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魔王へ

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「まずは、お主のステータスを見せてくれるかえ?」
「え?」

 意外と普通な滑り出しに思わず戸惑う。

「お主、ウォルタ戦やら何やらでレベルが上がっとるじゃろ? いい加減、確認せんか」
「あ、あぁ……そういえば」

 色々なことが起こりすぎて忘れていた。フレイアはキサラギさんが倒したとはいえ、もう一体の四天王は俺が倒しているんだ。

 レベルは上がっているはずだ。

===
名前 ヤマニシ シュウ
性別 男性
年齢 16
職業 盗賊
レベル 46
HP 186/186
MP 94/94
攻撃力 142
物理防御 141
魔法防御 94
素早さ 189
知力 1692
【スキル】
隠密Lv.5
思考加速Lv.5
属性付与エンチャントLv.1
敵感知Lv.1
危険感知Lv.5
千里眼Lv.1
身体強化Lv.5
風魔法Lv.5
氷魔法Lv.5
回復魔法Lv.1
チェンジLv.5
ロープLv.1
===

 「相変わらず、知力以外はまちまちじゃな」
「やかましいわ」
「ポイントはいくら溜まっておるんじゃ?」
「えぇっと……75……? やっぱ計算が合わないな。この謎の40ポイントはなんなんだ?」

 これは以前、ウィングと戦った時も起こった現象だ。

 やはり、四天王と戦うということが条件なのだろうか。

「ふむ、それはあれじゃな。レベルが自分よりも高い敵を倒すとボーナスが貰えるんじゃよ」
「なるほど……。ということは、ウォルタを倒したからその分のボーナスってことか」
「それと、ダークイビルじゃな。スキルを全力で使ったとはいえ、あれほどのレベル差がある敵を倒すとはな」
「そんなにレベル差が?」
「まぁ、それなりにはのう」

 四天王とか、強い敵とばかり戦っているから感覚が麻痺しているのだろうか。

 あの敵が強いとはどうしても思えない。

「それにしても、75ポイント……。まぁなんとかなるじゃろ」
「えっと、これから何をするんですか?」
「お主には、これから上位職へなってもらう」

 上位職。一定のレベルに達すると、今の職業の上位互換へ転職することができる。

 具体的にはどのような職業に進化出来るのかは知らないが、さらなる高みへと登れることは確かだろう。

「上位職って、具体的にはどんな職業なんですか?」
「盗賊の上位職は暗殺者なのじゃが……あの小童相手に暗殺者はちょいとキツイのう……」

 曰く、暗殺者は正面衝突は向かないらしい。これは暗殺者だけでなく、盗賊もそうだったらしいが。

「けれど、それ以外になれる職業ってあるんですか?」
「……あるにはあるが……」

 そう言いながらアルティナは男にちらりと視線を送る。だが、男は椅子に腰を下ろしたまま何も反応しない。

「そのためには、まずはこやつに認められねばならぬじゃろうな」
「どういうことですか?」
「職業には、特定の条件を満たすことで転職可能となる職業があるのは知っておるか?」
「えぇ、まぁ……。キサラギさんの勇者とかが良い例でしょうか?」
「うむ、そんな感じじゃな」

 話の流れからして、その職業とはこの男に認められ初めて転職できる、ということだろうか。

 ……魔王に認められることで転職できる職業。

「お主も薄々勘づいているじゃろうが……お主には『魔王』になってもらう」
「……」

 俺が、魔王……。

「そんなことが可能なんですか……?」
「言ったじゃろう? そのためには、こやつに認められねばならんと」
「いや……」

 それが難しいんですよ。

 そう口に言おうとした時、男が舌打ちをする。

 そちらに目を向けると、こちらに刺すような視線を向けている。

 ……一体、なんなんだ。

「四天王を破る者と聞き、多少は期待してみれば……。ただの運が良いだけの小僧じゃないか」
「……」

 突然の罵倒に思わず言葉が詰まる。

 驚きもあったが、その言葉に間違いはないのだから。

「自らの力を信じていない奴に、魔王の権利をやるつもりは無い」

 その通りだ。

 俺だって自分の力を信じれない奴より、自分の力を信じている奴の方が好感は持てる。勿論、過信しない程度に、だが。

 けれど、無い力にどうやって自信を持てと言うのだろうか。

「自信を持てるだけの力が無い、と。そう言いたいのか?」
「……!」

 自分が考えていたことを読み取られ、思わず驚きの表情を浮かべる。

 人の心を読めるスキルがあるのか、と思ったが、恐らく、違う。きっと、自分の悪態ついたようなその雰囲気でバレてしまったのだろう。

「だったら、何だって言うんですか……」
「私が鍛え直してやる」

 予想の斜め上をいく返答に驚く。

「鍛えるって……?」
「そのままの意味だ。残念だが、あの癪に障る小僧に勝てるのは貴様しかいない」
「……」
「それなら、貴様を鍛えてやるしかないだろう」

 そう面倒くさそうな態度で言う男。だが、これも彼なりの誠意なのだろう。

 誠意の欠片も感じないが。

「……そうですね。これから、よろしくお願いします」
「……ふん」

 俺がそう言うと、魔王は鼻を鳴らして視線を外す。

「話はついたようじゃな」
「えぇ、まぁ頑張ります」
「頼んだぞ。あの小童に勝つためには、まずは上位職にあるステータス補正でステータス差を埋めねばならん」
「分かってます。アイツに勝つには、魔王クラスの職業を身につけないといけないんですよね」
「うむ、その通りじゃ」

 それほどの強敵なのか、と改めて身震いする。

 アイツがいつ行動を起こすかわからない以上、一刻も早く魔王へとなり、実力を付けなければならない。

 急がなければ……。
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