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萌芽
(5)※
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居間から真っ直ぐ寝台へ導かれ、梟は諦念を呑み込みながらも、わずかに体を強張らせた。今日はそもそも嵐の来る日であり、体に感じる違和感が病の前兆ではないのなら、静かに眠りたいと願っても、叶えられる可能性は低かった。
寝台の端に座らせた梟の夜着を肩から落とし、寝間着の帯を解きながら、蜻蛉が嘆息まじりに、ここしばらく抱えていた梟の不安も解きほぐしていく。
「そなたの言う『違和感』は、愛情の副産物だ。子供たちを愛しいと思うがゆえに、子供たちに懐かれた時、喜びに胸が高鳴るのだ」
「…愛しい…」
寝間着の合わせを開かれ、肌が露わになる。蜻蛉の手が伸びる前に、梟は『胸が高鳴る』――掴まれたように疼いた場所に手をやった。
確かに、三兄妹に甘えられたり、笑い掛けられたり、戯れつかれたりすると、胸を突かれたように感じる。
しかしそれは痛みではなく、面映いようなくすぐったさだ。その狂おしさに、持てるもののすべてを子供たちに捧げたくなる。命を懸けて守りたいという衝動すら生まれる。
それが、愛しいという気持ちのせいなのか。この心に、そのような感情が宿る場所があるのだろうか。
思わず胸に当てたままの手元に目線を落とすと、その手を蜻蛉に掴まれ、指先に口づけられた。
「それほど我が子を大切に思ってくれるのはうれしいが、その父親には相も変わらずつれないやつよ。余に抱き締められても、何も感じぬか」
そう言いながらも、やわらかく抱き寄せる腕に責める気配はない。耳朶を舐められ、耳に掛かる熱い息に首を竦めながら、梟には気がついたことがあった。
(蜻蛉に抱きつかれた時、何も感じなかったのは、愛しいと思っていないからなのか)
逞しい体軀に精悍で男らしい容貌を持ち、可愛らしさなど欠片もない男を、子供たちのように小さき愛すべき対象と思えるはずもない。剣の腕も確かであり、頭一つ分も大きな図体で梟を組み敷き翻弄してくる相手に、庇護欲をそそられる要素もない。
なるほど、あの『違和感』は本当に心の動きによる反応だったのか、と梟は得心する。
「梟…そなた、また可愛気のないことを考えておろう」
「ひあっ!」
異常に敏い男が、耳の中に舌先を抉じ入れてくる。弱いところを露骨に責められて、涙目になりながら梟は詰った。
「蜻蛉が、可愛ければよかったのにっ」
「…何?」
「殿下方のように可愛ければ…」
――愛しいと思えたかもしれないのに。
続く言葉は、背中の傷を撫でられ走った疼きに掻き消された。
それでも蜻蛉には伝わったらしい。
「レーニシュ帝国皇帝に、可愛気ではなく可愛らしさを求める者など、そなたくらいのものであろうな」
皮肉気に返された言葉には、しかし笑いを堪える響きがあった。
蜻蛉の唇は首筋に移りながら、肌を舐め上げ、吸い上げる。穏やかながらも淫靡な愛撫に、堪えきれず、梟は喘ぐようにあえかな吐息を洩らす。はだけられた胸に男の手が這わされ、明確な意図を持ってささやかな突起を撫で擦り始めた。
「んっ……」
これ以上淫らな行為を仕掛けられては、大切な話などできない。梟は、不埒な動きを繰り返す手に、自分のそれを重ねて止めた。
「――何だ、気に入らぬか」
「私などに愛しいと思われて、殿下方にはご迷惑ではないだろうか」
気掛かりなのは、未知の感情がもたらす周囲への影響だった。
自分ですら気づかずにいた、自然に生じる心の動きを抑えるのは、難しいことに思われた。迷惑と思われるなら、せめて嫌な思いをさせないように、堅く心を閉ざし感情の発露を隠さなければならない。
思案する梟に蜻蛉は目を細めたが、普段の見守るような温かさはなく、眼差しは冷たい光を帯びていた。
「そなたに好かれて、それを迷惑に思う者がいるなら連れてまいれ。逆に頼もしいゆえ、そなたの侍従に取り立てよう」
