トゥモロウ・スピーチ

音羽夏生

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16章※

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「志貴はいつから、こんな我が儘になったんだ?」
「何も溜め込まなくていいって言った、イチ兄さんのせいだよ。兄さんだって、こうされるの――」

 好きなくせに、と囁きながら濡れた蜜口を指先でそろりと撫でる。敏感なところを指の腹で割るようにすると、向かい合う一洋の吐息がぎこちなく乱れた。

「っ……遊ぶな」
「兄さんだって、僕の胸で遊んでるくせに」
「こんなに可愛がってやってるのに、その言い草は心外だな」
「あぁっ、ん!」

 言うなり乳首を咥えられ、歯を立てられる。甘噛みというには強く齧られ、衝撃と痛みに志貴の欲望が涙を零した。酷くされても悦ぶ体は、弄虐に萎えることもなく高まるだけなのだ。そして一洋は、それを知っている。
 気に入った玩具を徹底的に弄り回す子供のような一洋の「遊び」に翻弄されながら、志貴は懸命に手の中の熱いものを扱いた。一洋の支配欲を満たすことで、より支配したいと思わせるためには、志貴からも与え、捧げなければならない。これまでのように、受け取るだけではだめなのだ。

 その思いが熱心な手の動きとなり、一洋の欲望は天を衝くように聳え立ち、溢れる先走りで濡れていた。呼吸も色っぽく乱れがちで、終わりが近いことを物語っている。
 「遊んで」もらえるのは胸ばかりで、触ってもらえないままの志貴の欲望も、切なさにポロポロと泣き続けている。早く先に進みたい一心で手の動きを早めた志貴の胸から、一洋は顔を上げた。

「そろそろ『遊び』の時間は終いにするか」

 あっさりと体を持ち上げられ、ベッドの上に転がされる。あっと思う間もなくうつ伏せにされて、膝を立てた腰を掴まれた。尻を突き出し、秘処を捧げるような姿勢に、あぁ、と熱いため息が零れる。――ようやく中を弄ってもらえる期待と、男を誘い、欲望をすべて受けとめなければという緊張に。
 腰から尻にかけての稜線を検分するように男の手のひらになぞられ、志貴の体は波打つように跳ねた。

「随分敏感になってるな、緊張してるのか?」
「う、ん」
「久しぶりだから、――というだけではなさそうだな」
「え……、あっ!」

 果実を割るように、尻の双丘を割り広げられる。手加減なく広げられ、赤裸々にさらされたそこを、濡れた指先がつぷりと開いた。

「すっかり固くなってるな。それに狭い」
「んっ、……あぁっ」

 まだほぐされていない穴に、もう一本指が押し当てられる。二本の指で左右に圧を加えられ、そこはうっすらと口を開いた。

「中の色も……」
「ぅ、くっ」

 強引に広げられる痛みに思わず呻く。ぽっかりと開いた穴から奥までが外気にさらされ、その異様な、しかし親しんだ感覚に身震いする。
 一洋らしくない性急さに、傷つけられることはないと信じていても、生理的な怯えに尻が揺らめく。それは、男を誘って腰を振る様とまったく同じであり、扇情的に男を誘う仕草でもあった。

「……使い込んだ色はしていないな、中も入口も」
「自分で、するわけないっ」

 酷い言い草に、咄嗟に志貴は言い返していた。
 『薬』は一洋の手で与えられるもので、自らの手で自身を暴き快楽を貪る浅ましさも――その勇気も、志貴にはない。
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