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萌芽
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「あああぁっ、……は、はぁっ、あぁ……」
気がつけば、目隠しの布は涙を吸い、重く湿っていた。淫蕩な体は快楽に堕ちても、心がこの行為を拒絶している。それが涙となり、知らず決壊したのだろう。
やさしく丁寧に扱われても、暗闇の中突如触れてくる手が――どうしようもなく怖い。
その手が、前触れもなく尻肉を割り、秘められた蕾を探ってくる。ねっとりと濡れているのは、梟の零した精にまみれているからだろう。自らの白蜜で蕾を濡らされほぐされる羞恥と、視界を奪われたまま続けられる愛撫に、心は強張り、体は諾々と陥落する。
やわやわと蕾を揉み立て、ぬるんとくぐり抜けた指は肉筒を貫き、湿った音を立てながら中を拓いていく。浅いところにあるしこり――快楽の種を遠慮なく抉られて、梟は嬌声を上げながら仰け反った。
「ひあっ、あぁん!」
達したばかりで体中が敏感になっているのに惨い刺激を与えられて、梟の雄芯が震え、微かに熱を持ち始める。
いつもなら、そのはしたない反応を愉しそうに揶揄してくるのに、蜻蛉は一言も口を利かない。
背中の下で縛められた腕と付け根が痛みを訴え、少しでも逃れたい体が無意識に寝台をずり上がろうとするのを、肩を掴まれ引き戻される。達しないように根元を押さえられ、肉筒の発情を促すように、淫らな意図を持った指が内襞を撫で擦る。
執拗に捏ねられ、うずうずと火照りだした内襞は、男の指の指紋の感触すらも拾い上げて快感に置換し、白い肌を上気させていく。堪えても零れてしまう吐息が、妖しく湿っていく。それがどれほど艶めかしく、男を誘う様なのか、縛められた身をくねらせて快感に耐える梟は気づかない。
指一本で蕩けた蕾に、突然三本の指を突き立てられ、梟は高い悲鳴を放った。
「ああぁっ! あぅ、あ、あっ、ああっ……」
すでに奥まで探られていたため痛みはないが、衝撃は大きかった。
傍若無人に押し入った指は、三本の太さでぬくぬくと肉筒を掘り抉る。その動きに容赦はなく、時に奥で指を拡げられ、蕾から秘められた肉筒の先まで外気に侵される異様な感触に、全身が怖気立った。それなのに、その嫌悪感までもが、雄芯の快楽へと繋がっていく。
「いやっ、いやだっ! もう、やめっ、――あ、あっ、ひうっ!」
快楽に震えておきながら嫌がる梟を罰するように、揃えた指で届く限りの奥をぐりぐりと回すように抉られ、がくんと顎が上がった。その薄く開いた唇を、少し黙れとでも言うように、またねっとりと塞がれる。
そうして嘘つきな口を封じられ、くちくちと秘めやかだった肉筒を拓く音が、ぬちゅ、くちゅ、と卑猥に慎しみを失うまで嬲られた。声を上げたくても、男の熱い唇が許してくれない。
狂おしく身の内に溜まり続ける快感はとっくに溢れそうなのに、二度目の絶頂を許されない苦しさに惑乱し、暗闇の中体内を暴く指が誰の物なのか、段々わからなくなっていく。
(……嫌だ、怖い……怖い!)
