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第24話 ミリア3
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既に『老獪』アルベアの気配は去った。瓦礫の山を見たクロエの表情は何も変わらない。
そう思われていた。
「もう良いですわ、ミリア。いいえ……『夢幻』のミリア」
「まさか……」
瓦礫はそのままに、私達の目の前には一人の少女が蜃気楼の様に揺らめいて徐々に形作られて行く。
二つ名持ち、特級冒険者相当に付く名前。勝手に自ら二つ名を名乗れば、人間魔物問わずに処刑される。
そんな彼女はこのゲームに於いて二つ名は持っていなかった。
「私が此処を離れるとなった時、彼女が次期四天王の座に就くことは分かっていましたの。ならば当然彼女が簡単に殺されるわけには行かない。かと言って、二つ名持ちであることを悟られる訳にも行かない」
「そこで、私はサキュバスの能力を最大限に生かした能力を2つ身に着け、クロエ様から二つ名を賜ったのです」
「二つの能力?」
「一つは変身能力、身体を成長させたり退行させたりが精一杯ですけど。そしてもう一つは幻術、幻を見せる能力です。とは言え、あくまで見せるだけなので、あんな大掛かりな能力を使われては城も潰れてしまいますが……」
やれやれと言った表情で首を振るミリア。
ちなみに中で死んでしまった少女達や、逃げ遅れてしまった少女達は、本当に下敷きに遭ってしまっているので、そこは冥福を祈る。
「さて、それでどうするんですの?」
「どうも何も、相手は『老獪』アルベア。南北の魔王軍を先に潰さないと、余裕が無いわね」
「南北……結構遠いですわね」
「そうでも無いかもね。何せ『老獪』アルベアも、此処から一番遠いのに真っ先に来てるのだし」
「では、どちらから行きますの?」
「南から先に潰そうと思うわ。彼女なら、直接攻撃しかしてこない分、時間は掛からないから」
「『剣聖』イリス。四天王にして、魔族も人間も問わず彼女に弟子入りする師範代」
「合わせて男嫌いでも有名ですわね。……あら、そう言えば、ルリさんはどちらにいらっしゃるのでしょうか?」
「瓦礫の下敷きにでもあってるんじゃないかしら」
「勝手に……殺すんじゃ……無いわよ……」
息を切らしてふらふらしながらルリがやって来る。
あの瓦礫の山から此処まで結構な距離があったが、移動系の能力を持たない為に一人だけ物理的に走って来たようだ。
「あら、お姉ちゃん、生きてたの?」
「アンタ、実の姉に対して辛辣じゃない……? 今回はマジで死ぬかと思ったわよ……」
『絶対神』としての能力で危険を察知して逃げることが出来たようで、そこから先は彼女達が転移するであろう方向をあらかじめ予想して走って来たとのことだった。
「取り敢えず、今から南の四天王の所に行く予定だから、準備なさい」
「此処まで走って来たんだから、少しは休ませなさいよ!」
「それなら、私とベッドで休まない? 今の貴女、私好みに弱ってるし、気持ちよくさせてあげるわよ?」
「『夢幻』のミリア、アンタの性癖は嗜虐でしょうが。過去100年慰み者にされた腹癒せのような性癖を私に向けるんじゃないわよ」
「な、なんでそんなことを知ってるのよ!?」
「私は『絶対神』のルリ、この世の大凡のことは既に知ってるわよ」
「知ってたんなら、『老獪』に私のお姉さまの城を壊させるんじゃないわよ!」
「だめよ。今はまだ、『老獪』に手を出すべきじゃないんだから」
そんなやり取りをしながら、私達はそのまま南の魔王軍の城へ向かうことにするのだった。
§
「……やはり生きてましたか」
『老獪』アルベアは決して彼女達、それどころか『夢幻』も死んでいないだろうと思っていた。
いや、死んでいない、もっと言うのであれば、彼女はその力を、二つ名を隠していたことにも気付いていた。
