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03. 3か月後

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 三ヵ月後――

 相変わらずキャスリンは郊外の屋敷に暮らしていた。
 国から持ち込んだ鉢植えは、どれも鮮やかな赤の蕾をつけている。偽百合だとか毒百合と呼ばれる、鮮やかな赤い色をした百合に似た花だ。

 ――スカーレットベルという立派な名前があるのに、偽物扱いされるなんて酷い話だわ。
 百合に似ている形と香りだが、艶やかな色から清楚さは欠片もなく、その所為で偽物扱いされている不遇な花なのだ。

 たっぷりと水をかけると、心なしか花が嬉しそうだ。水遣りの次は花の処理が待っている。綻びかけた蕾の中にそっとピンセットと小さめのハサミを差し入れた。

 百合と同様、花粉が服に付着すると落ちない。しかも百合と違って有毒だ。強くはないからほんの少量でどうこうなることはなく、神経質になる必要はないけれど、薬としても使えるものだから、できる限り花粉を落としたくない。

 切り取った雄しべを薬包に使われる紙の上にそっと置く。すべての花から切りとれば、残ったのはただ紅く綺麗なだけの花だ。

「エルゼ、花をダルトリー侯爵に届けてくれないかしら?」
「判りました。国を思い出して懐かしく思うでしょうね」

 スカーレットベルはレイエ王国でしか栽培されていない。この国の人たちが見れば、ただの珍しい色の百合にしか見えないけれど、同郷の人たちには母国を思い出させる懐かしい花なのだ。

 ――侯爵なら花を愛でるだけではなく、有効に使ってくれるわ。

 ガスディエン王国に無い花を見れば、花嫁の存在を思い出すかもしれない。
 何時まで我慢をさせる心算なのだと圧力を掛けられれば良し、そうでなくともキャスリンの存在を示すだけでも意味があった。
 だから家に飾る数本を取り置いて、残り全てをダルトリー侯爵に贈るように指示を出したのである。


「侯爵はお喜びでした!」
 エルゼは帰宅するなり、満面の笑みで報告してきた。

「お礼にとレイエ王国のお菓子をたくさんいただきました」
「まあ! では皆でいただきましょうか」

 主人の貰い物を使用人に分け与えるのはあまりない事だけれど、郷里が懐かしいのに主従は関係ない。特に不遇を囲い苦労しているのは、直接ガスディエン王国の民と接する使用人たちだった。
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