【中華ファンタジー】天帝の代言人~わけあって屁理屈を申し上げます~

あかいかかぽ

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第4-16話 反撃

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 意志を両目に込めて睨みあげた。

「照勇、逃げろ!」

 李高が蓮至を後ろから羽交締はがいじめにした。
 いましめを解かれたとたん、ぶざまに尻餅をついた。腰をおこして数歩後退する。しかし逃げるつもりはなかった。
 ここから反撃だ。

「どけ! 部外者を無駄に殺したくはないんだ!」

 蓮至は肩越しに李高にすごんだ。

「なにが関係ないだ。おれは照勇の保護者だぞ!」

「照……勇……!?」

「うおおおおおおお!」

 照勇は雄叫びをあげながら蓮至めがけて突進した。
 頭突きだ。蓮至の腹部で、メリ、という音がした。
 蓮至の手から剣が滑り落ちる。獣のように呻き、両手で腹を押さえて、蓮至はその場に膝を折った。
 李高は真っ先に剣を拾うと蓮至に突きつけた。剣先がぴたりと蓮至の急所を狙う。その姿はとてもさまになっていた。

 だが蓮至の視界には照勇しか映っていなかった。

「……照勇さま、ご無事だったのですか……?」

「ん……?」

「照勇さま、ご立派です。軟弱な質だと思っていましたがこんなに根性があったとは」

 地面に倒れたまま、蓮至はさめざめと涙を流した。

「なにを言ってるんだ、こいつ」

 李高はすっかり毒気を抜かれたようだ。
 照勇はおのれの顔が強ばっていることに気づいていた。
 怒るべきか泣くべきか、それとも笑うべきか。いま、自分は複雑な表情をしているに違いない。

「照勇だと知らずにぼくを殺そうとしたの?」

「……遺体を回収できなかったので、代わりが必要だったんです。ふと、妓楼で会った見習い娘が照勇さまとよく似ていたことを思い出して……首だけなら性別はわからない。しかし妓楼に戻ったときには、すでにあなたは姿を消していた。関係先を丹念に追ってようやく見つけたと思ったら……本人だったとは」

「ぼくの代わりに無関係の少女を殺そうとしたんだね、蓮至は」冷気を吸った肺が痛む。「で、どうするの。ぼくを殺すの。本物の首なら目の前にあるよ」

「照勇さま、誤解されております。わたしは照勇さまの死を望んでいるわけでは──」

「じゃあ、あの殺し屋はなに。なんで一緒にいたの。彼らはいまどこにいるの。暗殺の密命を帯びてぼくを狙ったんでしょう。そのせいで石栄は殺されたんだよ。蓮至が殺したのも同然じゃないか」

「照勇さま、すみません」

「ショウゼンって誰だよ。蓮至たちはショウゼンの命令でぼくを殺したいんだろ!?」

 妓楼で耳にした名前を照勇は問うた。
 くわと目を見開いて、蓮至は身体を起こした。

「照全さまは皇統の一人とは聞いています。ですが実はわたしもよくわからないのです。詳しいことは暗殺隊が……彼らと一緒にいた理由は……いえ、そんなことより、照勇さま、逃げましょう。あの三人はもうすぐここに現れます」

 四人は東西南北にわかれて『五娘』を追っているという。夜明けまでに蓮至が集合場所に戻らないと捜しにやってくるというのだ。

「信用できない」

「ではわたしを殺してください」

 蓮至が首もとの髪を横に垂らした。切断しやすいように頸動脈けいどうみゃくをさらしたのだ。

「殺しはしない。まだ聞きたいことがある。立つんだ、蓮至」

 すると李高が真顔で照勇をとめた。

「待て、照勇。なんでおまえが命を狙われているのかは知らないが、こいつはいまここで始末したほうがいい」

「そういうわけにはいかないよ。この人には恩がある。ぼくの父親代わりをしてくれた人だから……」

 十年間ぼくを育ててくれたのは沢蓮至だ。慈しんでもらったと感謝している。
 知りたいこともたくさんある。いつから、どういった理由で、ぼくは殺されなければならない存在になったのか。
 たとえ納得できても、殺されるわけにはいかないけれど。

「照勇さま、わたしが知っている限りのすべてをお話しいたします」

 蓮至はゆっくりと立ち上がった。両手を差し出す。

「手を縛っていただいてけっこうです。……それでも不安でしたら、片腕を切り落としてください」

 蓮至は右腕を李高の持つ剣の刃に垂直にあてた。皮膚に一条の赤い線が浮かぶ。

「あ……」

 気圧されたのか、李高が一歩下がる。

「どうぞ遠慮なく」

「……協力的すぎて引くわ-。どうしようか、照勇」

「聞きたいことを聞いたら、手足を縛ってここに放置しよう。仲間が来るなら死ぬことはないだろう。李高さん、もし蓮至がへんな動きをしたら……始末してください」

「お……、おう!」

 照勇は相手の目をえぐるような気持ちで蓮至の顔を覗き込んだ。

 殺したくはない。だが口だけの脅しと思われたら、舐められる。蓮至と別れた数日間で、ぼくは鍛えられた。まずもっとも聞きたかったことから訊ねることにした。

「ぼくは何者なの?」

「……すでに、答えを知っているのでは……」

「とある偉い人の……孫……?」

「はい……」

 蓮至はちらと李高を盗み見た。どこまで知っているのかを計りかねているのだろう。
空気を読んだのか、李高が目をまたたかせた。

「あれ……おれは聞かないほうがいい話かな……?」
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