確かに魔王からはミリアを殺すように命じられていた、だから最大限の力を以って殺しにかかった。
生きているはずが無いほどの力であり、そこから逃れる術など無いと言う程に。
勿論、レイやクロエのように自身を護り逃げる力があったり、ルリのようにその能力が使われることがあらかじめ分かっていたからこそ逃げることが出来る場合もあるが、そもそもその3人は殺害の対象には入っていない。
だから彼女達が生きていても死んでいても、そこは命令違反にはならない。
ではミリアが死んでいないことは命令違反にならないのか。
それについては彼女が二つ名を、そして何より幻を魅せる情報が無いため言い訳が立つ。
とは言え、普段の『老獪』ならばミリアの偽装には気付いているのだから確実に殺すことも可能だが。
しかし彼女は敢えてそうはしなかった。
それは、魔王の命令や存在、或いは目的、そのすべてに懐疑的だったからである。
「『色欲の捕食者』……いえ、『調律師』レイ。貴女は、何者なのでしょうか?」
サポートキャラではないアルベアは彼女の存在感が奇妙なことに疑問を覚える。
各サポートキャラ全てに言えることだが、その中でレイは特異だった。
「それに『千本桜』が最初から彼女の味方に居たことも疑問ですね。『千本桜』が『調律師』に肩入れする理由が分かりませんが、彼女が四天王時代から『調律師』と接点があったと言うことでしょうか」
それだけではない。仮に接点があったとしていつから魔王軍を裏切る予定でいたのか。
魔王軍を裏切る程の人物が水面下で動いているとして、なぜそのことに気付かなかったのか。
仮に気付いていて一網打尽ならともかく、なぜ魔王はあの二人を生かしているのか。
数を上げて行けばキリがない程に、彼女達と魔王に対して疑問が浮かぶ。
「あぁ、貴女はどう思いますか、北の魔王軍四天王……いえ、『千里眼/道化師』ハーレス」
「あっはっは! どうも思わないし、ウチらは魔王様に従うだけっしょ!」
そう言って、いつもの笑い声を上げてレイ達を見下ろすのだった。
そう思われていた。
「もう良いですわ、ミリア。いいえ……『夢幻』のミリア」
「まさか……」
瓦礫はそのままに、私達の目の前には一人の少女が蜃気楼の様に揺らめいて徐々に形作られて行く。
二つ名持ち、特級冒険者相当に付く名前。勝手に自ら二つ名を名乗れば、人間魔物問わずに処刑される。
そんな彼女はこのゲームに於いて二つ名は持っていなかった。
「私が此処を離れるとなった時、彼女が次期四天王の座に就くことは分かっていましたの。ならば当然彼女が簡単に殺されるわけには行かない。かと言って、二つ名持ちであることを悟られる訳にも行かない」
「そこで、私はサキュバスの能力を最大限に生かした能力を2つ身に着け、クロエ様から二つ名を賜ったのです」
「二つの能力?」
「一つは変身能力、身体を成長させたり退行させたりが精一杯ですけど。そしてもう一つは幻術、幻を見せる能力です。とは言え、あくまで見せるだけなので、あんな大掛かりな能力を使われては城も潰れてしまいますが……」
やれやれと言った表情で首を振るミリア。
ちなみに中で死んでしまった少女達や、逃げ遅れてしまった少女達は、本当に下敷きに遭ってしまっているので、そこは冥福を祈る。
「さて、それでどうするんですの?」
「どうも何も、相手は『老獪』アルベア。南北の魔王軍を先に潰さないと、余裕が無いわね」
「南北……結構遠いですわね」
「そうでも無いかもね。何せ『老獪』アルベアも、此処から一番遠いのに真っ先に来てるのだし」
「では、どちらから行きますの?」
「南から先に潰そうと思うわ。彼女なら、直接攻撃しかしてこない分、時間は掛からないから」
「『剣聖』イリス。四天王にして、魔族も人間も問わず彼女に弟子入りする師範代」
「合わせて男嫌いでも有名ですわね。……あら、そう言えば、ルリさんはどちらにいらっしゃるのでしょうか?」
