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謎解きは悲鳴の後で
謎解きは悲鳴の後で ④
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「迂回していこう!?」
彼女に言うと同時に踵を返す。が、彼女は僕の手を力強く握って止めてきた。
「まさか本当に七不思議があるとは思わなかったわ! 行きましょう!」
「嫌!」
僕たちが行こうとしていた方向には間違いなく音楽室がある。一年生の頃は音楽の授業があったから間違うはずがない。
「いいじゃない! ちょっと付き合ってちょうだい」
「嫌!」
断固として反対する。七不思議の内3/7は音楽室発祥なんだぞ? そんな魔境に行くものか!
すると、彼女はしばし考え事をした。そしてにこやかに笑いながら二択を迫ってきた。
「こうしましょう。音楽室に行くかそれとも私と交際するか、どっちか選んで」
「行く!」
「即答されると流石に傷付くわね」
ごめん。まだ僕の中で覚悟が決まってないんだ、その状態で決めたら絶対に互いが不幸になる。
「じゃあ行きましょう」
好奇心に駆られた彼女はずんずんと進んでいく。この子には恐怖心がないのか? 僕の手を掴んで離さないから僕も無理矢理に進んでいくことになる。
音楽室に近づくにつれ、ピアノの音はどんどん大きくなっていく。この曲は……なんだっけな、聞いたことがあるような気がする。
音楽室の前まで僕たちは来た、うちの高校の音楽室はクラスの教室と構造はなんら変わりがない。内装はピアノが置いてあったり、楽器がおいてあったりするけれど防音はしていない。ちゃんと防音しとけよ!
さっさと音楽室前から離れたかったけれど、ぎゅと握られている手のせいで逃げようにも逃げることが出来ない。そして気の狂った彼女はあろうことか音楽室のドアを開けようとした。
「正気か!?」
スライド式のドアを横にスライドさせようとする。ところが、音楽室の鍵はしっかりと掛かっているらしくいくら動かそうとしても開くことが無かった。よかった。
「開かないわね……職員室に鍵を取りに行きましょう」
「ストップ! もう帰ろう!」
どうしてこうも好奇心旺盛なんだろうか。中では幽霊さんが必至にピアノの練習をしているかもしれないだろう、そっとしといてあげよう。
「それもそうね。ちょっと可哀そうになってきたし」
「幽霊が?」
「あなたよ、握ってる手震えてるわよ」
握られている手をぐいっと目の前に出してくる。なるほど、小刻みに震えてる。情けない話だけれど仕方がないだろう。
そんな会話をしているとピアノの曲が止まり辺りは曲の残響が残るだけになった。それを打ち消すように彼女は声を出す。
「止まった? 私たちが入って来そうだったから止まったのかしら?」
「そんなに律儀な幽霊いないでしょ」
「う~ん、中を見たいわ……」
暫く考えるように顎に手をやった。そして、ひらめいたかのように手招きする。
「ちょっと土台になってくれるかしら」
「はい?」
「音楽室の中を覗くのよ」
さっきも説明した通りにこの高校の音楽室はクラスの教室と同じだ。ドアの上には小さな小窓があり、そこから中を覗けるようになっている。恐怖心ゼロの彼女はそこから中を覗いてみようと言うのだ。
土台になるべく渋々四つん這いになる。彼女は上履きを脱いで「失礼します」と言いながら僕の上に乗った。その上で背伸びをするもんだから背中につま先が刺さる。
「非力だからできれば早く降りて……!」
「わっ、ドアの前にピアノが置かれてるわ!」
七不思議の一つ、音楽室のポルターガイストじゃないか! あの新聞は偽りではなかったみたいだ。
彼女は興奮しながら小窓から音楽室をぐるりと見たようだけれどピアノ以外に発見する物は無かったようで僕の背中からゆっくりと下りた。
ふぅ、重かった。と言ったら怒られるだろうか。
「よし、じゃあ帰ろうか」
震える膝を払いながら立ち上がる。箸より重いものを持てないような僕からしたら重労働だ。
「ポルターガイストがあったのよ、中が気になるじゃない! どうにかして開けられないかしら?」
好奇心が爆発してる。ひょっとすると彼女は謎が解明されるか、本物の幽霊が来るかしないとここから動かない気がしてくる。それは勘弁願いたい。僕は人体模型が今に走ってくるのでは無いかとドキドキしているのに。
こうなればやけだ。目を輝かせる彼女を納得させてさっさと退散する。そのために誰も居ない音楽室から鳴るピアノの謎を解いてやろうじゃないか!
