【R18G】門地旅館

黄泉坂羅刹

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序章 門地旅館篇

餓鬼徘徊

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部屋を飛び出した三人の少女の内、一人の少女が自分の足に引っ掻けてその場で転んでしまう。
その足首に両手首が一緒に固定され、立ち上がることすら出来なくなる。
友達が一人、目の前で殺されて。
友達を一人、目の前で見殺しにして。
次は自分が殺されると、諦めることも覚悟することも出来ずにいた。
少しでも誰かの耳に届いて欲しいと願いながら、必死の懇願はしかし誰にも届かずに虚空の彼方へ消えて行く。
最早逃げまどう彼女達の浴衣ははだけており、少女達の裸体が見る見る露になって行く。
首に絡みついた髪の毛が地面に彼女を叩きつけると、他の髪が一気に彼女の胸に絡みつき、僅かに膨らみ始めた彼女の胸を締め付ける。
柔らかな乳房は形を変えて、しかし彼女にはまだそれを快感にするだけの性的な機能を持ち合わせていないために、或いはこの死と隣り合わせの恐怖に、泣き叫び声をあげていた。

「いやぁぁぁあああ!!! 痛い、痛い痛い痛い!!! 痛いよ!! やめて、離して!!」

しかし彼女を締め付ける力は弱まることを知らず、寧ろより力強く彼女を締め上げる。
キリキリと針金のような音と共に、全身から血が滲み出る。
身体の中に潜り込んだ幾本もの髪は、肉を裂き、骨を断ち、皮を抉り、全身に刃物で切れる痛みが走る。
少しでも動けば血が滲み、鋸の様に次々と髪の毛は彼女の身体を切り裂き進む。
その内に彼女は動かない方が痛みが無いことに気づき、泣きながら動きを最小限に抑えて行った。
それから暫くすると、髪の毛は一瞬にして巻戻り、地面の中に消えて行く。
その場に残ったのは、身体に無数の傷跡が残った、少女の惨殺された死体のみが転がった。

遠くから叫び声が聞こえなくなり、二人は顔を見合せた。
みんな殺された。
さっきまで笑いあっていた友達が、一気に3人も殺されたのだ。
逃げ切ったのか気付いてないのか、息を整えた二人は浴衣の着崩れを直して行く。

バリン!

ガラスが割れて飛び散る音がすると、何も無い空間に亀裂が入り、その中から巨大な鬼の腕が飛び出した。
その腕に掴まれて地面に叩きつけられると、両腕が同時に砕けて折れる。

「がっあっあぁぁぁぁああ!!!」
「いやぁぁぁぁぁああああ!!!」

両足をばたつかせるが、宙に浮いた足は空を切り、両腕の折れた激痛が全身を駆け回る。
少しでも逃れようと必死にもがいても、彼女の身体は少しも腕から離れない。
そのまま鬼の小指が彼女の股に入り込み、そのまま小指を握り込む。
ゴキリと決して聞こえてはならない音がしたと、それは錯覚では無いと気付くのと、彼女の股関節がハズレて激痛が走るのは同時だった。
声にならない叫び声が上がり、友達がまた一人目の前で殺されていく。
もう、残るは自分しかいないと、彼女はついにおかしくなって、その場で笑い声をあげる。

「あはっ、あはは、あはははははは!!」

その場で尻餅をついて、彼女の耳にはもう断末魔が届いていなかった。
何をしてももう無駄だ、何処に行っても逃げられない。
目の前で友達が伸ばせない手を伸ばそうと、逃げ出せない足を振るおうと、助からない命を乞うと、その声が最早届かない。
地獄の門は開かれて、開かれた門から餓鬼が現れて、けれどもまだ完全に出るには門が小さくて。
それでも彼女達を殺し、魂を貪り、地獄に墜とすには十分だった。
彼女達が何かをしたわけではない、ただ、彼女達は餓鬼を呼び出してしまっただけなのだ。
それがどれほど罪深いことかも分からずに。

「あはははは! あはは! あはははははははは!!!」
「笑ってないで、助けてよ! お願いだから! 痛いの、お願い、助けて!!」
「あはははははははは!! みんな、みーんな、死んじゃうんだよ! どうせ助からない! みんな殺される! 殺されるんだよ!! あはははは!!!」

気が狂ったかのように笑う友達の後ろから、再びガラスの割れる音と共に、餓鬼が顔を出す。
それを見た少女は、遂に自分の番だと立ち上がり、自らの身体を差し出した。

「あははははは……かはっ!!」

突如真上から打ち付けられた金棒に、背骨を折って地面に叩きつけられる。
そのまま金棒で地面を擦り付けられ、摩擦熱の火傷をしながら自分の元へと引き寄せる。
持ち上げられた少女の胸は真っ赤に爛れ、目は虚ろになっていた。
餓鬼は笑みを浮かべると、そのまま空間に引きずり込み、少女を頭から食らっていく。
肉体と魂は地獄へ落ち、この世の物である浴衣は、その場にヒラヒラと舞い落ちる。
決して血は付いておらず、存在だけが消えていた。
少女は一瞬にして存在がなくなり、記憶からも消えていた。
それを察した少女は、再び逃げるためにもがくが、折れた腕、外れた足、内臓に刺さった骨の前に成すすべも無く地獄へ落とされる。

クラスメイトが突如5人、存在が消えたことに気付かない。
存在が消えたのだから、忘れたのではなく知らないのである。
割れた空間は、日の出と共に閉じられて、何事も無い平穏な世界に戻って行く。



§



「この噂では、弱いですね……」

十代半ばくらいの中学生とも高校生ともつかない少女が、閉じた地獄の門を見詰めながら一人呟く。
黒い生地に紫の花が彩られた、赤い鼻緒の草履を履いた色白の美少女である。
唯一部屋に残った死体に指を当て、指に着いた血を唇になぞる。

「この噂では、只殺してしまう……。狂ってしまう……。負の感情が溜まら無い……」
「それに、地獄の門も上手く開かず、餓鬼も出られない」
否々いやいやそもそも恐怖や怒り、憎しみ、悲しみだけが全てじゃないでしょう?」
「何の為の旅館か、何の為の浴衣か……」
右月うづきも、直接戴くか」
左月さつきも、直接戴くか」

少女の背から抱き締める、双子の少女は死んだ子達と同じ位の背格好をしていた。
切り揃えられた髪型は、悪く言えば御河童にも見えるが、それよりももっと現代風に姫カットになっていた。
それを肩で揃えられているのが、姉の右月。
それを腰で揃えられているのが、妹の左月。
白装束を身に纏い、部屋も廊下も裸足で歩く、名前と同じ方向に花の簪を刺した少女達。
三人手を繋いで部屋から……否、部屋の外の直前の異空間への道に、水面のような波紋と共にそのまま姿が溶けて行く。
小学生は2泊3日、中学生は3泊4日、高校生は4泊5日。
男子禁制のこの旅館は、女子禁制の別の旅館と共に経営されている。
但し人身御供は必ず若い処女で無ければ成らない、故に純真無垢な女子小学生を修学旅行の夜中に喰らう。
それが世界と均衡を保ち、世界を滅ぼさずに済む、ことわりの関係なのだから。
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