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いってきます
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「あなた、今日は早く帰ってきてね、結婚から一ヶ月記念日なんだから」
「そうだったっけ?」
「あー!ひどい!忘れてたの?」
「はは、嘘だよ、ほら、これ見て?」
僕は携帯電話の画面を愛する妻に見せた。画面には結婚一ヶ月記念日、ケーキ買い忘れないように!とメモが貼り付けられてあった。
「ふふ、美味しいケーキ期待してるからね!」
「ああ、こんなに可愛い、お嫁さんをもらえて僕は世界一幸せだよ」
「なに朝から呑気に言ってるのよ、もう!私もそうなんだからね。ほらネクタイ直してあげるから、座ってよ」
僕が椅子に座らないとネクタイに手が届かない、小さな妻は、顔を赤くして僕に抱き付いてから、丸くなった僕のネクタイを直してくれて、軽くキスをしてくれた。今朝の事だ。
「なあ、こんなんで良いかな?」
「あなた、本当に結ぶのが下手ね。ネクタイも私がずっと結ばないとダメみたいね、ふふ」
「ああ、向こうでもお願いするよ。そこにいてくれな」
妻が優しく笑っている気がして、僕は届かないと分かっていながら、手を伸ばした。
意識が薄れていく中、テーブルに置かれたケーキの箱が寂しそうに僕を見ていた。箱から溶けたケーキがカラフルに溢れ出ている。せっかく買ったのにな……
妻は僕がケーキを買って帰った時に交通事故で死んだらしい、呑気にケーキをテーブルで見てた時に、警察官が丁寧に電話で伝えてくれた。
何の実感もなく、ただ意味も分からず流れ続ける、ぬるい汗を乗せながら、来いと言われた病院で、妻は動かずに寝ていた。
加害者も死んだらしい、居眠り運転だったとか携帯電話の脇見運転だった可能性の説明や、加害者の妻や息子達が泣きながら謝ってきたが、何を言われたのか何も覚えていない。何か書類も書いた気がする。覚えていない。
「あなた、大丈夫?その、私……。本当ごめんなさい……」
「君は悪くないよ、僕は幸せだった。今から行くから、泣かないで」
僕の作り出した幻なのかもしれない、そんなのは、どうでも良いんだ。ただ笑ってほしかった。
「いつものように見送ってくれ、愛してるよ」
「ええ、私も愛してるわ。いってらっしゃい、あなた」
僕はドアノブにかけたネクタイの輪っかに、体重を預けた。首が締り気持ちが軽くなっていく。
「ああ、いってきます」
「そうだったっけ?」
「あー!ひどい!忘れてたの?」
「はは、嘘だよ、ほら、これ見て?」
僕は携帯電話の画面を愛する妻に見せた。画面には結婚一ヶ月記念日、ケーキ買い忘れないように!とメモが貼り付けられてあった。
「ふふ、美味しいケーキ期待してるからね!」
「ああ、こんなに可愛い、お嫁さんをもらえて僕は世界一幸せだよ」
「なに朝から呑気に言ってるのよ、もう!私もそうなんだからね。ほらネクタイ直してあげるから、座ってよ」
僕が椅子に座らないとネクタイに手が届かない、小さな妻は、顔を赤くして僕に抱き付いてから、丸くなった僕のネクタイを直してくれて、軽くキスをしてくれた。今朝の事だ。
「なあ、こんなんで良いかな?」
「あなた、本当に結ぶのが下手ね。ネクタイも私がずっと結ばないとダメみたいね、ふふ」
「ああ、向こうでもお願いするよ。そこにいてくれな」
妻が優しく笑っている気がして、僕は届かないと分かっていながら、手を伸ばした。
意識が薄れていく中、テーブルに置かれたケーキの箱が寂しそうに僕を見ていた。箱から溶けたケーキがカラフルに溢れ出ている。せっかく買ったのにな……
妻は僕がケーキを買って帰った時に交通事故で死んだらしい、呑気にケーキをテーブルで見てた時に、警察官が丁寧に電話で伝えてくれた。
何の実感もなく、ただ意味も分からず流れ続ける、ぬるい汗を乗せながら、来いと言われた病院で、妻は動かずに寝ていた。
加害者も死んだらしい、居眠り運転だったとか携帯電話の脇見運転だった可能性の説明や、加害者の妻や息子達が泣きながら謝ってきたが、何を言われたのか何も覚えていない。何か書類も書いた気がする。覚えていない。
「あなた、大丈夫?その、私……。本当ごめんなさい……」
「君は悪くないよ、僕は幸せだった。今から行くから、泣かないで」
僕の作り出した幻なのかもしれない、そんなのは、どうでも良いんだ。ただ笑ってほしかった。
「いつものように見送ってくれ、愛してるよ」
「ええ、私も愛してるわ。いってらっしゃい、あなた」
僕はドアノブにかけたネクタイの輪っかに、体重を預けた。首が締り気持ちが軽くなっていく。
「ああ、いってきます」
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