梟の手を払い寝間着を完全に脱がせると、蜻蛉はこれから味わう体にゆったりと手を滑らせた。快楽への期待と怯えに、正直な体がひくりと慄く。
「己れの価値を知らず軽んじるそなたのあり様、改めよとこれまで何度も言って聞かせたが、響かぬようだな。いつまでも覚えぬゆえ、仕置きをしてやろう」
「仕置き…?」
唐突な言葉に梟は一瞬戸惑ったが、すぐに思い当たる節があった。マルガレーテ皇女の件だ。
あの時は憔悴した梟を気遣ってか、罪はないと言っていたが、やはり大切な娘を、一国の皇女を泣かせた者を許すことはできないのだろう。その罰ならば、粛々と受けるしかない。
睫毛を伏せて恭順の意を示す梟に、しかし蜻蛉は納得し難いことを言い出した。
「誤解だったとはいえ体に異変を感じていながら、侍従にも黙っていたのは許せぬ。言葉を費しても覚えぬなら、体に言い聞かせるまでよ」
「…それは、蜻蛉が、痕を残さなければいい話だろう」
己を大切にすると誓わされて、兄のように気遣われうれしく思い、だからこそ医師に診てもらおうと決意した。異変の原因を探ろうと試み、すぐには体を見せられない恥ずかしい理由も告げて、医師の診断に備えようとした。
梟なりに誠実に、蜻蛉との誓いを守ろうとしたのだ。それをないもののように扱い、そもそもすぐに診てもらえない体にした元凶である、己の所業は棚に上げて梟を責める身勝手さを、さすがに受け入れることはできなかった。
「私は悪くない。今回のことは、蜻蛉のせいだ」
「申したはずだ、そなたを傷つけるものはそなた自身でも許さぬと。その可愛らしい羞恥心も、例外ではない」
言うなり、うつ伏せに寝台へ押さえ付けられた。敷布に顔が埋まり、息苦しさに横を向いて呼吸を確保している間に、今度は後ろ手にきつく縛り上げられる。
「何をするっ、――あっ?!」
鋭く抗議する視界が、突然闇に覆われた。
蜻蛉の黒い夜着の帯で目隠しをされたらしく、仄かに明るい室内なのに瞼を通しての光も絶え、完全な闇に閉ざされる。動けない獲物が手に落ちたことを確かめるように、肩から腕を、そして背の傷を撫でられる。乾いた手のひらの感触に何故か酷薄さを感じ、びくりと体が震えたが、蜻蛉は何も言わない。
「やめてくれ、蜻蛉。こんなのっ……嫌だ!」
体を仰向けに返されて、息を飲む。腕を背中の下に敷き込むことになり、より身動きが取れなくなってしまう。
その状態で、再び胸の突起を捻られ、突然のことに背が撓った。
「ひっ!……あ、あぅ……んんっ」
視界が塞がれているせいで、触れてくる指先の一つ一つが、すべて唐突だ。予測できない愛撫は、与えられる刺激を増福する。何をされるのかわからない怯えの中、空気の揺れだけで肌が泡立つ。いつもと比べ、施される行為は特に激しいものではないのに、体は過剰に反応する。
「蜻蛉っ、解いてくれ! ――ああっ」
指で嬲られていた突起が、熱くぬめるものに吸い付かれる。根元をきつく挟んだのは唇だ。唾液を絡めながら先端をぐりぐりと転がすのは、舌先。見えなくても慣れ親しんだ愛撫から閃光のように迸る感覚に、背が撓った。間近に男の熱い息を感じ、さざめくような官能に肌が色づいていく。
もう片方も摘まれ擦り潰すように揉まれ、時に先端に爪を立てられる。痛みと紙一重の鋭い快感に、知らず腰が小さく揺れていた。
「あ、んっ、……あぁ、うぅんっ」
ちゅくちゅくと胸から聞こえる、乳首を吸われる音が、とてつもなくいやらしい。視覚を奪われているため、その分聴覚に刺激されてしまう。耳を塞ぎたいのに、自由を奪われた体は、この状況に流されるしかない。
唇で動けないように挟まれたそこを、舌先で惨く嬲られるたびに甘い痺れが生まれる。胸の中心で生まれたその痺れは、何故か下肢へと集まり雄芯に辿り着く。執拗な愛撫は、熟れた体を持て余し、梟が身をくねらせるようになるまで続いた。
