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向こうから聞こえる声

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「後ろ!一人来てるよ!」

「うわ、あー、ダメだ、間に合わなかったわ、もっと早く言えよー」

「わりいわりい、それにしてもマヌケな死に方だったな、くく」

「うるさいわ!」

 俺は、いつものように友人とヘッドマイクで通話をしながら、戦争のゲームをしていた。画面上の友人が操作する兵士が、俺の操作する兵士に向かって、怒ったように指を刺すジェスチャーをしていた。

 いつもと同じ、わいわいと笑いながらゲームを楽しんでいた。俺らの笑い声にノイズのように女の笑い声が混じった。

「うふふ」

「もう、次は頼んだぞ、全く」

「お、おう……」

 ヘッドマイクは、ヘッドホンとマイクが一体化した物だが、ヘッドホン越しに聞こえる友人に何の変化もない、俺は動揺していた。

 友人の近くに女がいる?まさかな。彼女は居ないし、出来る気配も無いはず。ふと、携帯電話がメールを受け取った。

『ごめん、今日はそっち行けない』

 なんだか、素っ気なくて、胸が押されるように苦しくなる。

「ねえ、いいでしょう?」

 友人のふざけた声の向こうで、微かに誘惑している、甘い女の声が聞こえてくる。そして、キスをしているような音も。俺の彼女の声に似ていた。まさかな。

「なあ、お前。今一人だよな?」

「ああ?今は単独で、絶賛、敵軍突入中だけど?」

「いや、そうじゃなくて、リアルで。現実で一人だよな?」

「うふふ」

 また、あの声だ。さっきより大きい。

「なに、お前殺されたいの?こちとら、一人きりでクリスマスを迎え続けて三十年だぞ!ああ?自分に彼女がいるからって、戦場じゃ俺の方が偉いんだからな」

「いひひ」

「そ、そうだよな……。悪い、ちょっと腹減ったからコンビニ行ってくるし、そのままゲーム続けてくれ」

「はいはい、彼女さんとの電話タイムね。どうぞ、ごゆっくり!」

「はぁ……はぁ……」

 俺がヘッドマイクを外しかける間際にも、女の吐息がはっきり聞こえた。あれは、俺の彼女に違いない。

 俺は急いで、友人の住むアパートに向かった。バイクで急げば五分ほどで着く。手汗でハンドルが滲む。

 ピンポーン

「あれ、お前何しに来たの?わざわざ愛しの俺に会いに来たくなっちゃった?」

「お、おう、近くまで来たから差し入れ」

 玄関から出てきた友人は、何の動揺も無く、ボサボサな髪で灰色の上下スウェットだ。当然のように玄関に女物の靴など無かったし、女の気配も無い。

 俺は近くで買った缶コーヒーを渡して、調べるために中に入るか迷っていた。その時、彼女からメールが入った。

『ねえ、出掛けてる?サプライズで来たのに、居ないんですけどー。帰っちゃいますよー』

 背筋が冷たく感じる。

「なになに?愛する彼女からのメールか?かー。缶コーヒーを渡しておきながら、精神的に攻撃してくるなんて、お前も悪だねえ」

 友人が面白そうにニヤニヤしている。さっきまで、ここに彼女が居たとしても、どこかですれ違いそうなものだし、彼女を信じたい。俺は急に彼女が心配になった。

「わりいわりい、それじゃ、俺帰るから」

「おう、ありがとうな、またゲームで会おう。さらばだ!」

 友人が気さくに笑いながら玄関を閉じた。

「ふふふ、やっと来てくれた」

 耳元で声が聞こえた。
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