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第三章 方向指示器

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「おれは自分がやりたいことを目指すのは大賛成だ!」

 気づいたら心の声が駄々漏れていた。勢いのまま一気に放出する。

「やりたいことがとくにないおれが言うのはおこがましいけど、おれは花音さんを応援しますよ!」
「あ、ありがとう、ございます……!」

 花音はきっと言われ慣れていないのだろう、珍しいものを見るような顔つきになった。
 そして花音はおれを見つめたまま、ぐっと拳を握って、おそらく言いたかったけど言わないでいたことを吐き出した。

「刑事の適正にジェンダーは関係ないことを、証明したいんです、わたし!」

 警察の中でも外でも、花音は鬱屈を抱えていたに違いない。

「わかるよ。おれは外働きは苦手だけど、家事は大好きなんだ。家事代行サービスに登録して働こうかと思ってたんだけど、男が登録すんのはおかしいのかなってためらっていた。いや、おかしくないよな。なにびびってるんだ、おれ。ジェンダーには役割があるなんて考え方は雑だよな。他人に生き方を否定されたり規定されたくない、だよな」
「はい、おかげで勇気が出ました。当たって砕けろの精神で頑張ってみます!」

 後ろ手に縛られた情けない姿で、犯人の疑いが晴れていないやつが、警察官を励ましているのは客観的に見ておかしいだろうな。
 と思っていたら、やはりオカチンが食いついた。

「無責任にけしかけんなよ!」

 おれの頭をこづいたオカチンを花音がとめる。

「わたしが決めたことはわたしが責任を取ります。太郎さんに暴力をふるわないでください!」

 やはり花音はオカチンにはもったいない。
 などとしみじみと感慨に耽っていたら、除霊師と幽霊をすっかり忘却していた。
 だから右腕がぴょこんと跳ね起きたのを目にして、

「うひゃ……っ!?」

 おもわず悲鳴をあげた。
 花音とオカチンが怪訝な顔をする。彼らに見せたい。右手がダウジングのように方向を指し示しているのところを。

「あっちか」

 双葉はすたすたと歩き出した。カラオケ店のある方角だ。

「ちょ、ちょっと待ちなさい。待たないと補導するわよ」

 花音はそう呼びかけながら、オカチンとおれを連れて除霊師のあとを追いかけた。
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