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占星術紛失事件
占星札紛失事件 ①
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お前は異常だと言われる事が多い。僕からしたら僕が正常で他が異常で自分が世間からズレているとは思わない。むしろ逆で僕意外の人間すべてが異常だと思う。けれども世間は僕の方がズレていると断罪する。それはズレている人間が大人数居るとそれはズレではなく正常になってしまうからだ。その結果本来は正常であった僕はズレとなり、異常側へと参加させられることになる。どっちが正しくてどっちが正しくないかなんて結局は人数で決定されてしまう。ただ人数のみで決定された異常と通常の境界線なんて胡乱な物だとは思わないか? 少人数派にも光が当たり、マイノリティにも人権が与えられないのはおかしくないのか? そうだ、おかしい。我を持たずして何が個人の尊重だ。異常側は行動を興さなくてはならない、あやふやな境界線に縛られている奴らに言ってやるのだ、僕たちも正常だしお前らも異常だと。
つまり、僕が委員会の時間に爆睡していて怒られたのはおかしい!
「手を動かしてくれる?」
「うん、ごめん」
ここは文化祭実行委員会の会議室。僕は大事な会議中に爆睡をキメてしっかりと先生に怒られ、しっかりとペアの女の子に睨まれ、しっかりと罰の雑用をこなしていた。
本当は僕一人で受け持つ筈だった雑用を文句を言いながらも一緒にやってくれている同級生の藍沢陽菜には逆らえない。
高校では文化祭が差し迫っている。僕たちの高校は生徒数が多い。自慢では無いがそこそこの進学校で、そのため毎年行われる文化祭には保護者や進学希望者を含めた多くのお客さんが来校することになる。文化祭実行委員ではこの時期になると大忙しになるのが定例だった。
そんな中でも寝れる僕は確かに異常だとは思う。
書類を捌きながらも隣に座っている藍沢の方をチラリと見る。
藍沢陽菜、僕と同じ二年三組で今はロングの髪を耳に掛けて真剣に書類と睨めっこしている。その姿は誰が見ても美少女だった。藍の混じった長髪の光沢は艶があって白い陶磁器みたいな皮膚と相まって目を引く。さらに奥二重の彼女は何をしていても瞳が大きく見えて意思の籠った眼を強調している。学校には非公式ながらファンクラブがあると噂されるぐらいだ。彼女がお姫様だったら国が傾く、そう思わせる程の美人だ。
そんな優れた容姿に甘えること無く彼女は強い女の子だ。不正を良しとせずに正義感を貫く、嘘はつかずに自身の信じるもののために動いている。他人である僕がそう感じるのだから藍沢自身はもっと強くその信念を持っているのだろう。その生き方は怠惰の化身である僕が見てもカッコいいと思ってしまうほどだ。
「そんなにこっち見てどうかしたの?」
彼女は視線に気が付いたのか作業を中断して僕をじっと見た。
「いや、ごめん。なんでもないよ」
「……告白の返事かしら?」
「それはまだ……」
そんな傾国の美女に僕は告白をされているのだった。数日前、放課後に呼び出されて「私と付き合ってください」と言われた。
告白されるとは思っていなかったから面食らってしまってとりあえず保留にしたのだった。
「そう、いつでも良いからね。待ってる」
そう言ったきり、また目の前の書類に集中し始めた。待たないで忘れてくれとすら思う。
僕たちは集中して書類整理や計算をしていた。時間にして40分ぐらいだろうか。
やってきた睡魔と必至の戦いの末に瞼への進行を許してしまいそうになった時、藍沢は急に声を出した。
「あっ」
「何? 寝てないよ?」
ビクッとしながらも平穏を装う。
「それについてはあとでお話をしましょう、それよりここの箇所見て」
ダメだ、ちゃんと見られていた。
重たい瞼を無理やり開けるとそれは文化祭実行委員会に向けて書かれた購入案の書類だった。
僕たちの高校の文化祭は生徒の自主性をスローガンに掲げている。言葉に偽りなく文化祭は生徒によって運営されている。もちろん要所では先生が確認や会議に参加したり、手助けをしてくれたりはするけれど基本は生徒主体だ。その中でも特徴的なのが文化祭予算を僕たち、文化祭実行委員が管理している所だ。
