29 / 53
第三章 方向指示器
7
しおりを挟む
「おれは自分がやりたいことを目指すのは大賛成だ!」
気づいたら心の声が駄々漏れていた。勢いのまま一気に放出する。
「やりたいことがとくにないおれが言うのはおこがましいけど、おれは花音さんを応援しますよ!」
「あ、ありがとう、ございます……!」
花音はきっと言われ慣れていないのだろう、珍しいものを見るような顔つきになった。
そして花音はおれを見つめたまま、ぐっと拳を握って、おそらく言いたかったけど言わないでいたことを吐き出した。
「刑事の適正にジェンダーは関係ないことを、証明したいんです、わたし!」
警察の中でも外でも、花音は鬱屈を抱えていたに違いない。
「わかるよ。おれは外働きは苦手だけど、家事は大好きなんだ。家事代行サービスに登録して働こうかと思ってたんだけど、男が登録すんのはおかしいのかなってためらっていた。いや、おかしくないよな。なにびびってるんだ、おれ。ジェンダーには役割があるなんて考え方は雑だよな。他人に生き方を否定されたり規定されたくない、だよな」
「はい、おかげで勇気が出ました。当たって砕けろの精神で頑張ってみます!」
後ろ手に縛られた情けない姿で、犯人の疑いが晴れていないやつが、警察官を励ましているのは客観的に見ておかしいだろうな。
と思っていたら、やはりオカチンが食いついた。
「無責任にけしかけんなよ!」
おれの頭をこづいたオカチンを花音がとめる。
「わたしが決めたことはわたしが責任を取ります。太郎さんに暴力をふるわないでください!」
やはり花音はオカチンにはもったいない。
などとしみじみと感慨に耽っていたら、除霊師と幽霊をすっかり忘却していた。
だから右腕がぴょこんと跳ね起きたのを目にして、
「うひゃ……っ!?」
おもわず悲鳴をあげた。
花音とオカチンが怪訝な顔をする。彼らに見せたい。右手がダウジングのように方向を指し示しているのところを。
「あっちか」
双葉はすたすたと歩き出した。カラオケ店のある方角だ。
「ちょ、ちょっと待ちなさい。待たないと補導するわよ」
花音はそう呼びかけながら、オカチンとおれを連れて除霊師のあとを追いかけた。
気づいたら心の声が駄々漏れていた。勢いのまま一気に放出する。
「やりたいことがとくにないおれが言うのはおこがましいけど、おれは花音さんを応援しますよ!」
「あ、ありがとう、ございます……!」
花音はきっと言われ慣れていないのだろう、珍しいものを見るような顔つきになった。
そして花音はおれを見つめたまま、ぐっと拳を握って、おそらく言いたかったけど言わないでいたことを吐き出した。
「刑事の適正にジェンダーは関係ないことを、証明したいんです、わたし!」
警察の中でも外でも、花音は鬱屈を抱えていたに違いない。
「わかるよ。おれは外働きは苦手だけど、家事は大好きなんだ。家事代行サービスに登録して働こうかと思ってたんだけど、男が登録すんのはおかしいのかなってためらっていた。いや、おかしくないよな。なにびびってるんだ、おれ。ジェンダーには役割があるなんて考え方は雑だよな。他人に生き方を否定されたり規定されたくない、だよな」
「はい、おかげで勇気が出ました。当たって砕けろの精神で頑張ってみます!」
後ろ手に縛られた情けない姿で、犯人の疑いが晴れていないやつが、警察官を励ましているのは客観的に見ておかしいだろうな。
と思っていたら、やはりオカチンが食いついた。
「無責任にけしかけんなよ!」
おれの頭をこづいたオカチンを花音がとめる。
「わたしが決めたことはわたしが責任を取ります。太郎さんに暴力をふるわないでください!」
やはり花音はオカチンにはもったいない。
などとしみじみと感慨に耽っていたら、除霊師と幽霊をすっかり忘却していた。
だから右腕がぴょこんと跳ね起きたのを目にして、
「うひゃ……っ!?」
おもわず悲鳴をあげた。
花音とオカチンが怪訝な顔をする。彼らに見せたい。右手がダウジングのように方向を指し示しているのところを。
「あっちか」
双葉はすたすたと歩き出した。カラオケ店のある方角だ。
「ちょ、ちょっと待ちなさい。待たないと補導するわよ」
花音はそう呼びかけながら、オカチンとおれを連れて除霊師のあとを追いかけた。
2
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
【完結】雨上がり、後悔を抱く
私雨
ライト文芸
夏休みの最終週、海外から日本へ帰国した田仲雄己(たなか ゆうき)。彼は雨之島(あまのじま)という離島に住んでいる。
雄己を真っ先に出迎えてくれたのは彼の幼馴染、山口夏海(やまぐち なつみ)だった。彼女が確実におかしくなっていることに、誰も気づいていない。
雨之島では、とある迷信が昔から吹聴されている。それは、雨に濡れたら狂ってしまうということ。
『信じる』彼と『信じない』彼女――
果たして、誰が正しいのだろうか……?
これは、『しなかったこと』を後悔する人たちの切ない物語。
後悔と快感の中で
なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私
快感に溺れてしまってる私
なつきの体験談かも知れないです
もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう
もっと後悔して
もっと溺れてしまうかも
※感想を聞かせてもらえたらうれしいです
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~
榊シロ
ホラー
【1~4話で完結する、語り口調の短編ホラー集】
ジャパニーズホラー、じわ怖、身近にありそうな怖い話など。
八尺様 や リアルなど、2chの 傑作ホラー の雰囲気を目指しています。
現在 100話 越え。
エブリスタ・カクヨム・小説家になろうに同時掲載中
※8/2 Kindleにて電子書籍化しました
【総文字数 700,000字 超え 文庫本 約7冊分 のボリュームです】
【怖さレベル】
★☆☆ 微ホラー・ほんのり程度
★★☆ ふつうに怖い話
★★★:旧2ch 洒落怖くらいの話
『9/27 名称変更→旧:ある雑誌記者の記録』
月曜日の方違さんは、たどりつけない
猫村まぬる
ライト文芸
「わたし、月曜日にはぜったいにまっすぐにたどりつけないの」
寝坊、迷子、自然災害、ありえない街、多元世界、時空移動、シロクマ……。
クラスメイトの方違くるりさんはちょっと内気で小柄な、ごく普通の女子高校生。だけどなぜか、月曜日には目的地にたどりつけない。そしてそんな方違さんと出会ってしまった、クラスメイトの「僕」、苗村まもる。二人は月曜日のトラブルをいっしょに乗り越えるうちに、だんだん互いに特別な存在になってゆく。日本のどこかの山間の田舎町を舞台にした、一年十二か月の物語。
第7回ライト文芸大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる