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第二章 わたしが殺したあなた

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「……なるほど、ええ、息子さんの三回忌ですね。その日の真裕美さんの言動は普段と変わったところはありませんでしたか」

 法事の話から推測されたのね。当然のことだわ。それにしても、わたしの言動って、それじゃあまるで……。

「落ち着いていらっしゃいますよ。ごくまっとうに見えます」

 仙師さまがちらりと視線を寄こす。どういう意味でおっしゃってるのかしら。

「え、これからですか。……はい、ではお待ちしております。真裕美さんにかわりますね」
『真裕美』

 機器を通した夫の声は緊張しているのか、しわがれて聞こえた。

『いまから迎えに行くから、そこで待ってなさい』
「ここで?」
『除霊師に相談するなんてどうかしてるよ。わたしが行くまで絶対に動いてはいけないよ、いいね』

 返事に戸惑っていると一方的に通話が切れた。

「変な人」
「心配されているんですよ」
「でも、あの人もここにいたのに。同じ地面に立っていたのよ。それなのに、どうかしてるだなんて。わたしの気持ちをわかってくれないなんて」

 仙師さまは少し口ごもってから、信じられないことを言った。

「幻ではないかと。白昼夢を見たのだとおっしゃってました」
「ウソよ。一昨日、法事のあと、ここを散策したのよ、一緒に。わたしが満開のツツジに見惚れていたら、すたすたと先に歩いていったけど、すぐに駆け戻ってくれて……」
「たしかにそうおっしゃってましたが……あなたが突然もがきだしたと。目に見えない誰かの首を絞める動作をしていたことはたしかだが、演技にしては迫真だったと電話でおっしゃってました」
「演技……なんてこと」

 夫はわたしの気が触れたとでも思っているのかもしれない。だとしたら、ちゃんと話をしなくては。息子のつぎに夫までうしなうのは耐えられない。

 ガサリ。ツツジが大きく揺れ、ガサガサ、バキバキと音がして、十代半ばとおぼしき少女がひょいと顔を出した。
 まるでかくれんぼでもしていたかのような屈託のなさで仙師さまに「おつかれ」と声をかける。
 白いパーカーには小枝や草の葉、泥がついている。地面を這いずってでもいたかのよう。顔つきは品がない上にありふれた造作で印象に残りそうにない。

「こ、これは双葉師匠……!」

 聞き間違いかしら。『師匠』ですって。

「残念だけど、まったく収穫なかったわ。殺人事件があった公園だっていうから期待してきたんだけど、ちゃんと成仏してるみたいね」
「期待されていたのなら、今回は弟子に譲るべきでは」

 仙師さまは『弟子』と言うときにみずからを指した。ということはこの少女が、さきほど電話されていた上司なのだろうか。上司にして師匠。年功序列ではなく実力主義なのかしら。だとしたら、この少女は……。

「あの、失礼ですが」
「桜井さんですね、おかまいなく。弟子の仕事ぶりを見に来ただけですから。ほら、仙師。続けなさいな」
「いえ、もうやることがないんですよ。ご主人が来るのを待っているところです」
「待ってどうすんのよ。依頼人をご主人に引き渡して終わりにするつもりじゃないでしょうね」
「もちろんそんなことは。しかしご主人を交えて話をすることでよりはっきりと見えてくることもあるんじゃないかと」
「ははあ、すでに仮説があるのね」

「夫がもし本当に」師弟関係なんかわたしは知らない。だから知らん顔をして割って入った。「わたしの言動に疑いを持っているのなら、除霊師のあなたがたの話も信じないと思います。立派な人ですが現実的な思考の持ち主ですし」

 仙師さまは気の毒そうな表情でわたしを見つめた。

「やめてください、その顔」
「は、はい……?」
「わたしは同情されるような女ではありませんの。病んでいるというなら病院にも行きましょう。仙師さまの口からはっきりと見立てをおっしゃってください。ひとつの意見としてうかがいますわ」
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