后狩り

音羽夏生

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蜜月

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 拙い手淫で拡げられた穴が、精一杯口を開いて逞しい男を迎え入れる。湯の助けもあり、軋むようなつらさはないが、その分ぬるい湯が体内に入ることにもなる。初めての異様な感覚に、堪えきれずシェルは喘いだ。
 浮力のおかげで一気に貫かれてはいないが、真下から串刺しにされる体位である。激しくされたら、それだけ湯にも中を侵されることになる。
 この状態で奥を暴かれる恐ろしさに、つい内股に力を入れてしまう。往生際悪く深い挿入を阻んだシェルを、皇帝は目の前で色づく胸の突起に歯を立てることで咎めた。

「ふあっ、あ、ああぁ──っ!」

 脚の力が抜けるのと、掴まれた腰を力強く引き下ろされたのは同時だった。 
 そのまま、尖った先端で突き当たりをぐりぐりと押し上げられ、鋭い悲鳴がシェルの喉を詰まらせる。

「アひっ、ひぅ、お許しをッ! そこは、どうか、お許しを、……あ、ふああぁっ」
「浅いところでは満足できぬ体で、意地を張るな」
「ふ、深いのは、怖いと、いつも……あぁんっ!」
「『怖い』ではなく、『気持ちいい』だと教えただろう」

 畏れ多くも、それは違うと訴えたい気持ちが込み上げ、シェルは涙で目を潤ませながら皇帝を見つめた。
 後朝の交わりで、怖いと感じたら「気持ちいい」と声に出すように教えられ、従った。口にするだけで、怖さが気持ちよさに変わることはないと理解していたが、そう望まれたからだ。
 それなのに皇帝は、この行為でシェルが快楽を得ることを強いて、それを口にするように望む。ひたすらシェルを絶頂に至らしめることに費やす夜もあった。──まるで、はしたなくもシェルが寵を求め、愚かにもわきまえることを忘れ、快楽の虜となっているかのように。
 こうして抱き合っているのは、以前の奉仕のように、主人をお慰めする役目をいただいたからである。シェルが快楽を得るためではない。
 シェルの望みは、叶うならば、以前のように侍従としてお仕えすること。
 お側に置いていただけるなら、宮廷人に「最も高貴な侍従」と再び揶揄されてもかまわない。一度は解雇されたのに、大公家の矜持はないのかと蔑まれてもいい。──ただ一人と心に定めた主を、側でお支えできるなら。
 男なのに女の装いをして顔と声を隠し、後宮の一室で皇帝の訪れを待つ。それは、シェルの忠誠の形ではない。
 口には出せない想いが、涙となり転がり落ちる。間近でその様を目にした皇帝が、労わるようにシェルの頬を撫でた。

「急ぎすぎたか……? 支えてやるから、シェルのいように動け」
「……努めます」

 シェルの動きを妨げない程度に、腰に添えられた手に力が込められる。行為に耐えられずまた力が抜けてしまっても、崩れ落ちて一気に串刺しにされる恐れはないということなのだろう。
 皇帝の配慮はいつも行き届いて、シェルを甘やかす。自身の欲望よりも、シェルを優先するほどに。
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