……幽霊じゃないことを祈ろう。
彼女に言うと同時に踵を返す。が、彼女は僕の手を力強く握って止めてきた。
「まさか本当に七不思議があるとは思わなかったわ! 行きましょう!」
「嫌!」
僕たちが行こうとしていた方向には間違いなく音楽室がある。一年生の頃は音楽の授業があったから間違うはずがない。
「いいじゃない! ちょっと付き合ってちょうだい」
「嫌!」
断固として反対する。七不思議の内3/7は音楽室発祥なんだぞ? そんな魔境に行くものか!
すると、彼女はしばし考え事をした。そしてにこやかに笑いながら二択を迫ってきた。
「こうしましょう。音楽室に行くかそれとも私と交際するか、どっちか選んで」
「行く!」
「即答されると流石に傷付くわね」
ごめん。まだ僕の中で覚悟が決まってないんだ、その状態で決めたら絶対に互いが不幸になる。
「じゃあ行きましょう」
好奇心に駆られた彼女はずんずんと進んでいく。この子には恐怖心がないのか? 僕の手を掴んで離さないから僕も無理矢理に進んでいくことになる。
音楽室に近づくにつれ、ピアノの音はどんどん大きくなっていく。この曲は……なんだっけな、聞いたことがあるような気がする。
音楽室の前まで僕たちは来た、うちの高校の音楽室はクラスの教室と構造はなんら変わりがない。内装はピアノが置いてあったり、楽器がおいてあったりするけれど防音はしていない。ちゃんと防音しとけよ!
さっさと音楽室前から離れたかったけれど、ぎゅと握られている手のせいで逃げようにも逃げることが出来ない。そして気の狂った彼女はあろうことか音楽室のドアを開けようとした。
「正気か!?」
スライド式のドアを横にスライドさせようとする。ところが、音楽室の鍵はしっかりと掛かっているらしくいくら動かそうとしても開くことが無かった。よかった。
「開かないわね……職員室に鍵を取りに行きましょう」
「ストップ! もう帰ろう!」
どうしてこうも好奇心旺盛なんだろうか。中では幽霊さんが必至にピアノの練習をしているかもしれないだろう、そっとしといてあげよう。
「それもそうね。ちょっと可哀そうになってきたし」
「幽霊が?」
「あなたよ、握ってる手震えてるわよ」
握られている手をぐいっと目の前に出してくる。なるほど、小刻みに震えてる。情けない話だけれど仕方がないだろう。
そんな会話をしているとピアノの曲が止まり辺りは曲の残響が残るだけになった。それを打ち消すように彼女は声を出す。
「止まった? 私たちが入って来そうだったから止まったのかしら?」
「そんなに律儀な幽霊いないでしょ」
「う~ん、中を見たいわ……」
暫く考えるように顎に手をやった。そして、ひらめいたかのように手招きする。
「ちょっと土台になってくれるかしら」
「はい?」
「音楽室の中を覗くのよ」
さっきも説明した通りにこの高校の音楽室はクラスの教室と同じだ。ドアの上には小さな小窓があり、そこから中を覗けるようになっている。恐怖心ゼロの彼女はそこから中を覗いてみようと言うのだ。
土台になるべく渋々四つん這いになる。彼女は上履きを脱いで「失礼します」と言いながら僕の上に乗った。その上で背伸びをするもんだから背中につま先が刺さる。
「非力だからできれば早く降りて……!」
「わっ、ドアの前にピアノが置かれてるわ!」
七不思議の一つ、音楽室のポルターガイストじゃないか! あの新聞は偽りではなかったみたいだ。
彼女は興奮しながら小窓から音楽室をぐるりと見たようだけれどピアノ以外に発見する物は無かったようで僕の背中からゆっくりと下りた。
ふぅ、重かった。と言ったら怒られるだろうか。
「よし、じゃあ帰ろうか」
震える膝を払いながら立ち上がる。箸より重いものを持てないような僕からしたら重労働だ。
「ポルターガイストがあったのよ、中が気になるじゃない! どうにかして開けられないかしら?」
好奇心が爆発してる。ひょっとすると彼女は謎が解明されるか、本物の幽霊が来るかしないとここから動かない気がしてくる。それは勘弁願いたい。僕は人体模型が今に走ってくるのでは無いかとドキドキしているのに。
こうなればやけだ。目を輝かせる彼女を納得させてさっさと退散する。そのために誰も居ない音楽室から鳴るピアノの謎を解いてやろうじゃないか!
……幽霊じゃないことを祈ろう。
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