SPIRIT~スピリット~

SHOW

文字の大きさ
上 下
42 / 88
第二章 ヴァンパイアシスターズ

第二章 第二十二話 誘い

しおりを挟む
「ふざけてんじゃねぇよ! とっとと縄(なわ)解(ほど)け!」

「それが人に頼む態度ですかぁ?」


 パチン


 ブギーマンが指を鳴らした瞬間、手脚首に開放感を感じた。両腕が動ける。右腕を目の前に持っていき、手首を見ると縛られた痕がある。掌(てのひら)はすこし赤くなっている。相当強く縛られたようだ。

「おい、神代。さっきのはどういうことだ?」

 亮夜が怒っているのがわかる。それもそのはずだ。先程の戦闘で聞いたエルファバが言ったことを思い出す。

「その子はね、アナタたちを信じていないの。自分ひとりで解決しようとしたの」

 あぁ、思い出さなければよかった。亮夜はそのことについて聞くのだろう。

「あんた本当に一人で解決しようとしたのか?」

「……」

 神代は黙ったままだ。この雰囲気に耐えられなかったのか、岩城が「まぁまぁ、ここは落ち着いて話そうよ」と間に入るが、亮夜は「岩城は黙ってろ!」と一喝する。岩城は下に俯き「……ごめん」と言うのだった。

「おい、早く言え。言わねぇって事は肯定したって意味になんぞ」

 手首から視線を声のする方へと変える。石畳に座っている神代の前で、ヤンキー座りで睨む亮夜。

 俺はこの雰囲気が嫌いだ。緊張感がある。いや、気まずいというものだろうか。早く言ってくれ。早く話を進めてくれ。そう願うのだ。

 神代と視線が合う。彼女の表情から助けてや、どうにかしてなどの困った顔ではなく、ただ無表情に俺を見ていた。

「はぁ、そんなに睨まないでくれる? わかった言う。言うから……」

 そう言うと彼女は立ち上がり、ヤンキー座りしながらガン見する亮夜を無視して、東屋の階段に腰を落とす。

 亮夜、岩城が立ち上がり、彼女に近づくので俺も立ち上がる。

「ブギーマンは何しているんだ?」と思い、彼を見ると、赤青黄色の三色の球でジャグリングをしていた。

 何してるんだ? いや、彼を理解しようとしても意味ないか。

 視線を神代に戻す。彼女は脚を組み。口を開く。

「そう、私は嘘をついた。一人で解決しようとした」

 そのことに対して、俺は心から疑問に思ったことを質問した。

「なんで嘘をついたんだい?」

 全ての核心、物事の中心。俺はその理由が知りたい。

 彼女は「いや……から」と小さく呟く。

 正直聞き取れなかった。

「あ? なんて言った?」

 亮夜が手を組み大きな頭を傾けると、彼女は少し俯き首を振り「んん」と言う。

「今回のは私に来た依頼みたいなものなの。あの戦闘であなた達をすぐ逃すつもりだった」

「じゃ、なんで神代さんがグランドに飛んできたんだよ?」

「失敗したの。ベイカーって猿いたでしょ?」

 ベイカーと聞き、箒(ほうき)の上に乗っていた羽の生えた猿を思い出す。

「羽の生えた猿のことかい?」

「そう。私はあの猿を襲って、影の注意をひきたかった。でもあの魔女が現れた」

「で、あの有様ってわけか……」

 亮夜がそう言うと彼女に近づき、大声でこう叫ぶ。

「そんなのはどうでもいい!」

 びっくりした。

「えっ?」

 びっくりしたように見上げ、何回も瞬きをする神代。

「神代、あんた何か間違ってんじゃねぇか? 俺はな、嘘をついたことにムカついてんだよ! これは私の依頼? 俺たちを逃したかった? しょうもねぇ嘘言ってんじゃねぇぞ。関わったからにはもう仲間だ」

「あなたバカじゃないの?」

「あぁ、バカだ。テストなんて赤点だらけだ。でもよ、そのバカに絡んじまったあんたはもっと大バカだ」

「なにその理屈」

「つまり水島が言いたいのは、理屈関係なしに一緒に行動した時点で、仲間に入ってるんだよ」

「仲間……ね」

 彼女はまた下を向く。何を考えているのかはわからない。でも寂しそうに感じた。

「神代さん、一緒に戦わないかい?」

 俺は手を差し伸べるように彼女を誘った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

おっ☆パラ

うらたきよひこ
キャラ文芸
こんなハーレム展開あり? これがおっさんパラダイスか!? 新米サラリーマンの佐藤一真がなぜかおじさんたちにモテまくる。大学教授やガテン系現場監督、エリートコンサル、老舗料理長、はたまた流浪のバーテンダーまで、個性派ぞろい。どこがそんなに“おじさん心”をくすぐるのか? その天賦の“モテ力”をご覧あれ!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

処理中です...