后狩り

音羽夏生

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初夜

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「……あっ、アァッ! ……いけません、エーヴェルト様、ァ……!」

 ミレニオ王家の高貴な血を引く、ユングリング大公家の疎まれた嫡子。皇帝の寵童。皇太子の「最も高貴な侍従」。
 血筋も家柄も申し分なく、母譲りの美貌で社交界を騒がせながらも、シェルは恋愛経験が乏しい。
 ミレニオにいる間は国王の甥として遇され、男女を問わず、周囲が積極的に交遊を試みてきた。そのおかげで知己は増え、人と交流する楽しみを得たが、帝国に戻れば以前と何も変わらない。遠巻きにされて、気楽な会話を楽しむ機会すら殆どなかった。
 帝国での立場が複雑なシェルは、高嶺の花であると同時に、恋人とするには二の足を踏む相手となる。また勤めに忠実であるがゆえに、シェルも敢えて恋人を作ろうとはしなかった。いずれ主から命じられた相手と結婚するのだから、その人を大切にしようと思っていた。
 誰かを愛するという感情が、いつ、どのようにして生まれるのか、シェルは知らない。
 単に事務的な主従関係とは言い難い五年間だったが、情愛が絡む遣り取りは一切なかった――はずだ。口づけも口での奉仕も、いつも皇太子の一方的な求めによって始まり、その気が済めば一方的に終わっていた。
 それなのに、突然後宮に攫われ、その認識は自分だけのものだったことを、シェルは知った。
 時に豹変することもあるが、敬愛に値する主に誇りをもって仕える侍従がいた一方で、主は、侍従に対する特別な情を密かに育んでいたことになる。
 一体いつ、何故、という疑問が湧き起こるが、五年の間気づかずにいたそれが、后狩りの端緒となっているのは確かだろう。
 シェルを置き去りにした主の情が、こうして今、シェルを後宮に繋いでいる。

「エーヴェルト様っ、お許しを、アッ! ぁ、はぁ、……どうか、お許しをっ」
「……箝口布もないのに、よく鳴く黒猫だ」
「あぁ! そこ、で、喋らないでくださいませ……ん、ぅんっ……」

 無言を通す決意は、とうに吹き飛んでいた。 
 寝台に押し倒され、夜着の前をはだかれた時、絶望に青ざめながらも、シェルはのろのろと身を起こそうとした。今宵は張り型を使った「馴らし」はないと聞いていたため、皇帝の前に蹲り、これまでのように口で奉仕するつもりでいた。
 しかしそれを押し留めると、皇帝はするすると脚の間に移動し、その口でシェルを含んだのだ。まさかのことに避ける暇もなく、何が起きたのかを把握した時――逃げるには遅すぎた。
 悲痛な面持ちで、必死に身を捩ろうとするシェルの下肢をがっちりと押さえつけ、皇帝は存分に口内のものを可愛がる。
 舌の表面で先端をぬるぬると擦られた後、敏感な鈴口を剥き出しにされる。逃げることもできず悶えるばかりのシェルをよそに、舌の先端が、脆いところを割るように抉る。
 自身の股の間に、白金に彩られた皇帝の頭部があり、シェルの性器を含んで先端を舐め回している――。
 あまりに強い刺激と、暴力的な視界に悲鳴が喉を裂き――無言の誓いはあえなく潰えた。
 シェルの唇は、堪えきれない嬌声と必死の懇願を、絶え間なく洩らし続けている。
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