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第20話 ルリ - エピローグ -

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普段よりも早くに目を覚ました彼女は、ゆっくりと起き上がる。この日を迎えたくないから、きっと眠れないことだろうと思っていただけに、しっかりと眠ってしまったことに内心笑っていた。
今日を迎えることに何のためらいもないのか、死にたくないのは本当だけど、同時にこの生活から逃れたいと思ったから早く時間を経たせるために眠ってしまったのか、どちらとも言い換えられる。
普段着ている村人特有のノースリーブの服、ではなく、真っ白な着物、白装束に着替え、この世界では珍しい草履を履いて、その足で地下へと歩く。
生贄には簡単な生地にして染色もしない白装束。
彼女は前日から食事を採っていない。仲間が6人殺されて、レイ達から告げられて、これから後数時間で起こることを想像する。
そんな彼女が地下の部屋に来ると、何人もの屈強な村人達が待っていた。
その中心で、村長が目も合わせずに傍の椅子に腰かけている。

「靴を脱げ。今後、お前には靴を履くことを、この村の村長として禁じる」
「はい……」

草履を脱いで裸足になると、普段感じない冷たい床の感覚と大勢に素足を見られる姿に羞恥し委縮する。
通常靴を履かないのは獣人族や魔族等のため、人間で靴を履かせない行為は人として認めていない差別的な意味合いを持つ(水浴びやサンダルで裸足になったりする行為は「履かせない」には該当しないため問題ない)。
彼女は今、この時点で人間として扱われなくなったのである。
今までは世間体というのもありここまでのことをしなかったのだが、それも今日が最後だった。
ベッドに寝かされた彼女の両手両足に縄が掛けられ、ベッドから全く動けないように拘束される。
その彼女の小さな口に漏斗を入れると、大男の手によって口の周りを完全に覆われる。
それから別の男が小さな酒樽を彼女の口に流し込む。

「うぷっ、ごぼっ、がぶっ、うっ、ぐっ!?」

溺れるようにもがき苦しむ彼女を村人が無理矢理押さえつけ、彼女の口にどんどん毒・が流し込まれる。
まだ16歳の少女を大男が大人数で押さえつけ、その口に毒を流し込む光景がしばらく続く。
この村が助かるためには彼女を犠牲にするしか他に無いのである。
涙を流しても失禁しても、器官に入り本当に溺れていても構わず流し込まれ、3リットルほど飲まされた彼女はそれからいよいよ、生贄の魔物が棲む洞窟へと連れていかれる。
毒耐性があるとは言っても、全く効かないわけでもなければ、あれだけの量を飲まされれば毒も身体に回る。
時々咽むせび、吐血をしても無理矢理歩かされ、そうして生贄の洞窟の中に放り込まれる。
そこで待つのは、昨日村の少年少女達を襲った巨大な毒蜘蛛の魔物。
姿を見掛け、ようやく死ぬ実感が沸くと恐怖が勝り、思わずその場から逃げ出そうとしてしまう。
けれども足元に張られていた糸に足を取られると、そのままその場に俯せで倒れてしまう。
絡まった足の糸を手繰り寄せる蜘蛛の魔物に、徐々に徐々に近付いて行く。

「えっ、あの、待って、いやっ、やだ……!!」

地面の糸に絡まっていき、村長の娘は糸塗れで徐々に動きが鈍くなる。
毒も周り、全身に痺れが走っているため今では手の指、足の指すら動かせないだろう。
ついに蜘蛛の腹下に来ると、蜘蛛はそのまま更に動けないように身体を糸で雁字搦がんじがらめにする。
そして、そこで彼女は本当の死の恐怖に、思わず叫び出す。

「いやっ! あぁっ! 誰か! 誰か助けて!! レイ様! レイ様ぁ!!」

村の誰かではなく、昨日訪れたばかりのレイに助けを求めるあたり、16年もの間に彼女からは何も信頼は得られていないらしい。
蜘蛛の魔物はそのまま腰を下ろし、そして彼女の身体を調べるようにモゾモゾと動く。

「えっ? ちょっと、待って……いや、やめて、それだけは、お願い……!!」
「キエェェェェェエエエエエ!!!!」
「あがっ!? お、お尻に、何かが入ってきて……!? 待って、まさか、あっ、あぁっ!!」

そう。蜘蛛の習性、それは雌に食われる前に手足を拘束し、そして交・尾・をする。
人間と蜘蛛の子供が生まれる訳ではないが、性行為が異種間で行われればそれは立派な拷問だ。
それにこれは魔物、その習性は雄にしか無いけど、この蜘蛛は雌。
つまり今彼女の膣内なかで起きていることは、彼女が……いや、人として最もされたくないこと。

