この恋は始まらない

こう

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第18.5話・たまには女子トークです

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準備中。
男二人は段ボールを回収する為に、近くのスーパーに向かっていた。
そんな中、他の女子は、男の目線がなくなったのをいいことに、少しばかしリラックスしていた。
男子がいると可愛く見てもらう為に気を遣うのは普通であり、気軽にだらけたり、脚を広げるわけにもいかないのだ。
流石に、あからさまにパンツを丸出しにするほどだらける下品な女の子はいなかったが、机に突っ伏して作業するくらいのだらしない瞬間は見せてしまう。
毎日のように、がっつり働いていると疲れは溜まっていく。
「ダメだ、飽きた! 休憩しよう!」
萌花はそう言って、机から立ち上がる。
ハジメ貯金。
貯まりに貯まったジュース貯金を崩す。
教室の自分の棚から人数分のジュースを取り出して、みんなに手渡していく。
長時間集中して作業するのは難しいので、ちょっとした雑談ではないが、交流をして親睦を深めるのである。
みんなは、忙しくても一旦その手を止めて、女の子同士で話をする。
「それで、何を話すの?」
西野月子は、自分から話を振ったが直ぐに後悔するのであった。
口を開けて、注目を浴びるということは、話題にされるからだ。
小日向にロックオンされていた。
「ねえねえ、西野さんは文化祭誰かと回るの?」
小日向は食い気味に問いかけてくるが、本人にはそんな予定はないし、親しい男子もいないので遊ぶほどでもない。
「別に誰とも回らないけど」
「好きな人は?」
「そういう人はいないわよ」
「じゃあ、文化祭はみんなで一緒に回ろうよ!」
「それはいいけれど。私達が全員抜けたら、喫茶の仕事はどうするの?」
「あ、そっかぁ……」
クラスの男子と女子の割合は半々なので、この場にいる八人が抜けたら、他の女子は強制的に仕事をすることになる。
それに、残りの女子のほとんどが運動部の人間であり、シフトの予定を合わせるのがかなり難しい。
それ以上に、準備時から把握している全員が抜けるということは、指示を飛ばせるブレインがいなくなり、喫茶店を上手く回すのは致命的になってしまう。
男子の仕事は裏方で、飲み物の用意や受け付け。メイド喫茶を円滑に回すために仕事をしてくれるだろうが、メイド服を着て給仕するわけではないのだ。
どうしても主役は女の子になる関係上、女子同士で上手くシフトを決める必要がある。
どうにかして全員で回れるかを模索していた。
こうしてみんなで集まって文化祭が出来るのは、一生に一度だ。
どうしても譲歩など出来ないのだった。
「しゃあねぇな。これもう、東っちを生け贄にするしかないじゃん」
結果的にそうなるのは目に見えていたけれど、誰も口に出さないでいた。
言ったら何とかしてくれる人間だが、その為には無理するタイプである。
ハジメは、一条みたいなイケメンではないのだ。
顔の評価はまあ置いておいて、オタクとしての知識やサークル活動での経験で作業を上手く回しているように見えて、一個人では足りない部分の方が多い。
人脈なら小日向が高いし、単純な数字の計算ならば西野さんなどが優秀である。
色々なことへのフォローや仲介者は、秋月や子守や一条がやっていて、装飾の技術では美術部メンバーに任せてしまう方がいい。
無論、ハジメはサークル活動をしている人間なので、仕事はそつなくこなしてはいたが、センスは並みくらいだ。
優秀な人間が多い中で、それでもハジメが信頼されているのには理由がある。
いつもは空気レベルの陰キャだが、困っている人がいたら誰でも助けてしまう人柄の良さがある。
そこに利害得失を求めない。
付き合いが長い小日向でも、一週間の付き合いの西野さんでも同じように助けるし、同性でハジメより優秀な一条であっても、変わりなく助けるはずだ。
だから、そんな絵に描いたかのような真面目な人間を嫌うやつはいなく、陽キャや優等生である人間でも相談してしまうし、困ったら直ぐにお願いをしてしまうのだ。

