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「アシュリーにすっかり自信を奪われたようね」

「よ、よくわかったな。わしがここにいると……」

 急に老けこんでしまった公爵に、サラはかける言葉がなかった。

「ガイ、元気を取り戻すにはどうしたらいいのかしらね」

「もう一度誰かと恋でもなさっては。恋が面倒なら再婚相手でも探せばいい。町には結婚相談所がありますよ。公爵の地位はアドバンテージでしょう」

 ガイの提案にサラは目を丸くした。

「結婚相談所。そんなものがありますの?」

「職業あっせん所には行ったんでしょう? その隣ですよ。もちろん、貴族の相談者は少ないでしょうけどね」

「あら、気がつかなかったわ。ちょっと興味がありますわね。あなた、今度気晴らしに一緒に行きましょうか?」

「だ、誰が行くもんか。恥の上塗りだ」

「わたくしは興味あるわ」

「サラ、まさか再婚を考えているんじゃないだろうな。年を考えろ、年を。55歳のばあさんだぞ」

「わかってますわよ。あなたは60歳のおじいさん」

 サラの眉間にはしわが、公爵の顔には血管が浮いた。

「はっはっは。55のばあさんなんて誰が相手になんかするもんか。鏡を見ろ」

「すっかり元気になりましたわね。これで心置きなく離婚できますわ」

「離婚してもおまえが惨めなだけだぞ」

「あら、わたくしだって頑張れば、新しい恋を楽しめると思いましてよ」

 新しい恋人ができるかはともかく、恋をすることはできるだろう。ときめきを取り戻したい。サラはつんと顎をそらせた。

「ぶははは」

 公爵はさっきまで落ち込んでいたのが嘘のようにサラを嘲笑った。

「ドライフルーツのばあさんが恋だって。おいおい、あんまり笑わせてくれるな。恥をかくだけだ、やめておけ」

「……そうですかねえ。俺はそんなこともないと思うけど」

 ガイがぽそりと呟いた。サラの胸がどきんと鳴る。

「ガイくんとやら。サラに雇われているからといって依頼人を持ち上げることはないぞ」

「そんなことより、公爵。階下に客人を待たせていることを思い出してください」

「ああ、そうだな。うん、売買の件、進めようか」

 哄笑して気分がよくなったのか、公爵は率先して歩いて行った。もう足を引きづってはいない。

(自分が惨めだからって、わたくしまで惨めな思いをさせて、しかも自分だけ気分がよくなってるなんて、許せないわ。ぜったいにぜったいに、見返してやるんだから)



 リビングで売買の話が進むのを横目に、サラはすべてをガイにまかせて公爵邸を辞することにした。

「帰るのか? まだなにも決まっていないのに」

 公爵は不満げに眉をくもらせた。勝手なものだ。

「わたくしがいてもお役には立てないわ。結果だけ知らせてくれたらけっこうよ」
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