突如襲われた明確な恐怖に息が詰まるのと、奥深くを犯す指が引き抜かれ、熱い怒張が蕾に押し当てられたのは同時だった。
「あああぁぁっ、あっ、あ、あう、……ひぅ……!」
ずぶり、と容赦なく一気に雄を突き立てられ、その衝撃の深さに、口づけを振りほどいて一際高く鳴いてしまう。前を縛めていた指が外され、梟は恐怖から逃れるように達していた。
ようやく許された頂に、後ろ手に縛められた不自由な身体がのたうつ。深すぎる快楽が体の奥から間欠泉のように湧き上がり、そのたびに小さな絶頂を呼び起こして、梟を打ち据える。
その官能のうねりは、強烈な肉筒の締め付けを味わわされている雄にも伝わっているはずだった。
「やっ、待っ、て、……まだ、つらい……はうっ、う、あうっ」
梟が果てても、闇の中、己を犯す男の行為が終わったわけではない。肉筒の奥深くまで埋め込まれた雄は、ずくずくと律動しながら、あちこちに潜む梟の弱いところ――快楽の種を余さず抉っていく。再びの絶頂で痺れたようになっている体には、酷な肉の悦びだった。
「ひぃっ、ん、んうっ、あ、……あぅん!」
脚を抱えていた手が、思い出したように胸元を這い回り、つんと勃ち上がった突起を弄り回す。その間も、肉筒を突き上げる雄の動きは止まらず、内襞を硬い切っ先で刮げるように抉られる。強靭な腰使いは疲れを見せず、肌が肌を打つ音はいつ果てるともなく奏でられ、梟を悦楽の淵へと陥れた。
「んっ、んっ、くぅん、……もう、だめっ、……ああぁっ」
与えられる刺激の過激さに、悲鳴を上げて梟は陥落した。塞がれた目からまた涙が溢れ、覆いを重く濡らしていく。
降参の気配を敏感に察し、体内の雄が煽るように弱いところを狙いすまして突き上げてくる。吐精の余韻に侵されたままの梟に、抗う術などあるはずもない。酷い快楽でのいたぶりに、男が望むままに淫らに啼き続けるしかなかった。
「ひああぁっ、……あ、あっ、あん、あぅんっ」
快楽の種が一斉に芽吹き、体内に枝葉を伸ばして根を張り、完全に体の制御を奪われる。貪欲な肉筒がぞろぞろと蠢き、雄に媚びるように縋り付く。より深い悦びを得るために、腰が跳ねて雄の律動に重なっていく。
目が見えないからこそ、動きを封じられているからこそ、体内で感じるものにすべての感覚が集中し、刺激はすべて過激な快楽へと変じていた。己を犯す、漲る雄に浮き上がった筋までにも、熟れた襞が絡みつき追い縋り、些細な段差にすら感じてわななく。
閉じきれない唇の端から、身の内を食い荒らす快楽に押し出されるように唾液が零れる。それをすかさず、ぬめぬめとした熱いものが余さず舐め取っていく。よく知るその感触も唐突なため、いつもとは違う官能を煽り立てられ、吐息が震えてしまう。
「あうぅ、やめ、もう、やめてっ……あ、ああっ……!」
毒のような悦楽がもたらす浮遊感が、放り上げられ落ちていく梟を闇の手に引き渡そうとする。口を開いて己を飲み込もうとする奈落の気配に、梟は必死に抗い、拒絶を叫んだ。
「いやっ、いやああぁぁ!」
尾を引くか細い悲鳴に、重い一突きの果てにどくどくと精を吐き出す、男の低い呻きが重なった。最奥をしとどに濡らされる感触に身震いし、梟は精を出さずに、鞭打たれたように痙攣しながら肉筒の中で極めてしまう。
「ああっ、あ、あ、……かげ、ろうっ……」
乱れる息の中、確かめるように呼んでも、返事はない。
背中の下で縛められたままの両腕は痺れ、感覚がない。自由にならないどころか、腕が付いているのかも定かに感じられず、触れて蜻蛉の存在を確かめる術もない。
つらさと恐ろしさに、また涙が溢れ、目隠しの布に染み込んでいく。
わななく吐息に涙の気配を感じたのか、濡れて色を変えているだろう目隠しの有り様から、とうに察していたのか。
突然、肉筒からまだ太く硬い雄がずるりと引き出された。
「あふぅ、……あ、あぁ、んっ……」
度重なる絶頂で脆くなっている内襞をしたたかに擦られ、予期せぬ快感にだらしない嬌声が零れてしまう。
空虚さに疼く肉筒から白濁が溢れ、留める力を失っている蕾から慎みもなく零れていく。その感触にびくびくと震える体を宥めるように、汗で湿った髪を梳き上げられ、耳元で低く問われた。
「二度と体の異変を隠さぬと、誓うか」
掛けられた声は、蜻蛉のものだ。精を放ったばかりで息が整っておらず、今まで自分に触れていたのは確かに蜻蛉だと知り、安堵のあまり梟は夢中で頷いた。