「あんまり頼るべきではないんだけどね……」
秋月麗奈は、口ではそう言っていたが、最後まで悩んでそれでも答えが出ないならば、絶対にハジメを頼りにするだろう。
絶対に助けてくれる人を信頼するのは、極々自然なことだ。
それは、他の人も同じ意見であった。
「東山くんか。文化祭のクラス委員だからって、頼りすぎるのも問題よね。どうせなら、一条くんにも聞いてみる?」
西野はそう問いかけてる。
「あ、ええ。……一条くんね、そうね。聞いてもいいかも知れないわね」
秋月さんらしからぬ、かなりの塩対応だった。
一条には興味がないようである。
まあ、好きな男の子がいたら、それ以外に興味を示す方が稀であるか。
小日向みたいにあからさまには表に出さないが、秋月さんも普通に東山くんガチ勢だ。
西野さんは、把握し切れていない友好関係は触れ難いので、深くは踏み込まなかった。
多感な時期の学生が長く友達をしていたら、良い事も悪い事も、紆余曲折はあるものだからだ。
小日向や白鷺。秋月さんレベルの美人が地味な男の子を好きになるなら、それなりの理由があるのかも知れない。
優等生の頭脳を駆使しても、よく分からないので考えるのをやめた。

「そうだね。一条くん優しいから、色々聞いてみてもいいかもね」
可愛い。
黒川さんは、本人のぽわぽわした雰囲気ながら、頑張って一条を褒めていた。
一条をかなり信頼しているようだが。
好きな人に対して優しいのは普通で、それは貴女だけに見せている優しさだと全員が思っていた。
だが、誰もツッコミを入れない。
この場での一番の勝ち組は、黒川さんだからだ。
その為、負け組である人間は強く発言することは出来なかった。
彼氏がいる普通の女子が、クラス内の地位が一日で高くなることはよくある。
それがクラス。いや、学年一番のイケメンである一条であれば、その順位は読者モデルの小日向よりも上にくる。
真島さんはポツリと呟く。
「いい男子いないかなぁ……」
真島さんは、可愛くてモテるヒロインタイプではなく、どこにでもいる一般人だけれども、そういうのに憧れていた。
華やかな文化祭は、やっぱり男子と回るものだ。
文化祭を隣のツンデレ優等生と毎年のように一緒に回るのは、また違うわけである。
「みんな、素敵な男子紹介してよ。ほら、東山くんとか一条くんみたいな気軽に話せるタイプでいいからさぁ」
顔や頭は普通でいいから、気軽に話せて楽しませてくれる気の利く男子を所望していた。
「いないよ」
「いないな」
「いないかな」
「いないっしょ」
「いないよ」
「いないいない」
「またそんな馬鹿みたいなこと言っていないで、勉強するとか地道な努力をして女としての魅力を高めなさいよ。そもそも普通レベルがまず普通じゃないから。サラッと言っているけど、それはガッキーと争うようなものよ?」
「なんで付き合い長い人間が、長文で反論してくるのよ!」
「このクラスでさえ、美人や可愛い子が多いのに、ワンチャンあると思っているの?」
「月子のばーかばーか。幼なじみやめてやる!」
「ええ、ありがとう」
「なんだよ! もー!!」
西野さんと真島さんは、言い争いを始めるのだった。
幼なじみなので、信頼があるからこそ喧嘩も出来る。
他の人達は、温かく見守っていた。


野郎二人。
「僕達、何時になったら教室に入れるのかな?」
段ボールを回収してきたはいいが、廊下で待機していた。
あの空気の中に男子が入るのは無理である。
集まった女性は姦しい。
全員から絡まれて、餌食にされるのは目に見えていた。
「一条。仕方ないし、飲み物奢るから自販機行こうぜ」
「え、何もしてないのに悪いよ」
「大体俺の身内のせいだろうし、別にいいよ」
「そんなことないと思うよ?」
「いや、信頼しているから」
「あ、そうなんだ。大変だね……」
「黒川さんみたいな大人しい女の子が羨ましいよ」
「僕の好きな人だからね?! 譲らないよ!?」
「お、おう……」
こいつも大概やばいやつだよな。
まあ、ただのイケメンよりも、人間味あっていいんだろうけどさ。
滅茶苦茶、黒川さんの可愛いところを語られた。
一条よ。
黒川さんのことを誰よりも好きだろうし、熱くなるのは分かるけど、分からんよ。
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