トゥモロウ・スピーチ

音羽夏生

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15章※

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 痛みをそうと感じられないほど、体は昂っている。身を炙る欲望に抗うこともできず、志貴は泣きながら従った。
 右手で自身の胸を捏ねながら、絶頂を求め左手で必死に陰茎を扱き上げる。しかし根元を縛められている以上、どれほど激しく自慰をしても達することはできない。それに、追い詰められた哀れな欲望を慰めているのは、一洋の手ではないのだ。その手でなければ、志貴は極められないのに。
 救いを求め、涙で曇った目で見上げた一洋は、冷徹な目をしていた。幼馴染を甘やかす気のない、望む答えを得るまでは一切の容赦をしないという意思が、そこにはあるだけだ。
 その剛い眼差しに、張り詰めた糸がぷつりと切れた気がした。

(もう、だめ、だ……)

 この人には敵わないのだ、という諦念と敗北感に打ち拉がれながら、志貴はすべてを吐き出した。
 悔し涙を堪えながらの告白を、一洋は馬鹿にする様子もなく眉を寄せつつ聞いていたが、そこに嘘はないことは理解したらしい。鬱屈を吐き出し、嗚咽に喉を詰まらせる志貴を労わるように、根元を縛めていた指が外れる。
 解放の予感に、そこがどくりと脈打った。

「あ……」
「お前は何も抱え込まなくていいと言っただろう。ほら、――達け」
「……あ、ぁあっ! ……は、あぅ……」

 大きな手のひらで包まれ、指先が裏筋に当たるようにして一撫でされただけで、志貴は白濁を噴き上げていた。何度も腰を突き上げ、ぴゅっ、ぴゅくっ、と腹に散った生温い感触で、ようやく絶頂を得たことを肌でも知覚し、陶然となる。
 久しぶりの――三ヵ月ぶりの、雄の悦楽だった。自分では得られなくなってしまった、男の手に管理された悦びは、それゆえに深く、凄まじかった。

「……ぁ、あ……はぁ……」
「たくさん出したな……いい子だ」

 握り込んだ先端を磨くように、一洋の指の輪が回転する。達したばかりの敏感なそこを、さらに追い詰める意図は一つしかない。

「いやだ……イチ兄さん、あれは嫌……っ」
「俺の前で意地を張るな。好きなんだろう、こうされるのが」
「嫌だ、怖い……。あれは、怖いんだ……!」
「俺がいるのに、怖いことなんて何もないだろう?」

 やさしげな声とは裏腹に、男の手は休むことなく志貴の弱いところをぬるぬると扱き、揉み立てる。弄られているのは陰茎なのに、その付け根の奥――触れられていない尻の中が、きゅうっと引き絞られる。
 前も後ろも、そして胸も、体のすべてが発情している。久しぶりの『薬』で感じやすくなっている体に、唆す男の手と低い囁きに耐える力など残っていなかった。

「……ァアアッ!」

 欲望から、ぷしゅっ、ぷしゅっ、と間欠的に透明な雫が噴き出した。
 生殖とは関係のないこの体液が一体何なのか、志貴にはわからない。わかるのは、この潮噴きという行為が、とてつもなくいやらしく、恥ずかしいということだけだ。
 びくびくとわななく腹が、快楽に打ち据えられ放心する志貴の、心身の状態を表していた。もはや自身の制御もままならず、貪欲な悦びへの希求だけが、全身を支配している。そしてその手綱を握るのは、志貴ではなく目の前の男だった。
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