「余に愛された痕を体中に散らしていても、医師に診せることを拒まぬと誓うか」
「…それ、は」
蜻蛉が控えればいいだけではないか。
口には出さずとも、自分は悪くない、承服しかねるという梟の心の声は届いたらしい。
「余はそなたを愛でるのに加減はせぬ。肌の情痕は、余の寵愛を常に身に纏っているのだと心得よ。誰に見られても堂々としておれ。そなたは――皇帝の『影』なのだぞ」
『影』と言いつつ、あからさまな男妾扱いに湧き上がる反発心も、暗闇に拘束された状況から逃れたい一心の前には無力だ。梟は再びこくりと頷いた。
その従順さに、よく出来たと褒美を与えるように頭を撫でられる。よく知る手つきに、蜻蛉の手だ、と再び安堵したところで、目隠しを外された。
涙に濡れて重い睫毛を瞬かせる梟の眼を、蜻蛉が身を屈めて覗き込んでくる。
「ああ…、泣き過ぎだ。眼が真っ赤ではないか」
目元に口づけを一つ落とすと、蜻蛉は梟をうつ伏せにし、腕の縛めを解いた。
痺れた腕は使い物にならず、異常な状況下の情交で消耗した体は力が入らず、動けない。敷布に頬を押し当てたまま、梟はようやく体から強張りが抜けたように感じ、深く息をついた。
その様子に、男の手が伸び、再び頭を撫でてくる。
「梟、そなた…暗闇が怖いのか」
「…怖く、ない」
怖いのは暗闇ではない。かつて夜戦を得意としていた梟に、それはむしろ近しく、親しんだものだ。
呟くように答えたのが、気に入らなかったのか。
突然体を返され、反転する視界に眩暈を感じ目を瞑ると、強く肩を揺さぶられた。見上げた先には、怖いほど真剣な蜻蛉の顔があり、強い視線で槍のように貫いてくる。
「怖いなら、怖いと申せ。つらいなら、声にして伝えよ。その鏡のような瞳の奥に、抱えた不安をきれいに隠されては、余も侍従もそなたを守ることはできぬ。それがどれほどつらいか、どれほど己を責めても足りぬと悔やまれることか、そなたにはわからぬか!」
珍しく声を荒げ激昂した様子に、打たれたように体が強張る。驚きと怯えに目を見開いたまま、己を凝視する梟に、肩の力を抜くと蜻蛉は眦の険を収めた。
「そなたを怯えさせるのは本意ではないが、怯えるほど怖がらせ焼き付けてやらねば、覚えの悪いこの頭は、余の言うことを聞かぬからな」
今日のこの行為が、自由を奪われ闇に閉じ込められた仕置きが、すべて自身を案じてのことと知り、梟は言葉を失う。
何故この男は、大切なことを伝えるのに、いつも人を脅かし追い詰める方法を取るのだろう。
背を斬り付けたことも、悪霊憑きの部屋での強姦も、『躾』も、そして今回のことも。言うことを聞かないからなどと言っているが、きちんと話をしてくれたら聞く耳は持っているし、納得できれば従うのに。
淫らで恐ろしい目に遭わされ、いささか憤慨した梟だったが、話をする場を拒み、面会の場を設けられても相手を氷の瞳で跳ね返し、捕らえられた後も神聖騎士の独立独歩で行動し、強硬手段を取らざるを得なくなるまで、何度も蜻蛉を追い詰めてきた自覚は当然ない。
(でも…いい機会かもしれない)
胸の内に燻る、ずっと蜻蛉に問い質したいと思っていたこと。それを伝える機会は、これを逃せば二度とないような気がする。
意を決して、梟は口を開いた。
「ならば、蜻蛉も言葉にするべきだ。私の至らぬ点を」
「そなたの…至らぬ点?」
「そのせいで、気分を害しているのだろう…?」
だから罰するために、時に寝台で酷いことをするのではないか。執着を募らせ、昏い目をして追い詰めてくるのではないか。
眼差しで問い掛けると、蜻蛉は珍しく虚を衝かれたような顔をする。
「落ち度があれば、改善すべきことがあれば、言ってほしい。私に何が足らないのかも。互いのために、努力する」
真摯に言い募るのに、蜻蛉は信じられないものを見るように、まじまじと、そして長々と、穴が開くのではないかと案じるほど梟の顔を見つめてくる。
「そなた…本当にわからぬのか」
長い沈黙の末、蜻蛉がようやく口にしたのは、その一言だった。ずいぶん待たせた上に、内容のない答えだ。
揶揄っているのかと、梟は少々気分を害した。わかっていたら、質問するはずもない。
「わからないから、訊いている」
「ならば覚えよ。余がそなたに望むものは、ただ一つ――」
突如耳元に囁かれた、毎夜聞かされる言葉に、梟は身を震わせ――硬直した。
「…言えるか?」