「痛っ! 痛い! やめて、動かないでっ、痛い、痛い……!!」

蜘蛛との異種間セックス。
雌の蜘蛛である必要があるし、雄の蜘蛛である必要もあるから、多分この光景を擬人化したらふたなりセックス中だろう。

「キエェェェェェエエエエエ!!!!」
「痛い! お腹が、苦しいよぉ、入ってくるし、熱い……! 痛いっ……もっと優しくして……レイ様の様に……」

昨晩のレイとクロエのセックスを蜘蛛と同じに扱われるなんて、彼女達からすれば心外だろう……。
まぁ、本当のセックスを味わったことなんか一度も無いから、そんな感想になるのも無理からぬことだが。
だから、膜が破けて血が出ていることが普通のこととは思っていない。

「やだ、なに、急に、お腹がもぞもぞして……いっ!!? まさか、そんな、あ、あぁっ……」

顔を青ざめさせ、歯がカチカチと恐怖で音をならす。
今自分の中で何が起きているのかを理解して、そして絶望している。
今彼女の中で何がもぞもぞと動いているのか、そしてそれが、何処に向かっているのか。

「がはっ、うっ、うぷっ、おえぇぇ、やだ、気持ち悪い、私の中に、卵を……!!」

想像がついた途端に、村長の娘は嘔吐する。胃液だけを吐き出して、口からは唾液のような透明な液しか出てこない。
ただ、そこには小さな固形物も一緒に出てくる。
それは、彼女の想像を裏付ける、小さな蜘蛛が数十匹だった。

「おえっ、げほっ、うぷっ、うっ、はっ、あぁ……」

元々食事を取っておらず、毒を飲まされ、その毒が全身に回る中で蜘蛛に体内へ卵を産み付けられたショックから嘔吐し、元々少ない体力が枯渇して意識が遠くなって来る。
もうこれは、解毒をしたところで助からない。
身体の中で子蜘蛛が暴れていることが、感覚的に分かるのだから。

「レイ様……生きていたら、また、レイ様達と、したかったです……。こんな、こんな最期、あんまりです……。16年間、こんなことをされるために……生きていた訳じゃないのに……!! なんで私なの……! 私が、何をしたって言うの……!! 私もただ、みんなと一緒に生きていたかった……!! 誰か、助けて……お願い……」
「ユキ……!! ……ッ!?」

その声に顔を上げれば、レンが同じ様に白装束を纏って現れる。
実は少年のように振舞ってユキに「レン君」と呼ばれているが、列記とした短い髪をした少女。
彼女もまた、昨夜の内に捕らえられ、そのまま下僕の扱いをされた上で生贄に選ばれていた。
ユキを見て蒼褪めた表情は、かつての親友の成れの果ての姿か、はたまたこれから自分の身に起こる悲劇を想像したのか。

「ユキ! ユキ!!」
「レン……君……なの……?」
「なんでだよ、畜生……!! ちくしょぉぉぉぉおおおお!!! うおおおおお!!!」

レンは怒りに蜘蛛の魔物へ体当たりをする。
なんとかどかすことに成功したが、ユキの身体は既に蜘蛛の子が下半身の穴から顔を出していた。
未だに身体の中で動いており、彼女の皮膚が不自然に部分的に膨れ上がり動き回っている。
既に彼女の唇は紫色に染まっており、血の気も引いてただでさえ白い彼女の素肌は更に白くなっていた。

「ユキ、今からでも逃げよう……? な? だから、生きるのを諦めるなよ!」
「………」
「ユキ……? なぁ、返事をしてくれよ! ユキ!!」

声にならない、ユキの口が短く結ばれる。
その形を見たレンが、何か声を発するよりも早く。
すさまじい腹部の痛みと背中の痛みが同時に襲う。

「かはっ!」

意識を手放さなかったのは褒めるべきだが、そのまま気を失っていた方が幸せだっただろう。
レンが顔を上げて見たのは、毒蜘蛛の意識が完全にレンに向いた姿、そして、意識が無くなった毒蜘蛛は足元も気にせず歩き、そのままユキの心臓むねを貫いていた。
声は聞こえなかったが、彼女の最期に結ばれた口は「ご・め・ん・ね」と紡がれていた。
その怒りに立ち上がろうとして、しかし身体が思いに反して動かない。
その理由は、彼女の身体が今の一撃で完全に恐怖に竦んでいたからだ。

「えっ、くそっ、なんでだよ、動けよ! こんなところで、こんなヤツに、殺されるのかよ!?」

その言葉は頭に完全に血が上っている毒蜘蛛には届かず、そのまま洞窟が揺れる程の体当たりを真に受けたレンの身体は潰れ、崩れた瓦礫の下敷きになる。

あらぬ方向に向いた瓦礫の中から手が一本、それが瓦礫から出ているだけだった。
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