后狩り

音羽夏生

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後宮

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──帝国の子宮、何とおぞましいところか。子を産ませるためだけに女たちを集め、二度と外に出さず死ぬまで閉じ込めるなど!
──どうかお控えください、我が君。誰かに聞かれては……。
──私はそなたをこのままにしておくつもりはない。いつか必ず、我が元に取り戻す。……今は待つことにしよう、蒔いた種が実るのを。



 后狩りから一月が過ぎた。
 その間、後宮の妃たちの誰にもお召しはない。
 儲けた御子の数も、重ねた夜伽の数も、彼女たちの立場を確固たるものにする材料にはならない。皇帝の寵愛を受けても身分はあくまで奴隷であり、主人の所有物にすぎないのである。法で定められた御位──皇帝と並び立つ存在である皇后とは、身分の上で雲泥の差がある。 
 皇太子時代からの馴染み深い妃ばかりでも、后狩りが行われたなら、後宮の女主人は、皇帝が自ら狩り入れた新参の皇后となる。妃たちはみな有力貴族からの献上品であり、皇帝の意志で選んだ者ではない。
 十人の妃たちが、皇后陛下にご挨拶申し上げたいと女官長を通じて上奏してきた時、承諾と宴の許可を与えたのは、シェルではなく皇帝だった。

「あれらは歌舞音曲に秀でた者たちだ。一同を集めて宴を張るなどなかなかない機会だから、趣向を凝らした演し物を用意していよう。よい気散じになるぞ」

「はい」と控えめに頷くだけのシェルに、皇帝が小さくため息を洩らす。

「いつまでもこの部屋に籠っていては、気鬱になろう。前にも言ったが、箝口布を付けウルリカを伴えば、奥に行っても構わない。庭は丹精されて見事だぞ。いつでも散歩を楽しむといい。読書にうってつけの四阿もある」

 後宮に囚われて一月。
 女官と宦官に日々手厚く世話をされているにもかかわらず窶れ、元々小柄なシェルは、肌や眼差しに妖しい艶を増す一方で、あやうい儚さを漂わせるようになった。
 出される食事には大人しく手をつけるが、毎回食べきれずに残している。そもそも健啖な性質ではない上に、連日の房事のせいでさらに食が細くなっていた。
 日中はぼんやりしていることも多く、窶れたせいで線の細さが強調され、長年後宮で多くの妃を見てきた女官長は密かに案じていた。
 ご寵愛を一身に集める尊き御身でありながら、あのご様子はまるで、何年もお召しがなく後宮の片隅で朽ちていく惨めな妾妃のようだ、と。
 愛する后を気遣う皇帝も、その好ましからぬ変化に勿論気づいており、交わる回数を減らしている。それでも逞しい体躯の男を受け入れる負担は大きく、また置かれた立場に馴染めるはずもなく、外の様子も知らされないままのシェルの焦燥は、日に日に深まるばかりだった。

「お庭、ですか」
「散策路も整備されている。そぞろ歩けば気も晴れ、日を浴びれば食欲も増すだろう。花色や季節の変化に富んだ名園だ」
「陛下がそのように仰るのでしたら、さぞ美しいのでしょうね……」
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