24 / 89
24
しおりを挟む
「高価なものを持っていたらまた盗まれるかもしれないと思って、それ以降はイミテーションしか揃えなかったの」
安物だけどそれなりに綺麗よ、とサラが続けると、アシュリーはぷいと横を向いた。
「隠しているといえば、記録簿はどこにあるんだ」
公爵の声がイライラしてきた。
「記録簿?」
「支出と収入を記録した帳簿だ。お前が金を管理していたんだから、あるはずだろう。預金が僅かしかないなど信じられん」
「私の部屋のどこかにありますわよ」
「本当のことを言いなさい。記録などつけていないんだろう。お前が金を持ち逃げしたか、浪費したかだ。つまり、お前はわしに弁償をしなければならん、お前の落ち度で失った全額を、だ。おまえは失敗したんだ。離婚されて当然なんだぞ」
サラはちらりとトールを見た。神妙な顔で頷いている。そのままレインに視線を流す。レインは双方の言い分を書類に記している。
夫は慰謝料を払う気がないのだ。それどころか借金を背負わせようとしている。
(だからトールは裏切ったのね。わたくしでは勝ち目がないと思ったんだわ)
「完璧ではないにしろ、できる限りのことはしてきたつもりですわ。もちろん失敗もありましょう。記録簿を詳細に見ていただければ納得していただけると思いますけれど」
「サラ夫人、記録簿が見つからなければ貴女の浪費を疑わざるをえませんよ」
トールが憎らしいほど爽やかな笑みを浮かべている。サラの部屋を探したものの見つけられなかったのか、声に苛立ちが目立つ。
「もう一度お探しになってみたら」
サラは微笑み返した。聖母マリアの寛容さ意識しながら。トールか公爵かはわからないが、小さく舌打ちする音が聞こえた。
「本日はこのあたりにしましょう。それぞれ主張を裏付ける資料があれば明日の午後、持ってきてください」
レインが几帳面に書類をそろえると、それを合図にトールが立ち上がった。公爵とアシュリーも続く。
「明日も来なければなりませんか」
サラが問うと、レインは当然のごとく頷いた。
「ええ、早く決着をつけた方がお互いのためでしょうから」
「おおっと危ない!」
トールの声が鼓膜を震わせた。
「公爵、大丈夫ですか」
公爵は腕と背中をトールに支えられていた。
「ああ、すまない。わしは以前、落馬して以来、足が少々不自由なんだ。ご親切にどうも」
公爵は足を引きづるようにして退出した。レインが気遣って見守っている。アシュリーが心配そうな顔で公爵に寄り添う。
(たいそうな茶番だこと)
公爵は昔、落馬したことがある。それは事実だが、何十年も前のことで、骨折はとっくに治っている。足を引きずって歩く姿など、サラは今まで一度も見たことがなかった。
安物だけどそれなりに綺麗よ、とサラが続けると、アシュリーはぷいと横を向いた。
「隠しているといえば、記録簿はどこにあるんだ」
公爵の声がイライラしてきた。
「記録簿?」
「支出と収入を記録した帳簿だ。お前が金を管理していたんだから、あるはずだろう。預金が僅かしかないなど信じられん」
「私の部屋のどこかにありますわよ」
「本当のことを言いなさい。記録などつけていないんだろう。お前が金を持ち逃げしたか、浪費したかだ。つまり、お前はわしに弁償をしなければならん、お前の落ち度で失った全額を、だ。おまえは失敗したんだ。離婚されて当然なんだぞ」
サラはちらりとトールを見た。神妙な顔で頷いている。そのままレインに視線を流す。レインは双方の言い分を書類に記している。
夫は慰謝料を払う気がないのだ。それどころか借金を背負わせようとしている。
(だからトールは裏切ったのね。わたくしでは勝ち目がないと思ったんだわ)
「完璧ではないにしろ、できる限りのことはしてきたつもりですわ。もちろん失敗もありましょう。記録簿を詳細に見ていただければ納得していただけると思いますけれど」
「サラ夫人、記録簿が見つからなければ貴女の浪費を疑わざるをえませんよ」
トールが憎らしいほど爽やかな笑みを浮かべている。サラの部屋を探したものの見つけられなかったのか、声に苛立ちが目立つ。
「もう一度お探しになってみたら」
サラは微笑み返した。聖母マリアの寛容さ意識しながら。トールか公爵かはわからないが、小さく舌打ちする音が聞こえた。
「本日はこのあたりにしましょう。それぞれ主張を裏付ける資料があれば明日の午後、持ってきてください」
レインが几帳面に書類をそろえると、それを合図にトールが立ち上がった。公爵とアシュリーも続く。
「明日も来なければなりませんか」
サラが問うと、レインは当然のごとく頷いた。
「ええ、早く決着をつけた方がお互いのためでしょうから」
「おおっと危ない!」
トールの声が鼓膜を震わせた。
「公爵、大丈夫ですか」
公爵は腕と背中をトールに支えられていた。
「ああ、すまない。わしは以前、落馬して以来、足が少々不自由なんだ。ご親切にどうも」
公爵は足を引きづるようにして退出した。レインが気遣って見守っている。アシュリーが心配そうな顔で公爵に寄り添う。
(たいそうな茶番だこと)
公爵は昔、落馬したことがある。それは事実だが、何十年も前のことで、骨折はとっくに治っている。足を引きずって歩く姿など、サラは今まで一度も見たことがなかった。
0
あなたにおすすめの小説
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【完結】剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ
O.T.I
ファンタジー
かつて王国騎士団にその人ありと言われた剣聖ジスタルは、とある事件をきっかけに引退して辺境の地に引き籠もってしまった。
それから時が過ぎ……彼の娘エステルは、かつての剣聖ジスタルをも超える剣の腕を持つ美少女だと、辺境の村々で噂になっていた。
ある時、その噂を聞きつけた辺境伯領主に呼び出されたエステル。
彼女の実力を目の当たりにした領主は、彼女に王国の騎士にならないか?と誘いかける。
剣術一筋だった彼女は、まだ見ぬ強者との出会いを夢見てそれを了承するのだった。
そして彼女は王都に向かい、騎士となるための試験を受けるはずだったのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる