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私の日常1
しおりを挟むジリリリ――――と、けたたましく目覚ましのアラームが鳴り響く。
ピロピロピロとかチャララ~とかじゃ絶対に起きれない。
ない胸をババーンと自信満々に張れるほど、起床が苦手な私。吉川真、十六歳。
のそりと布団を押しのけ、手探りでベッド脇の目覚まし時計を探す。
目は半分くらい閉じているが、慣れたもので難なくアラームを止めた。
そして――
ジリリリリリリリリリリリリ――
「うはぁうっ……!」
五分差で第二陣が襲ってくる。
一度で起きれないのはわかってるから、もちろん二段構え。
微睡みに落ちかけた意識が無理やり呼び戻され、心臓に少し負担を掛けつつ、今日もなんとか無事起床を果たした。
ベッドから抜け出てカーテンを開き、差し込む朝日を全身で受け止めるように浴びた。
グイ―ッと伸びもしてやっと目がすっきり覚めたところで身支度開始。
寝巻から制服へパパッと着替える。
中学の三年間で、セーラー服がいかに着替えにくいのかということを思い知ったため、高校は絶対ブレザーで! と心に誓い実現させた。
変なところで腕が引っかかったりしないし、髪も巻き込まれないし、本当に楽。
お金持ち校じゃないから、ドラマで見るようなお洒落制服ではないけど……紺の上着に紺のスカート、紺のリボンタイに、ブラウスは白の普通のやつ。
あ、でも! スカートはプリーツが広めで、下の方に白のラインがぐるっと一周してて、この辺りではなかなか見ないデザインで可愛くて気に入っている。
受験頑張って良かったなぁ。
……おっと、しみじみしてる場合じゃない。
部屋から出て、まっすぐ洗面所へと向かった。
そして、鏡を少し睨みつけるようにして気合を入れる。
――くせ毛セミロングとの戦いが今日も始まるのだ…………!!
ゆるふわウェーブが羨ましいって言われたこともあるけど……。
いやいやいや、必死にそれらしく見せてるんだって! 左側はまだ普通にふわっとウェーブしてるけど、右側は何もしないと内巻きになってるんだから。見事にくるくるっと。何もしてないのに内巻きってなんなの……。
望んでない嬉しくない!
梅雨になればこの状態からさらに爆発がついてくる、もれなく。
はぁぁぁ、来月が怖い……。
――――なんだかんだ、それらしく整えてダイニングへ。
「おはよー」
「あぁ、おはよう。真」
「おはよう」
声を掛けながら入ると、先に朝食を終えて新聞を読んでいたお父さんと、キッチンでお弁当を包んでくれているお母さんがそれぞれ返してくれる。
「制服似合ってるよ」
「あはは、お父さんそれ毎日言ってるじゃん」
「毎日そう言いたくなるくらい、似合ってるってことだよ」
「んふふ、ありがと」
「ほらほら、ふたりでイチャついてないで。早く食べないと時間なくなるわよー」
市内にある電子部品メーカーに勤めているお父さんと、土曜日の日中だけ近所の子供向けにピアノ教室を開いているメインは主婦業のお母さん。そしてこの春から県立星舞高等学校に通い始めた女子高生の私。
兄弟姉妹はいない。お父さんの方のお祖母ちゃんが健在だけど、住んでいるのは隣町。
大きくはないけど小さくもない戸建てに三人暮らし。普通の家庭、だと思う。
家族仲はすごくいい。これはちょっと自慢なんだ。
朝食でエネルギーチャージもできたし、お弁当も入れたし、準備完了かな。
忘れ物は多分ない。……忘れてみないとわからないとも言う。
「んじゃ、行ってきまーす」
桜舞い散る四月。を超えて、今は五月。
期待と不安でいっぱいになりながら、星舞高校の門をくぐった入学式の日から、もう一カ月が経った。
持ち前の明るさと、『あああ! それって今アニメ化企画進行中のラノベだよね!?』という踏み止まれなかったオタクの叫びが功を奏して、クラスに馴染むのは早かった。
