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序章 門地旅館篇
獄門開門
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修学旅行。誰もが楽しみにしている学校行事の中でも最大のイベント。
その中で古くても趣のある旅館に、誰もが気分を昂らせていた。
値段は非常に安く、多くの児童が訪れるその旅館の名前は「門地旅館」と呼ばれ、まだ拷問文化も盛んだった江戸時代に建てられた、役人の為の旅館らしい。
この場所は幾人もの罪人の、最期の旅の旅館として役割を果たし、昭和の終わり頃に一度全焼して建て直された旅館である。
そのため、築年数はそこまで古くは無いが、曰く付きと言う扱いで家賃が安い為、旅館としても安く経営をすることが出来、そこそこの広さの為に毎年小学校や中学校から修学旅行で泊まる旅館として重宝されていた。
「そして曰く付きの旅館には当然、都市伝説もあるの」
「都市伝説……」
「ごくり……」
「なんでも、20時過ぎに部屋を出ると、餓鬼に殺されるとか」
「餓鬼? 子供ってこと?」
「餓鬼は鬼のことだね」
「鬼……」
同じ班の少女達が、早速この旅館の都市伝説を語り出す。
とは言え都市伝説の大半が幽霊の正体見たり枯れ尾花状態であり、今の話も「実際に見てたらなんでその人は生きているのか?」という疑問が浮かび上がったりしている。
とにかく、そんな曰く付きの旅館で少女達は旅館着を身にまといながら柔らかな布団に寝転がる。
そして都市伝説の内容を語り出す。
曰く、20時を過ぎて部屋から出ると、徘徊している餓鬼に殺される。
曰く、20時までに部屋で布団に入らないと、餓鬼が部屋に入って来る。
曰く、20時を過ぎて扉がずっと開いていると、地獄の門が開かれる。
曰く、餓鬼に目を付けられたら最期、異次元に消えて地獄の門に連れて行かれる。
「だから旅のしおりは19時半点呼、20時消灯なんだね」
「今時20時消灯は早すぎるでしょー」
「と言うか、地獄の門ってなんだろうね?」
「これ、全部やってみたら、楽しそうだよねー!!」
そんな風にワイワイと賑やかしながらの19時半過ぎ。
先生が点呼を取りにやって来ると、皆消灯の準備は出来ていた。
あくまで準備だけ、それから先生が全員の人数を確認すると、堂々と布団をはぐって横になる。
「布団に居るけど、入ってないってね!」
「頭良い!」
「馬鹿やって風邪ひかないでよ?」
「と言うか、寝坊とか勘弁して欲しいんだけどー」
そうして更に賑やかに話が弾んだ20時丁度、どの部屋も誰もが基本的に布団の中に入っている中、その女子児童だけは布団をはぐっていたために、彼女の目論見通り「曰く、20時までに部屋で布団に入らないと、餓鬼が部屋に入って来る」の条件を満たした。
結局何も起こらないまま、そのまま更に1時間は喋っていただろうか。
そろそろ眠くなってきて、時間を確認した時だった。
「え、なんで?」
「なに、どうしたの?」
「見てこれ、この時計、まだ20時なんだけど……」
「え? 時計壊れてるんじゃ……うそ、私の腕時計も20時丁度、秒針も動いてない!!」
「ちょっと、やめてよ! そういうこと言うの!」
「時計の電池抜いたんでしょ!」
「そんなことしないって! ひっ! なに!?」
突如、布団をはぐっていた少女の足に、多量の髪が絡みつく。
足の指一本一本にも髪が絡み、そのまま膝までが絡みつかれる。
「やっ! やめて! 助けて! ねぇ、誰か、引きちぎって!!」
「やだよ、気持ち悪いもん! 自分でなんとかして!」
「硬くて、びくともしない!! ハサミ! 誰かハサミを、きゃっ!?」
もがいていた少女の両腕、それから身体に髪が絡みつき、そのまま旅館着もはだけていく。
完全に床に固定された少女は、突如として大きく身体を波打たせる。
「がはっ! うぐっ! ぐっ!? ぐあっ! がっ! ぐぅっ!!」
彼女を抑え付ける髪は力を増して、その他の髪が、彼女の口に入り込む。
それを吐き出そうと嗚咽する少女を、今度は下半身から髪が伸び、そのまま彼女の二穴に入り込む。
少女の小さな毛も生えていないところに、奥へ奥へと入り込む。
それを他の少女達は、ただ黙ってみていることしか出来ない。
血走った目が、彼女達に助けを求め、涙を流しながら嗚咽する。
もはや言葉は話せない、そんな彼女が大きく大きく、何度も何度も身体を跳ねさせ、次第に彼女の口から血が噴き出て来る。