そして、文化祭実行委員が決めたルールとして文化祭で使う道具や小物は書類を通し承認を得てから学校のお金で購入することができる。僕の代も過去に習ってこの方式を取っている。
教室の割り振りや備品の貸出すらも承認が必要なので文化祭実行委員会には山のように書類が届く。これが激務の一因になっている。
そんな山の一角から抜き出した購入案には「タロットカード 1つ購入」と書いてあった。金額には2300円、購入案を出した所はオカルト部、そして理由の欄には「配達されていないため」と書いてあった。
「配達されていないため?」
彼女は整った眉を困ったように歪めた。
「オカルト部が少し前に提出した購入案では、タロットカードって普通の所では売ってないしお店で買おうとすると少し高いらしくて、Amazanで購入して一度学校まで配達して貰ってから文化祭実行委員がオカルト部に届ける予定だったの」
「うん、それで?」
「オカルト部が少し前に提出したタロットカードの購入案はすでに承認されていて配達までされているのだけれど、文化祭実行委員がオカルト部に届けていなかったみたい、Amazanから学校に届いていることは受領書の控えがあるから間違いないわ」
「でも、会議室にAmazanの段ボールなんてあったっけ?」
「無いわ、それに1つってどういうことかしら? 少し前の購入案には6つ購入するって書いてあったのに」
「う~ん? まぁ、なんでも良いんじゃない? 購入案承認しちゃおう」
考えるのが面倒くさくなってきたのでテキトーに承認のハンコを押そうとした。しかし、藍沢はその購入案をさっと取り上げた。
「待ってよ。いくら面倒だからってそれはダメ、お金を管理する立場なんだからちゃんとやらなくちゃ」
「え~」
非難の声をあげると彼女はキッと睨みつけてきた。そして冷たい温度の声で言う。
「お金を払うのがあなたなら私もハンコ押すけど。それに手伝ってあげているのにちゃんとしないのはダメよ」
くそっ、別に手伝ってほしいとは言っていないけど事実助かっているから何も言えない。
「じゃあ、承認しないで良いよ」
「それもダメよ」
藍沢は依然として首を縦に振ってくれない。
「じゃあ、どうするのさ?」
「そうね……」
彼女は手を顎にやって考えるポーズをした。
「とりあえず、オカルト部に行ってから考えましょう」
面倒臭いがしぶしぶ頷く、大真面目の彼女はちゃんとやるまで僕を家に帰してはくれないだろう。なら無駄な抵抗を辞めてさっさと問題を解決したほうが賢い選択だ。
つまり、僕が委員会の時間に爆睡していて怒られたのはおかしい!
「手を動かしてくれる?」
「うん、ごめん」
ここは文化祭実行委員会の会議室。僕は大事な会議中に爆睡をキメてしっかりと先生に怒られ、しっかりとペアの女の子に睨まれ、しっかりと罰の雑用をこなしていた。
本当は僕一人で受け持つ筈だった雑用を文句を言いながらも一緒にやってくれている同級生の藍沢陽菜には逆らえない。
高校では文化祭が差し迫っている。僕たちの高校は生徒数が多い。自慢では無いがそこそこの進学校で、そのため毎年行われる文化祭には保護者や進学希望者を含めた多くのお客さんが来校することになる。文化祭実行委員ではこの時期になると大忙しになるのが定例だった。
そんな中でも寝れる僕は確かに異常だとは思う。
書類を捌きながらも隣に座っている藍沢の方をチラリと見る。
藍沢陽菜、僕と同じ二年三組で今はロングの髪を耳に掛けて真剣に書類と睨めっこしている。その姿は誰が見ても美少女だった。藍の混じった長髪の光沢は艶があって白い陶磁器みたいな皮膚と相まって目を引く。さらに奥二重の彼女は何をしていても瞳が大きく見えて意思の籠った眼を強調している。学校には非公式ながらファンクラブがあると噂されるぐらいだ。彼女がお姫様だったら国が傾く、そう思わせる程の美人だ。
そんな優れた容姿に甘えること無く彼女は強い女の子だ。不正を良しとせずに正義感を貫く、嘘はつかずに自身の信じるもののために動いている。他人である僕がそう感じるのだから藍沢自身はもっと強くその信念を持っているのだろう。その生き方は怠惰の化身である僕が見てもカッコいいと思ってしまうほどだ。
