147 / 237
12章
16
しおりを挟む
さきほども探られた襟の中に指が潜り込み、一点に指を這わされる。その場所に執着される理由もわからず、慄いた顎を掴まれ、あっと思った時には口づけられていた。
経験豊富な手馴れた男は、いとも簡単に生まれたばかりの志貴の欲望を満たしてくれるが、最早手綱を付けられる忠犬ではない。手玉に取られ翻弄されるのは、志貴の方なのだ。
「愛してる」
「……やめてくれ」
欲望だけが先走る、誠実さの欠片もない関係で、そんな言葉を言われたくなかった。しかし男は、制止の声が聞こえないかのように、何度も繰り返す。
「愛してる、志貴」
「そう思うなら、君は私に触れないでくれ。頼む……」
「この期に及んで、まだそんなつれないことを言うとはな。――本当に憎たらしい、性質の悪いご主人様だ……」
強くうなじを掴まれ、また性急に唇を重ねられた。あの闘牛の夜の口づけのような荒々しさに呻きながらも、志貴の中の艶めかしい生き物は歓喜している。貪るほど求められることに――この男の執着に。
自覚するしかなかった。ピラールに抱いた感情は嫉妬であり、身の内に生まれたこの獣の名は独占欲であることを。昨日から自身を苛んでいる、男にも女にも一度たりとも抱いたことのない、忌々しい胸の疼きの正体を。
「俺はまだ、あんたの飼い犬だ。許しがない限り、あんたの肌に触れない。ただし唇だけは例外だ」
色気の滴る眼差しで、テオバルドは志貴を射抜く。離した唇をべろりと舐められ、その淫靡な感触に、志貴は思わず目を瞑った。この男を前に目を逸らしたりはしたくないのに、妖艶さを増したテオバルドの眼差しと手管は、容易く志貴の抵抗を挫く。
「あんたはもうテオと呼ばないと言った。俺にいつキスされても構わないということだ」
「そんなつもりは――」
「あんたがどう思おうと、俺はそう理解した。……この唇は、衛藤には触れさせないでくれ。俺のために」
「中佐は、違う。違うんだ……んっ、んう……」
それ以上、言葉は許されなかった。
ソファの上で包み込むように腕を回され、湿った音を立てながら口づけを交わす。従順に男の唇と舌を受け入れる志貴に、テオバルドはより貪欲に求め始める。
自分のものになった唇を味わうのに、男は周到とも言える几帳面さを見せた。志貴の顎を掴み軽く仰のかせると、うっすらと開いた唇の狭間に舌を差し入れる。その先端は歯列を丁寧になぞり、口内の粘膜を擦り上げ、強弱をつけて志貴の反応を引き出そうとする。擽るような動きに志貴が身を震わせた場所のすべてに留まり、何度も繰り返して覚えさせようとしてくる。志貴には未知の快楽を、自らの舌先には美味しい餌の在り処を。
口の中の弱いところをすべて調べ、記録し、支配下に置いていく。志貴を攻略するための、淫靡な官能の地図が作られていく。
経験豊富な手馴れた男は、いとも簡単に生まれたばかりの志貴の欲望を満たしてくれるが、最早手綱を付けられる忠犬ではない。手玉に取られ翻弄されるのは、志貴の方なのだ。
「愛してる」
「……やめてくれ」
欲望だけが先走る、誠実さの欠片もない関係で、そんな言葉を言われたくなかった。しかし男は、制止の声が聞こえないかのように、何度も繰り返す。
「愛してる、志貴」
「そう思うなら、君は私に触れないでくれ。頼む……」
「この期に及んで、まだそんなつれないことを言うとはな。――本当に憎たらしい、性質の悪いご主人様だ……」
強くうなじを掴まれ、また性急に唇を重ねられた。あの闘牛の夜の口づけのような荒々しさに呻きながらも、志貴の中の艶めかしい生き物は歓喜している。貪るほど求められることに――この男の執着に。
自覚するしかなかった。ピラールに抱いた感情は嫉妬であり、身の内に生まれたこの獣の名は独占欲であることを。昨日から自身を苛んでいる、男にも女にも一度たりとも抱いたことのない、忌々しい胸の疼きの正体を。
「俺はまだ、あんたの飼い犬だ。許しがない限り、あんたの肌に触れない。ただし唇だけは例外だ」
色気の滴る眼差しで、テオバルドは志貴を射抜く。離した唇をべろりと舐められ、その淫靡な感触に、志貴は思わず目を瞑った。この男を前に目を逸らしたりはしたくないのに、妖艶さを増したテオバルドの眼差しと手管は、容易く志貴の抵抗を挫く。
「あんたはもうテオと呼ばないと言った。俺にいつキスされても構わないということだ」
「そんなつもりは――」
「あんたがどう思おうと、俺はそう理解した。……この唇は、衛藤には触れさせないでくれ。俺のために」
「中佐は、違う。違うんだ……んっ、んう……」
それ以上、言葉は許されなかった。
ソファの上で包み込むように腕を回され、湿った音を立てながら口づけを交わす。従順に男の唇と舌を受け入れる志貴に、テオバルドはより貪欲に求め始める。
自分のものになった唇を味わうのに、男は周到とも言える几帳面さを見せた。志貴の顎を掴み軽く仰のかせると、うっすらと開いた唇の狭間に舌を差し入れる。その先端は歯列を丁寧になぞり、口内の粘膜を擦り上げ、強弱をつけて志貴の反応を引き出そうとする。擽るような動きに志貴が身を震わせた場所のすべてに留まり、何度も繰り返して覚えさせようとしてくる。志貴には未知の快楽を、自らの舌先には美味しい餌の在り処を。
口の中の弱いところをすべて調べ、記録し、支配下に置いていく。志貴を攻略するための、淫靡な官能の地図が作られていく。
20
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。



別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…



【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる