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第三十三話 変化
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「なんで私なんかを見て、そんなに大事なことが決められるんですか!おかしいですよ、そんなの。今日会ったばかりで、ろくなアドバイスも出来ない私なんかに、相談されても力になれません……」
十年間も苦しみながら悩んでいる彼女を、どうにか助けてあげたかった。でも私なんかに出来ることは無い。きっと彼女を救えるのは、世界のどこかに消えてしまった彼だけなのだから。今すぐにでも、その男性が帰って来て欲しい。私も祈るように願っていた。
何も出来ない自分が悔しくて、荒げてしまった声が店内に響いても、鏡越しに見える彼女は、優しい笑顔のままだった。
「やっぱり、あなたは私にそっくりね、懐かしいな。真面目で負けず嫌いで、誰かが困っていると放っておけなくて、苦労するのよね。そして、男性からの押しに弱い。ふふ」
「もう!からかわないで下さいよ……。それに私は、そんなに優しくないです。恋愛経験だって無いし……」
「ふふ、大丈夫よ。先生だって、たったの一人しか付き合ってないんだし。私がカットしたんだもの、間違いなくモテるわよ」
急に明るくなった彼女が不思議だった。私の前に回って来て、短くなった前髪を撫でてから、頭も優しく撫でてくれた。それは、美容師がチェックするためではなくて、愛する我が子でも撫でるような、優しい撫で方だった。何だか恥ずかしくて、くすぐったかった。照れているのを気付かれたくなくて、顔が緩んでしまうのを我慢していた。
「うん、良い感じ。よし、切った髪を流しちゃおうか」
「……はい」
彼女はアイドルに何て返事をするのだろう。吹っ切れたように明るくなってしまった彼女は、とても元気そうで嬉しかったけれど……
私の体にかけられた真っ白い大きな布から、手より長い真っ黒な髪の毛が落とされていく。T字の箒で集められたそれは、大きなウニのように丸まっていて、頭が軽くなるのを嫌でも実感させられた。
鏡の中の私は、以前の髪型とは大きく変わっていた。伸びる髪をただ後ろで縛り、伸び過ぎた前髪を真ん中分けで、左右に逃すだけの私は居なかった。後ろ髪は首までサッパリ切られていて、前髪は眉毛にかかるくらいで、長いオカッパのようになっていた。
(あれ、これで終わりなのかな。あんまり可愛くないような……)
まじまじと鏡に映る自分を見ていると、そんな考えが見透かされてるように、彼女は優しく声をかけてくれた。
「ふふ、あなたが何を考えているのか分かるわよ。ごめんなさい、つい可愛くて撫でちゃったから、オカッパみたいになっちゃったわね。でもセットすれば大丈夫よ。こちらにどうぞ、大事な制服に髪が入っちゃったら大変だもの、早く流しちゃいましょ」
シャンプー台で私の顔を洗いながら、彼女は嬉しそうに鼻歌を歌っていた。
十年間も苦しみながら悩んでいる彼女を、どうにか助けてあげたかった。でも私なんかに出来ることは無い。きっと彼女を救えるのは、世界のどこかに消えてしまった彼だけなのだから。今すぐにでも、その男性が帰って来て欲しい。私も祈るように願っていた。
何も出来ない自分が悔しくて、荒げてしまった声が店内に響いても、鏡越しに見える彼女は、優しい笑顔のままだった。
「やっぱり、あなたは私にそっくりね、懐かしいな。真面目で負けず嫌いで、誰かが困っていると放っておけなくて、苦労するのよね。そして、男性からの押しに弱い。ふふ」
「もう!からかわないで下さいよ……。それに私は、そんなに優しくないです。恋愛経験だって無いし……」
「ふふ、大丈夫よ。先生だって、たったの一人しか付き合ってないんだし。私がカットしたんだもの、間違いなくモテるわよ」
急に明るくなった彼女が不思議だった。私の前に回って来て、短くなった前髪を撫でてから、頭も優しく撫でてくれた。それは、美容師がチェックするためではなくて、愛する我が子でも撫でるような、優しい撫で方だった。何だか恥ずかしくて、くすぐったかった。照れているのを気付かれたくなくて、顔が緩んでしまうのを我慢していた。
「うん、良い感じ。よし、切った髪を流しちゃおうか」
「……はい」
彼女はアイドルに何て返事をするのだろう。吹っ切れたように明るくなってしまった彼女は、とても元気そうで嬉しかったけれど……
私の体にかけられた真っ白い大きな布から、手より長い真っ黒な髪の毛が落とされていく。T字の箒で集められたそれは、大きなウニのように丸まっていて、頭が軽くなるのを嫌でも実感させられた。
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(あれ、これで終わりなのかな。あんまり可愛くないような……)
まじまじと鏡に映る自分を見ていると、そんな考えが見透かされてるように、彼女は優しく声をかけてくれた。
「ふふ、あなたが何を考えているのか分かるわよ。ごめんなさい、つい可愛くて撫でちゃったから、オカッパみたいになっちゃったわね。でもセットすれば大丈夫よ。こちらにどうぞ、大事な制服に髪が入っちゃったら大変だもの、早く流しちゃいましょ」
シャンプー台で私の顔を洗いながら、彼女は嬉しそうに鼻歌を歌っていた。
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