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 公爵は顔を真っ赤にして怒ったが、トールはにやりと笑んだ。金目のものがまだあると聞けて安心したのだろう。

(トールなら屋敷ごと売り払わせてしまうかもしれないわ。言いくるめることにかけては才能がある人だもの)

 サラは横目でトールを見た。するとトールがサラの視線をまともに受けて、薄く微笑んできた。

(憎たらしい)

 余裕を取り戻して、すっかり慢心している顔だ。サラも負ける気はない。張り合って微笑み返した。

「はい、ちょっとすみません」

 サラとトールの微笑み合戦の間にガイが割って入った。

「サラ夫人が嫁入りしたときの持参金ないし物品は残っていますか? もし手付かずであれば婚姻の終了とともにサラ夫人に返還していただかねばなりませんが」

 ガイはどんどんと離婚の話を進めようとしている。
 レインが苦笑してたしなめた。

「僕にも仕事をさせてください。公爵及びトール弁護士、持参金については把握されてますか」

 サラは遠い昔に思いをはせた。持参金はわずかな額だった。サラの実家は少しばかり土地を持っていただけの子爵家だ。持参金の代わりに、隣接の土地とともに、サラは公爵家の嫁となったのだ。

「土地……? どこです。まさか、荘園では……?」

 トールの顔色は目まぐるしく変わる。もはや内心を隠しもしない。

「荘園のさらに奥、牧草地と緩やかな山と森林ですわ」

 サラはさらに説明を重ねた。

「川の上流なんですが、岩石がごろごろしているので大規模な開墾をしないと荘園にできない、価値のない土地なの。返していただけるなら、喜んでいただくわ。小さな小屋でも建てて、魔女のように森に住むのも悪くないわ」

 突然、アシュリーがふわりと体をそよがせた。そばにいた公爵があわてて彼女を支えた。

「大丈夫か、アシュリー」

「気分が……、休ませてください」

「おお、かわいそうに。わしにつかまりなさい」

「……いえ、一人で歩けるわ。ちょっと横になってきます」

 アシュリーは公爵の手を拒絶すると、ふらふらと部屋を出て行った。一人になりたいのだろう。これまでの話を聞いていたら気分が悪くなるのも無理はない。入れ違いに執事のカーンが入ってきた。

「サラ様を訪ねて、玄関に農奴たちが来ているのですが」

「何用だ」

 公爵が訝し気に訊ねる。

「サラ様に直接話したいとのことで」

「なんだと。サラではなく、公爵であるわしが聞いてやる。連れて来い」

 カーンの後ろを数人の農奴が遠慮がちについてきた。みな一様に、サラの顔を見てほっと息をついた。その中の一人が口を開いた。

「サラ夫人、実は……」

「わしが領主のノース・ポータリー公爵である。話があるなら、わしに言え」
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