后狩り

音羽夏生

文字の大きさ
上 下
49 / 88
蠢動

5

しおりを挟む
 近づけば、その山の全貌が見えてきた。
 あの鱗、ドラゴンだろうなー。
 鳥みたいに丸まって、体に首を埋めるようにして眠っているのではないかと思う。
 眠っているうちにその守っているとかいう、白い像をいただきたいところだけど……。
 周りは特に何もない。だだっ広い草地でお眠りになっている感じだ。
 ってことは……。
 身振りでスケボーを貸してと言われ、スコットに貸すと、少し上にあがって上から様子を見ている。
 降りてきた。

 小声でアダムに報告。

「白い何かをお腹に敷くようにして眠ってる」

 マジか。
 その時腕輪が点滅して、2時間たったことを知らせた。
 移動に2時間かからないぐらいの位置ってことだ。帰りの時間を入れると次の点滅までに白い像をなんとか手に入れないと。

「どうする?」

「奴を起こすしかないだろうな」

「ね、待って。あれを浮かせて下の像を取ればいいんじゃない?」

 メランが言った。

「どうやって浮かせるんだよ?」

 眉を寄せたヒックに、メランは事も無げに答える。

「それこそ風魔法使える人たちで」

 わたしたちは顔を見合わせる。
 もしそれができればドラゴンを起こさないで済む。
 じゃあ風魔法を使える人でと集まり、早速魔法をかけようとしたところにアダムが待ったをかけた。
 もしそれで起こしてしまった場合の対策を練ろうと。

 そっか!
 起こしてしまった場合、人がわらわらいて、なんだこの小さいのは?と、首を傾げるだけってのは希望的観測すぎるよね。しかも守っている白い像をいただくのだから敵認定されそうだ。
 白い像とドラゴンを引き離すことが要だ。

 ということで、起こしたら、オトリ部隊がうるさく&攻撃してドラゴンを引き連れて遠くへ行く。
 その間に他の人たちが白い像をなんとかして……脱兎。
 さて、そこでどうやって上に出るんだ? という話になった。
 わたしたちは上にあがることを考えず、下に降りてしまった。
 わたしはうっかり上に上がらなくちゃいけないことを忘れていたんだけど、アダムも考えが至らなかったなんて、そんなことある?
 思わず横を見ると。

「僕は自力で上がれる」と言った。

 え。
 すると後何人かは、自力でいけると言った。
 マジか。
 3メートル飛び上がれるとか、おかしいでしょ。
 無駄に高い運動能力、少しはわたしに寄越しやがれ。

 その人たちは自力で上がってもらうとして。

「……ドラゴンを風魔法で浮かせられるなら、みんなのこともひとりずつ浮かせられるんじゃん?」

 それもそうか。

「あ、シュタイン、お前、靴の下敷き持ってない?」

「あ、数足分なら」

 アスレチックで遊んだ時に貸し出したヤツは収納ポケットに入っている。
 わたしたちは作戦を立てる。
 風魔法を使える子がドラゴンを浮かせる。
 浮かすことができたら、その間に下にある白い像を他の人たちがどうにかする。
 もしドラゴンを起こしてしまって、攻撃されそうになったら。
 オトリ部隊が連れて穴と反対方向へドラゴンを連れていく。
 その間に白い像をいただく。
 さて、それが持ち上げられないくらい大きかった場合だけど、どうする?と。

 ところで、このドラゴンは森に生息する物なのか先生が作り上げた物なのかと誰かが言った。
 今、それ考える必要がある?とこれまた声がした。

「でも、本当にいるドラゴンなのだとしたら、守っているぐらいだから大切な物なのに、それを全部持っていくのは可哀想」

 とダリアが言った。
 その優しい呟きに、みんな自分勝手な心根を反省した。

「そうだね、ドラゴンに悪いから、一部だけちょっともらおうか」

 レニータがまとめる。
 みんなそれに異論はなかった。
 ただ一部を取り壊す方法があるかも、見てみないとわからないところではある。
 でもまぁ、状態を見るまでは対策は立てられないので、なんとか一部を切り取ることにする。
 もし一部を取ることができたら、そのまま穴まで戻って上にいく。それを見届けたらオトリ部隊もドラゴンの隙をつき、上に逃げる。

 もし白い像を一部にすることができなかったら、丸ごと。
 上に運べればいいし、ドラゴンがそれを許さなかったら、総力あげてドラゴンを倒すしかない。
 ペアも離れてはいけないけれど、この草地の中なら離れたとまでは言われないだろうと、アダムはオトリ部隊で、わたしは風魔法の部隊だ。
 オトリ部隊の自力では上がれない子に、トランポリンの靴の下敷きを渡した。
 さ、作戦開始だ。