甘くせがむように、夜が凝ったような黒々と深い瞳に見つめられるが、受けとめきれず弱々しく首を振る。こやつめ、と叱るように言いながらも、額に落とされた口づけは恭しく、やさしい。
「今はよい。それに余は、子供らと並べて『愛しい』などと思われたくはない。余が欲する言葉、いずれ必ず言わせてみせようぞ」
それは――きっと、不可能だ。
子供のように頑なに首を振る梟に、蜻蛉は小さく声を立てて笑う。二人の精にまみれた体を抱き寄せ、肌の下に燻る快楽の種火を熾すように、背の傷をなぞる指先が弱い場所で留まり、淫靡な意図を持って押し上げる。
あえかな吐息を零し仰け反る顔に、何度も口づけを降らせながら、男は愛おしそうに呟いた。
「そなたは…可愛いな、梟」
その言葉に、迫る暗闇の手からようやく逃れ安らぎかけていた意識が、はっきりと闇の手に落ち――握り潰された。
『可愛い…ああ、可愛い』
『ユリウスは可愛いな』
『こんなに可愛いから、捕まるんだ。――に』
「かわ、いく、ない…」
「…梟?」
「私は、可愛くない…!」
目隠しは外されたはずなのに、目の前が暗くなっていく。水の中に落とされたように、ゆらゆらと焦点が合わなくなっていく。
滅茶苦茶に手足を振り回して、自分を捕らえる腕から逃れた。寝台からも下りようと藻掻くが、恐怖に萎えた手足は役に立たない。力尽きた梟は、広い寝台の端から落ちかけたまま、張り詰めた弦が切れたようにぶつりと気を失った。
怖いのは暗闇ではない。
恐ろしいのは――悪霊だ。
気がつけば、目隠しの布は涙を吸い、重く湿っていた。淫蕩な体は快楽に堕ちても、心がこの行為を拒絶している。それが涙となり、知らず決壊したのだろう。
やさしく丁寧に扱われても、暗闇の中突如触れてくる手が――どうしようもなく怖い。
その手が、前触れもなく尻肉を割り、秘められた蕾を探ってくる。ねっとりと濡れているのは、梟の零した精にまみれているからだろう。自らの白蜜で蕾を濡らされほぐされる羞恥と、視界を奪われたまま続けられる愛撫に、心は強張り、体は諾々と陥落する。
やわやわと蕾を揉み立て、ぬるんとくぐり抜けた指は肉筒を貫き、湿った音を立てながら中を拓いていく。浅いところにあるしこり――快楽の種を遠慮なく抉られて、梟は嬌声を上げながら仰け反った。
「ひあっ、あぁん!」
達したばかりで体中が敏感になっているのに惨い刺激を与えられて、梟の雄芯が震え、微かに熱を持ち始める。
いつもなら、そのはしたない反応を愉しそうに揶揄してくるのに、蜻蛉は一言も口を利かない。
背中の下で縛められた腕と付け根が痛みを訴え、少しでも逃れたい体が無意識に寝台をずり上がろうとするのを、肩を掴まれ引き戻される。達しないように根元を押さえられ、肉筒の発情を促すように、淫らな意図を持った指が内襞を撫で擦る。
執拗に捏ねられ、うずうずと火照りだした内襞は、男の指の指紋の感触すらも拾い上げて快感に置換し、白い肌を上気させていく。堪えても零れてしまう吐息が、妖しく湿っていく。それがどれほど艶めかしく、男を誘う様なのか、縛められた身をくねらせて快感に耐える梟は気づかない。
指一本で蕩けた蕾に、突然三本の指を突き立てられ、梟は高い悲鳴を放った。
「ああぁっ! あぅ、あ、あっ、ああっ……」
すでに奥まで探られていたため痛みはないが、衝撃は大きかった。
傍若無人に押し入った指は、三本の太さでぬくぬくと肉筒を掘り抉る。その動きに容赦はなく、時に奥で指を拡げられ、蕾から秘められた肉筒の先まで外気に侵される異様な感触に、全身が怖気立った。それなのに、その嫌悪感までもが、雄芯の快楽へと繋がっていく。
「いやっ、いやだっ! もう、やめっ、――あ、あっ、ひうっ!」
快楽に震えておきながら嫌がる梟を罰するように、揃えた指で届く限りの奥をぐりぐりと回すように抉られ、がくんと顎が上がった。その薄く開いた唇を、少し黙れとでも言うように、またねっとりと塞がれる。
そうして嘘つきな口を封じられ、くちくちと秘めやかだった肉筒を拓く音が、ぬちゅ、くちゅ、と卑猥に慎しみを失うまで嬲られた。声を上げたくても、男の熱い唇が許してくれない。
狂おしく身の内に溜まり続ける快感はとっくに溢れそうなのに、二度目の絶頂を許されない苦しさに惑乱し、暗闇の中体内を暴く指が誰の物なのか、段々わからなくなっていく。
(……嫌だ、怖い……怖い!)
