飼育係の俺が異世界で最強魔物使いになった話

第一章

持つべき覚悟

「もー無難な人生はどうなったぁぁぁ～」

俺は目の前にいるオークに伝わるわけもないが叫んだ

槍をもったオークと目が合う

足が震えて動かない

そうだ！クマと会った時は死んだふり…

いや、豚じゃん！…いやいや豚でもない

「とりゃあー」

俺は咄嗟に持っていたキャリロットをオークの後ろに投げた

すると

オークはキャリロットを追うように走り出した

「やっぱり豚と同じなのか…」

俺はオークがキャリロットを拾っている間に震える足を叩きながら逆方向に走り出した

「はぁはぁはぁ」

大分距離を取れた、だが体力はもう無い…

「もっと運動しておけばよかった…」

俺はヘトヘトになりその場には座り込んでしまった

（ドガァドガァドガァドガァ）

「う、うそだろ」

音がした後ろを振り返ると走って来るオークが

もうだめだ、終わった…チーン…

俺は走馬灯を見る準備をして、立ち止まった…その時

「もしかして！」

あることがピンと浮かんだ

それはオークと豚の習性が似ていると仮定すると

豚をペットとして飼っている人の動画投稿を思い出した

そう、豚は背中をさするとゴロンと横になって寝てしまうのだ

「よし、やってみるしかない…」

俺は足下に落ちていた木の棒切れを手に持った

とんでもないスピードで

まるでトラックのように突っ込んできたオークから横に飛び、ギリギリで避ける

オークはそのスピードからか、急には止まれず

勢いを殺すように膝をついた

背中を向けた瞬間を俺は見逃さなかった…

「今だ！」

俺はオークの背中目掛けて走り出し

とても硬く、毛は針金のような背中を木の棒切れで擦った

（ゴシゴシゴシ）

オークの動きは止まった

やっぱり、豚とオークは同じと考えていいんだぁ

俺はそのまま背中を擦り続けるしかない

（ゴシゴシゴシ）

そのままオークが横になって眠るまで

（ゴシゴシゴシ…）

（シュッ！）

「え……」

顔の横を何かが通った

頬に何かがつたっていった

涙かと思い手で拭うと生暖かく、その手は赤かった

「はぁっ」

一瞬、頭が、時が止まっていた

俺はすぐに動かない頭と体を必死に動かす

槍だ…俺の横を通ったのは

目の前には初めて見たオークだけ、わかる

俺への敵意を

投げたのだ、持っていた武器

槍を

当たり前だ、オークと豚が同じ！？

そんなわけがない

わかりきっていたことなのに俺は逃げていたのだ

昨日まで無難な人生を歩んでいた…いや無難にしていた人生から急に異世界に来た現実を

どこかで夢オチを期待していたのかもしれない

そんな、軽い気持ちが痛みと共に一瞬で消え去った

どうする…この状況、死ぬのか…

恐怖で動かない無理矢理頭を動かすが…

「だめだ、何にも浮かばない…」

「が、ただ死ぬのも癪に障る…刺し違えてやる」

後ろに向かい全力で走り出す

俺の頬を切りつけた槍を手にするために

元の世界では決してしなかった、全力

精一杯伸ばした手で槍を掴む

武器を得たのだ、無難を求めていた俺が

俺はオークに対して槍を構える

「ただでは死なない」

が、相手は明らかに野生動物とは違う知性があるオーク

対する俺は貧相な身体に石が木の先に付いただけの槍1本

結果は明らか…が人生にはあえて困難な道に行くことが必要な時もある

それが今だ

「ブォォオオオ！！！」

オークが雄叫びをあげる

「かかってこいやぁ！！」

通じるはずもない言葉で自分を奮い立たせ、強く槍を握り返す

（ピィィィイイイイ）

その時突然何か笛のような、鳴き声が聞こえた