這い回る手と唇がようやく胸を離れた時、二つの突起は赤く色づき、濡れて勃ち上がっていた。じんじんと疼くそこがどのような有り様なのか、立ち上る快感でわかってしまう。恥じるようにわずかに上体を揺らすと、大きな手に頬を撫でられた。
やさしい手つきに安堵したのも束の間、早まる呼吸に乾く唇を潤すように、男のそれが重なってくる。
「んむっ、ん、んんっ、……くぅん……うぅ」
口腔を掻き回す舌の動きは、荒々しいものではない。むしろやさしく、丁寧に梟の快感を煽り立てようとするものだ。
それなのに、体は快楽を受け取り始めているのに、頑なに強張りが取れない。這い回る手は蜻蛉のものだとわかっているのに、別の何かに触れられているような錯覚に陥る。
その感覚は、異常な状況でもはしたなく勃ち上がり始めている雄芯を、熱い手のひらで包まれた時に鮮烈になった。
「いやぁっ、……蜻蛉、何か、言って……!」
懇願しても、蜻蛉は無言のままだ。
大きな手でゆるゆると雄芯を扱かれ、時に根元の双珠を転がすように揉みしだかれる。弱い蜜袋を掌に収められ、気に入りの玩具のように弄られてしまうと、込み上げる嬌声を堪えることができない。梟を鳴かせたい時の、蜻蛉のやり口だとわかっていても、抗うのは至難の業だった。
「あぁっ、んあ、あうっ、はぁん!」
強烈な感覚に劣情を刺激され、自身の淫らな喘ぎに煽られ、否応なく雄芯が育っていく。かと思うと、再び胸に熱い吐息を感じ、すでに熟した突起に吸い付かれた。悪辣な舌が、口内に閉じ込めた乳首を我が物のように扱い、取れてしまうのではないかと怯える激しさで転がされる。
雄芯と乳首、弱いところを同時にねっとりと愛撫され、腰の震えが大きくなっていく。
(嫌だ…こんなのは、嫌だ…)
こうして言葉もなく、視界を塞がれ体の自由を奪われて一方的に高められるのは、自分という存在を物のように扱われているようで、切り裂かれたように胸が痛む。体も心も、厳冬の滝のように動きを止め、ひりひりと強張っていく。
無理矢理快楽を押し付けられるのはいつものことなのに、今日はそれがひどく――恐ろしい。肉体の浅ましさが生み出す罪悪感は凄まじく、頭の奥がひび割れるようにつらい。
体と心の反応が乖離し、二つに引き裂かれた瞬間、梟は男の手に扱かれながら、呆気なく精を噴き上げていた。
寝台の端に座らせた梟の夜着を肩から落とし、寝間着の帯を解きながら、蜻蛉が嘆息まじりに、ここしばらく抱えていた梟の不安も解きほぐしていく。
「そなたの言う『違和感』は、愛情の副産物だ。子供たちを愛しいと思うがゆえに、子供たちに懐かれた時、喜びに胸が高鳴るのだ」
「…愛しい…」
寝間着の合わせを開かれ、肌が露わになる。蜻蛉の手が伸びる前に、梟は『胸が高鳴る』――掴まれたように疼いた場所に手をやった。
確かに、三兄妹に甘えられたり、笑い掛けられたり、戯れつかれたりすると、胸を突かれたように感じる。
しかしそれは痛みではなく、面映いようなくすぐったさだ。その狂おしさに、持てるもののすべてを子供たちに捧げたくなる。命を懸けて守りたいという衝動すら生まれる。
それが、愛しいという気持ちのせいなのか。この心に、そのような感情が宿る場所があるのだろうか。
思わず胸に当てたままの手元に目線を落とすと、その手を蜻蛉に掴まれ、指先に口づけられた。
「それほど我が子を大切に思ってくれるのはうれしいが、その父親には相も変わらずつれないやつよ。余に抱き締められても、何も感じぬか」
そう言いながらも、やわらかく抱き寄せる腕に責める気配はない。耳朶を舐められ、耳に掛かる熱い息に首を竦めながら、梟には気がついたことがあった。
(蜻蛉に抱きつかれた時、何も感じなかったのは、愛しいと思っていないからなのか)
逞しい体軀に精悍で男らしい容貌を持ち、可愛らしさなど欠片もない男を、子供たちのように小さき愛すべき対象と思えるはずもない。剣の腕も確かであり、頭一つ分も大きな図体で梟を組み敷き翻弄してくる相手に、庇護欲をそそられる要素もない。
なるほど、あの『違和感』は本当に心の動きによる反応だったのか、と梟は得心する。