 近づくと、閉じているまぶたがわたしが丸くなったぐらいの大きさだから、やはり大きい。風魔法を使ってみんなでドラゴンを浮かそうと試みる。
 わたしたちは声を立てないようにして、身振りで息を合わせ、浮かす。
 う、尻尾が浮かない。水平に持ち上がるように調整をかける。
 先生が見ているわけではないので、ちょっとぐらいオーバーして魔法を使ってもわからないだろう。
 ドラゴンが浮き上がる。1メートルぐらい上がった。
 他の子たちがおっかなびっくり白い像に手をかけた。
 大人の人ほどの大きさのものだった。

 何人もでえっちらほっちら動かす。丸ごと運ぶのは大変そうだ。

「何の像なんだろう?」

「……これって、骨?」

 白い像に触れたドムが、怯えた声を出した。
 そう言われてみると、ものすごく大きなものの骨の一部という感じだ。骨だった場合、人間ではあり得ない。もっと大きな魔物……。
 密かに鑑定すると〝風のドラゴンの骨〟とでた。
 え。ドラゴンが守っている白い像は同じ風のドラゴンの骨。
 なんかそれは胸を突かれる思いがした。

「犬が骨隠してる、あれとは違った感じだよね?」

「うん、大きいってドラゴンの骨だったりして」

「え? そういえばこいつ一人でいるんだよな、こんな魔の森に」

 グラッとドラゴンが揺れた。
 誰かの魔法が弱くなったみたいだ。

「とりあえず、これもっとこっちに出そう」

 7人がかりで白いものを動かし、元の場所にドラゴンを下ろした。
 近くにドラゴンがいるのは精神衛生上大変よろしくないが、このまま白い物を丸ごと運びつづけるのは重たすぎるみたいだ。
 比較的真っ直ぐな太い骨に突起のように水平に伸びているいくつかの細目の骨。こちらを折っていただいて行こうということになった。
 細い方でも、短剣を当てたぐらいじゃなかなか折れない。
 わたしは肩を叩かれた。

「ん、何?」

 次に短剣を当てる時に、風で援護するか。

「ん、だから何、ダリア?」

 振り返るとダリアは涙目だった。

「どしたの?」

 びっくりして聞くと、ダリアは人差し指で横をさす。
 指の先にはドラゴンが首を丸まった体の中に置くようにしていて、何も変わりはない。

 いや、変わりなく、ない。子供が丸まった大きさはありそうなまぶたはなく、代わりに縦の瞳孔の目がこちらを見ていた。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

愛しの妻は黒の魔王!?

ごいち
BL
「グレウスよ、我が弟を妻として娶るがいい」 ――ある日、平民出身の近衛騎士グレウスは皇帝に呼び出されて、皇弟オルガを妻とするよう命じられる。 皇弟オルガはゾッとするような美貌の持ち主で、貴族の間では『黒の魔王』と怖れられている人物だ。 身分違いの政略結婚に絶望したグレウスだが、いざ結婚してみるとオルガは見事なデレ寄りのツンデレで、しかもその正体は…。 魔法の国アスファロスで、熊のようなマッチョ騎士とツンデレな『魔王』がイチャイチャしたり無双したりするお話です。 表紙は豚子さん(https://twitter.com/M_buibui)に描いていただきました。ありがとうございます! 11/28番外編2本と、終話『なべて世は事もなし』に挿絵をいただいております! ありがとうございます!

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

今日も一緒に

みづき
BL
高校三年間、聡祐に片想いをしていた湊は、卒業式に告白したが、「知らない奴とは付き合えない」とふられてしまう。 叶わない恋には見切りをつけて、大学では新しい恋をすると決めて一人暮らしを始めた湊だったが、隣に引っ越していたのは聡祐だった。 隣に自分に好きだと言ったやつがいるのは気持ち悪いだろうと思い、気を遣い距離を取る湊だったが、聡祐は『友達』として接するようになり、毎日一緒に夕飯を食べる仲になる。近すぎる距離に一度は諦めたのに湊の気持ちは揺れ動いて…… 聡祐とは友達になると決めて幸せになれる恋を始めるべきか、傍に居れるうちは諦めずに好きなままでいればいいのか――ドキドキの新生活、お隣さんラブ。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

生まれ変わりは嫌われ者

青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。 「ケイラ…っ!!」 王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。 「グレン……。愛してる。」 「あぁ。俺も愛してるケイラ。」 壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。 ━━━━━━━━━━━━━━━ あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。 なのにー、 運命というのは時に残酷なものだ。 俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。 一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。 ★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

処理中です...