突如襲われた明確な恐怖に息が詰まるのと、奥深くを犯す指が引き抜かれ、熱い怒張が蕾に押し当てられたのは同時だった。
「あああぁぁっ、あっ、あ、あう、……ひぅ……!」
ずぶり、と容赦なく一気に雄を突き立てられ、その衝撃の深さに、口づけを振りほどいて一際高く鳴いてしまう。前を縛めていた指が外され、梟は恐怖から逃れるように達していた。
ようやく許された頂に、後ろ手に縛められた不自由な身体がのたうつ。深すぎる快楽が体の奥から間欠泉のように湧き上がり、そのたびに小さな絶頂を呼び起こして、梟を打ち据える。
その官能のうねりは、強烈な肉筒の締め付けを味わわされている雄にも伝わっているはずだった。
「やっ、待っ、て、……まだ、つらい……はうっ、う、あうっ」
梟が果てても、闇の中、己を犯す男の行為が終わったわけではない。肉筒の奥深くまで埋め込まれた雄は、ずくずくと律動しながら、あちこちに潜む梟の弱いところ――快楽の種を余さず抉っていく。再びの絶頂で痺れたようになっている体には、酷な肉の悦びだった。
「ひぃっ、ん、んうっ、あ、……あぅん!」
脚を抱えていた手が、思い出したように胸元を這い回り、つんと勃ち上がった突起を弄り回す。その間も、肉筒を突き上げる雄の動きは止まらず、内襞を硬い切っ先で刮げるように抉られる。強靭な腰使いは疲れを見せず、肌が肌を打つ音はいつ果てるともなく奏でられ、梟を悦楽の淵へと陥れた。
「んっ、んっ、くぅん、……もう、だめっ、……ああぁっ」
与えられる刺激の過激さに、悲鳴を上げて梟は陥落した。塞がれた目からまた涙が溢れ、覆いを重く濡らしていく。
降参の気配を敏感に察し、体内の雄が煽るように弱いところを狙いすまして突き上げてくる。吐精の余韻に侵されたままの梟に、抗う術などあるはずもない。酷い快楽でのいたぶりに、男が望むままに淫らに啼き続けるしかなかった。
「ひああぁっ、……あ、あっ、あん、あぅんっ」
快楽の種が一斉に芽吹き、体内に枝葉を伸ばして根を張り、完全に体の制御を奪われる。貪欲な肉筒がぞろぞろと蠢き、雄に媚びるように縋り付く。より深い悦びを得るために、腰が跳ねて雄の律動に重なっていく。
目が見えないからこそ、動きを封じられているからこそ、体内で感じるものにすべての感覚が集中し、刺激はすべて過激な快楽へと変じていた。己を犯す、漲る雄に浮き上がった筋までにも、熟れた襞が絡みつき追い縋り、些細な段差にすら感じてわななく。
閉じきれない唇の端から、身の内を食い荒らす快楽に押し出されるように唾液が零れる。それをすかさず、ぬめぬめとした熱いものが余さず舐め取っていく。よく知るその感触も唐突なため、いつもとは違う官能を煽り立てられ、吐息が震えてしまう。
「あうぅ、やめ、もう、やめてっ……あ、ああっ……!」
毒のような悦楽がもたらす浮遊感が、放り上げられ落ちていく梟を闇の手に引き渡そうとする。口を開いて己を飲み込もうとする奈落の気配に、梟は必死に抗い、拒絶を叫んだ。
「いやっ、いやああぁぁ!」
尾を引くか細い悲鳴に、重い一突きの果てにどくどくと精を吐き出す、男の低い呻きが重なった。最奥をしとどに濡らされる感触に身震いし、梟は精を出さずに、鞭打たれたように痙攣しながら肉筒の中で極めてしまう。
「ああっ、あ、あ、……かげ、ろうっ……」
乱れる息の中、確かめるように呼んでも、返事はない。
背中の下で縛められたままの両腕は痺れ、感覚がない。自由にならないどころか、腕が付いているのかも定かに感じられず、触れて蜻蛉の存在を確かめる術もない。
つらさと恐ろしさに、また涙が溢れ、目隠しの布に染み込んでいく。
