后狩り

蠢動

6

　やはり彼女の微笑みは、刃を潜ませている。
　イリスに殺された、エーヴェルトの母妃の名を出して覚悟を試すなど、挑発しているにも等しい。まさか惨たらしく殺された三人の、苦悶に歪んだ死に顔を忘れたわけではあるまいな、と。
　エーヴェルトが新妻に骨抜きにされ腑抜けていると判断したなら、塵ほどの躊躇もなく、辛辣な言葉で異母弟を痛罵することだろう。
　刃の微笑みに、エーヴェルトも同じ刃で返した。

「それでどうでした、母の息子の顔は」
「私を安心させる顔をしていたわ。──ではご機嫌よう、陛下。クリスティーナによろしく」

　夜はほどほどになさいね、と付け加えて弟の追撃を封じ、ぱたりと扇を畳むと、ハルディスは優雅に一礼した。
　微笑み合う姉弟には、同じ血が流れている。
　誇り高き皇家の血──狙ったものは手段を選ばず必ず手に入れる北の蛮族、『入江から来た者』の猛き血が。