后狩り

音羽夏生

文字の大きさ
上 下
36 / 87
後朝

3

しおりを挟む
 傍らに眠る者が小さく身動みじろぎし、エーヴェルトははっと目を覚ました。
 気配のする方に目を向けると、間近にシェルの顔がある。濃厚な快楽に啼き疲れたせいか、閉じた目の下にうっすらと青白い隈が影を作っている。何度も吸われた唇は赤く腫れて、その対比が艶めかしい。
 枕を分け合うのが、つい数刻前まで快楽を分かち合っていた伴侶と知り、熱いものが胸に込み上げる。
 妃を何人娶り同衾しても、朝までともに過ごしたことはなかった。皇統を繋ぐ義務と性欲処理が済めば、直ちに寝殿から下がらせていた。
 他人の気配を感じながら眠れるような警戒心の無さでは、帝位に辿り着くことはできなかっただろう。即位した今も昔も、どれほど親しい者であろうと側に誰かがいれば、いくら疲労が積み重なろうとも眠ることはできない。──この小柄な元侍従を除いては。
 シェルを酷く扱うようになったのは、その事実に気づいたからだった。
 こうして同じ褥で腕に抱き、その寝息に安らぎを感じている今にして思えば、まったくの徒労──無駄な足掻きだったのだとわかる。しかし当時は、自身を理解できず混乱していた。
 仇敵ユングリング大公の息子にそれほど心を許すなど、ありえない──許されない。
 己に言い聞かせるために繰り返したシェルへの仕打ちは、若気の至りとはいえ、今となっては目を覆いたくなるものばかりだった。
 苛立ちに任せ晩熟おくてのシェルの唇を強引に奪い──初めての相手ということに満足し、大きな喜びに浸った。
 そのようなことで喜びを感じたことが許せず、貶めるために屈辱的な奉仕を強いて──懸命に努めるシェルの健気さに胸を打たれた。
 男の一物を口に含むことも、咥えて舐め回すことも。奥深くに迎え入れて喉で扱くことまでも、命じられればシェルは厭わなかった。
 ならば、犬のように這いつくばる姿を、誇りはないのかと嘲笑えばいい。そう思うのに、──できなかった。
 従順に仕えながらも生理的な苦しさに、幼さの残る顔を歪めてぽろぽろと涙を零す様は、拙い奉仕よりも雄を煽り立てる。乱暴に腰を押し付けて精を迸らせ、涙目で咽せるシェルを突き放すように下がらせても、夜の静寂に自身の荒い息が虚しく響くだけだった。
 つらい奉仕にほんのりと上気し、口の端から白濁を滴らせるシェルは、少年の美貌に背徳の艶を加え、体の芯が疼くほど蠱惑的に映る。未踏の雪原を踏み抜くのにも似た、無垢なものを穢す悦びと罪悪感を喚び起こす。
 思い出してはさらなる劣情を煽られ、一人で始末することもしばしばで、そんな時は妄想の中、嫌がるシェルを存分に踏み躙った。あたたかくやわらかいシェルの口内を思い浮かべながら、その喉奥に、清らかな顔に、何度も鬱屈をぶちまけた──。
 どれほど穢しても、シェルの美点が強調されるだけで、嫌悪や侮蔑の情を積み増すことはできなかった。
 様々な思惑から側に置くことになったが、シェルはとにかく真面目で職務に忠実で、その上忠誠心も厚い。丁寧な仕事ぶりは、口うるさく厳しい侍従長が手放しで評価するほどで、父帝が長らく手元に置いたのも、その実直さが理由の一つであることが窺い知れた。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

処理中です...