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蜜月
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「フフ、早速おねだりを覚えたか。賢い黒猫だ。何でも言ってみろ」
「どうぞ、一度で、お許し、アンッ! く、くださいっ」
「……何?」
途端に顔を曇らせる皇帝を、涙でぼやける視界の中、シェルは懸命に見つめた。
朝から何度もされると、半日は本調子ではなく、ぼんやり過ごすことになる。明日以降の予定は知らされていないが、今日は狩猟会が開かれるはずだ。
シェルに随伴は許されておらず、そもそも父から乗馬自体を禁じられている。狩りの終わりを宮殿で待つ身だが、戻った主人を迎え、その成果を祝う酒宴の準備など、残った者のやることは山積みである。
かつて「馬に乗れない侍従」として何度も従事し、その忙しさをよく知るだけに、体力を温存したいと願うのは自然なことだった。
「ようやくゆっくりできる休みだというのに、お前はさっさと夫を褥から追い出そうというのか」
「今日は、狩猟をなさると、アッ! う、伺いました。そろそろ、支度をなさらなければ、ひんッ! しゅ、狩猟番も、勢子も、気を揉みましょう、あ、ぅンッ」
「……つくづく気が回ることだな、我が后は」
面白くなさそうな呟きは、しかしシェルの言葉に納得した証でもあった。
存分に馬を駆ることができる狩猟は、日頃宮殿で公務に忙殺されている皇帝が、特に好む野外行事である。だからこそ、休みの最初の予定に入れられたのだろう。
「今はこれで終わるが、……その分、夜はゆっくり愉しむことにしよう。──しっかり掴まっていろ」
「夜はゆっくり」という言葉にびくりと身を竦めながら、シェルは皇帝の首に腕を回した。
それを合図に、熟れた体を一度で味わい尽くそうと、ゆるやかだった律動が大胆なものに変わる。
小柄なシェルをすっぽりと抱え込み逃れられないようにして、皇帝が鋭く腰を突き上げる。ぬちゅっ、ぐちゅっ、と奥の肉を押し上げられ、高い嬌声が喉を突いた。
「あ、あうっ、ダメ、ダメですっ」
「何がダメなのだ。こんなに気持ちよさそうに、可愛らしく鳴いているのに」
「怖い、ア、あんっ! これは、怖いのです、んっ……」
快感だけではない何かがシェルの体を狂わせ、惨い抽挿に悦び、嬲られたところが痙攣を始める。
快楽に意識を塗り潰されそうになり、救いを求めてシェルは主人の名を呼んだ。
「ぅあっ、やんっ、……エーヴ、エーヴぅ……!」
一度で済ませてもらえても、このように無残に串刺しにされ、太く長い物で隘路を奥まで激しく抉られては、──そしてこれほど感じすぎてしまっては、しばらくは腰が立たないだろう。
奔馬を鎮めるように、シェルは逞しい首にぎゅっとしがみついた。
「エーヴ、どうか……酷く、なさらないで……」
「注文の多い黒猫だ。これほど悦んでいるのに、何が嫌なのだ」
「……立てなくなるのは、困ります……」
耳元に顔を寄せて、呼吸を整えながらそっと囁く。途端に、抱きついた首筋がぞわりと粟立った。
初めて見る主人の変化に、勿論シェルは気づいた。
(もしかして、……お耳がお弱いのかも……)
ならば、その弱いところを攻めれば、お慈悲を乞う交渉材料になるかもしれない。
「どうぞ、一度で、お許し、アンッ! く、くださいっ」
「……何?」
途端に顔を曇らせる皇帝を、涙でぼやける視界の中、シェルは懸命に見つめた。
朝から何度もされると、半日は本調子ではなく、ぼんやり過ごすことになる。明日以降の予定は知らされていないが、今日は狩猟会が開かれるはずだ。
シェルに随伴は許されておらず、そもそも父から乗馬自体を禁じられている。狩りの終わりを宮殿で待つ身だが、戻った主人を迎え、その成果を祝う酒宴の準備など、残った者のやることは山積みである。
かつて「馬に乗れない侍従」として何度も従事し、その忙しさをよく知るだけに、体力を温存したいと願うのは自然なことだった。
「ようやくゆっくりできる休みだというのに、お前はさっさと夫を褥から追い出そうというのか」
「今日は、狩猟をなさると、アッ! う、伺いました。そろそろ、支度をなさらなければ、ひんッ! しゅ、狩猟番も、勢子も、気を揉みましょう、あ、ぅンッ」
「……つくづく気が回ることだな、我が后は」
面白くなさそうな呟きは、しかしシェルの言葉に納得した証でもあった。
存分に馬を駆ることができる狩猟は、日頃宮殿で公務に忙殺されている皇帝が、特に好む野外行事である。だからこそ、休みの最初の予定に入れられたのだろう。
「今はこれで終わるが、……その分、夜はゆっくり愉しむことにしよう。──しっかり掴まっていろ」
「夜はゆっくり」という言葉にびくりと身を竦めながら、シェルは皇帝の首に腕を回した。
それを合図に、熟れた体を一度で味わい尽くそうと、ゆるやかだった律動が大胆なものに変わる。
小柄なシェルをすっぽりと抱え込み逃れられないようにして、皇帝が鋭く腰を突き上げる。ぬちゅっ、ぐちゅっ、と奥の肉を押し上げられ、高い嬌声が喉を突いた。
「あ、あうっ、ダメ、ダメですっ」
「何がダメなのだ。こんなに気持ちよさそうに、可愛らしく鳴いているのに」
「怖い、ア、あんっ! これは、怖いのです、んっ……」
快感だけではない何かがシェルの体を狂わせ、惨い抽挿に悦び、嬲られたところが痙攣を始める。
快楽に意識を塗り潰されそうになり、救いを求めてシェルは主人の名を呼んだ。
「ぅあっ、やんっ、……エーヴ、エーヴぅ……!」
一度で済ませてもらえても、このように無残に串刺しにされ、太く長い物で隘路を奥まで激しく抉られては、──そしてこれほど感じすぎてしまっては、しばらくは腰が立たないだろう。
奔馬を鎮めるように、シェルは逞しい首にぎゅっとしがみついた。
「エーヴ、どうか……酷く、なさらないで……」
「注文の多い黒猫だ。これほど悦んでいるのに、何が嫌なのだ」
「……立てなくなるのは、困ります……」
耳元に顔を寄せて、呼吸を整えながらそっと囁く。途端に、抱きついた首筋がぞわりと粟立った。
初めて見る主人の変化に、勿論シェルは気づいた。
(もしかして、……お耳がお弱いのかも……)
ならば、その弱いところを攻めれば、お慈悲を乞う交渉材料になるかもしれない。
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