「そんなにこっち見てどうかしたの?」
彼女は視線に気が付いたのか作業を中断して僕をじっと見た。
「いや、ごめん。なんでもないよ」
「……告白の返事かしら?」
「それはまだ……」
そんな傾国の美女に僕は告白をされているのだった。数日前、放課後に呼び出されて「私と付き合ってください」と言われた。
告白されるとは思っていなかったから面食らってしまってとりあえず保留にしたのだった。
「そう、いつでも良いからね。待ってる」
そう言ったきり、また目の前の書類に集中し始めた。待たないで忘れてくれとすら思う。
僕たちは集中して書類整理や計算をしていた。時間にして40分ぐらいだろうか。
やってきた睡魔と必至の戦いの末に瞼への進行を許してしまいそうになった時、藍沢は急に声を出した。
「あっ」
「何? 寝てないよ?」
ビクッとしながらも平穏を装う。
「それについてはあとでお話をしましょう、それよりここの箇所見て」
ダメだ、ちゃんと見られていた。
重たい瞼を無理やり開けるとそれは文化祭実行委員会に向けて書かれた購入案の書類だった。
僕たちの高校の文化祭は生徒の自主性をスローガンに掲げている。言葉に偽りなく文化祭は生徒によって運営されている。もちろん要所では先生が確認や会議に参加したり、手助けをしてくれたりはするけれど基本は生徒主体だ。その中でも特徴的なのが文化祭予算を僕たち、文化祭実行委員が管理している所だ。
そして、文化祭実行委員が決めたルールとして文化祭で使う道具や小物は書類を通し承認を得てから学校のお金で購入することができる。僕の代も過去に習ってこの方式を取っている。
教室の割り振りや備品の貸出すらも承認が必要なので文化祭実行委員会には山のように書類が届く。これが激務の一因になっている。
そんな山の一角から抜き出した購入案には「タロットカード 1つ購入」と書いてあった。金額には2300円、購入案を出した所はオカルト部、そして理由の欄には「配達されていないため」と書いてあった。
「配達されていないため?」
彼女は整った眉を困ったように歪めた。
「オカルト部が少し前に提出した購入案では、タロットカードって普通の所では売ってないしお店で買おうとすると少し高いらしくて、Amazanで購入して一度学校まで配達して貰ってから文化祭実行委員がオカルト部に届ける予定だったの」
「うん、それで?」
「オカルト部が少し前に提出したタロットカードの購入案はすでに承認されていて配達までされているのだけれど、文化祭実行委員がオカルト部に届けていなかったみたい、Amazanから学校に届いていることは受領書の控えがあるから間違いないわ」
「でも、会議室にAmazanの段ボールなんてあったっけ?」
「無いわ、それに1つってどういうことかしら? 少し前の購入案には6つ購入するって書いてあったのに」
「う~ん? まぁ、なんでも良いんじゃない? 購入案承認しちゃおう」
考えるのが面倒くさくなってきたのでテキトーに承認のハンコを押そうとした。しかし、藍沢はその購入案をさっと取り上げた。
「待ってよ。いくら面倒だからってそれはダメ、お金を管理する立場なんだからちゃんとやらなくちゃ」
「え~」
非難の声をあげると彼女はキッと睨みつけてきた。そして冷たい温度の声で言う。
「お金を払うのがあなたなら私もハンコ押すけど。それに手伝ってあげているのにちゃんとしないのはダメよ」
くそっ、別に手伝ってほしいとは言っていないけど事実助かっているから何も言えない。
「じゃあ、承認しないで良いよ」
「それもダメよ」
藍沢は依然として首を縦に振ってくれない。
「じゃあ、どうするのさ?」
「そうね……」
彼女は手を顎にやって考えるポーズをした。
「とりあえず、オカルト部に行ってから考えましょう」
面倒臭いがしぶしぶ頷く、大真面目の彼女はちゃんとやるまで僕を家に帰してはくれないだろう。なら無駄な抵抗を辞めてさっさと問題を解決したほうが賢い選択だ。
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