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初夜
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「陛下、……ふ、ぅ! ……陛下、……口づけは、唇で、いたしましょ、うンッ」
「……閨で名を呼ばぬなど、仕置きをするところだが……初めての、可愛いおねだりに免じて許してやる」
蜜の滴るような声でそう言いながら、しかし皇帝は唇への口づけを与えてくれなかった。
気に入りの玩具を離さない子供のように、手にしたものの裏筋をべろりと舐め上げる。敏感なところを、熱くぬめぬめとした生き物に這われるような感覚に、ひくっとシェルの腰が浮いた。
「――陛下ッ、どうか、私に奉仕をお許しください。陛下にお仕えすることをお許し、……アァン!」
恐ろしい状況から逃れるための必死の懇願は、妖しい舌遣いに遮られた。
否応なく、舌の動きに翻弄される。
シェルは、あの舌の厚みも、淫靡に絡みつく動きも知っている。何度も、数えきれないほど繰り返した口づけで、シェルの舌も唇も、主のそれに馴らされ、支配されていたのだから。
深く濃厚な口づけで口内をまさぐるように、性器をじっくりと弄ばれ、焦燥が涙となって滴り落ちる。素肌で触れ合う体温を知らない初心な体は、他愛なく絶頂への階を駆け上がろうとしている――尊い皇帝の、口内の熱に包まれたまま。
皇帝に奉仕させて精を放つなど、考えるだけでも恐ろしく、身震いするほど不敬なことだ。何としても逃れようと――実際、過ぎる快楽に身を震わせながら、シェルは舌足らずに叫んだ。
「だめっ、だめぇ! お、お口を汚してしまいますっ、どうか、お許しを!」
「……早いぞ、もっと愉しませろ」
不満気に皇帝は顔を上げたが、それはその口から解放されることを意味した。不興を被っても、快感よりも罪悪感が勝る行為の終わりに、シェルは心の底から安堵する。
しかし性器ははしたなく形を変えたまま、遂情を求めてぴくぴくと震えており、狂おしさにまた涙が滲んだ。
「シェルのこれは瑞々しくて、艶やかで……。お前は、こんなところまでが初々しくいじらしい。だからいつまでも可愛がってやりたくなる。こうして……」
「ひぃッ、……離して、……お離し、ください……う、ううっ」
根元をきつく押さえられ、高く短い悲鳴が喉を突く。
今にも溢れそうだった欲望は行き場を失い、体内を駆け巡る。
それだけでも十分つらいのに、熱い口腔に再び呑み込まれ、がくんとシェルの顎が上がった。薄い胸を懸命に喘がせて、瘧に罹ったようにびくびくと痙攣する様は、釣り上げられた瀕死の白魚にも似ている。
哀れな獲物の、絶命までのわずかな時間を楽しむ残酷な獣のように、皇帝はシェルを味わい、嬌声で耳を潤す。
敬愛する主の御名を惜しむシェルの思いは届くことなく、皇帝は愛する者を后とするための前戯を念入りに施す。これまで一方的に強いてきた奉仕を償うように。体からシェルを陥落させ、この行為の意味――婚姻の証を思い知らせるように。
皇帝が口を離して初めて、シェルは自身の性器が、だらしなく透明な雫を溢れさせていることを知る。
側面を伝う感触に鳥肌が立つが、畏れ多くて直視できなかった行為はこれで終わったのだ、とシェルは大きく息を吐いた。欲望は阻まれたままで、狂おしい劣情に身を焼かれても、皇帝の口淫から逃れられたことはシェルの救いだった。
「……閨で名を呼ばぬなど、仕置きをするところだが……初めての、可愛いおねだりに免じて許してやる」
蜜の滴るような声でそう言いながら、しかし皇帝は唇への口づけを与えてくれなかった。
気に入りの玩具を離さない子供のように、手にしたものの裏筋をべろりと舐め上げる。敏感なところを、熱くぬめぬめとした生き物に這われるような感覚に、ひくっとシェルの腰が浮いた。
「――陛下ッ、どうか、私に奉仕をお許しください。陛下にお仕えすることをお許し、……アァン!」
恐ろしい状況から逃れるための必死の懇願は、妖しい舌遣いに遮られた。
否応なく、舌の動きに翻弄される。
シェルは、あの舌の厚みも、淫靡に絡みつく動きも知っている。何度も、数えきれないほど繰り返した口づけで、シェルの舌も唇も、主のそれに馴らされ、支配されていたのだから。
深く濃厚な口づけで口内をまさぐるように、性器をじっくりと弄ばれ、焦燥が涙となって滴り落ちる。素肌で触れ合う体温を知らない初心な体は、他愛なく絶頂への階を駆け上がろうとしている――尊い皇帝の、口内の熱に包まれたまま。
皇帝に奉仕させて精を放つなど、考えるだけでも恐ろしく、身震いするほど不敬なことだ。何としても逃れようと――実際、過ぎる快楽に身を震わせながら、シェルは舌足らずに叫んだ。
「だめっ、だめぇ! お、お口を汚してしまいますっ、どうか、お許しを!」
「……早いぞ、もっと愉しませろ」
不満気に皇帝は顔を上げたが、それはその口から解放されることを意味した。不興を被っても、快感よりも罪悪感が勝る行為の終わりに、シェルは心の底から安堵する。
しかし性器ははしたなく形を変えたまま、遂情を求めてぴくぴくと震えており、狂おしさにまた涙が滲んだ。
「シェルのこれは瑞々しくて、艶やかで……。お前は、こんなところまでが初々しくいじらしい。だからいつまでも可愛がってやりたくなる。こうして……」
「ひぃッ、……離して、……お離し、ください……う、ううっ」
根元をきつく押さえられ、高く短い悲鳴が喉を突く。
今にも溢れそうだった欲望は行き場を失い、体内を駆け巡る。
それだけでも十分つらいのに、熱い口腔に再び呑み込まれ、がくんとシェルの顎が上がった。薄い胸を懸命に喘がせて、瘧に罹ったようにびくびくと痙攣する様は、釣り上げられた瀕死の白魚にも似ている。
哀れな獲物の、絶命までのわずかな時間を楽しむ残酷な獣のように、皇帝はシェルを味わい、嬌声で耳を潤す。
敬愛する主の御名を惜しむシェルの思いは届くことなく、皇帝は愛する者を后とするための前戯を念入りに施す。これまで一方的に強いてきた奉仕を償うように。体からシェルを陥落させ、この行為の意味――婚姻の証を思い知らせるように。
皇帝が口を離して初めて、シェルは自身の性器が、だらしなく透明な雫を溢れさせていることを知る。
側面を伝う感触に鳥肌が立つが、畏れ多くて直視できなかった行為はこれで終わったのだ、とシェルは大きく息を吐いた。欲望は阻まれたままで、狂おしい劣情に身を焼かれても、皇帝の口淫から逃れられたことはシェルの救いだった。
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