公爵夫人(55歳)はタダでは死なない

あかいかかぽ

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「ガイはテオのことをわかってないわ。テオは優しいのよ。争うことが嫌いな人なの」

 アシュリーは必死でテオをかばおうとする。

「わかったから。私にまかせなさい」

 ガイは裏庭にいた。
 足音が聞こえたのか、振り返ってサラを見ると、頭を振り払うようにして横を向く。

「アシュリーのお腹の子は、あなたの弟か妹みたいね」

「……どこに逃げやがった、あの野郎」

「逃げたかどうかはまだわからないわ。どこかでアシュリーを見守っているかも」

「だとしても、俺の姿を見たら、やはり逃げ出すだろう。アシュリーを警察に引き渡す気はないか?」

「警察に?」

「公爵邸のものを盗んだだろ」

「まあ、それはそうだけど。あ、わかったわ。アシュリーを心配してテオが現れるかもしれないと期待してるのね」

「……期待はしていないが」

「でもアシュリーが可哀想だわ」

 泥棒は理由を問わず死罪。ただし妊娠している場合、刑の執行は分娩後。16に満たない子供は16を越えてから執行する、と決まっている。
 少しばかり延命するとはいえ、その間に、もしテオが現れなかったら、アシュリーの落胆ははかりしれない。

「それに、ガイが罰したいのはアシュリーではなくテオなのでしょう。憎んでいるのね、お父様を」

 ガイは首を振った。

「公爵が被害届を出さない限り、アシュリーは罪に問われないな」

「詐欺にあった上に泥棒されて逃げられたなんて、ノースは絶対に口外しないわ。恥の上塗りですもの。そういえば、アシュリーが言っていたのだけど、ガイが金で交渉しようとしてきたって」

「ああ。金をちらつかせて舞台から降りてもらおうとこっそりと交渉したんだ。すげー目で睨まれて『絶対に別れない』と言われたが」

「公爵と別れない、ではなくて、テオである貴方とは別れない、と言ったつもりだったのかも」

 ガイは大きな溜息をついた。

「てっきりアシュリーが黒うさぎなのかと思ったが」

「え?」

「違うようだ。リリベリー伯爵邸に黒うさぎが盗みに入ったのは一か月前。身重の身体で忍び込むのは難しいだろう。それにアシュリーは目が悪い。俺とテオを見間違うほどのひどい視力だ」

「怪盗黒うさぎの正体なんて考えたことがなかったわ。なんでアシュリーかもしれないと思ったの」

「公爵邸のものを盗んだからだ。……冷静に考えたらアシュリーが盗んだのは上等とはいえ生活用品だ。そこらの古道具屋に売れるようなものだな。黒うさぎは貴金属や宝石を狙う」

「しかも黒うさぎは目利きですわ。価値の高いものを選んでいます。でも売るのは苦労するでしょうね。国内だとすぐに足がつくんじゃないかしら」

「どこかに逃げたテオなんか怪しいな」

「まあ。お父様を泥棒と疑うなんて…………ありえますわね。ところで、荘園の売却はどうなりましたの?」

(そして、わたくしの離婚の進展は?)

「きゃー----!!」

 絹を裂くようなアシュリーの声が響いた。
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