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牢獄からの脱出劇

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「ほら、入れ!」
「言われなくても分かってるよ」

 持っていた刀とローブを剥ぎ取られ、薄暗い地下の牢屋に連れ込まれる。自分で入れるから、放り投げないでほしい。痛い。

「なぁ、せめてローブの右ポケットに入ってる奴見てくれよ」

 学生服に勲章が入っていれば良かったのだが、ローブが奪われた今、騎士たちに自分から勲章を取り出して貰えなければ……。

「惑わされるなよ。もしかしたら爆弾かもしれない」
「んなわきゃねぇだろ! どんだけ慎重なんだよ!」
「黙れ罪人!」

 騎士に怒鳴られ少々尻込みする。

 仕方ない……騎士団長様が気付いて貰えるまで待つか。

「それで、コイツの処罰はどうするんだ?」
「まぁ、死刑だろうな。城に侵入出来れば、窃盗は勿論、王族の暗殺さえも可能だからな」
「え!?」

 冗談だろ!?この国に死刑制度があるのは驚くことでは無いが……いくら何でも死刑になる条件容易くないか!?

 というかここには裁判とかねぇのかよ!

「安心しろ、恐らく死刑は翌日だろうからな」
「悪いニュースありがとよ! バカヤロー!」

 俺の悲痛な嘆きをさしおいて、笑いながら立ち去る騎士たち。彼等には人の心というものがないのだろうか。

「ま、まぁ騎士団長さえ気付けば大丈夫だし? 時間は一日もあるんだ、大丈夫……だよな?」

 ……急に不安になってきた。

「……脱獄しようか」

 ここから脱出して騎士団長を見つける、またはローブのポケットにある勲章を取り返せばミッションコンプリートだ。

「あれが良さそうだな……」

 鉄格子の向こうに転がっている小石が目に入る。

「『チェンジ』」

 盗賊スキル『チェンジ』で小石と俺の位置を入れ替えることに成功する。

「よし、成功だ。しかし……このスキルがあれば脱獄し放題なんだが、そこら辺は大丈夫なのか……?」

 事実俺が脱出出来たんだし。

「……!」

 まずはここから抜けようとすると、上から下へおりてくる足音が聞こえる。まだ『チェンジ』のクールタイムも終わってない故に、再び檻の中に入って誤魔化すことも出来ない。

 レベルが上がってクールタイムが30秒にまで下がっているけど……。

 出来れば脱獄していることを悟られたくなかったのだが……。

 『隠密』を発動させると、向かい側の扉が開いている檻の中に隠れる。

 少しすると、階段から先程の騎士たちがおりてくる。俺のいた牢屋を見ると慌てふためく様子が見られる。

「お、おい、アイツがいないぞ!」
「どうすんだよ! お前がスキルを制限する手錠を掛け忘れるからだろ!」
「気付かなかったお前にも責任はあるだろ!」
「兎に角、他の皆に知らせよう!」

 鉄の鎧をカチャカチャと鳴らしながら再び来た道を戻る騎士たち。

 それにしても……やっぱスキルを封じる道具があったのか。偶然とはいえ、奴のおっちょこちょいには感謝しないとな。

 しばらくの間待ち、もう戻って来ることが無いことを確認すると、『隠密』を発動したまま移動を始める。

 騎士たちと同じ方向へ行くと、階段が見付かる。

「連行されてる時は背中に槍を突き付けてられたからな……」

 あの時は背中に触れる冷たい槍先に気がいって、とても道を覚えるなんてどころじゃ無かったからな。

 階段を登りきると暗い一つの部屋を経由し、ようやく城内らしい場所へ出る。

「とにかく、ここから離れよう……!」

 恐らく、騎士たちは俺が城の外に逃げたと思っているはず。あまり道は覚えていないが、たしか地下牢は城門と近かった気がする……たしか。ならここから離れて損は無いだろう。

