明するが、興味本意で温泉覗いたり、女子の部屋に行ったり、不純異性交遊したら一発で東京に強制送還するからよろしくな」
偏差値があってないような行動ばかりである。
男子の半分は陰キャだから、この場に居なくていいと思う。
俺含めて、女子の部屋に遊びに行く度胸もないはずだ。
「はいはーい。部屋に遊びに行くくらいなら問題なさそうなのに、なんでやったら駄目なんですか?」
他のクラスの男子が遊び半分で手を上げていた。
「来年から先生の娘は小学一年でな。まだ半年以上先だというのに、赤いランドセルを背負った娘が可愛くてな」
何の話だ、これは。
先生が娘自慢を始める。
長々と語り終えて。
「そんな幸せな日々も、お前らが修学旅行でヘマすれば、最終的に責任を負うのは先生だ。そのせいで懲戒免職にでもなれば、娘を抱えたまま路頭に迷うことになる。分かるか?」
ええ……。
親バカの話から一転し、いきなり話が重いわ。
緩急激しすぎである。
故に、俺達男子は死んでもやってはならないことを肝に命じないといけないのだ。
先生達は、親以上に俺達を気にかけてくれていて、悪いことをちゃんと注意してくれる先生に恨みがあるやつはいない。
修学旅行だって、自由にやらせてもらっているからな。
別に普通に過ごしていれば、それで問題ないのだろうが、男子は基本的にアホなので釘を刺すように最初に言っておく必要がある。
深夜まで枕投げしてもブチ切れない先生方が、こうして場を作って話すということの重大さを理解していた。
そして、やらかしたら強制送還されるリスクと天秤にかけた場合、殆どの生徒はやらないだろうと踏んでいた。
「あと、先生達は九時過ぎから飲み会だから、深夜は何かあっても対応できんから、その時は自分達で何とかしろ。幽霊出ても死にはしないらしいから、見てしまったら寝て忘れろ」
怖いわ。
他のやつが部屋で幽霊を見たらしく、それで盛り上がり始める。
怖いもの見たさに、同室希望のやつまで現れていた。
「え? 男子同士は部屋移動いいんですか?」
「野郎だけならPTAも煩く言わないから、好きにしていいぞ」
「いま、野郎同士なら好きにしてもいいって言いましたよね? いいんですか?」
「お前らに強く言い聞かせても、ガバガバだからな。……ま、多少はね?」
素で、語録っぽい会話をしないでくれ。
女子不在で、野郎しかいないからって、何話してもいいわけではないぞ。
「じゃけん夜行きましょうね~」
「オッスお願いしま~す」 

後日談。
幽霊に会いに行った男子達は、ちゃんと普通に夜を過ごしていた。
深夜の丑三つ時に、野郎の叫び声がしてきたが、幽霊と戯れていたのだろう。
自力で深夜の京都の悪夢を乗り切った男子達は、次の日の面構えが違っていたのは言うまでもない。