「梟…そなた、また可愛気のないことを考えておろう」
「ひあっ!」
異常に敏い男が、耳の中に舌先を抉じ入れてくる。弱いところを露骨に責められて、涙目になりながら梟は詰った。
「蜻蛉が、可愛ければよかったのにっ」
「…何?」
「殿下方のように可愛ければ…」
――愛しいと思えたかもしれないのに。
続く言葉は、背中の傷を撫でられ走った疼きに掻き消された。
それでも蜻蛉には伝わったらしい。
「レーニシュ帝国皇帝に、可愛気ではなく可愛らしさを求める者など、そなたくらいのものであろうな」
皮肉気に返された言葉には、しかし笑いを堪える響きがあった。
蜻蛉の唇は首筋に移りながら、肌を舐め上げ、吸い上げる。穏やかながらも淫靡な愛撫に、堪えきれず、梟は喘ぐようにあえかな吐息を洩らす。はだけられた胸に男の手が這わされ、明確な意図を持ってささやかな突起を撫で擦り始めた。
「んっ……」
これ以上淫らな行為を仕掛けられては、大切な話などできない。梟は、不埒な動きを繰り返す手に、自分のそれを重ねて止めた。
「――何だ、気に入らぬか」
「私などに愛しいと思われて、殿下方にはご迷惑ではないだろうか」
気掛かりなのは、未知の感情がもたらす周囲への影響だった。
自分ですら気づかずにいた、自然に生じる心の動きを抑えるのは、難しいことに思われた。迷惑と思われるなら、せめて嫌な思いをさせないように、堅く心を閉ざし感情の発露を隠さなければならない。
思案する梟に蜻蛉は目を細めたが、普段の見守るような温かさはなく、眼差しは冷たい光を帯びていた。
「そなたに好かれて、それを迷惑に思う者がいるなら連れてまいれ。逆に頼もしいゆえ、そなたの侍従に取り立てよう」
梟の手を払い寝間着を完全に脱がせると、蜻蛉はこれから味わう体にゆったりと手を滑らせた。快楽への期待と怯えに、正直な体がひくりと慄く。
「己れの価値を知らず軽んじるそなたのあり様、改めよとこれまで何度も言って聞かせたが、響かぬようだな。いつまでも覚えぬゆえ、仕置きをしてやろう」
「仕置き…?」
唐突な言葉に梟は一瞬戸惑ったが、すぐに思い当たる節があった。マルガレーテ皇女の件だ。
あの時は憔悴した梟を気遣ってか、罪はないと言っていたが、やはり大切な娘を、一国の皇女を泣かせた者を許すことはできないのだろう。その罰ならば、粛々と受けるしかない。
睫毛を伏せて恭順の意を示す梟に、しかし蜻蛉は納得し難いことを言い出した。
「誤解だったとはいえ体に異変を感じていながら、侍従にも黙っていたのは許せぬ。言葉を費しても覚えぬなら、体に言い聞かせるまでよ」
「…それは、蜻蛉が、痕を残さなければいい話だろう」
己を大切にすると誓わされて、兄のように気遣われうれしく思い、だからこそ医師に診てもらおうと決意した。異変の原因を探ろうと試み、すぐには体を見せられない恥ずかしい理由も告げて、医師の診断に備えようとした。
梟なりに誠実に、蜻蛉との誓いを守ろうとしたのだ。それをないもののように扱い、そもそもすぐに診てもらえない体にした元凶である、己の所業は棚に上げて梟を責める身勝手さを、さすがに受け入れることはできなかった。
「私は悪くない。今回のことは、蜻蛉のせいだ」
「申したはずだ、そなたを傷つけるものはそなた自身でも許さぬと。その可愛らしい羞恥心も、例外ではない」
言うなり、うつ伏せに寝台へ押さえ付けられた。敷布に顔が埋まり、息苦しさに横を向いて呼吸を確保している間に、今度は後ろ手にきつく縛り上げられる。
「何をするっ、――あっ?!」
鋭く抗議する視界が、突然闇に覆われた。
蜻蛉の黒い夜着の帯で目隠しをされたらしく、仄かに明るい室内なのに瞼を通しての光も絶え、完全な闇に閉ざされる。動けない獲物が手に落ちたことを確かめるように、肩から腕を、そして背の傷を撫でられる。乾いた手のひらの感触に何故か酷薄さを感じ、びくりと体が震えたが、蜻蛉は何も言わない。
「やめてくれ、蜻蛉。こんなのっ……嫌だ!」
