トゥモロウ・スピーチ

音羽夏生

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19章 ※

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「酷いことはしない、力を抜け」
「で、も……」
「確かめるだけだ、いい子だから言うことを聞いてくれ」
「確かめるって、何を……」
「風呂場は暗くてよく見えなかったんだ、あんたの中の色」
「──何を言ってるんだっ、変態!」

 真っ赤になって抗議する志貴に、とてつもなく卑猥なことを言っておきながら、テオバルドはまったく心当たりがないとでも言いたげに肩を竦めた。

「可愛い犬に変態とは、とんだ言い草だな」
「変態に変態と言って何が悪いっ」
「大事なことだろ。あんたの中が今、どんな色をしてるのか──初心なピンクか、熟した赤か。終わった後も確認しないとな。俺のせいで真っ赤に充血して、入口は腫れてほころんでることを。まあ、俺のが溢れてどろどろで、色なんてわからなくなってるだろうが」

 露骨な言葉の当てこすりに、冷水を浴びせられた気がした。
 テオバルドが、一洋と重ねた夜を思い嫉妬に身を燃やし苦しんできたことを、志貴はようやく知る。普段会う時は、開けっぴろげなラテン男の顔をしていたから、人目を避けて口づける時の激しさに慄くことはあっても、その懊悩に気づけなかった。いつも余裕めいて、焦燥に揺らいだのは部下が消えた時くらいだったから。
 この男は、何でも呑み込み秘めてしまうのだ。過去の傷も迫る危機も、飼い主との間に引かれた一線を守り、一人腹に納めようとする。
 志貴は体の力を抜き、テオバルドに身を任せた。
 もう飼い犬ではない以上、彼に我慢を強いるわけにはいかない。例え塵のように取るに足らないことでも、別れの前に彼の苦痛はすべて取り除きたかった。
 志貴の覚悟を傲然と飲み干すように、テオバルドは開いた穴を電球に向け、存分に検分した。その中の有り様を、逐一卑猥な言葉で教え、羞恥に唇を噛み締める志貴に気づくと、ふっと中に息を吹きかけて、甘い悲鳴で唇をほどいた。
 広げられたまま舌を入れられ、体内を舐め回された時も、深く指を入れられ奥を探られた時も、徐々に増やされる指に中を捏ねられ拡げられた時も、志貴は悲鳴を呑み込みながら耐えた。
 しかし、はしたない肉体は我慢することを知らず、ようやく満足したテオバルドが舌を引き抜き顔を上げた時には、達したはずの欲望は、再び硬さを取り戻しつつあった。

「──綺麗な穴だ。あれから衛藤は、お行儀よく帰ったみたいだな」
「っ……兄さんは、私を抱こうとしたことはない。いつだって、私を楽にしようとしてくれた。でもそれも、もう──」

 頬を上気させたまま、志貴は快楽に潤む目を瞬かせながらテオバルドを見上げ、遠くない未来を告げた。

「きっと私は、兄さんに抱かれる。それでも君は」
「あんたと会うまで、俺は半分死んだようなもんだった」

 誠実に見せかけて、その実卑怯な告白は、熱を孕みながらも冷静な囁きに遮られた。

「あんたと──心底欲しいと思う相手に出会って、必死に追いかけて、そんな衝動が自分に残ってたことに驚いた。今俺は、確かに生きている。ただ一人を求めることで。──あんたが、欲しい」
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