他のクラスの馬鹿話はさておき。
先生方の話を聞き、その後に俺達は温泉に入り、野郎達でゆっくりと過ごしていた。
初日は修学旅行感があってはしゃいでいたが、二日目の時点でみんな飽きていた。
それに、女子と遊ぶことを禁じられ、一部は肝試しで幽霊の出る部屋で寝泊まりし、残りの暇人は談話しながら就寝時間まで暇潰しである。
俺の部屋の奴らは遊戯王をしているので、邪魔しないようにしていた。
一条も暇らしく、部屋から出てきていた。
「やっぱりみんな暇みたいだね」
「テレビもスマホも使えないからな。やることないわ」
「だね。時間あるし、もう一回温泉にでも入る?」
一条から温泉に誘ってくれるのは有り難いが、二人っきりは何か嫌だな。
こいつ普通に運動部で、細マッチョでいい身体しているから、横に並びたくないのだった。
漫研の身体を舐めるな。
死人みたいに色白だぞ。
サッカー部という、長年訓練されて作られた肉体美には勝てぬ。
男の俺でも羨ましいからな。
顔もスタイルも良く、性格はまあ置いといて女子から人気があるのも頷ける。
一条がアイドルグループに居ても全然違和感ないくらいのスペックなのだ。
「東山、どうしたんだ?」
浴衣姿の今も格好いいからな。
「とりあえずコーヒー牛乳飲みたいから買いに行くか」
「いいね。コーヒー牛乳は、温泉行かないと飲まないもんね」
立ちっぱなしでウロウロしていたら完全なる不審者なので、脱衣場で買ってきたコーヒー牛乳を飲みながら温泉入口の廊下にあるソファーに座っていた。
クラス単位での入浴時間は終わっていたし、夜遅くなっていたので、辺りには誰もいなかった。
大体は雑談しているか、疲れて寝ているはずである。
それに、この夜遅くに風呂に入りたいやつは、本当の温泉好きぐらいだろう。
少ししたら、女性風呂の入口から二人が出てきた。
萌花と黒川さんだった。
「お? 女の子のお風呂上がりの出待ちとか、ストーカーじゃん」
やめろ、笑えない。
鉢合わせしたのは偶然なのに、萌花の話し方次第で俺達の明日の命運が分かれるやつだ。
小さき悪魔の笑顔に、俺達は青ざめていた。
「二人はそんなことしないと思うよ?」
黒川さんが上手くフォローしてくれる。
「だけど、この二人だよ?」
「ああ、まあ……」
黒川さん、納得しないでくれ。
折れるのが早い。
有り得ると思われているのが悲しいわ。
萌花も本気ではないので、悪ノリで終わらせてくれて、ちゃんと話をする。
この二人が一緒に行動しているのが珍しい。
他の奴らは二度風呂に乗り気じゃなかったから、二人で入っていたとのことだ。
少し話しながら女子部屋の様子を聞いていた。
「あ、そうそう。萌花ちゃん、髪を下ろすといつもと雰囲気違っていて可愛いよね」
「そう? もえからしたら、邪魔なだけだけど」
黒川さんからアイコンタクトが飛んでくる。
流れを作ったから、ちゃんと萌花を褒めろってことか。
流石、親友の白石さんで気苦労しているだけある。
「そうだな。いつもの姿も好きだが、今もまた違っていて可愛いと思うぞ」
萌花は背が小さいし、口が悪いメスガキっぽいイメージばかりだが、風呂上がりの髪を下ろした姿はいつもより艶やかで大人っぽかった。
旅館の浴衣を着ていて、首もとからの浴衣のラインが色っぽい。
うん。
あまり語ると、ただの変態になりそうだった。
あと、萌花は可愛いと思うけれど、劣情は抱いていないぞ。
「せんきゅ」
萌花は、特に喜んだり、からかう素振りもしない淡白な反応だった。
まあ、否定しないあたり、一応は褒められて嬉しいのだと思う。
萌花は友達に対しては感情表現が上手だが、身内には下手な時があるからな。
「へぇ、子守さんってそんな反応するんだね」
一条が茶化すように言うが。
「他人を弄る暇があったら、早く彼女を褒めてあげろや」
至極真っ当な返しをする。
こわい。
「すみません」
一条ですら完敗させるほど、気が強い萌花であった。
これに関しては一条が悪いと思うぞ。
俺よりも真っ先に彼女である黒川さんを褒めるべきだし。
そもそも女を敵に回したくないんじゃ。
今はまだ敵対関係ではないとしても、少し判断をミスると、俺が殺される。
それが女の子だ。
一条は、その後にちゃんと黒川さんを可愛いと褒めてあげていて、仲睦まじいカップルの惚気話を聞いていた。
最近水族館に行ったとか、美味しい喫茶店を見付けたとかだ。
二人とも恋愛には奥手みたいだったから、仲良くしているなら俺達も幸せだが。
一条が幸せは幸せで面白くないと思うようになったら、性根が腐っているんだろうな。
萌花が口を開く。
「明日は二人でデートっしょ? どこ行くん?」
「えっとね、京都水族館に行って、その後はお土産買いに行く感じだよ?」
なるほど。
一緒に居られたら幸せオーラ出しているので、付き合いたてのカップルからしたら、デートの予定はそれくらいでいいんだろうな。
「萌花ちゃん達はどうなの?」
「もえ達は、着物に着替えてから、えっとどこだっけ?」
「八坂神社」
「そうそう、そこに行く。あとは適当に恋愛スポットを回って、スイーツ食べて、お土産を買う感じかな」
スケジュールに余裕があるように見えるが、着物に着替えたりするし、五人で行動するとなるとカツカツである。
小日向がいるから、明日もまたファンに囲まれる可能性もある。
あれだけで、一時間くらい普通に時間がなくなるからな。
「そうだ。一条達は、着物に着替えないのか?」
「ああ、ちゃんと予約しているよ。せっかくの京都だからね。制服デートだと雰囲気に合わないからね」
「やっぱりみんな着物に着替えるんだね」
「ウチは読者モデルのふうがいるし、綺麗な着物を着たら喜ぶからな。まあ、付き合ってやらないとな」
相変わらず、萌花は友達想いのいいやつである。
そこが萌花の良さだな。
小さく笑ったら睨まれた。
そして、かなりのツンデレである。
可愛いやつだ。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

最愛の彼

詩織
恋愛
部長の愛人がバレてた。 彼の言うとおりに従ってるうちに私の中で気持ちが揺れ動く

パート先の店長に

Rollman
恋愛
パート先の店長に。

一夜の男

詩織
恋愛
ドラマとかの出来事かと思ってた。 まさか自分にもこんなことが起きるとは... そして相手の顔を見ることなく逃げたので、知ってる人かも全く知らない人かもわからない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

好きな人の好きな人

ぽぽ
恋愛
"私には10年以上思い続ける初恋相手がいる。" 初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。 恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。 そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。

処理中です...