失禁した床にはアンモニア臭がただよって、そのまま最後に大きく一度跳ねると、多量の血を吐き出して動かなくなってしまった。
「逃げよう!」
「部屋から、出ないと!」
「誰か、誰か助けて!!」
「みんな、待って! きゃっ!!」
最後に部屋を出た少女の足に髪の毛が絡みつくと、そのまま部屋へと引きずり戻される。
必死に扉にしがみつき、彼女は足に絡みつく髪の毛からなんとか逃れようとしていた。
そして、そんな彼女の前になんとも形容し難い、腐ったような人型が何人も壁から現れるのを目の当たりにする。
空間が割れて、何も無い所からそれらは少しずつ現れて、さらに突如扉が開かれると、少女はそのまま部屋に引きずり込まれて行く。
突如何かにわしづかみにされたその手は巨大で、彼女の細い身体を簡単に掴んで持ち上げた。
それは腕だけだったが、腕から先は空間の割れ目の向こう側に通じている。
「いや! やだっ! 死にたくない! 誰か、誰か助けて!! お願い、誰か!!!」
そんな彼女の願いも空しく徐々に床から離れて行き、彼女の身体が完全に宙に浮いた所で、彼女の両足が未だ地面に髪で結ばれていることに気付く。
だが、ずっと絡まり離さなかった髪が、なんの引っ掛かりも無く彼女の素足を撫でて離れて行く。
一瞬止まった身体は再び空間の割れ目へと持ち上げられて、そのまま割れ目が閉じると、最初の少女の死体と、彼女の衣服だけがヒラヒラとその場に落ちて行った。
曰く、20時を過ぎて部屋から出ると、徘徊している餓鬼に殺される。
彼女達は20時を過ぎて、餓鬼から逃れる為に、徘徊している廊下へと出てしまった。
曰く、20時までに部屋で布団に入らないと、餓鬼が部屋に入って来る。
彼女は20時までにに布団に入らず、餓鬼を部屋へと招いてしまう。
曰く、20時を過ぎて扉がずっと開いていると、地獄の門が開かれる。
彼女は扉を開けて、部屋の中に戻されることに抵抗し、扉が開かれていたために地獄の門が開かれた。
曰く、餓鬼に目を付けられたら最期、異次元に消えて地獄の門に連れて行かれる。
彼女は餓鬼に目を付けられ、そのまま地獄の門へと連れて行かれる。連れて行かれるのは彼女の身体だけ、旅館着はこの世のものだからその場にヒラヒラと落ちて行く。
そうして彼女達二人の存在は、一瞬にして全校生徒の記憶の片隅から消え去った。
その中で古くても趣のある旅館に、誰もが気分を昂らせていた。
値段は非常に安く、多くの児童が訪れるその旅館の名前は「門地旅館」と呼ばれ、まだ拷問文化も盛んだった江戸時代に建てられた、役人の為の旅館らしい。
この場所は幾人もの罪人の、最期の旅の旅館として役割を果たし、昭和の終わり頃に一度全焼して建て直された旅館である。
そのため、築年数はそこまで古くは無いが、曰く付きと言う扱いで家賃が安い為、旅館としても安く経営をすることが出来、そこそこの広さの為に毎年小学校や中学校から修学旅行で泊まる旅館として重宝されていた。
「そして曰く付きの旅館には当然、都市伝説もあるの」
「都市伝説……」
「ごくり……」
「なんでも、20時過ぎに部屋を出ると、餓鬼に殺されるとか」
「餓鬼? 子供ってこと?」
「餓鬼は鬼のことだね」
「鬼……」
同じ班の少女達が、早速この旅館の都市伝説を語り出す。
とは言え都市伝説の大半が幽霊の正体見たり枯れ尾花状態であり、今の話も「実際に見てたらなんでその人は生きているのか?」という疑問が浮かび上がったりしている。
とにかく、そんな曰く付きの旅館で少女達は旅館着を身にまといながら柔らかな布団に寝転がる。
そして都市伝説の内容を語り出す。
曰く、20時を過ぎて部屋から出ると、徘徊している餓鬼に殺される。
曰く、20時までに部屋で布団に入らないと、餓鬼が部屋に入って来る。
曰く、20時を過ぎて扉がずっと開いていると、地獄の門が開かれる。
曰く、餓鬼に目を付けられたら最期、異次元に消えて地獄の門に連れて行かれる。
「だから旅のしおりは19時半点呼、20時消灯なんだね」
「今時20時消灯は早すぎるでしょー」
「と言うか、地獄の門ってなんだろうね?」
「これ、全部やってみたら、楽しそうだよねー!!」
そんな風にワイワイと賑やかしながらの19時半過ぎ。
先生が点呼を取りにやって来ると、皆消灯の準備は出来ていた。
あくまで準備だけ、それから先生が全員の人数を確認すると、堂々と布団をはぐって横になる。
