上 下
3 / 56

さぁ、仕事を探そう!

しおりを挟む
「身分証が無い? ダメダメ、そんな怪しい人間を働かせるワケにはいかないよ」
「そう……ですか」

 目の前の男性にお辞儀をすると、店から出ていく。

「これで五件目か……」

 分かってはいたものの、身分証が無いと中々雇ってくれないらしい。今日だけで五件、雇用を頼んだがどの店も身分証が無いと言うと雇用を断ってしまう。

「もう候補は次の店で最後だぞ……」

 仕方なく、最後の店へと向かう。それにしても、この世界は少々難易度が高すぎないだろうか。

 突然連れてこられたかと思うと、まずは言葉を学ばなければならない。言葉を学んでも、身分証が無ければ雇って貰えず、お金が手に入らない。

 これは鬼畜すぎる。

 最後の店は武器屋だ。前に覗いた時、店主がおっかないおっちゃんだったから、出来ることなら来たくなかったんだが……。

 空を見上げると、既に太陽は沈みかけている。いや、あれが太陽なのかは分からないが。

「時間的にも次で最後だな……」

 次がダメだったら、明日は一から雇用先を探さなければ。正直、もうどの店もダメだと思い始めているけど……。

 せめて身分証おまけでくれても良いやん。せめてどこかで作れれば良いんだけど……。

「えーっと、あぁ、ここか」

 大体の場所しか覚えてないので、おおよその地点まで来たら一軒一軒確認していく。

 武器屋は周りの建物に比べ一回り大きいのですぐに見付かる。扉の前で一度深呼吸をしてからドアノブを捻る。

「失礼しまーす……」

 どうやら他に客はいないようだ。もう大分日が傾いているからだろうか。

「すみません、どなたかいませんか?」

 少しの間待っていると、奥から大柄な男性が出てくる。外見からして30代後半だろうか。

 恐らく、ここの店主だろう。

「……なんだ、兄ちゃん」
「ここで働かせて下さい!」

 膝を地につき、頭を下げる。

 頭を地に擦り付けているため、男性の顔は見えない。だが、ため息を吐く音だけが静かな部屋に響く。

「……兄ちゃん、もしかして身分証も無しに雇ってほしいとか言い回ってる奴か?」
「な、なんでそれを……」
「噂になってるんだよ。身分証も無しに雇用して欲しいとかほざく阿呆がいるってな」

 阿呆って……。こっちだって好きでこんなことしてるワケじゃねぇよ……。日本にいたら今頃部活でもやってるわ。

「話を聞く限り、大バカ野郎だと思っていたが……ワケありみたいだな」
「……はい」

 まぁ、たしかに身分証も持たずに雇って欲しいとか……普通はありえないよな。

「……悪いが、身分証も持たない奴をこの店に置いとくわけにもいかねぇ」
「……そうですか」

 ゆっくり立ち上がると、今日何度目かも分からないお辞儀をして店を出ようとする。

「待ちな、兄ちゃん」
「……?」

 扉を開ける直前、背後から店主が呼び止める。

「兄ちゃん、身分証を発行して貰わないのか?」
「発行出来るんですか……?」

 もし発行出来るとすればようやく念願の職を手に入れることが出来る。

「冒険者ギルドへ行けば発行してもらえるぞ、知らないのか?」
「し、知りませんでした……」

 冒険者ギルドというのはアレか?よく創作物である、冒険者が街の人からの依頼を受ける時に使う施設のことか?

「なら、そこで発行してもらえばどこかで雇ってもらえる……」
「いや、それはやめた方が良い」

 やめた方が良いって……どうしてだ?身分証があれば職につける。これのどこが問題なんだ?

「そもそもギルドの身分証ってのは、犯罪者等が作ることが多い。そんな身分証で雇ってもらえるわけないだろ?」
「な、ならギルドの身分証なんて無意味に等しいってことですか……?」
「いや、ギルドの身分証と一般の身分証は見た目も機能も全く同じだ。無意味ってことはない」
「なら……」
「兄ちゃん、今日一日で多くの店回っただろ? それも俺の耳に届くほど広まっている。黒髪黒目に奇妙な格好、容姿の情報が出回るのも時間の問題だろうな」
「それがどうかしたのか……?」
「あのな、身分証を持っていなかった奴が数日後に身分証持ちで雇用をお願いしたら、その身分証がギルドで作ったことだって一目瞭然だろ?」
「……ギルドの身分証ってのは、ギルドで作ったということを隠すからこそ効果があるのに対して、ギルドで作ったことを知られたら意味がないってことですね……」

 結局、名目上は身分証持っているが、実質意味が無いってことか……。

「そこで、だ。冒険者ギルドってのは身分証を発行して貰えるだけでなく、冒険者って職業に就職出来るんだ」
「冒険者……?」

 冒険者って……あの化け物を討伐したり、採取したりとかするやつか?

「兄ちゃん……冒険者も知らないのか……?」
「す、すみません……」
「冒険者っていうのは、ギルドを通して街や国からの依頼を受ける職業だ」
「依頼というのは?」
「色々あるぞ。モンスターの討伐、採取、護衛とかな」

 うーん……まぁ冒険者になるとすれば採取とかが妥当か?とてもモンスター戦う勇気は無い。

 というか、モンスターを倒す前に俺が倒されるわ。

「分かりました。明日には冒険者ギルドに行ってみようと思います」
「そうか」
「色々と、ありがとうございました」

 異世界に来て、初めて人の優しさというものを感じられた気がする。

「兄ちゃん、冒険者らしくなったらウチに来い。良い武器を選んでやる」
「……じゃあな」

 今度こそ俺は店を出る。

 ロクでもないこの世界だけど……

「結構良いとこあんじゃねぇか」

 すっかり暗くなった道を、俺は欠伸まじりに歩く。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...