わななく吐息に涙の気配を感じたのか、濡れて色を変えているだろう目隠しの有り様から、とうに察していたのか。
突然、肉筒からまだ太く硬い雄がずるりと引き出された。
「あふぅ、……あ、あぁ、んっ……」
度重なる絶頂で脆くなっている内襞をしたたかに擦られ、予期せぬ快感にだらしない嬌声が零れてしまう。
空虚さに疼く肉筒から白濁が溢れ、留める力を失っている蕾から慎みもなく零れていく。その感触にびくびくと震える体を宥めるように、汗で湿った髪を梳き上げられ、耳元で低く問われた。
「二度と体の異変を隠さぬと、誓うか」
掛けられた声は、蜻蛉のものだ。精を放ったばかりで息が整っておらず、今まで自分に触れていたのは確かに蜻蛉だと知り、安堵のあまり梟は夢中で頷いた。
「余に愛された痕を体中に散らしていても、医師に診せることを拒まぬと誓うか」
「…それ、は」
蜻蛉が控えればいいだけではないか。
口には出さずとも、自分は悪くない、承服しかねるという梟の心の声は届いたらしい。
「余はそなたを愛でるのに加減はせぬ。肌の情痕は、余の寵愛を常に身に纏っているのだと心得よ。誰に見られても堂々としておれ。そなたは――皇帝の『影』なのだぞ」
『影』と言いつつ、あからさまな男妾扱いに湧き上がる反発心も、暗闇に拘束された状況から逃れたい一心の前には無力だ。梟は再びこくりと頷いた。
その従順さに、よく出来たと褒美を与えるように頭を撫でられる。よく知る手つきに、蜻蛉の手だ、と再び安堵したところで、目隠しを外された。
涙に濡れて重い睫毛を瞬かせる梟の眼を、蜻蛉が身を屈めて覗き込んでくる。
「ああ…、泣き過ぎだ。眼が真っ赤ではないか」
目元に口づけを一つ落とすと、蜻蛉は梟をうつ伏せにし、腕の縛めを解いた。
痺れた腕は使い物にならず、異常な状況下の情交で消耗した体は力が入らず、動けない。敷布に頬を押し当てたまま、梟はようやく体から強張りが抜けたように感じ、深く息をついた。
その様子に、男の手が伸び、再び頭を撫でてくる。
「梟、そなた…暗闇が怖いのか」
「…怖く、ない」
怖いのは暗闇ではない。かつて夜戦を得意としていた梟に、それはむしろ近しく、親しんだものだ。
呟くように答えたのが、気に入らなかったのか。
突然体を返され、反転する視界に眩暈を感じ目を瞑ると、強く肩を揺さぶられた。見上げた先には、怖いほど真剣な蜻蛉の顔があり、強い視線で槍のように貫いてくる。
「怖いなら、怖いと申せ。つらいなら、声にして伝えよ。その鏡のような瞳の奥に、抱えた不安をきれいに隠されては、余も侍従もそなたを守ることはできぬ。それがどれほどつらいか、どれほど己を責めても足りぬと悔やまれることか、そなたにはわからぬか!」
珍しく声を荒げ激昂した様子に、打たれたように体が強張る。驚きと怯えに目を見開いたまま、己を凝視する梟に、肩の力を抜くと蜻蛉は眦の険を収めた。
「そなたを怯えさせるのは本意ではないが、怯えるほど怖がらせ焼き付けてやらねば、覚えの悪いこの頭は、余の言うことを聞かぬからな」
今日のこの行為が、自由を奪われ闇に閉じ込められた仕置きが、すべて自身を案じてのことと知り、梟は言葉を失う。
何故この男は、大切なことを伝えるのに、いつも人を脅かし追い詰める方法を取るのだろう。
背を斬り付けたことも、悪霊憑きの部屋での強姦も、『躾』も、そして今回のことも。言うことを聞かないからなどと言っているが、きちんと話をしてくれたら聞く耳は持っているし、納得できれば従うのに。
淫らで恐ろしい目に遭わされ、いささか憤慨した梟だったが、話をする場を拒み、面会の場を設けられても相手を氷の瞳で跳ね返し、捕らえられた後も神聖騎士の独立独歩で行動し、強硬手段を取らざるを得なくなるまで、何度も蜻蛉を追い詰めてきた自覚は当然ない。
