政略結婚のハズが門前払いをされまして

紫月 由良

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05. 脱出

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 ――ここにきて、まだこの体たらくなんてね。

 外交にも政治にも疎いキャスリンですら、今の状況がガスティエン王国にとって良くない、むしろ非常に旗色が悪いのに気付いている。

「約束を違える国に、こちらだけが従う理由はございません。お約束いただいた花嫁を大切に、苦労などさせないという約束も、食料支援もまったくいただけなかったですからね」

 真っ向からの反抗は、敵対と取られてもおかしくないものだった。ザワリと周囲に動揺が広がり、騎士たちが腰の剣に手を掛ける。

 国王は激昂し、感情の赴くまま実力行使に出るかとキャスリンは思ったが、そうはならず近くに控えていた貴族に目配せをするだけだった。

 ――流石に考えなし過ぎて手を付けられないほどではないのね。
 多少の粗暴さはあるかもしれないが、腐っても大国を統べる王なのだろう。

「では我が家に受け入れましょう。田舎臭いとはいえ手を出せる程度には整った顔立ちだ」
 譲歩してこれかと、呆れんばかりの提案をしたのは、玉座にほど近い場所に立つ貴族だった。

 状況的にコレが花婿になる筈だった男なのね、という感想を持ったが、それ以上は何の感情も湧かない。
 それなりに容姿は整っているが、軽薄そうな表情と雰囲気が台無しにしている。今の物言いからして頭も良くなさそうだ。

「デラフェンテ公爵、言葉が過ぎますよ」

 ダルトリー侯爵が外交官らしいポーカーフェイスのまま窘める。キャスリンは黙って聞いているが「何を言ってるのだろう、この男は莫迦なのか」と呆れ果てていた。

「大切な薬師を性処理道具扱いとは……」

 呆れの言葉を区切るとこちらに目配せしてきた。キャスリンは少しだけ開いていた二人の間を詰め、腕を組めるほど近づいた。

「両国の条約を破棄させていただきます。食料問題はレストヴァ王国との間で解決しましたよ。では御前失礼!」
 言い捨てるのと同時にダルトリー侯爵が魔法陣を展開させた。

 次の瞬間には二人ともキャスリンの仮住まいだった郊外の家に跳んでいた。続いて休むことなくレイエ王国の国境手前までの転移。

「キャスっ!」

 懐かしい声を聞いた直後、キャスリンの視界は暗転した。転移防止の結界を強引に破った力尽くの転移魔法は、身体に負荷が掛かりすぎる。王宮から屋敷まで二つの結界を越え、更に国境を守る結界も越えて、限界まで体力を消耗したのだった。
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