体を仰向けに返されて、息を飲む。腕を背中の下に敷き込むことになり、より身動きが取れなくなってしまう。
その状態で、再び胸の突起を捻られ、突然のことに背が撓った。
「ひっ!……あ、あぅ……んんっ」
視界が塞がれているせいで、触れてくる指先の一つ一つが、すべて唐突だ。予測できない愛撫は、与えられる刺激を増福する。何をされるのかわからない怯えの中、空気の揺れだけで肌が泡立つ。いつもと比べ、施される行為は特に激しいものではないのに、体は過剰に反応する。
「蜻蛉っ、解いてくれ! ――ああっ」
指で嬲られていた突起が、熱くぬめるものに吸い付かれる。根元をきつく挟んだのは唇だ。唾液を絡めながら先端をぐりぐりと転がすのは、舌先。見えなくても慣れ親しんだ愛撫から閃光のように迸る感覚に、背が撓った。間近に男の熱い息を感じ、さざめくような官能に肌が色づいていく。
もう片方も摘まれ擦り潰すように揉まれ、時に先端に爪を立てられる。痛みと紙一重の鋭い快感に、知らず腰が小さく揺れていた。
「あ、んっ、……あぁ、うぅんっ」
ちゅくちゅくと胸から聞こえる、乳首を吸われる音が、とてつもなくいやらしい。視覚を奪われているため、その分聴覚に刺激されてしまう。耳を塞ぎたいのに、自由を奪われた体は、この状況に流されるしかない。
唇で動けないように挟まれたそこを、舌先で惨く嬲られるたびに甘い痺れが生まれる。胸の中心で生まれたその痺れは、何故か下肢へと集まり雄芯に辿り着く。執拗な愛撫は、熟れた体を持て余し、梟が身をくねらせるようになるまで続いた。
這い回る手と唇がようやく胸を離れた時、二つの突起は赤く色づき、濡れて勃ち上がっていた。じんじんと疼くそこがどのような有り様なのか、立ち上る快感でわかってしまう。恥じるようにわずかに上体を揺らすと、大きな手に頬を撫でられた。
やさしい手つきに安堵したのも束の間、早まる呼吸に乾く唇を潤すように、男のそれが重なってくる。
「んむっ、ん、んんっ、……くぅん……うぅ」
口腔を掻き回す舌の動きは、荒々しいものではない。むしろやさしく、丁寧に梟の快感を煽り立てようとするものだ。
それなのに、体は快楽を受け取り始めているのに、頑なに強張りが取れない。這い回る手は蜻蛉のものだとわかっているのに、別の何かに触れられているような錯覚に陥る。
その感覚は、異常な状況でもはしたなく勃ち上がり始めている雄芯を、熱い手のひらで包まれた時に鮮烈になった。
「いやぁっ、……蜻蛉、何か、言って……!」
懇願しても、蜻蛉は無言のままだ。
大きな手でゆるゆると雄芯を扱かれ、時に根元の双珠を転がすように揉みしだかれる。弱い蜜袋を掌に収められ、気に入りの玩具のように弄られてしまうと、込み上げる嬌声を堪えることができない。梟を鳴かせたい時の、蜻蛉のやり口だとわかっていても、抗うのは至難の業だった。
「あぁっ、んあ、あうっ、はぁん!」
強烈な感覚に劣情を刺激され、自身の淫らな喘ぎに煽られ、否応なく雄芯が育っていく。かと思うと、再び胸に熱い吐息を感じ、すでに熟した突起に吸い付かれた。悪辣な舌が、口内に閉じ込めた乳首を我が物のように扱い、取れてしまうのではないかと怯える激しさで転がされる。
雄芯と乳首、弱いところを同時にねっとりと愛撫され、腰の震えが大きくなっていく。
(嫌だ…こんなのは、嫌だ…)
こうして言葉もなく、視界を塞がれ体の自由を奪われて一方的に高められるのは、自分という存在を物のように扱われているようで、切り裂かれたように胸が痛む。体も心も、厳冬の滝のように動きを止め、ひりひりと強張っていく。
無理矢理快楽を押し付けられるのはいつものことなのに、今日はそれがひどく――恐ろしい。肉体の浅ましさが生み出す罪悪感は凄まじく、頭の奥がひび割れるようにつらい。
体と心の反応が乖離し、二つに引き裂かれた瞬間、梟は男の手に扱かれながら、呆気なく精を噴き上げていた。
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