ありがたいことに、うちのクラスは結構アニメや漫画好きが多いみたいで、私の行動にドン引きされることはなかった。
気の合う同志もここで一気にゲットできてホクホクしている。
ちなみに、そのラノベを持ってたのが彩ちゃんで、私のオタク臭に最初に寄ってきたのが美紀ちゃんなのだ。
高校生最初の誕生日(四月生まれなの!)とゴールデンウィークに、新しい友達と遊んで過ごした私は、まさしくリア充だ。
むふふ。
楽しかった休日を回想してたら、あっという間に学校に着いてしまった。
なんてたって、家を出て左に進んですぐの曲がり角を、右にまっすぐ行くだけ。
さすが徒歩十分。
下駄箱で靴を履き替えて、いざ我が教室一年A組へ。
「おっはよー!」
開きっぱなしの扉から元気よく挨拶を投げる。
「うーっす」
「おはよ、相変わらず元気いっぱいだねぇ」
「それが私ですからー」
扉付近にいた子たちと挨拶でじゃれあいながら席に着く。
「おっはよん、マコマコ」
「おはよー、美紀ちゃん。彩ちゃんはまだ来てないんだ?」
「電車遅れてるんだってさ。体調不良者が出たとかって」
「おぁー、それは大変だ」
彩ちゃんの家はここから結構離れていて、この学校では珍しい電車通学だ。
毎朝早くから動いていて感心しちゃう。……私にはできないや。
自分が朝に弱過ぎることをしっかり踏まえて、家から一番近い高校を探して選んだのだから。
高校を選ぶにあたって絶対外せない条件として挙げたのは、先にも言った制服はブレザーであることと、朝起きれないからできるだけ近い場所であること。
あ、あと修学旅行がちゃんとあるところってのもね。
なんか、中には修学旅行がないところがあるとかないとかって聞いたからそれはヤダ! って思って――
……話が逸れたね。
まぁ、とりあえず。
彩ちゃんには「徒歩十分ナニソレ羨ましい!」って、いつも言われる。へっへっへ。
「はぁ……はあぁぁぁ、間に合った。二人ともおはよう」
「おはよ、大変だったねぇ……」
「おはよん、アーヤ。お疲れぃ」
お疲れ度マシマシの彩ちゃんがご到着。
いつも綺麗に整えられてる黒髪ロングストレートが乱れてて、大変さと疲労っぷりを物語っている。
皆揃って喋っていると、ハッと思い出した。
そう、今朝の夢。
「そうだった! 今朝の夢に二人が出てきてビックリしたんだよ、もー」
「いやいや、いきなり何なの。こっちがビックリするってのよ」
「だって今思い出したんだもん」
「マコマコってば、まーた変なの見たんでしょ?」
美紀ちゃんがニヤニヤしながら面白そうに聞いてくる。
またというのはその通り。
私が変な夢を見がちなのは、二人ともよぉく知っている。毎回話してるから。
前回は確か、中学校のクラスメートと怪獣退治に行く夢だったっけ。
普通に授業を受けてたのに急に教室が作戦室になって、黒板には町の地図と怪獣の出没地点が赤く記入された紙が貼られていた。
さぁ、いよいよ皆で出動だって飛び出して行ったものの、何故か私はお腹が空いたからと空を飛んで家に帰っちゃったんだよなー……。
どんな夢だよ。
起きた時にも、もちろん同じ突っ込みを入れましたとも。
「そうなんだよ。それがさ――」
キーンコーン――
まさに今、私が話し始めようとした瞬間。無慈悲なチャイムがぶった切る。
ガラッと開いた扉から、担任の神崎先生が入って来た。
神崎先生は、この学校では若めの気さくな女性教師で、新入生の人気が高い。
「ホームルーム始めまーす。席についてー」
「おおぅ……」
「あらあら。まぁ、じっくり聞くなら放課後ね」
「だねぇ。部室でゆーっくり、そのヘンテコな内容を聞いてあげようじゃない」
出鼻をくじかれ、風船が萎むように気が抜けていった。
まったくもう、これからって時にさ。
早く放課後来い来ーい。
応援ありがとうございます!
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