(でも…いい機会かもしれない)
胸の内に燻る、ずっと蜻蛉に問い質したいと思っていたこと。それを伝える機会は、これを逃せば二度とないような気がする。
意を決して、梟は口を開いた。
「ならば、蜻蛉も言葉にするべきだ。私の至らぬ点を」
「そなたの…至らぬ点?」
「そのせいで、気分を害しているのだろう…?」
だから罰するために、時に寝台で酷いことをするのではないか。執着を募らせ、昏い目をして追い詰めてくるのではないか。
眼差しで問い掛けると、蜻蛉は珍しく虚を衝かれたような顔をする。
「落ち度があれば、改善すべきことがあれば、言ってほしい。私に何が足らないのかも。互いのために、努力する」
真摯に言い募るのに、蜻蛉は信じられないものを見るように、まじまじと、そして長々と、穴が開くのではないかと案じるほど梟の顔を見つめてくる。
「そなた…本当にわからぬのか」
長い沈黙の末、蜻蛉がようやく口にしたのは、その一言だった。ずいぶん待たせた上に、内容のない答えだ。
揶揄っているのかと、梟は少々気分を害した。わかっていたら、質問するはずもない。
「わからないから、訊いている」
「ならば覚えよ。余がそなたに望むものは、ただ一つ――」
突如耳元に囁かれた、毎夜聞かされる言葉に、梟は身を震わせ――硬直した。
「…言えるか?」
甘くせがむように、夜が凝ったような黒々と深い瞳に見つめられるが、受けとめきれず弱々しく首を振る。こやつめ、と叱るように言いながらも、額に落とされた口づけは恭しく、やさしい。
「今はよい。それに余は、子供らと並べて『愛しい』などと思われたくはない。余が欲する言葉、いずれ必ず言わせてみせようぞ」
それは――きっと、不可能だ。
子供のように頑なに首を振る梟に、蜻蛉は小さく声を立てて笑う。二人の精にまみれた体を抱き寄せ、肌の下に燻る快楽の種火を熾すように、背の傷をなぞる指先が弱い場所で留まり、淫靡な意図を持って押し上げる。
あえかな吐息を零し仰け反る顔に、何度も口づけを降らせながら、男は愛おしそうに呟いた。
「そなたは…可愛いな、梟」
その言葉に、迫る暗闇の手からようやく逃れ安らぎかけていた意識が、はっきりと闇の手に落ち――握り潰された。
『可愛い…ああ、可愛い』
『ユリウスは可愛いな』
『こんなに可愛いから、捕まるんだ。――に』
「かわ、いく、ない…」
「…梟?」
「私は、可愛くない…!」
目隠しは外されたはずなのに、目の前が暗くなっていく。水の中に落とされたように、ゆらゆらと焦点が合わなくなっていく。
滅茶苦茶に手足を振り回して、自分を捕らえる腕から逃れた。寝台からも下りようと藻掻くが、恐怖に萎えた手足は役に立たない。力尽きた梟は、広い寝台の端から落ちかけたまま、張り詰めた弦が切れたようにぶつりと気を失った。
怖いのは暗闇ではない。
恐ろしいのは――悪霊だ。
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※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・話の流れが遅い
・作者が話の進行悩み過ぎてる
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別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
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