愛と執着の果てに。

莱 詩都

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3話

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あの日から、何日も経った。

手首は手錠に繋がれ、足元も自由には動かせない。そんな生活が続いていた。

樹の支配の中で、自分が少しずつ壊れていっているような気がした。

彼の目が俺を見つめるたびに、逃げたいという衝動と、彼の手に引き寄せられたいという感情が交錯していた。

だけど、このままじゃ本当に壊れてしまう。そう思ったら、この決断をするまでにそんなに時間はかからなかった。


◆◇◆


静かな夜、樹が寝ている間に、俺はこっそりと布団を抜け出した。

手錠の鍵を探しながら、何度も心臓が高鳴った。

鍵は樹がいつもポケットに入れていたが、今ならそのポケットに手を伸ばす隙間がある。

うまく見つけ出し、手錠を外すと、俺はそのまま家の中を静かに歩き回った。

壁にうつる自分の影が俺自身を不安にさせるが、立ち止まっていたらいつバレるか分からない。

外に出るためには、家の扉を開けなければならない。

樹がどれだけ厳重に施錠していても、俺はそれを破る覚悟を決めていた。

扉の前までつくと、流石に手錠や足かせを付けていればここまで来ることはないと思っていたのか、ただの鍵しかついていなかった。

扉を開けた瞬間、外の冷たい夜風に包まれる。

逃げられた――本当に逃げられると思った瞬間、胸の中でほっとする気持ちと同時に、胸が痛くなる。

樹を裏切ることへの罪悪感が、俺を一瞬立ち止まらせたが、すぐにその感情を振り払うことにした。

今はただ、自由になりたい。彼の支配から逃げ出したい。

夜の街は静かだった。

俺は無我夢中で走り続けた。

足元が痛むのも、冷えた風が肌を切るような感覚も、全部我慢して走り続けた。

目指すのは最寄りの駅。

誰にも見つからず、あの家から遠く離れたところに行ければ――と、ただそれだけを考えていた。

「ああ、逃げるんだな」

突然、背後から低い声が響きわたる。

振り向いた瞬間、俺は目を見開いた。

樹がそこに立っている。

いつの間に、どこから来たのかも分からない。恐怖で自分の体が震えているのが分かった。

「お前が逃げるなんて、思ってもみなかったよ」

その言葉に、俺は一瞬、言葉を失った。声が出なかった。

そして、反射的に足を動かす。もう一度、逃げようとした。逃げないと、またあの部屋に…

必死に走り出したが、すぐに足音が背後まで迫り、気づけばもう俺の腕を掴まれていた。

「お前は、どこに行こうとしてるんだ?」

彼は冷たく言い放った。俺の腕を強く握り、無理やり力で引き寄せる。

その力に抵抗しようとしても敵わず、ただ身を任せるしかなかった。

「離せって…」

声が震えながらも彼にそう言ったが、彼は無表情で答える。

「逃げても無駄だ。ちょっと大人しくしてろ」

樹が手に握っていた何かを俺の胸につきつけてきた。

その瞬間、ビリっとした電気のような痛みが胸に走った─────
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