后狩り

音羽夏生

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後朝

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 昨夜拓いたのはほんの浅瀬で、エーヴェルトはまだ半分ほどしかシェルの中を知らない。今もまた、新たな痛みを与えないように、深みは目指していない。
 それなのにうわ言のように、深い、深い、と弱々しく繰り返され、否応なく一物がいきり立つ。
 小悪魔などと可愛気のあるものではない。これは大人しく清らかな顔をした、魔性だ。
 男を惑わす小癪な手管に流されそうになるのを、エーヴェルトは奥歯を噛み締めて堪える。
 厄介なことに、シェルの言葉に他意はない。破瓜を迎えたばかりの体は、いまだ青い。欲望のままに抱いてしまっては、愛しい后を傷つけることになる。
 大きなものを受け入れさせられているシェルはもとより、しばらくはエーヴェルトも、愛の交歓とともに忍耐を強いられそうだった。

「体が馴染むまで、こうして朝晩、ゆっくり愛してやる」
「お、お許しを……う、あぅ、……あっ、あァッ」
「お前のためだ、早く慣れろ」
「陛下……へいかぁ、あンッ……お情けを、私に、どうか……!」
「言うことを聞かぬ口はこれか……っ」

 聞き分けのない口を塞がれ、呻くように泣くシェルの中は熱く蕩け、未熟ながらも上等な蜜壺となって男を包み込む。
 激しく突き抉り、奥の奥まで暴きたくなるのを堪えながら、エーヴェルトはシェルの胸に手をやり、つんと立った突起をつまんだ。途端にシェルの中がぎゅっと締まる。
 七夜の馴らしと昨夜の交情で、シェルがかなり過敏な質であると知った。そして、人の手に触れられると怯えるように肌を粟立たせることも。
 その理由に心当たりがあるため、哀れにも思ったが、怖がらないように夫の手を覚えさせれば、シェルの官能をより深めることができる。
 つまんだ小さな乳首を指先でくりくりと転がし、ゆっくりと浅い抽送を繰り返す。時折、男の弱みを先端で刮げるように押してやると、くぅん、と甘く鼻を鳴らした。
 弱いところと同時に、弱みとなりそうなところを攻め、快感で繋ぎ、連鎖するように躾ける。純真な魔性を堕とすには、艶事に慣れた男の手練手管を駆使するしかない。
 口の中で弱いのは、口蓋と舌下を舌先でくすぐられること。花筒は、浅瀬のしこり。淡く色づいた乳首をじわじわと攻め、すでに見つけた泣きどころと結びつけていく。
 慣れない体にはたまらない刺激らしく、口づけを振りほどこうとしては顎を掴まれ、新たに唇を重ねられてシェルが小さく呻く。くちゅ、ぬちゅ、と上と下でいやらしい水音が立ち、それに合わせて乳首を転がされ、眦から一筋の涙が伝った。
 慰めるように吸ってやると、敷布を掴んでいた手を離し、胸元に縋りついてくる。

「へい、か……恐ろしゅう、ございます……どうか、もう……!」
「後朝だからと大目に見てきたが……そろそろ名を呼ばねば、酷くするぞ」

 魔性の仕草に惑わされまいと、敢えて低い声で咎める。途端にシェルの目が、溢れた涙で潤んだ。
 黒い瞳の煌めきは、寒夜に瞬く北天の星々のようだ。呑まれそうになり、エーヴェルトは甘やかそうとする言葉を、すんでのところで舌の上にとどめた。
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