63 / 89
63
しおりを挟む
「ガイはテオのことをわかってないわ。テオは優しいのよ。争うことが嫌いな人なの」
アシュリーは必死でテオをかばおうとする。
「わかったから。私にまかせなさい」
ガイは裏庭にいた。
足音が聞こえたのか、振り返ってサラを見ると、頭を振り払うようにして横を向く。
「アシュリーのお腹の子は、あなたの弟か妹みたいね」
「……どこに逃げやがった、あの野郎」
「逃げたかどうかはまだわからないわ。どこかでアシュリーを見守っているかも」
「だとしても、俺の姿を見たら、やはり逃げ出すだろう。アシュリーを警察に引き渡す気はないか?」
「警察に?」
「公爵邸のものを盗んだだろ」
「まあ、それはそうだけど。あ、わかったわ。アシュリーを心配してテオが現れるかもしれないと期待してるのね」
「……期待はしていないが」
「でもアシュリーが可哀想だわ」
泥棒は理由を問わず死罪。ただし妊娠している場合、刑の執行は分娩後。16に満たない子供は16を越えてから執行する、と決まっている。
少しばかり延命するとはいえ、その間に、もしテオが現れなかったら、アシュリーの落胆ははかりしれない。
「それに、ガイが罰したいのはアシュリーではなくテオなのでしょう。憎んでいるのね、お父様を」
ガイは首を振った。
「公爵が被害届を出さない限り、アシュリーは罪に問われないな」
「詐欺にあった上に泥棒されて逃げられたなんて、ノースは絶対に口外しないわ。恥の上塗りですもの。そういえば、アシュリーが言っていたのだけど、ガイが金で交渉しようとしてきたって」
「ああ。金をちらつかせて舞台から降りてもらおうとこっそりと交渉したんだ。すげー目で睨まれて『絶対に別れない』と言われたが」
「公爵と別れない、ではなくて、テオである貴方とは別れない、と言ったつもりだったのかも」
ガイは大きな溜息をついた。
「てっきりアシュリーが黒うさぎなのかと思ったが」
「え?」
「違うようだ。リリベリー伯爵邸に黒うさぎが盗みに入ったのは一か月前。身重の身体で忍び込むのは難しいだろう。それにアシュリーは目が悪い。俺とテオを見間違うほどのひどい視力だ」
「怪盗黒うさぎの正体なんて考えたことがなかったわ。なんでアシュリーかもしれないと思ったの」
「公爵邸のものを盗んだからだ。……冷静に考えたらアシュリーが盗んだのは上等とはいえ生活用品だ。そこらの古道具屋に売れるようなものだな。黒うさぎは貴金属や宝石を狙う」
「しかも黒うさぎは目利きですわ。価値の高いものを選んでいます。でも売るのは苦労するでしょうね。国内だとすぐに足がつくんじゃないかしら」
「どこかに逃げたテオなんか怪しいな」
「まあ。お父様を泥棒と疑うなんて…………ありえますわね。ところで、荘園の売却はどうなりましたの?」
(そして、わたくしの離婚の進展は?)
「きゃー----!!」
絹を裂くようなアシュリーの声が響いた。
アシュリーは必死でテオをかばおうとする。
「わかったから。私にまかせなさい」
ガイは裏庭にいた。
足音が聞こえたのか、振り返ってサラを見ると、頭を振り払うようにして横を向く。
「アシュリーのお腹の子は、あなたの弟か妹みたいね」
「……どこに逃げやがった、あの野郎」
「逃げたかどうかはまだわからないわ。どこかでアシュリーを見守っているかも」
「だとしても、俺の姿を見たら、やはり逃げ出すだろう。アシュリーを警察に引き渡す気はないか?」
「警察に?」
「公爵邸のものを盗んだだろ」
「まあ、それはそうだけど。あ、わかったわ。アシュリーを心配してテオが現れるかもしれないと期待してるのね」
「……期待はしていないが」
「でもアシュリーが可哀想だわ」
泥棒は理由を問わず死罪。ただし妊娠している場合、刑の執行は分娩後。16に満たない子供は16を越えてから執行する、と決まっている。
少しばかり延命するとはいえ、その間に、もしテオが現れなかったら、アシュリーの落胆ははかりしれない。
「それに、ガイが罰したいのはアシュリーではなくテオなのでしょう。憎んでいるのね、お父様を」
ガイは首を振った。
「公爵が被害届を出さない限り、アシュリーは罪に問われないな」
「詐欺にあった上に泥棒されて逃げられたなんて、ノースは絶対に口外しないわ。恥の上塗りですもの。そういえば、アシュリーが言っていたのだけど、ガイが金で交渉しようとしてきたって」
「ああ。金をちらつかせて舞台から降りてもらおうとこっそりと交渉したんだ。すげー目で睨まれて『絶対に別れない』と言われたが」
「公爵と別れない、ではなくて、テオである貴方とは別れない、と言ったつもりだったのかも」
ガイは大きな溜息をついた。
「てっきりアシュリーが黒うさぎなのかと思ったが」
「え?」
「違うようだ。リリベリー伯爵邸に黒うさぎが盗みに入ったのは一か月前。身重の身体で忍び込むのは難しいだろう。それにアシュリーは目が悪い。俺とテオを見間違うほどのひどい視力だ」
「怪盗黒うさぎの正体なんて考えたことがなかったわ。なんでアシュリーかもしれないと思ったの」
「公爵邸のものを盗んだからだ。……冷静に考えたらアシュリーが盗んだのは上等とはいえ生活用品だ。そこらの古道具屋に売れるようなものだな。黒うさぎは貴金属や宝石を狙う」
「しかも黒うさぎは目利きですわ。価値の高いものを選んでいます。でも売るのは苦労するでしょうね。国内だとすぐに足がつくんじゃないかしら」
「どこかに逃げたテオなんか怪しいな」
「まあ。お父様を泥棒と疑うなんて…………ありえますわね。ところで、荘園の売却はどうなりましたの?」
(そして、わたくしの離婚の進展は?)
「きゃー----!!」
絹を裂くようなアシュリーの声が響いた。
10
あなたにおすすめの小説
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
【完結】剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ
O.T.I
ファンタジー
かつて王国騎士団にその人ありと言われた剣聖ジスタルは、とある事件をきっかけに引退して辺境の地に引き籠もってしまった。
それから時が過ぎ……彼の娘エステルは、かつての剣聖ジスタルをも超える剣の腕を持つ美少女だと、辺境の村々で噂になっていた。
ある時、その噂を聞きつけた辺境伯領主に呼び出されたエステル。
彼女の実力を目の当たりにした領主は、彼女に王国の騎士にならないか?と誘いかける。
剣術一筋だった彼女は、まだ見ぬ強者との出会いを夢見てそれを了承するのだった。
そして彼女は王都に向かい、騎士となるための試験を受けるはずだったのだが……
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる