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城へ

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「おはようございます、シュウ様」
「あ、おはようございます。入って良いですよ」

 次の日の朝。予告通り8時ピッタリに扉の向こうから人の声が聞こえる。昨日の騎士さんだろうか?

「レイズ王国の騎士の者です。お迎えに参りました」
「分かりました」

 既に準備は整え終えていたので、改めて部屋に忘れ物が無いかを確認する。

「よし、大丈夫だな」

 扉を開けると、数人の騎士が俺を出迎えてくれる。やましいことは特に無いのだが……警察に連行されるみたいでやだな……。

「では、早速ご同行お願いします」
「ご同行、って……」
「……? どうしました?」
「あ、いえ、なんでもないです」

 ご同行お願いします、って警察がよく言ってそうなセリフだな。

 宿屋を出ると、活気ある街並みが目に映る。昨晩は日が沈んでてよく見えなかったが、噴水や小さな池や水路が所々見える。

「すみません。噴水や池などがよく見られますが……」
「あぁ、それはこの国が水源に恵まれているからですね」
「水源、ですか?」
「はい、今から向かう城から見れば一目瞭然なんですが……この国は巨大な湖の中心に有るんですよ」

 湖の中心に国を作るなんて……よくやろうと思えたな。かの有名な四大文明すら川辺に作るだけで我慢してたんだぞ。いや、その努力は賞賛するけどさ。

「城の窓から飛び降りれば、すぐに湖に飛び込めますよ?」

 そう冗談を言う騎士。何が面白いのか分からないがとりあえず作り笑いを取り繕う。

「なら、この国が栄えているのって……」
「えぇ、この水の御陰と言っても過言ではありませんね」

 まぁ、そうだよな。水があれば草木は育ち、農業も栄え、自然と人の生活は豊かになる。多分。

「そう言えば、昨晩の食事……比較的野菜などが多く使われていましたけど……」
「お察しの通り、この国は農業が盛んなので」
「でも、畑なんて見当たりませんが……」
「ここは第一地区に対し、畑があるのは第三地区なので」
「なるほど、幾つかのエリアを用途別に分けているんですね」

 たしかに一つのエリアに建物や畑を作るより、いくつかのエリアに分けた方が何かと都合が良いだろう。

「ここが……」

 10分も歩いていると、目的の城前まで辿り着く。上を見上げると、改めて自分が異世界に来ていることを実感する程、大きい城が目に入る。

「きゃぁああああああ!!」

 さて城に入ろうとした時、街の方から叫び声が聞こえる。

「なんだ!?」

 叫び声からしてまだ近いハズ。何が起こって分からないが、今から全力で行けばまだ間に合うかもしれない。

「待って下さい! ここは私が向かうので、シュウ様はここでお待ちを……」
「いや、そういうわけにも……」
「安心して下さい、これでも私、この国の騎士団長を務めさせて頂いております」

 まじかよ、この人も騎士団長サマなの?

 それなら下手に俺が出るよりも良いかもしれないな。俺の何倍も強いであろう騎士団長だ、ちょっとやそっとで倒れたりしないだろう。

「分かりました。では僕はここで待ってますね」
「では、行ってまいります」
「気をつけて下さいね」

 とんでもないスピードで悲鳴が聞こえた方へ駆け出す騎士団長さん。

「早……」

 なにあの速さ。地球でもあんなスピードの人間見たこともねぇぞ。

「50メートル走測ってみたい」

 因みに俺は7.6秒だ。

「それにしても一体何が……。爆音も戦闘する音も聞こえねぇし、魔王軍の襲撃……なんてことは無いだろうけど……」

 一応『敵感知』を発動させると、一体だけ反応する。一体だけならあの騎士団長さんに任せておけば大丈夫だろう。

 四天王みたいな、本当に強い敵が襲撃したのなら一瞬にしてこの国を炎の海にできるだろうし。

「……ん?」

 突然視界の端で何かが動いたことに気付く。その方に顔を向けると、茶色のローブを羽織った何者かが城壁を越えようとしている。

「なっ!? お前、何者だ!」

 一瞬身体をビクリと震わせるが、逃げようとする様子は無く必死に城壁を乗り越えようとするのをやめない。

「チッ……!」

 『身体強化』を発動させ、城壁を越そうとする何者かに駆け寄る。

 これは……間に合わないな……!

