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第一章 胡蝶の夢
第一章 第一話 覚醒
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「いいねぇ、燃えてきたぁ!」
そう言うと大男は俺に見せるように左手で投擲用ナイフ一本取り出し、それを三本に増やした。
「増えた!?」
この世界は驚くばかりだ。あれは手品か何かなのか?
大男は片手でナイフを指と指の間に挟み、それらを俺に投げてきた。
ナイフが俺に向かって飛んでくる。
少し驚いたが冷静に三本全て落とす。
それがいけなかった。大男が俺の目の前まで近づいていたのだ。
そうか、このナイフは視線をそらすためのものか、ヤバイくる!
右足に力を入れ、俺は逃げるように跳んだ。靴のつま先に何か触れたような感じ、足下を見るとマチェットナイフを振った大男の姿があった。
二メートルぐらい跳んでいるのではないだろうか。予想外な跳躍のため空中で一回転し、バランスを崩しながらなんとか着地する。
振り向くと大男もこちらを振り向いた。
右手に持っていたマチェットナイフを左手に持ち変えた瞬間、二本に増えていた。
またその手品か!
勢いよく襲ってくる鋭利な刃物が容赦なく何度も何度も俺を切り刻もうとする。獣の如く攻撃してくる大男は俺をただのおもちゃとしか見ていないのではないだろうかと思えた。なぜなら顔にこいつは面白い獲物だと書いているからだ。実際書いている訳ではなく、彼が笑いながら攻撃しているためだ。
正直なところ恐怖を感じている。
しかし、謎のゾーン体験が発動しているため、たかが六〇センチの剣で器用に受け流したり、回避しながらこの状況を脱する糸口を考えるしかないのであった。
「どうした、どうしたぁ? 反撃しないとぉ、傷だらけになるぜぇ!」
スッ!
あれ? 左腕に痛みを感じる。なんで? 切られた?
視線を左腕に向けたいが、向けたら……。
「余計なこと考えたっ! なぁ!」
ウッ!
太く、硬く、重い何かが鳩尾に衝撃が走らせた。外から見るとくの字になっているのではないだろうか、俺はそのまま飛ばされた。
視界が砂利、空、砂利、空、砂利、空と回る。止まったと思ったら、息ができない。全身で起き上がるように四つん這いになる。気になっていた左腕に目線をやると、傷口から血が流れていた。
「どうだぁ? 俺の丸太のような脚で蹴られた気分はようぅ?」
怖い。でも戦わなければ……。
はあ、はあ、はあ、はあ、はあ……。
自分の呼吸が聞こえる。苦しい。
肌がピリピリする。
足音が近づいてくる。立たなくては。
ヴッ!
右脇腹から鈍い音がした。苦しい。
「おい、おい、おいぃー。さっきまでの威勢はどうしたんだぁ?」
ヴッ!
右脇腹が痛い。サッカーボールみたいに蹴られたようだ。
「聞いてるかぁ!」
俺の髪の毛を引っ張り、無理矢理上体を起こし、笑いながら俺を見ている。彼の目に映るのは気絶寸前の俺の顔だった。
「まぁ、心配するなぁ。お前の魂(スピリット)は死んだイモリを遊ぶ猫のように戯れてから食ってやるからよぉ!」
マチェットナイフが振り上げられた。
俺、死ぬのか……。
マチェットナイフがゆっくり振り下ろされる。最後の最後でこのゾーン状態か、その刃物が俺の肉を切り、大量の血が吹いてゲームオーバー。
痛いのいやだなぁ。刃物が無ければ良いのに……。
それは予想外な言葉であった。切られたと思った瞬間、大男から発せられたのは「あぁ?」という一言である。
「えっ?」
それもそうだろう、なぜならマチェットナイフの刃物部分が無くなっていたからだ。無くなっていたと言っても、その部分が外れたという意味ではなく、消滅したというのが正しい。
大男は持ち手しかないマチェットナイフを見つめる。
「おい、どういうことだぁ? 斬ったと思ったら無くなったぞぉ!」
持ち手を捨て、新たに腰からマチェットナイフを抜き取ろうとした。しかし、鞘から抜いた瞬間、刃物の部分だけが蒸発した。
「なんなんだよぉ! これはぁ!」
その光景を見た大男は慌てて投擲用のナイフを取り出すが、それもまた刃物の部分だけ蒸発する。
「はぁ? はぁ? はぁぁぁ?」
大声で混乱する大男を横目に自分の剣を見ると、こちらも刃物の部分がなく、持ち手だけを握っていた。
「まぁいいぃ。切り刻んでやりたかったが、嬲り殺してやるぅ!」
パンッ!
どこかで銃声の音がした。その銃声を聞いた途端、大男の顔色が悪くなった。周囲を見渡し、何かに恐れているように感じた。
「くそぉ、運の良い奴だ。また会ってやるから、その時こそ、殺してやるぅっ!」
ヴッ!
大男は俺の鳩尾を一発殴り、慌てて逃げていくのだった。俯きに倒れる俺は足音が徐々に小さくなっていくのを感じながら、左手で鳩尾を抑えるのである。純粋に痛い。痛みを和らげるため大きく息を吐く。
はあああああああ
静寂な世界で聞こえるのは自分が吐く音だけ、俺は仰向けになり、なんとか生き残れたのを感じた。
「よかった」
意識が朦朧の中、最後に見たのは深い青い空に浮かぶ深紅色の太陽、まるで俺を睨んでいるように見えたので、俺も睨み返すのであった。
それが昨晩見た俺の夢である。
そう言うと大男は俺に見せるように左手で投擲用ナイフ一本取り出し、それを三本に増やした。
「増えた!?」
この世界は驚くばかりだ。あれは手品か何かなのか?