「布団に居るけど、入ってないってね!」
「頭良い!」
「馬鹿やって風邪ひかないでよ?」
「と言うか、寝坊とか勘弁して欲しいんだけどー」
そうして更に賑やかに話が弾んだ20時丁度、どの部屋も誰もが基本的に布団の中に入っている中、その女子児童だけは布団をはぐっていたために、彼女の目論見通り「曰く、20時までに部屋で布団に入らないと、餓鬼が部屋に入って来る」の条件を満たした。
結局何も起こらないまま、そのまま更に1時間は喋っていただろうか。
そろそろ眠くなってきて、時間を確認した時だった。
「え、なんで?」
「なに、どうしたの?」
「見てこれ、この時計、まだ20時なんだけど……」
「え? 時計壊れてるんじゃ……うそ、私の腕時計も20時丁度、秒針も動いてない!!」
「ちょっと、やめてよ! そういうこと言うの!」
「時計の電池抜いたんでしょ!」
「そんなことしないって! ひっ! なに!?」
突如、布団をはぐっていた少女の足に、多量の髪が絡みつく。
足の指一本一本にも髪が絡み、そのまま膝までが絡みつかれる。
「やっ! やめて! 助けて! ねぇ、誰か、引きちぎって!!」
「やだよ、気持ち悪いもん! 自分でなんとかして!」
「硬くて、びくともしない!! ハサミ! 誰かハサミを、きゃっ!?」
もがいていた少女の両腕、それから身体に髪が絡みつき、そのまま旅館着もはだけていく。
完全に床に固定された少女は、突如として大きく身体を波打たせる。
「がはっ! うぐっ! ぐっ!? ぐあっ! がっ! ぐぅっ!!」
彼女を抑え付ける髪は力を増して、その他の髪が、彼女の口に入り込む。
それを吐き出そうと嗚咽する少女を、今度は下半身から髪が伸び、そのまま彼女の二穴に入り込む。
少女の小さな毛も生えていないところに、奥へ奥へと入り込む。
それを他の少女達は、ただ黙ってみていることしか出来ない。
血走った目が、彼女達に助けを求め、涙を流しながら嗚咽する。
もはや言葉は話せない、そんな彼女が大きく大きく、何度も何度も身体を跳ねさせ、次第に彼女の口から血が噴き出て来る。
失禁した床にはアンモニア臭がただよって、そのまま最後に大きく一度跳ねると、多量の血を吐き出して動かなくなってしまった。
「逃げよう!」
「部屋から、出ないと!」
「誰か、誰か助けて!!」
「みんな、待って! きゃっ!!」
最後に部屋を出た少女の足に髪の毛が絡みつくと、そのまま部屋へと引きずり戻される。
必死に扉にしがみつき、彼女は足に絡みつく髪の毛からなんとか逃れようとしていた。
そして、そんな彼女の前になんとも形容し難い、腐ったような人型が何人も壁から現れるのを目の当たりにする。
空間が割れて、何も無い所からそれらは少しずつ現れて、さらに突如扉が開かれると、少女はそのまま部屋に引きずり込まれて行く。
突如何かにわしづかみにされたその手は巨大で、彼女の細い身体を簡単に掴んで持ち上げた。
それは腕だけだったが、腕から先は空間の割れ目の向こう側に通じている。
「いや! やだっ! 死にたくない! 誰か、誰か助けて!! お願い、誰か!!!」
そんな彼女の願いも空しく徐々に床から離れて行き、彼女の身体が完全に宙に浮いた所で、彼女の両足が未だ地面に髪で結ばれていることに気付く。
だが、ずっと絡まり離さなかった髪が、なんの引っ掛かりも無く彼女の素足を撫でて離れて行く。
一瞬止まった身体は再び空間の割れ目へと持ち上げられて、そのまま割れ目が閉じると、最初の少女の死体と、彼女の衣服だけがヒラヒラとその場に落ちて行った。
曰く、20時を過ぎて部屋から出ると、徘徊している餓鬼に殺される。
彼女達は20時を過ぎて、餓鬼から逃れる為に、徘徊している廊下へと出てしまった。
曰く、20時までに部屋で布団に入らないと、餓鬼が部屋に入って来る。
彼女は20時までにに布団に入らず、餓鬼を部屋へと招いてしまう。
曰く、20時を過ぎて扉がずっと開いていると、地獄の門が開かれる。
彼女は扉を開けて、部屋の中に戻されることに抵抗し、扉が開かれていたために地獄の門が開かれた。
曰く、餓鬼に目を付けられたら最期、異次元に消えて地獄の門に連れて行かれる。
彼女は餓鬼に目を付けられ、そのまま地獄の門へと連れて行かれる。連れて行かれるのは彼女の身体だけ、旅館着はこの世のものだからその場にヒラヒラと落ちて行く。
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