公爵夫人(55歳)はタダでは死なない

あかいかかぽ

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「ノエル夫人の家になんと、あの怪盗黒うさぎが出たんですって。……ご存じかしら、黒うさぎ。あら、やっぱり有名なのね。ごっそりと盗まれたそうよ。その指輪は盗まれたもののひとつなんですって。届けてよかったわ。ノエル夫人と楽しい時間を過ごせたし。ふふ、美味しいケーキと紅茶を振る舞っていただいたのよ。ケーキはバニラの香りがとても……あら、どうしたんですの。顔色がとても悪いですわ」

 リカルドは血の気の失せた顔をぶるぶると振った。

「でも、おかしいでしょう。なんでお魚のお腹にあったのかしら。そうだ、リカルドが持って帰ったお魚からなにか出てこなかったの? あら、そうなの。では、わたくしが見つけた指輪だけだったのね。でも……どういうことかしら。黒うさぎが落としていったのかしら。でも、リリベリー伯爵家は公爵の領地と近くはないわ。この町を真ん中にしてちょうど反対側になるじゃない、伯爵のお屋敷は。逃走経路で誤って落としたとは考えにくいわよね。あら、わたくしったら、ごめんなさい」

 サラは一方的に話をしていたことに気づいた。リカルドは小刻みに震えている。

「具合が悪いのではなくて?」

「ああ、そう、そうなんだ。風邪を引いてしまって」

「それはいけませんね。ピーちゃんのせいでないといいのですけど」

「関係ない。関係ないから、では」

「あ、あの……?」

 拒絶するように扉が閉ざされた。リカルドの体調がすぐれないことを見抜けずに長話をしてしまったことを反省して、サラは部屋に戻った。

「大家さんにキッチンを借りて、しょうがスープでも作ってさしあげようかしら」

 そう思い立ったとき、またも戸をノックする音が聞こえてきた。

「また大家さんかしら、ちょうどいいわ」

 どうぞと促して現れた姿にサラは面食らった。

「……なぜ?」

「入ってもいいかしら」

 そこに立っていたのはアシュリーだった。

(よくものこのこと顔を見せられたものね)

 内心の思いを顔に出さないように気をつけながら、アシュリーを部屋に通した。

「ベッドに腰掛けてちょうだい」

「お気遣いありがとう。座らせてもらうわ」

 素直に礼を言うアシュリーに首をひねった。まとう雰囲気が今までとはどこか異なっている。

「これを返そうと思って」

 アシュリーが差し出した物は、サラの両親が写っている写真だった。

「他には?」

「……お金は、隠れ家の手配に使ってしまったので、もう残ってないの」

「あら、そうなの。お腹の子の父親と住むのかしら」

「やはりバレたのね。公爵だけは騙しとおしたかったけど、知られてしまったのね」
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