大男は片手でナイフを指と指の間に挟み、それらを俺に投げてきた。
ナイフが俺に向かって飛んでくる。
少し驚いたが冷静に三本全て落とす。
それがいけなかった。大男が俺の目の前まで近づいていたのだ。
そうか、このナイフは視線をそらすためのものか、ヤバイくる!
右足に力を入れ、俺は逃げるように跳んだ。靴のつま先に何か触れたような感じ、足下を見るとマチェットナイフを振った大男の姿があった。
二メートルぐらい跳んでいるのではないだろうか。予想外な跳躍のため空中で一回転し、バランスを崩しながらなんとか着地する。
振り向くと大男もこちらを振り向いた。
右手に持っていたマチェットナイフを左手に持ち変えた瞬間、二本に増えていた。
またその手品か!
勢いよく襲ってくる鋭利な刃物が容赦なく何度も何度も俺を切り刻もうとする。獣の如く攻撃してくる大男は俺をただのおもちゃとしか見ていないのではないだろうかと思えた。なぜなら顔にこいつは面白い獲物だと書いているからだ。実際書いている訳ではなく、彼が笑いながら攻撃しているためだ。
正直なところ恐怖を感じている。
しかし、謎のゾーン体験が発動しているため、たかが六〇センチの剣で器用に受け流したり、回避しながらこの状況を脱する糸口を考えるしかないのであった。
「どうした、どうしたぁ? 反撃しないとぉ、傷だらけになるぜぇ!」
スッ!
あれ? 左腕に痛みを感じる。なんで? 切られた?
視線を左腕に向けたいが、向けたら……。
「余計なこと考えたっ! なぁ!」
ウッ!
太く、硬く、重い何かが鳩尾に衝撃が走らせた。外から見るとくの字になっているのではないだろうか、俺はそのまま飛ばされた。
視界が砂利、空、砂利、空、砂利、空と回る。止まったと思ったら、息ができない。全身で起き上がるように四つん這いになる。気になっていた左腕に目線をやると、傷口から血が流れていた。
「どうだぁ? 俺の丸太のような脚で蹴られた気分はようぅ?」
怖い。でも戦わなければ……。
はあ、はあ、はあ、はあ、はあ……。
自分の呼吸が聞こえる。苦しい。
肌がピリピリする。
足音が近づいてくる。立たなくては。
ヴッ!
右脇腹から鈍い音がした。苦しい。
「おい、おい、おいぃー。さっきまでの威勢はどうしたんだぁ?」
ヴッ!
右脇腹が痛い。サッカーボールみたいに蹴られたようだ。
「聞いてるかぁ!」
俺の髪の毛を引っ張り、無理矢理上体を起こし、笑いながら俺を見ている。彼の目に映るのは気絶寸前の俺の顔だった。
「まぁ、心配するなぁ。お前の魂(スピリット)は死んだイモリを遊ぶ猫のように戯れてから食ってやるからよぉ!」
マチェットナイフが振り上げられた。
俺、死ぬのか……。
マチェットナイフがゆっくり振り下ろされる。最後の最後でこのゾーン状態か、その刃物が俺の肉を切り、大量の血が吹いてゲームオーバー。
痛いのいやだなぁ。刃物が無ければ良いのに……。
それは予想外な言葉であった。切られたと思った瞬間、大男から発せられたのは「あぁ?」という一言である。
「えっ?」
それもそうだろう、なぜならマチェットナイフの刃物部分が無くなっていたからだ。無くなっていたと言っても、その部分が外れたという意味ではなく、消滅したというのが正しい。
大男は持ち手しかないマチェットナイフを見つめる。
「おい、どういうことだぁ? 斬ったと思ったら無くなったぞぉ!」
持ち手を捨て、新たに腰からマチェットナイフを抜き取ろうとした。しかし、鞘から抜いた瞬間、刃物の部分だけが蒸発した。
「なんなんだよぉ! これはぁ!」
その光景を見た大男は慌てて投擲用のナイフを取り出すが、それもまた刃物の部分だけ蒸発する。
「はぁ? はぁ? はぁぁぁ?」
大声で混乱する大男を横目に自分の剣を見ると、こちらも刃物の部分がなく、持ち手だけを握っていた。
「まぁいいぃ。切り刻んでやりたかったが、嬲り殺してやるぅ!」
パンッ!
どこかで銃声の音がした。その銃声を聞いた途端、大男の顔色が悪くなった。周囲を見渡し、何かに恐れているように感じた。
「くそぉ、運の良い奴だ。また会ってやるから、その時こそ、殺してやるぅっ!」
ヴッ!
大男は俺の鳩尾を一発殴り、慌てて逃げていくのだった。俯きに倒れる俺は足音が徐々に小さくなっていくのを感じながら、左手で鳩尾を抑えるのである。純粋に痛い。痛みを和らげるため大きく息を吐く。
はあああああああ
静寂な世界で聞こえるのは自分が吐く音だけ、俺は仰向けになり、なんとか生き残れたのを感じた。
「よかった」
意識が朦朧の中、最後に見たのは深い青い空に浮かぶ深紅色の太陽、まるで俺を睨んでいるように見えたので、俺も睨み返すのであった。
それが昨晩見た俺の夢である。
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