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10章 ※
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しおりを挟む「動かすよ……」
心を決めて、しかし告げる声は囁きにしかならなかった。
両の手のひらで幹を包み、親指で裏筋を刺激するように扱く。あまり強くして痛みを与えないように、単調だが丁寧に、しかし緩慢にならない程度の速さで手で作った筒を何度も上下させる。
やがて先端から透明な雫がにじみ出すと、それをすくって塗りつけた。次々と浮かび上がる雫に、いくらも経たないうちに手も幹も濡れ、にゅちにゅちといやらしい水音が立つようになったが、一洋が果てる気配はない。
「あの、……よくない?」
「気持ちいいぞ。お前が、俺のに触ってると思うだけで昇天しそうだ」
言葉とは裏腹に、一洋の呼吸は正常で表情も穏やかなままだ。台所仕事をしてもらった後、お礼に肩を揉むのが習慣になっていたが、その時とまるで変わらない。つまり、気持ちいいというのはその程度――射精に至るような、強い快感には程遠いということになる。
妙に緊張した、この空気がいけないのかもしれない。仕掛けた志貴は経験不足の負い目があり、対する一洋は余裕を見せつつも、まだこの行為にためらいを抱いている。硬い空気を和らいだものにするために、志貴は軽口を叩いてみせた。
「達かせて、って言ってみて」
『薬』の処方中、一洋は恥ずかしいことを志貴に言わせ、羞恥でも体を昂めようとする。その効果を嫌というほど思い知っているのと、いつもの仕返しの意味も込めて、思いついた言葉だった。
その効果は覿面だった。
手の中の一洋がびくりと震え、また一筋雫が幹を伝う。素直な反応に驚きつつも、志貴は微笑みながら一洋を見つめ、からかうように告げた。
「言えたら達かせてあげる」
「――達かせてくれ、お前の手で」
掠れた声で一洋が答える。そして体を起こし、向かい合わせで志貴の腰を抱き寄せると、力を溜めていない志貴のそれと、裏筋を合わせた状態で二本まとめて握らせた。
「えっ、何――」
志貴の手に自分の手を重ね、一洋は志貴の手ごと上下させて強く欲望を扱かせる。自分の手なのに制御できない動きと、突如巻き込まれた手淫に、尾骶骨の辺りが、じん、と痺れた。
「どうして僕までっ!」
「二人で気持ちよくなれば一石二鳥だ。志貴の始末もできれば、俺も安心してよく眠れそうだ」
「だからって……あ、はっ」
「ほら、達かせてくれるんだろう。もっと気持ちよくしてくれ」
「やっ、待って、そんな、強く、――アッ!」
初めての二人での行為に我知らず興奮し、他愛なく男の手技に屈する志貴の欲望は、一洋のそれと重ねると、色も形も大きさも、ずいぶん稚く見える。それなのに硬く雄々しいものと同じように強く扱かれ、裏筋を擦られて――何より男の生々しい熱に、いつもより感じてしまう。
「やっ、あぁ、……兄さん、まだ……?」
「一人だけ達こうとするなよ。――お前は感じやすいから、こうして握っててやる」
「ひぃっ!」
勝手に達することができないように、先端のくびれを強く握られる。解放を封じられた熱が体内に逆流するような仕打ちに、堪らず志貴は仰け反った。
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