 せめてもの足掻きで、『思考加速』を使って相手を観察する。

 身長は小柄……子どもか?性別は不明、ローブのせいで容姿の特徴も分からない。

「あ……!」

 特になにも情報を得られそうに無かったので『思考加速』を解除した数秒後には、完全に城壁を越えられる。

「逃がすか!」

 『身体強化』を使用したまま城壁をジャンプで登る。だが、一歩遅かったようだ。

「……逃げられたか」

 城壁を登りきり辺りを見渡すが、先程の影は見当たらない。

「『敵感知』にも反応は無し……か」

 『敵感知』に反応する敵の定義が分からないが、侵入者等はその敵の内に入らないのか?

 仕方ない、無断に入るワケにもいかないし、騎士団長さんが戻って来たら報告するか……。

 溜め息混じりに城壁から下りようとすると、鎧を着た騎士さんが近付いてくる。この騎士さんに報告しておくか。

「あ、すみませ……」
「城壁を下りろ!」

 俺の言葉を遮り、凄い形相でそう言い放つ。

 あぁ、そうか。そりゃ城壁に登ってたら怒られるよな。

「あ、すみません。今おります」

 城壁をおりると、早速騎士さんに侵入者のことを話そうとすると……

「下がれ! 手を上げるんだ!」
「え!?」

 持っていた槍を突きつけられ、言われる前に反射的に手を上げる。

「侵入者め! 何が目的だ!」
「ちょ、ちょっと待って下さい! 誤解です!」
「黙れ! 貴様は俺の問いに答えれば良いのだ!」

 ……やべぇ、どうしよう。確かに俺でも見回りしていて、城壁に乗ってる男がいたら警戒するわ。

 そ、そうだ。ポケットに入れてある勲章を見せれば分かってもらえるはず!

「こ、これを見て……」
「動くな!」

 右手をポケットに入れようとするが、突き付けられていた槍をさらに突き出される。

 このまま取り出そうとしても、勲章見せる前に俺の胸が貫かれるだろう。

「おい、誰か来てくれぇ!」
「何の騒ぎだ?」

 城から何人かの騎士たちが駆け寄ってくる。

 おいおい、本格的にヤバくなってきたぞ……!

「コイツが城壁を乗り越して侵入者しようとしてたんだ!」
「なんだと!?」
「ち、違う! 俺は怪しい奴が城壁を登ってたから、それを追い掛けていただけだって!」
「嘘をつくな!」
「嘘じゃねぇよ!」

 くそ……ポケットの勲章さえ見せられれば……!

「な、なら! 俺の右ポケットの物を取り出してみてくれ!」
「惑わされるな! きっと近付いたら人質にする気だ!」
「じゃあ、今この場を離れている騎士団長が来るまで待ってくれ!」
「貴様ぁ……! 何故騎士団長様が城を留守にしていることを知っている!」
「きっとどこかで、今日騎士団長様が外出することを知って侵入しようとしたんだ!」

 ダメだ……何を言っても通じない!このままじゃ不味い……!

「悪いが拘束させてもらう!」

 そう言いながら俺に突進し、地面へと押し付ける。

「痛っ! もう少し優しくして!」
「黙れ罪人!」 

 俺の筋力じゃそこら辺の騎士にさえ敵わない……!この状況から抜け出せば良いのだが……無理か……。

「ほら、行くぞ!」

 両手を縄で縛られると、そのまま城の中へ連行される。先程寄進に連行されているみたいと思ったが、あながち間違えでは無かったのだろうか……。

 うーん、まさかこんな形で城の門を潜ることになるとはな……。

 ◇◆◇◆◇

「すまない、先程の騒ぎは盗人だったようだ……って、あれ?」

 シュウが連行されてから数分後。

 騒ぎを収めた騎士団長が戻って来るが、そこには人の影すら無かった。
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