「騎士団長さんはまだ外にいるのか……? なら一度どこかに身を隠して、騒ぎが一段落した頃に外へ出るか」

 城門とは反対の方向であろう廊下を進んで行く。所々騎士たちを見るが、どうやらこちらには気付いていないらしい。距離が離れているからだろうか。

 勿論、捕まれば死刑の今、とても『隠密』の実験をするワケにもいかないけど。

 どこかの部屋に隠れられれば良いのだが……ドアすら見当たらない。

 一本の廊下を走っていると、前から騎士が歩いて来ていることに気付く。

 来た道を引き返そうとすると、今度は丁度廊下の角を曲がった騎士が迫り来く。

「ヤバい……挟まれた……!」

 舌打ち交じりにそう呟く。レベル5の『隠密』なら、あるいは騎士の横を通り抜けることが可能かもしれないが……ちょっと怖い。

 なんとかして抜けられないかと模索していると、少し進んだ所に階段があることを確認する。

 騎士に阻まれ、階段を登ることが出来なくなる。若干慌てながら階段に滑り込む。

「っぶな……」

 取り敢えず窮地を脱せたので、階段をゆっくり上っていく。だが次の瞬間、背後に何かの気配を感じる。

 振り向くと、先程の騎士が階段を上って来るでは無いか!

「……っ!」

 全速力かつなるべく足音を立てないよう階段を駆け上がる。しばらくの間上ると、やがて一つの扉が目に付く。

 この扉以外に道はない……。入るしかねぇか……!

 ゆっくりと扉を開けると、僅かに開いたその隙間に身体を滑り込ませる。しっかりと戸締りをし、一呼吸おいて部屋の観察を開始。

 ベットやタンス、鏡など……日常用品が見られる。誰かの部屋なのだろうか。

「あ、お前……!」
「……!?」

 よく見ると、部屋の片隅に茶色のローブを纏う、先程の侵入者がタンスの中を漁っている。

 即座に『身体強化』を使い、侵入者との距離を詰める。あまり距離が無かった上に、不意をつかれた侵入者は逃げ出すことが出来ないようだ。

 侵入者の背後に回り込むと、両腕を掴み動きを封じる。

「お前、何者だ!」

 声を荒らげながら、空いている片腕でフードを脱がせる。

「……!」
「お、お前……」

 最初に目に付いたのは金色の長い髪。驚愕から見開いた瞳は青色で、まだ幼さが残るものの、地球にいればトップアイドル間違いなしの美貌だろう。

「な……何が目的だ……!」

 全くと言っていいほど女の子との関わりを持たなかった悲しき少年シュウ。若干上擦った声になってしまうが、ノリで誤魔化す。

「そ、それは……」

 口を濁す少女。やはりやましい事があるようだ。

 まぁやましいも何も、城に侵入してることなんだけどさ。

「失礼します、王女様」

 しばらくすると、俺の後から続いて来た騎士がノックをする。出来ることならもう少し早く来てほしかった。

 それにしても、ここは王女の部屋だったのか。……いや王女どこ。

 まさかこの少女が王女とか言わねぇよな?……いや、ありえないか。見たところ、先程城壁を越えて侵入した奴とこの少女は同一人物。

 そもそも王女ならば城壁を乗り越えて侵入する必要性が無いし、仮に何らかの事情があって侵入するしか無かったとする。

 だが今日は俺が城に訪れるという予定があったはず。王族がそんな日に外に出かけるとは思えない。

「残念だったな。俺も騎士に見付かっちまうが、俺は冤罪だし首が跳ねられることはないだろうが……。お前は首チョンパだろうな」
「なっ……! おい、そこにいるのは何者だ!」

 どうやら俺の声が聞こえたのか、騎士が凄い形相で扉を開ける。

「あ、すみません。たった今侵入者を……」
「王女!? 貴様、王女様から離れろ!」

 ……え?

 この女の子が王女様……?

 思わず拘束の手を緩めると、王女と呼ばれた少女が俺から離れ、向き直る。

「えっと……すみません。実は私……一応この国の王女でして」
「……」

 苦い笑みを浮かべながら言う侵入者改めて王女に、思わず言葉を失う。

「さぁ、早く来い!」

 放心状態の俺の手首を縄で縛り連行する騎士。

「最後に一つだけ……良いですか?」

 俺の言葉に騎士は歩みを止める。その無言は、発言を許してくれるといことなのだろうか。

「……王女様、ややこしいですよ……」
「すみません……」

 こうして俺の脱獄劇は幕を下ろし、再び地下牢へと逆戻りするのであった。
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