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12章
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舌の付け根を舌先で鋭く刺激された時には、思わず体が跳ねるほどの疼きが込み上げたが、貪欲な犬はようやく手に入れた餌に食らいついたまま離そうとしない。そんなところで感じることへの驚きと羞恥に呻いても、顎を固定する手が緩むことはなかった。
「ん、ん、……は、んっ、あぁ……」
「――覚えろよ、俺の味を」
飼い犬を名乗るくせに、支配者のように振る舞う舌に口内を掻き回されながら、たっぷりと唾液を与えられる。拒むことは許されず、志貴は慄きながら男の体液を飲み込んだ。喉を滑り落ちたそれは、体内に吸収されるのだ。そして志貴の一部になる――。
志貴の唾液も奪われた。聞こえよがしにいやらしい水音を立てながら、テオバルドは美味そうに志貴の体液を啜る。甘えた犬がせがむように、何度も、何度も――。そうして志貴も、彼の一部になるのだ。
重なる鼓動の高まりに、窓から乾いた風が入ってきても、二人の肌はじっとりと汗ばんでいた。
(違う……違うんだ、二人とも……)
声を封じられたまま、それでも、志貴は繰り返した。
一洋は、違う。独占欲をぶつけ合う相手ではない。
しかし、テオバルドも違う。一洋とは違い、心を明け渡していい相手ではない。許すのは唇だけ――飼い犬と自らの内なる獣に餌を与え、首輪をして飼い慣らす。そうすれば、どちらにも手綱を付けられる。
その手綱の端は志貴の手に固く結えつけられており、二匹の獣が暴走すれば、飼い主も否応なく引きずられるしかない。それがわかっていても、志貴は繰り返される熱い口づけを拒むことができなかった。
もうすでに、獣の言いなりになっている――。
「ん、ふっ、……ぅ、んくっ」
「……嫌がるフリをするなよ、感じてるくせに。好きなんだろ、こうやって大事にされながら――奪われるのが」
「違、んむっ、――く、ぅんっ! ……はっ、ふあ――…」
この日、テオバルドは志貴の飼い犬になった。
スパイとしての仕事ぶりは以前と変わらないが、会うたびに餌をねだる、押しの強い甘ったれの飼い犬だ。口づけを断る口実とならないように、予め人目を避けられる場所をいくつも用意している、貪欲で抜け目のない犬は、飼い主の手首に巻きつけた手綱を引き回し、容赦なく翻弄する。
躾のなっていない駄犬、妖艶な色気と底なし沼の虚無を内包した小麦色の色男。
志貴の中の獣が欲しがったのは、この上なく上等で危険な餌だった。おそらく最も取り扱いが難しい、隙を見せればこちらが喰われる美しい猛獣――信用ならない、スパイという名の。
「ん、ん、……は、んっ、あぁ……」
「――覚えろよ、俺の味を」
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志貴の唾液も奪われた。聞こえよがしにいやらしい水音を立てながら、テオバルドは美味そうに志貴の体液を啜る。甘えた犬がせがむように、何度も、何度も――。そうして志貴も、彼の一部になるのだ。
重なる鼓動の高まりに、窓から乾いた風が入ってきても、二人の肌はじっとりと汗ばんでいた。
(違う……違うんだ、二人とも……)
声を封じられたまま、それでも、志貴は繰り返した。
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しかし、テオバルドも違う。一洋とは違い、心を明け渡していい相手ではない。許すのは唇だけ――飼い犬と自らの内なる獣に餌を与え、首輪をして飼い慣らす。そうすれば、どちらにも手綱を付けられる。
その手綱の端は志貴の手に固く結えつけられており、二匹の獣が暴走すれば、飼い主も否応なく引きずられるしかない。それがわかっていても、志貴は繰り返される熱い口づけを拒むことができなかった。
もうすでに、獣の言いなりになっている――。
「ん、ふっ、……ぅ、んくっ」
「……嫌がるフリをするなよ、感じてるくせに。好きなんだろ、こうやって大事にされながら――奪われるのが」
「違、んむっ、――く、ぅんっ! ……はっ、ふあ――…」
この日、テオバルドは志貴の飼い犬になった。
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志貴の中の獣が欲しがったのは、この上なく上等で危険な餌だった。おそらく最も取り扱いが難しい、隙を見せればこちらが喰われる美しい猛獣――信用ならない、スパイという名の。
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