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後朝
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傍らに眠る者が小さく身動ぎし、エーヴェルトははっと目を覚ました。
気配のする方に目を向けると、間近にシェルの顔がある。濃厚な快楽に啼き疲れたせいか、閉じた目の下にうっすらと青白い隈が影を作っている。何度も吸われた唇は赤く腫れて、その対比が艶めかしい。
枕を分け合うのが、つい数刻前まで快楽を分かち合っていた伴侶と知り、熱いものが胸に込み上げる。
妃を何人娶り同衾しても、朝までともに過ごしたことはなかった。皇統を繋ぐ義務と性欲処理が済めば、直ちに寝殿から下がらせていた。
他人の気配を感じながら眠れるような警戒心の無さでは、帝位に辿り着くことはできなかっただろう。即位した今も昔も、どれほど親しい者であろうと側に誰かがいれば、いくら疲労が積み重なろうとも眠ることはできない。──この小柄な元侍従を除いては。
シェルを酷く扱うようになったのは、その事実に気づいたからだった。
こうして同じ褥で腕に抱き、その寝息に安らぎを感じている今にして思えば、まったくの徒労──無駄な足掻きだったのだとわかる。しかし当時は、自身を理解できず混乱していた。
仇敵ユングリング大公の息子にそれほど心を許すなど、ありえない──許されない。
己に言い聞かせるために繰り返したシェルへの仕打ちは、若気の至りとはいえ、今となっては目を覆いたくなるものばかりだった。
苛立ちに任せ晩熟のシェルの唇を強引に奪い──初めての相手ということに満足し、大きな喜びに浸った。
そのようなことで喜びを感じたことが許せず、貶めるために屈辱的な奉仕を強いて──懸命に努めるシェルの健気さに胸を打たれた。
男の一物を口に含むことも、咥えて舐め回すことも。奥深くに迎え入れて喉で扱くことまでも、命じられればシェルは厭わなかった。
ならば、犬のように這いつくばる姿を、誇りはないのかと嘲笑えばいい。そう思うのに、──できなかった。
従順に仕えながらも生理的な苦しさに、幼さの残る顔を歪めてぽろぽろと涙を零す様は、拙い奉仕よりも雄を煽り立てる。乱暴に腰を押し付けて精を迸らせ、涙目で咽せるシェルを突き放すように下がらせても、夜の静寂に自身の荒い息が虚しく響くだけだった。
つらい奉仕にほんのりと上気し、口の端から白濁を滴らせるシェルは、少年の美貌に背徳の艶を加え、体の芯が疼くほど蠱惑的に映る。未踏の雪原を踏み抜くのにも似た、無垢なものを穢す悦びと罪悪感を喚び起こす。
思い出してはさらなる劣情を煽られ、一人で始末することもしばしばで、そんな時は妄想の中、嫌がるシェルを存分に踏み躙った。あたたかくやわらかいシェルの口内を思い浮かべながら、その喉奥に、清らかな顔に、何度も鬱屈をぶちまけた──。
どれほど穢しても、シェルの美点が強調されるだけで、嫌悪や侮蔑の情を積み増すことはできなかった。
様々な思惑から側に置くことになったが、シェルはとにかく真面目で職務に忠実で、その上忠誠心も厚い。丁寧な仕事ぶりは、口うるさく厳しい侍従長が手放しで評価するほどで、父帝が長らく手元に置いたのも、その実直さが理由の一つであることが窺い知れた。
気配のする方に目を向けると、間近にシェルの顔がある。濃厚な快楽に啼き疲れたせいか、閉じた目の下にうっすらと青白い隈が影を作っている。何度も吸われた唇は赤く腫れて、その対比が艶めかしい。
枕を分け合うのが、つい数刻前まで快楽を分かち合っていた伴侶と知り、熱いものが胸に込み上げる。
妃を何人娶り同衾しても、朝までともに過ごしたことはなかった。皇統を繋ぐ義務と性欲処理が済めば、直ちに寝殿から下がらせていた。
他人の気配を感じながら眠れるような警戒心の無さでは、帝位に辿り着くことはできなかっただろう。即位した今も昔も、どれほど親しい者であろうと側に誰かがいれば、いくら疲労が積み重なろうとも眠ることはできない。──この小柄な元侍従を除いては。
シェルを酷く扱うようになったのは、その事実に気づいたからだった。
こうして同じ褥で腕に抱き、その寝息に安らぎを感じている今にして思えば、まったくの徒労──無駄な足掻きだったのだとわかる。しかし当時は、自身を理解できず混乱していた。
仇敵ユングリング大公の息子にそれほど心を許すなど、ありえない──許されない。
己に言い聞かせるために繰り返したシェルへの仕打ちは、若気の至りとはいえ、今となっては目を覆いたくなるものばかりだった。
苛立ちに任せ晩熟のシェルの唇を強引に奪い──初めての相手ということに満足し、大きな喜びに浸った。
そのようなことで喜びを感じたことが許せず、貶めるために屈辱的な奉仕を強いて──懸命に努めるシェルの健気さに胸を打たれた。
男の一物を口に含むことも、咥えて舐め回すことも。奥深くに迎え入れて喉で扱くことまでも、命じられればシェルは厭わなかった。
ならば、犬のように這いつくばる姿を、誇りはないのかと嘲笑えばいい。そう思うのに、──できなかった。
従順に仕えながらも生理的な苦しさに、幼さの残る顔を歪めてぽろぽろと涙を零す様は、拙い奉仕よりも雄を煽り立てる。乱暴に腰を押し付けて精を迸らせ、涙目で咽せるシェルを突き放すように下がらせても、夜の静寂に自身の荒い息が虚しく響くだけだった。
つらい奉仕にほんのりと上気し、口の端から白濁を滴らせるシェルは、少年の美貌に背徳の艶を加え、体の芯が疼くほど蠱惑的に映る。未踏の雪原を踏み抜くのにも似た、無垢なものを穢す悦びと罪悪感を喚び起こす。
思い出してはさらなる劣情を煽られ、一人で始末することもしばしばで、そんな時は妄想の中、嫌がるシェルを存分に踏み躙った。あたたかくやわらかいシェルの口内を思い浮かべながら、その喉奥に、清らかな顔に、何度も鬱屈をぶちまけた──。
どれほど穢しても、シェルの美点が強調されるだけで、嫌悪や侮蔑の情を積み増すことはできなかった。
様々な思惑から側に置くことになったが、シェルはとにかく真面目で職務に忠実で、その上忠誠心も厚い。丁寧な仕事ぶりは、口うるさく厳しい侍従長が手放しで評価するほどで、父帝が長らく手元に置いたのも、その実直さが理由の一つであることが窺い知れた。
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