「瓦礫の下敷きにでもあってるんじゃないかしら」
「勝手に……殺すんじゃ……無いわよ……」
息を切らしてふらふらしながらルリがやって来る。
あの瓦礫の山から此処まで結構な距離があったが、移動系の能力を持たない為に一人だけ物理的に走って来たようだ。
「あら、お姉ちゃん、生きてたの?」
「アンタ、実の姉に対して辛辣じゃない……? 今回はマジで死ぬかと思ったわよ……」
『絶対神』としての能力で危険を察知して逃げることが出来たようで、そこから先は彼女達が転移するであろう方向をあらかじめ予想して走って来たとのことだった。
「取り敢えず、今から南の四天王の所に行く予定だから、準備なさい」
「此処まで走って来たんだから、少しは休ませなさいよ!」
「それなら、私とベッドで休まない? 今の貴女、私好みに弱ってるし、気持ちよくさせてあげるわよ?」
「『夢幻』のミリア、アンタの性癖は嗜虐でしょうが。過去100年慰み者にされた腹癒せのような性癖を私に向けるんじゃないわよ」
「な、なんでそんなことを知ってるのよ!?」
「私は『絶対神』のルリ、この世の大凡のことは既に知ってるわよ」
「知ってたんなら、『老獪』に私のお姉さまの城を壊させるんじゃないわよ!」
「だめよ。今はまだ、『老獪』に手を出すべきじゃないんだから」
そんなやり取りをしながら、私達はそのまま南の魔王軍の城へ向かうことにするのだった。
§
「……やはり生きてましたか」
『老獪』アルベアは決して彼女達、それどころか『夢幻』も死んでいないだろうと思っていた。
いや、死んでいない、もっと言うのであれば、彼女はその力を、二つ名を隠していたことにも気付いていた。
確かに魔王からはミリアを殺すように命じられていた、だから最大限の力を以って殺しにかかった。
生きているはずが無いほどの力であり、そこから逃れる術など無いと言う程に。
勿論、レイやクロエのように自身を護り逃げる力があったり、ルリのようにその能力が使われることがあらかじめ分かっていたからこそ逃げることが出来る場合もあるが、そもそもその3人は殺害の対象には入っていない。
だから彼女達が生きていても死んでいても、そこは命令違反にはならない。
ではミリアが死んでいないことは命令違反にならないのか。
それについては彼女が二つ名を、そして何より幻を魅せる情報が無いため言い訳が立つ。
とは言え、普段の『老獪』ならばミリアの偽装には気付いているのだから確実に殺すことも可能だが。
しかし彼女は敢えてそうはしなかった。
それは、魔王の命令や存在、或いは目的、そのすべてに懐疑的だったからである。
「『色欲の捕食者』……いえ、『調律師』レイ。貴女は、何者なのでしょうか?」
サポートキャラではないアルベアは彼女の存在感が奇妙なことに疑問を覚える。
各サポートキャラ全てに言えることだが、その中でレイは特異だった。
「それに『千本桜』が最初から彼女の味方に居たことも疑問ですね。『千本桜』が『調律師』に肩入れする理由が分かりませんが、彼女が四天王時代から『調律師』と接点があったと言うことでしょうか」
それだけではない。仮に接点があったとしていつから魔王軍を裏切る予定でいたのか。
魔王軍を裏切る程の人物が水面下で動いているとして、なぜそのことに気付かなかったのか。
仮に気付いていて一網打尽ならともかく、なぜ魔王はあの二人を生かしているのか。
数を上げて行けばキリがない程に、彼女達と魔王に対して疑問が浮かぶ。
「あぁ、貴女はどう思いますか、北の魔王軍四天王……いえ、『千里眼/道化師』ハーレス」
「あっはっは! どうも思わないし、ウチらは魔王様に従うだけっしょ!」
そう言って、いつもの笑い声を上げてレイ達を見下ろすのだった。
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